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2009'05.22 (Fri)

何でもやりたい新郎の場合 前編


【More・・・】

「支配人、失礼致します。」

目を通していた書類から頭をもたげると、ホール部門の蒼井が満面の笑みを浮かべて立っていた。
そのどことなく凛々しさすら感じられる笑みに、私も笑顔で返す。

「うむ。どうしたんだい?」

「はい。私達の挙式の日取りが決定致しましたのでご報告を…」

「そうか、ついにか…!」

蒼井から結婚をする報告を聞いたのはちょうど1ヶ月前。
学生時代にお付き合いをしていた女性と縁有ってこの度結ばれることになった。
その女性とは卒業後に別々の職場で一旦離れてしまったが、
約四年間の遠距離恋愛の末にゴールインを果たしたらしい。
蒼井はまだ24歳と昨今の晩婚化時代には珍しく若年での結婚となるが、
一途な性格な彼ならばきっとこれからの新婚生活も大丈夫だろう。

「ありがとうございます。
 それで支配人には是非ご出席願えればと思いまして、招待状を持って参りました。」

恭しく両手を添えて招待状を差し出す蒼井。
本人の名前同様にディープブルーに金の文字であしらわれた招待状だ。
私は座ったままでは失礼なので立ち上がると、両手で受け取る。

「お気遣い頂きありがとうございます。慶びのお席に是非参加させて頂きます。」

いくつになっても結婚式の招待状をもらうのは非常に嬉しい。
その人の人生の門出に立ち会える喜びは何事にも代え難いものであるし、
それが自分の職場のスタッフとなれば感動もひとしおである。
まだ若い頃には自分の友人の結婚式がひっきりなしに行われたが、
この歳になると姪や甥くらいしか参列する機会がないので、
さらに招待状を持つ手が浮き立ってしまう。

「それで誠に恐縮なんですが、支配人に祝辞をお願いしたいのですがよろしいでしょうか?」

「えぇ!私がかい!?う~ん、緊張しちゃうな。」

「支配人には本当にいつもお世話になってますし、是非お願い致します。」

「う、うむ。だが、当社では祝辞は三役にお願いするのが通例になっているんだが…」

三役というのはつまり社長、専務、常務のお偉方という意味である。
当社では社員の結婚式の時には、この三役の誰か一人は必ず出席することになっており、
祝辞はその誰かに頼むことになっている。
そりゃあ、普段全く面識のないお偉方から祝辞をしてもらうよりは、
自分をよく知る直属の上司や支社のトップに頼みたいところだろう。
だが、自分より序列が上の立場の人間の前で祝辞というのはバツが悪すぎる。
特に慶事などのフォーマルな席では、序列を最優先に考えた方が無難だ。

「はい。もちろん三役のどなたかにもお願いする予定です。
 でもどうしても支配人からも祝辞を賜りたくて…」

部下にそう頼まれては嬉しく思わない上司などいなく、誰もが首を縦に振るしかない。

「う~む、じゃあせっかくですから引き受けましょう。」

「本当ですか!ありがとうございます!」

「ちなみに、祝辞は私と三役の誰かの二人だけだよね?」

「いいえ。彼女の職場の上司と私達の恩師の先生が一人ずつの五名です。」

「ご、五名!?」

「少ないですかね?」

「す……。」


9Happy
「何でもやりたい新郎の場合」



「少ないも何も…多すぎないか?」

一昔前の披露宴だったらそのくらいの祝辞がいても普通だった。
以前のウェディングパーティーはまさに『披露宴』で、
主役はあくまで披露される新郎新婦ではなく来賓の方々だった。
だが最近はそんな風習はほとんどなくなり、
パーティーそのものをゲストと一緒に楽しむのが披露宴となっている。

なので無駄に乾杯までの時間を削る祝辞など多くても二人くらいで、
やもすると祝辞がなく本人のウェルカムスピーチだけで
そのまま乾杯へと突入するウェディングパーティーもある。
なので五人も祝辞があるなんて…一人二分くらいでスピーチをしないとゲストが飽きてしまう。
もっとも二分で終わる祝辞なんてあるわけないが。

「そうですかね?」

「そうだよ。いくらなんでも五人は多いって。」

「でも、祝辞をお願いする皆さんは僕や彼女にはとても縁が深く、
 感謝している人達ばかりなんです。
 それとも支配人、やっぱり祝辞を頼まれては迷惑でしたでしょうか?」

