2017年10月 / 09月≪ 12345678910111213141516171819202122232425262728293031≫11月

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--:--  |  スポンサー広告  |  EDIT   このページの上へ

2009'09.19 (Sat)

カメラと闘う先導の場合 後編


【More・・・】

メインテーブルで友人達と楽しく歓談をしていた新婦がお色直しの案内を受けて席を立つ。それに合わせて友人達もその様子をフィルムに収めんと立ち上がった。だがその時に彼女達は不気味な目配せをし合う。
新婦が通る花道を囲む報道陣達。その中の一人である当館専属のカメラマンがカメラを構えた時に、フィルターいっぱいに女性の背中が映る。せっかくのタイミングでレンズを遮られ渋い顔をしながらも、カメラマンは立ち位置を若干ずらして再びカメラを構える。すると目の前にいた女性もすかさず移動し、またもやレンズを塞いだ。どれだけカメラをずらそうとも前にいる女性が付いてくる。仕方なしにカメラマンは場所を変えよう右に動くとまた違う女性にぶつかって身動きが取れなくなってしまった。
そんなカメラマンの焦った様子を先導しながら眺めていた紫倉チーフ。

「(あんにゃろぅ、何をもたくたしてるんでぃ……違ぇ、ありゃあ)」

長年のキャリアを持つチーフは、雑多な報道陣の中で明らかに悪意を含んだ行為をしている新婦の友人達に勘づいた。どんな理由があっての行為なのかまでは分からないが、これでは一番良い写真を撮らなければならないはずのカメラマンが動きようがない。チーフは取り敢えず新婦を一時中座させると、すぐにカメラマンへ駆け寄った。

「おい、一体何があったんでぃ」

チーフに声を掛けられると、カメラマンは気弱そうに微笑んだ。

「あぁ、さすがは紫倉さん。気付いて頂けましたか」

「お前さん、あのお嬢さん方に何か気に障るようなことをしたのかい?」

するとカメラマンは首をブンブンと振り、慌てて否定した。

「全く身に覚えがないんです!だから何であんなことをされるんだろうって困っちゃって!」

チーフだってお客様に文句は言われても、邪魔されるカメラマンなんて見たことがない。なのでこのカメラマンにしても突然の状況に戸惑っているのだろう。

「紫倉さん、僕どうすればいいんでしょう……。これじゃあ、まともに写真を撮れる状態じゃありません。新郎新婦に何と言い訳すればいいか……」

ひっ迫してすがりつくカメラマンを冷めた目で見下ろしながら、チーフは小さく溜め息を吐いた。

「お前さんもプロフェッショナルならてめえでどうにかしやがれ、と言いてぇところだが、これじゃ新郎新婦が不憫でならねぇ。せっかくの披露宴の写真がありませんでした、だとたまったもんじゃねぇからな。手助けしてやるよ」

「本当ですか!?ありがとうございます!」

「あぁ。また報道陣が集まってきたら、お前さんはこう動け……」

そう言うとカメラマンに作戦の指示を耳打ちする。当社の社員でも社外の人間でも、ホール内にいるスタッフには均等に優しい紫倉チーフであった。


お色直しを済ませた新郎新婦が清々しい笑顔で入場口に現れると、報道陣は一斉にフラッシュでお出迎えする。そんな祝福に手を振って応える主役の二人だが、花道は報道陣で埋め尽くされていた。先導役の紫倉チーフはすかさず人垣の中に割って入り、導線を確保する。そして素早く周囲に目配せをすると、ちょうど視界の右端にカメラマンの姿が映った。どうやらまたもや新婦の友人達に邪魔され
ているようだが、チーフと目が合うとコクリと頷く。自分の立ち位置を彼が把握した事と、その彼が動いたのと同時にチーフも素早く後退する。するとカメラマンは今までチーフが立っていた位置に収まると立て続けにシャッターを切った。それに気付いた友人達は阻害せんとばかりにカメラマンにぶつかっていこうとするが、ヒラリと身をかわすとまたチーフが一瞬先までいた位置に移動し、カメラを構える。チーフとカメラマンはその動作を幾度と無く繰り返し友人達の追撃を逃れ、なんとか思い通りの写真を撮ることに成功した。敵視するカメラマンに写真を撮らせたことが悔しかったのか歯痒そうにねめつける友人達をよそに、カメラマンは嬉々としてチーフに声を掛けた。