「いや、そんなことは…」

実際のところ、祝辞や乾杯のスピーチを頼まれた人の気持ちとしては嬉しさと面倒さの半々だろう。
誰でも大勢を前にしてスピーチすることに抵抗がない人などいない。
もちろん私だってそうだ。
だが、それが自分の部下となればどんな理由があろうと断れるわけがない。
しかも我々サービスマンは尚更だ。
どんな場面であれ「No」と言えない強迫観念が身に染み着いている。

「もちろん迷惑なんかじゃないさ。喜んで引き受けましょう。」

「本当ですか!?ありがとうございます!!」

屈託のない笑顔で答える蒼井。
そして胸元からもう一通、招待状を取り出すと私の隣の席で
パソコンに向かっている緑川に、私同様恭しく差し出す。

「緑川さんにも是非ご出席頂きたいので、よろしくお願いします。」

せわしなくキーボードを叩いていた緑川は招待状を一瞥し、
「そこら辺に置いといて」と素っ気なく返した。
結婚式の招待状を、これだけぞんざいな受け取り方をする人は初めて見る。
この女性は本当に結婚式場のスタッフなのか?

そんな扱いをされたにも関わらず、蒼井はニコニコと微笑んで事務所を後にした。
弾むような足取りから察するによほど舞い上がっていると見える。
私はそんな後ろ姿を見送ると、あんまりな態度だった緑川に注意を促す。

「緑川君、いくらなんでもさっきのは無いんじゃないかな?
 蒼井君がせっかく招待状を持ってきてくれたのに。」

もっとガツンと苦言を呈したいところだが、つい恐々となってしまうのが自分の情けないところだ。
それでも彼女に意見を出来るだけでも褒められていいと思う。
だが緑川は何食わぬ顔のままパソコンに向き合い言った。

「支配人、私は蒼井の結婚式に出ないといけませんかね?」

その傲慢な言い方にさすがの私もムッとした。

「出ないと、って何かね?同僚の結婚式に出たくないのか、君は?」

「でも誰かは不参加にならないといけないんですけど?」

「それは、どういう…」

「あいつ、スタッフ全員に招待状出す気ですよ。こないだ赤沢とそう話してました。」

それを聞いた私はつい頭を抱えてしまった。

結婚式場のスタッフの宿命というか、どれだけ願おうとも
自分の職場のスタッフ全員は結婚式に呼べない掟になっている。
というのも、館内に必ず誰かは待機していないと困ることがあるからだ。
事務所ならば必ず外から電話が掛かってきた時のために待機係が必要だし、
誰かしらが新郎新婦の周りに付き添わねばならない。
それにウエディングパーティーが始まれば誰が料理を運んでくるのか?
誰がドリンクを準備するのか?結局半数のスタッフは通常業務に就かねばならないのだ。
緑川の言うことが本当ならば、果たして蒼井はそこまで考えが及んでいるのだろうか?
他の誰からならまだしも、彼だから不安になる。

「とにかく私は当日、電話番でもさせてもらいますよ。」

それは事実上、欠席するという意思表示だ。
だから緑川はさっきああいう態度を取ったのか。
キーボードを必要以上に力を込めて叩きながら緑川は言葉を続ける。

「それにあいつの披露宴、出席するだけ損をしそうですしね。」

「それはどういうことだ?」

「どうもこうもありませんよ!さっきの話からも分かるでしょ!
 あいつ、披露宴で何でもかんでもやりたいらしいですよ!」

急に憤慨しだした緑川に私は身をすくめてしまった。
この人は何で着火するかさっぱり分からない時限爆弾のようで恐い。
怯える私を横目に睨み付け、改行キーを壊れるのではないかというほどの勢いで叩きつけた。

「自己満足だらけの披露宴なんて胸くそ悪いだけだわ!」

捨て台詞的な怒号が事務所に響き渡ると同時に、
それまで机の端に身を潜めていた紅葉谷が破竹の勢いで逃げ出して行った。
静まり返った事務所内にプリンターの稼働する音だけが虚しく流れる。
何か披露宴に苦い思い出や恨みでもあるのかと聞いてみたいくらいに憤る緑川だが、
まさか聞けるわけもない。

そんな鬼神様に見つめてあんぐり口を開けた私に、
「そんなわけで私は欠席します!」と言い切ると、緑川は次に伝票整理を始めた。
どれだけ怒号を撒き散らそうが荒れ狂おうが、
手だけはチャキチャキ仕事を止めない緑川なので、ますます私は何も言い返すことが出来ない。
社会ではどれだけ人間性が崩壊してようとも、
キチンと仕事をこなす人間が一番強いに決まっている。
私はそんな鬼神様に逆らえる勇気などなく、情けなくも頭を垂れて「はい…。」と呟くだけだった。


蒼井は今から四年前に当館のスタッフとして入社した。
ちょうどあの赤沢と同期入社である。
ホール部門に配属されてから部署異動を一度もすることなく、
ずっと紫倉チーフのもとで指導を受けてきた。
現在は主にウェディングパーティーの裏方担当で、
お客様に給されるお料理を厨房と連絡を取り合う重要なポストを務めている。

蒼井の性格を一言で表せば「一途」である。
何にかけても実直な性格で、自分の信念は決して曲げず必ず初心を貫き通す。
非常に男気溢れる青年だがその反面、融通が利かないという欠点もある。
最初に決めてしまった事を軌道修正出来ず、
間違っていると自分で気付いてもなかなか認めようとしない。
誰かに指摘をされても我を通そうとしてしまうきらいがある。
サービスマンならばその辺を柔軟に対処して欲しいが、
如何せんまだ若いためかバランスを取るのが難しいようだ。
猪突猛進、一度走り出したら真っ直ぐにしか進めない、猪のような青年である。

さて、私はそんな蒼井のことを考えつつ館内を散策していた。
悩み事がある時にはゆったりと館内を歩き回るに限る。
ヨーロピアン調にコケティッシュな外観の建物や、
ガーデンに植えられた彩り豊かに咲き誇る花々に生い茂る草木を眺めていると、
リラックスした気分で物思いに耽ることが出来る。
だが私が散策していた理由はそれだけでなく、
蒼井の結婚式を担当する自身の同期である赤沢を探していた。
一度、彼の結婚式について詳しく話を聞いておかねばいけないようだ。
打ち合わせルームにいないところを見ると、どうやら接客中ではないらしい。
とするとさほど入り組んだ造りにはなっていない館内、あの子が居そうな場所など容易に察しがつく。
私はスタッフの憩いの場、ティールームへと向かった。


「ふぁい、そうれふふぉ。」

桃瀬が手作りしたというパウンドケーキを頬張りながら赤沢は答えたが、
何を言っているのかさっぱり分からない。

「口にモノを含んで喋るな、あちゃけ。」

「あ、ふみまふぇん。」

マイカップに注がれたハーブティーをごくごく飲みながら、口に詰め込んだケーキを咀嚼する。
まるで子供みたいだ。隣でにこやかに微笑む桃瀬とは雲泥の差である。
同い年で同期入社の蒼井は結婚するというのに、この子は自覚というものが足りない。

「ふぅ。そうっすよ、蒼井君はスタッフ全員に招待状を出すらしいっす。」

「らしいっす、じゃなくてだなぁ。
 スタッフ全員を招待するのは不可能だというのは君だって分かるだろう?」

「えぇ、そりゃあまぁ。」

「だったら何故それを本人に伝えない?
 そういうことを教えてあげるのも担当の仕事じゃないのか?」

ましてや蒼井はホール部門しか経験がないので、打ち合わせの段階のことには疎いはずだ。
自分も以前はホール部門にいたのでそのくらいは考慮して欲しいが、赤沢はあっけらかんと答える。

「だって蒼井君、言ったところで全然話を聞いてくれないっすもん。ねぇ、桃ちゃん?」

同意を求められた桃瀬は苦笑いしながらも、曖昧に頷いた。

「蒼井君は、一本気なところが強いから…ねぇ?
 自分が納得いくやり方でやりたいようにしないと、気が済まないんだと思います。」

さすがは毎日スタッフの様子をつぶさに観察している桃瀬は、蒼井の性格を熟知しているようだ。

「それは…そうかもしれないが、やっぱり言わなきゃならないんじゃないかな?」

「言う前にもう本人が招待状を作っちゃったんだから仕方ないじゃないですか。」

「えっ!?あれって蒼井君の手作りだったの?」

私は先ほど受け取った招待状を思い出す。とても手作りという出来映えではなかった気がするが。

「いやいや、自分で全部手配したってだけっす。
 何でも『なかなかない機会だから他部署の業務も体験したい』らしいですよ。
 緋村さんに発注の仕方聞いていて、気付いた時にはもう全て印字済みで納品してました。」

「蒼井君、勉強家ですもんねぇ。」

感心したように頷く桃瀬。私としてもその意見には賛同するが、
だからと言ってスタッフ全員にまで招待状を出すのは如何なものか?