「ありがとうございます、紫倉さん!作戦成功ですね!」

「おぅ。良い写真は撮れたかい?」

「はいっ!バッチリでした!でも、流石は紫倉さんです。よく僕らカメラマンが絶好のポジションってところを知ってますね」

「あたぼうよ。こちとらン十年先導やってんだ。目ぇつぶってでも出来らぁ」

チーフが企てた作戦というのは、邪魔をされているカメラマンの替わりに写真を撮るに最適な場所をチーフが確保し、素早く入れ替わるという方法である。そしてまた邪魔をされたらカメラマンはチーフのいる位置に移動をするという『一撃離脱作戦』だった。一見単純そうに見えるが、人垣の中で的確な場所を見つけ出し、尚且つ新郎新婦をしっかりと先導もするという事を同時にこなせるだけの力量を持ったチーフだから出来る技なのだ。先導役は常に周りのカメラやビデオに自分の姿が映っていないか、黒子のように気にかけながら行動しなくてはならない。なので自然と写真映りやベストポジションの位置を把握するようになるのである。

「これであのお嬢ちゃん方も大人しく妨害を止めてくれりゃあ良いんだがな……。黙って写真撮ってるだけなら構わねぇが、あっしらの邪魔をされるのだけは勘弁してもらいてぇ」

「まったくです。私達を妨害して一番困るのは新郎新婦だってこと、分からないんですかね?」

そう呟くと二人はお客様から気付かれないように小さな溜め息を吐いた。
その頃、一方では……

「ちょっとマユミ、あんたカメラ小僧を完璧にブロックするんじゃなかったの?」

「そのつもりだったの!でも上手く逃げられちゃって、超ムカつく!」

席に着くなり友人達は今の戦果を口惜しそうに語り出した。紫倉チーフの作戦にまんまと嵌められただけでなく、せっかく新しいドレスに着替えた新婦の写真を一枚も撮れずに終わってしまったのである。

「マユミ、あんたバスケ部だったんでしょ!?ゴール下並みに死守してやるっつってたじゃん!」

「はぁ!?それ言ったらなんであんたも写真撮り逃してんの?有り得ない」

「マキエだって前を塞ぐって役立たずだったじゃん!マジ使えねぇわ」

「あん?あんたから言われたくないんだけど」

段々と険悪なムードになってきたところに、それまで大人しく傍観していたサエコが割って入る。

「みんなちょっと落ち着きなよ。さっきまではバッチリとカメラ小僧をブロック出来てたけど、今回はみすみす逃されたじゃん。それで私、見てたんだけどさ、あのカメラ小僧に協力してる人がいたの」

「は?誰、そいつ」

不機嫌そうに尋ねるマユミにサエコは、壁際でホール内を隈無く見渡している紫倉チーフを指差した。

「あの黒服のオッサン」

「マジで?あのオッサン、めっちゃヤバいスピードであたしらの写真撮った人でしょ?」

「そう。あのオッサンが移動するとカメラ小僧が上手くその位置に移動してた。あいつら、絶対にグルだよ」

「マジありえねぇんだけど。だってあいつ、この会場の社員でしょ?だったらあたしら、客の邪魔しちゃ駄目じゃん!」

とんでもない屁理屈だが、イライラしている今の彼女達へ何を言おうとも通じる訳がない。いつの間にか先導役である紫倉チーフまでもが敵視されていた。

「つまりまずはあのオッサンからやっつけないと、カメラ小僧もやっつけないって事ね……」

友人達はお互いに目配せし合うと、確認するように頷く。最早、本来の目的からは大きく外れてしまっているが、そんなことはどうでもいい。涼しい顔でお客様の様子を観察している紫倉チーフが、次のターゲットに切り替わったことを本人は知る由もなかった。

パーティーも終盤を迎え、新郎新婦はゲストのテーブルを回るキャンドルサービスに臨む。出席して下さったゲスト一人一人に感謝の思いを伝えながらテーブルに炎を灯していく姿は、ウェディングパーティーの中でも一番のシャッターチャンスと言えるだろう。
紫倉チーフは専属のカメラマンに目配せをする。彼にとってもここが一番気合いを入れてシャッターを切りたい場面なはず。先程からちょっかいを出してくる友人達を何とかやり過ごさなければならない。

「(ここが正念場でぃ。遅れを取るんじゃねぇぞ)」

「(了解です。よろしくお願いします)」

無言で頷きお互いの意思を確認すると、チーフは新郎新婦をメインテーブルから移動させ始めると同時に、司会者からキャンドルサービスの合図が入った。すると友人達はすかさずカメラを手に持つと、チーフ達同様に互いへ目配せをして頷く。どうやら臨戦態勢は万全なようだ。チーフはそんな彼女達を一瞥すると、小さく鼻を鳴らす。

「(まだあの野郎を邪魔する気かも知れねぇけどな、やれるもんならやってみやがれ!)」

そう、チーフはまだ彼女達の標的が変更したことに気付いていない。


まずは一番来賓のテーブルからキャンドルを点火していく新郎新婦。普段お世話になっている会社の上司の皆様も若い二人に惜しみない拍手を送る。そんな二人を取り囲む報道陣達は相変わらず事あるごとにこれでもかとシャッターを切っている。そんな様子を尻目に、チーフは周囲に忙しなく目配りをする。新郎新婦の動向や導線の確保に、カメラマンの所在や絶好のシャッターポジション、果ては周囲のゲストへの気配りと余念がない。更には例の妨害行為をする友人達を牽制しなくてはならないが、そんな彼女等がカメラマンの周囲にいない。どういうことかと周りを見渡す余裕もないうちに新郎新婦を誘導しようと振り向いた直後、目の前にいた女性にぶつかった。背後に立たれていたことに気付かなかった自分を諌めながらも慌てて非礼を詫びようとした時、チーフはその女性こそ探していた例の友人達の中の一人だと気付いた。何か言いたげに自分を睨み付けているが、そうそう相手もしていられないのでチーフは軽く謝り新郎新婦を誘導しようとすると、もう一人の誰かが行く末を阻んだ。何事かと戸惑っていると更にもう一人が進路を阻む。いつの間にかチーフは身動きが取れない状態に陥ってしまい、そこでようやく彼女達の思惑を悟った。
視線を人垣にスライドすると、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしたカメラマンと目があった。彼は写真を撮ることすら忘れてチーフの状況を傍観していた。

「(これは一体どういうことでぃ!?)」

「(どういうことって!なんで紫倉さんが囲まれちゃってるんですか!?)」

「(分かるわけねぇだろ!俺はカメラと関係ねぇだろうが!)」

「(紫倉さん、あれじゃないですか?その子らの誰かのお尻を知らず知らずに触ってて恨みを……)」

「(んなことあるかぁ!!)」

「(じゃあ、その子達に惚れられちゃったとか)」

「(んなことあるかぁ!!)」

アイコンタクトだけでテレパシーのような会話を繰り広げているうちに、新郎新婦は次々とキャンドルサービスを進めていく。チーフはハッと気付いて先導しようとしたが、友人達の妨害によってうまく新郎新婦の前に立てない。
幸いにペアを組んでいた介添え役のパートさんは機転の利く女性だったので、チーフ無しでも新郎新婦を導いてくれている。専属のカメラマンは薄情にもチーフを囮にして悠々と写真撮影に勤しんでいる。チーフだけが歯痒くも自分の仕事が出来ずに足止めを食っていた。

「(こんちくしょうめ。これじゃあマジで身動きが取れねぇ……)」

チーフの四方をガッチリと固める友人達。ただその場に動かせないようにするわけでなく、微妙に身動きは取れるが決して新郎新婦の前には行かせないチームワークには感心してしまうほどだった。

「(一体なんで俺がとばっちりを受けなきゃなんねぇんだ。やってらんねぇぜ。……緑のクソババアじゃねぇが、蹴散らしてぇ!)」

だがまさかチーフはそんな事できるわけもなくいたが、そろそろ堪忍袋の緒も切れてきた。そして白手袋をはめた手を見つめる。先導をしてこその白手袋、先導をしてこその自分自身なのだ。

「(お嬢ちゃん方、すまねぇがちょいと本気でいかせてもらうぜ)」

小さく息を吸い込み身を屈めると、チーフはフッと気配を消した。
チーフの邪魔をせんと身を固めていた友人達だが、今の今まで隣にいたはずの彼がこつ然と姿を消したことに気付き、一同口をあんぐりと開けて茫然とした。どこに逃げたのかと慌てて辺りを見渡すと、チーフはいつの間にか新郎新婦の目の前で次に進むテーブルを案内している。
あまりに不可思議な状況に戸惑いつつも、彼女等はともかく当初の計画を果たさんと再びチーフを囲むフォーメーションを組む。だがどれだけ近付こうともチーフは木の葉のようにヒラリヒラリとかわしていく。まるで一人で何頭もの牛を相手するマタドールのようだった。

「(このまま避け続けてもエスカレートするだけか。適当に捕まってやるかぃ)」

ある程度友人達が苛立ちそうな頃合いを見計らってチーフはわざと脚を止めると、すかさずに友人達はチーフを取り囲んだ。最早この若い彼女達も自分らが何故チーフを抑え込もうとしているか分かっていないだろう。その証拠に、彼女等は写真を撮ることすら忘れてチーフと追い掛けっこをしている。
チーフの足止めをして満足げにしている友人達の様子を観察しながら、そろそろ自分が先導として動かなければいけなそうな場面に近付いてくると、チーフは再び小さく息を吸い込み身を屈める。そして友人達はまたもや急にワープしたチーフを驚愕の眼差しで見つめるのだった。
先導に必要な要素は存在感である。時には主役より目立たないよう黒子に撤して動かなければならないし、時には新郎新婦に自分の立ち位置を知らせ、次の行動を示唆するようアピールしなければならない。適材適所で存在感をコントロール出来る先導ほど熟練者だと言われる。その点、紫倉チーフともなれば存在感のコントロールなど神の領域に達しているので、完全に気配を絶つ事すら容易い。昔、先導を極めるために伊賀の里で修行したとか、甲賀で忍者のアルバイトをしたとかいう嘘か本当か分からない噂があったくらいだ。

チーフはそんな方法で邪魔立てする彼女等を怒らせない程度にいなしながら、なんとか全てのテーブルをキャンドルサービスし終えた。メインキャンドルに点火し終えて新郎新婦からキャンドルトーチを預かると、いよいよウェディングパーティーもクライマックスを迎える。徐々に暗転する照明、静かに流れるBGM……。それまで大きな声で談笑していたゲストも段々と口を噤み始めてきた。
会場全体が静かに見守る中、まだ若い新婦は両親への感謝の言葉を不器用に、だが精一杯の気持ちを込めて読み上げる。涙ぐむ両親と優しく新婦の涙を拭う新郎の姿がさらにグランシンフォニア・ルーム内の感動を呼ぶ。
チーフは手紙を読み終わった新婦に花束を渡すと、両親が待つ元へと進ませる。
そして背後にいるであろう阻害者達に意識を向けた。先ほどまではキャンドルサービスの場面など、多少は慌ただしくされても、周囲もごちゃごちゃしていたのでさほど気にすることはなかった。だがこの会場が静まり返っている場面でもしもチーフの邪魔をしようものなら、かなり目立ってしまうはずだ。いくら若いといっても多少の常識は働いてくれそうなものだろうが、さっきからの行動を見るなり期待出来ないだろう。
チーフはグッと下腹部に力を蓄える。先導としては全体の調和を最優先に考えなければいけない。相手はお客様かもしれないが、その場に相応しくない行動を起こす人間がいるのならば全力で排除しなければならない。

「(まさか最終奥義を使う羽目になろうたぁな。久々にあっしの本気を出させたのはお嬢ちゃん方、あんたらだけだぜ)」

背中越しに気配を探って友人達の立ち位置を確認する。この距離ならば瞬きをする間もなく彼女達の動きを封じることが出来るはずだ。軽く瞳を閉じるとチーフは息を細く吐き出す。紫倉流先導術最終奥義を発動させるための気は満ちた。チーフはカッと目を見開くと疾風が如く振り返る。

「(くらいやがれっ!最終奥義『オーバーハッピーエンディングディスティネ……)」

奥義名を心の中で叫びながら、チーフはそこにある光景を前に固まってしまった。てっきり邪魔をするため構えているであろうと予測をつけていた彼女達は、全員ハンカチを片手に感涙にむせびいていた。

「(邪魔するんじゃなかったんかぃーっ!!)」

激しい魂の突っ込みの直後に、チーフが体内で最終奥義『オーバーハッピーエンディングディスティネ(以下略)』を発動するために練り上げていた気がポンッと音を立ててつむじ辺りから抜け出ていった。茫然自失とする紫倉チーフ。
ほんの些細な原因からカメラマンや先導の邪魔をするほど幼稚で直感的なその友人達は、当然ながら親友の結婚式で感動的な場面に差し掛かれば涙をこらえるわけがない。写真を撮りたい時に撮りたいだけ撮り、怒りたい時に怒りたいだけ怒り、泣きたい時に泣きたいだけ泣く、結局は単純でわがままお客様に振り回されただけだった。そう思うと、チーフはこれまでの苦労が何だったのかと馬鹿馬鹿しくなり、疲れがドッと肩にのしかかってきた。そして胸の中でポツリと呟くのである。

「(報道陣なんざ、デジタルカメラなんざ大っ嫌いでぃ!)」

更新日 9月27日

パーティーが終わり、新郎新婦と両親はロビーにてゲストをお見送りしている。
これから新しい人生のスタートを迎えた主役の二人の表情は晴れ晴れとしていて、チーフはその笑顔を見る度に自分の職業に喜びと誇りを感じるらしい。そんな新郎新婦を遠巻きに写真を撮る友人達。後半は殆ど写真を撮っていないためデジタルカメラの容量にまだ余裕があるのだろう、ここぞとばかりにフラッシュを焚いている。
どうせもう終わったのだから、何枚でも何百枚でも撮りやがれと余裕の笑みを浮かべて眺めていたチーフに、友人の中の一人が声を掛けてきた。

「すいませ~ん、写真いいですか~」

まだ完全に大人になる直前の幼さ残したその女性に、チーフは笑顔で答える。

「もちろん。いいですよ」

カメラを受け取ろうと手を差し出したらその女性は少し不思議そうにしたが、すぐにチーフの手を取ると引っ張っていった。何が何だか分からずに目をしばたかせていると、いつの間にか友人達と新郎新婦の輪の中に囲まれていた。そして指差す先を振り向くと、カメラマンが一眼レフを構えている。

「おっさん、超動きヤバかった~!マジ素早すぎ~!」

「そうだよ!私らもついついムキになっちゃった!ごめんね、おっさん!」

「みんな、このおっさんは先導って言うんだよ。あたし、知ってる」

「サエコ、超頭良い!物知り過ぎ~!」

ケラケラと笑いながらチーフの肩なり腕なりをペシペシと叩く女性達。さっきまではあれほど目の敵にしていたのに、今ではまるで友達のように接してくる。いや、一つの戦いを経たおかげで、歳が30近くも離れたお互いの間に見えない友情が芽生えたのだろう。チーフは完敗だとばかりに微笑むと、真っ直ぐカメラを睨む。

「それではお撮りしますよ~。はい、ポーズ」



それから数日後のティールームにて。桃瀬が淹れてくれたハーブティーを喫しながらチーフはいつもの愚痴を吐き出していた。

「だから、まったくデジカメってやつはろくなもんじゃねぇ。あっしらにとっちゃあ、天敵ですね、アレは」

普段は私の愚痴を聞いてもらっている手前、今日は聞き役に徹する。チーフの長々とした愚痴を聞くのは全然苦痛ではなく、むしろ楽しいくらいだ。桃瀬はそれも同感なようで、洗い物をしながらもニコニコと聞き耳を立てている。

「あっしもデジカメは持ってやすがね、それこそ風景を撮ったり野鳥を撮ったりが主で、人様に迷惑掛ける撮り方なんざやったことありやせんぜ。やっぱり持ち主の使い方次第でさぁ」

そう言いながら、チーフは手に持った一枚の写真をさっきから何度もチラチラと見ては頬を緩めている。私もその写真を盗み見しながらチーフの話にウンウンと頷く。

「まったく百害あって一利なしってやつですよ、デジカメってのは、こんちくしょう。……まぁ、敢えて利点を上げりゃあ、プリントが早い事と写りが良いってくらいですかね」

それを聞いた桃瀬が必死で笑いを堪えながらカップを洗う。私も内心では声を上げて笑いながら、もう一度チーフが大事そうに眺めていた写真に目を向ける。そこには満面の笑みでピースサインをする新郎新婦、友人達。そして中央に同じく両手でピースサインをする紫倉チーフがいた。
あの時、専属カメラマンと同時に友人達も自分のカメラで写真を撮ってもらっていた。その中の一人が今朝、わざわざチーフに写真をプレゼントするために当館へ足を運んできてくれたのである。
いつも先導中に見せる完璧なサービスマン用のスマイルではなく、普段我々に見せるムスッとした表情で白い歯を出し、ニカッと笑うチーフ。お客様の面前だというにも関わらずこの人らしくない姿だが、たまにはこういうのも良いだろう。いくら鬼神様といえど仮面を外したい時があるはずだ。それも無邪気なお嬢さん方と戯れた後なら、尚更……。

おわり





↓紫倉チーフ「先導はお客様のカメラに写らないよう行動するのが基本でい。何故って……魂が抜かれるかもしれねぇじゃねえか」
FC2ブログランキング にほんブログ村 恋愛ブログ 結婚式・披露宴へ
スポンサーサイト
06:52  |  儀式人の楽園  |  CM(15)  |  EDIT   このページの上へ

Comment

 
客の女共KOEEEEEEEEEEEEEEEEEEE

すっげーギスギスしてきましたね
他の客とか迷惑がらないのかなぁ・・・
新郎新婦が可哀想に思えてきました
 
楚良 紗英 | 2009年09月22日(火) 09:29 | URL | コメント編集

すごい女性・・・・。
口に出しては言わないまでも、似たような人はゴロゴロいますよね(爆)
何を勘違いしてるのか、プロ顔負けのカメラ持って
プロ気どりな人・・・・。
本当に邪魔なんですよね!
プロなら披露宴の流れを止めないよ~!と言いたくなります。
すみれ | 2009年09月23日(水) 06:28 | URL | コメント編集

この勘違いギャル達ムカつきます(怒)
私がその場に居たら知らないふりして足でも踏んでやります!
ホント…新郎新婦がかわいそう。 友達の結婚式なんだから純粋な気持ちで祝福できないんでしょうか?
けど“類は友を呼ぶ”って言うから、この新郎新婦も招待された時はこんな感じになるの?
次の標的は紫倉チーフ? そうなったら大変、こんなに気を使ってるのに…
紫倉チーフ、ファイト~~!!
それにしても要人さんってギャル語が上手!
私は最近のギャル語にも流行にもついていけなくなってきたかも(涙)
先日学生のお客様がジーンズの片方だけ織り上げてたので「片方だけ折れてるよ」って教えたんです、親切心から。これ、今の流行なんだそうですね(汗)
夢 | 2009年09月23日(水) 11:33 | URL | コメント編集

>>楚良 紗英さん
意外とその近辺でごみごみしているだけなので周りには迷惑かからないかと。
大声出して騒いでいるわけではないので。
しかし、スタッフには超迷惑です><

>>すみれさん
いますよね、妙にプロ気取り。
そういう人に限って絶対被写体を止めたがる。
叫びたいですよね、「お前が立ち回れ!」って。

>>夢さん
勘違いしだしたギャル共を止める手段はありませんwwww
いろんなお客様と接しているといろいろな言葉を覚えます。
最近のギャルはとにかく「~過ぎ」「やばい」とオーバーな言葉がお好きなようで。
要人(かなめびと) | 2009年09月24日(木) 06:58 | URL | コメント編集

紫倉チーフ危うし!
さて、紫倉チーフがどう対処するのか見ものデス。
要人さん、今日はありがとうございました♪
夢 | 2009年09月24日(木) 11:07 | URL | コメント編集

そういえば要人さん、僕のブログの3333キリ番GETされてましたね
TOPのコメントでそんな懐かしい思い出が蘇ってきました

女性が気の利く方で良かった・・・のかな?
そうでなければ立ち往生しちゃうとか、そういうことはないんでしょうかね
こりゃあ理不尽な・・・
楚良 紗英 | 2009年09月24日(木) 20:20 | URL | コメント編集

>>夢さん
こちらこそありがとうございました♪
今日も楽しいお話が出来てよかったです。
ここからがチーフの本気ですよ。

>>楚良 紗英さん
ちゃふ子さんとこで何故かキリ番をいっぱいゲットした気がします。
これも運命でしょうか?
要人(かなめびと) | 2009年09月25日(金) 06:48 | URL | コメント編集

やっぱりこれじゃあ、新郎新婦が可哀想ですね。
ギャル達もバカなことしてると早く気付いて、
お祝いの席を楽しんでほしいですw
momokazura | 2009年09月26日(土) 01:00 | URL | コメント編集

>>momokazuraさん
それがなかなか気付かないのがお馬鹿ギャル達なんですね~。
これで最終対決になります。
結局負けたのはチーフだった、のかしら?
要人(かなめびと) | 2009年09月26日(土) 06:59 | URL | コメント編集

最後の拍子抜けな場面を想像して大ウケしてしまいました(爆)
紫倉チーフご苦労様!
無事終わって良かったですね♪
夢 | 2009年09月26日(土) 11:23 | URL | コメント編集

>>夢さん
今回はかなりコミカルにしてみました。
紫倉チーフは前回のディズニーといい、主役になると
何故か変な役ばかりなっちゃいます。
要人(かなめびと) | 2009年09月27日(日) 06:38 | URL | コメント編集

昨日で終わりだと思ったら…続きがあったのですね(驚)
紫倉チーフ、良かったですね! こ~ゆ~時 “この仕事を続けていて良かった” って、改めて思うんじゃないでしょうか? やっぱりお客様あってのサービスマンですよね~♪
夢 | 2009年09月27日(日) 09:41 | URL | コメント編集

>>夢さん
やっぱり最後は良い形で終わらないとスッキリしなくて。
こういう事がサービス業の素晴らしいところです。
だからどんなクレームを受けたり失敗してもやめられないんですよね。
要人(かなめびと) | 2009年09月29日(火) 06:21 | URL | コメント編集

やっと読めました~~

たまにいますね、こういう新婦の友人。
写真だけに限らず、「仲悪いのか!?」と推測してしまうような、そんな態度とってたり。
他のゲストは見てなくても、裏方さんは結構見てます、ハイ。
やん | 2009年10月02日(金) 16:09 | URL | コメント編集

>>やんさん
我々裏方の方がじっくり見える人間模様がありますよね。
仲が悪いのはきっと人数あわせで呼ばれたと気付いているからだと。
要人(かなめびと) | 2009年10月03日(土) 06:25 | URL | コメント編集

コメントを投稿する


 管理者だけに表示  (非公開コメント投稿可能)

このページの上へ

 | HOME | 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。