「ちなみに桃瀬君にも招待状は届くのかね?」

私の問い掛けに桃瀬はまた曖昧な笑顔を浮かべた。

「ありがたいことにそうらしいです。みっちゃんの話によりますと。」

「出席するのかい?」

「はい…一応は。」

「そうすると蒼井君のお嫁さんの着付けやメイクは誰がするんだい?」

「もちろん…私しかいませんね。出席しながらそちらもキチンとやりますから。」

朗らかな笑顔で桃瀬はそう答えたが、私はただ溜め息をつくばかりだった。
花嫁の着付けやメイクを出席しながら担当するということは、
お色直しの度に自分もわざわざ会食を中断してフィッティングルームに走っていかなければならない。
器用な桃瀬のことだから難無くこなすだろうが、それでもゆっくりパーティーを楽しめないだろう。
私は釈然といかず唸っていると、赤沢はさらに衝撃的な事実を明かしてくれた。

「支配人、それだけじゃなくて蒼井君はホール部門のパートさん達にも招待状を出すみたいっすよ。」

「な、なんだって!?」

「しかも全員に。」

「ぜ……。あちゃけ…」

つい方言が出てしまったが、それぐらい愕然としてしまう事実だった。
これにはさすがの桃瀬も目を丸くした。

「全員って…じゃあ一体誰がお料理を運ぶの?」

そうである。
普段、ウェディングパーティーでお料理やドリンクを給仕する、
直接お客様と相対する重大な役割を担うホールサービスマンの殆どがパートタイマー達で、
登録されている人数だけで総勢30名はいる。
それら全員をパーティーに呼べば必然的に料理を出す人がいなくなるのだ
他部署である桃瀬ですら容易に想像がつくのに…。

「蒼井君の気持ちも分からんではないが、一体どうする気なんだ?
 まさか…パートさん達に出席しながら料理を運ばせるんじゃないだろうな。」

「それは絶対にさせないって言ってましたけど?」

「じゃあどうする気だ?」

「さぁ…何とかなるんじゃないか、って。」

開いた口が塞がらないとはまさにこのことだ。
いくら自分の結婚で舞い上がっているかと言ってもさすがにアバウト過ぎる。
どこをどうやったら何とかなるというのか?


「蒼井君も根は良い奴なんですけど、時々空気が読めないっすからね。
 自分の本職忘れてすっかりお客様の気分になってるんすよ。ねぇ、桃ちゃん?」

自らの同期社員を痛烈に批判する赤沢だが、驚いたことに桃瀬も遠慮がちに頷く。
桃瀬が肯定するくらいだからよほどなのだろうか。

「よくもそこまで言えるものだな。お前だって空気読めないことばっかりやってるじゃないか。」

「違いますよ、支配人。私は空気が読めないんじゃなくて、わざと空気を読まないんです。」

「なんだそりゃ?何が違うんだ。」

「一人くらいは空気をぶち壊す人間も必要だってことですよ。
 そこから新しい何かが見えてくるかも知れないじゃないですか。」

「あちゃくせ…。そんなことを言ってお前だって
 自分が結婚するときに訳分からないことを仕出かすんだろうが。」

「はぁ?しません。てか、私は結婚しませんから!」

「結婚式場で働く人間がそんなことを言うんじゃない。てか、さっさと結婚して寿退社でもしろ。」

「しません!」

「しろ。」

「しません!!」

「しろ!」

「ちょっと二人とも、落ち着いて下さい!」

いつの間にか口論になっていた我々を割って間に入る桃瀬。

「今はそんなことで言い争っている場合じゃないです!それに…」

そこで桃瀬は表情を曇らせて声のトーンを落とした。

「…寿退社したくたって出来ない人もいるんですから。」

瞳を潤ませて唇を噛み締める桃瀬を見て、
私と赤沢はすごすごと自分の席に着いてハーブティーを啜った。
…まだ失恋の傷が癒えてなかったのか。


「と、ともかくだな、私から蒼井君にちょっと一言言っておく必要があるようだな。」

いくら担当と言っても同期入社である赤沢では、さすがに進言し辛いところもあるだろう。
ここは一つ、上司としての務めを果たさねばいけなそうだ。

「よろしくお願いします。ちょうど私達、余興の練習もしなきゃいけなかったので助かるっす。」

「え?君達、余興をするの?」

「はい。お願いされたんで。
 一丁フェリスタシオン迎賓館のエンターテインメントを見せつけてやりますよ!」

拳を握り締め意気揚々と宣言する赤沢と同じように、微笑みを浮かべてピースサインをする桃瀬。
今時、職場の同僚に余興を頼むなんて珍しいものだ。
もっとも赤沢が言ったように当館のスタッフは皆人前に出ることに抵抗がないので適任だろう。

「そうなのか、期待してるぞ。ところで余興をするのは君達だけか?」

「いいえ、私達以外にも三組いるらしいっすよ。」

「………!」

もしやと思って尋ねたのだが、どうやらビンゴだったらしい。
私は自分の顔が徐々に青ざめていくのを感じた。


「じゃあ全部で四組もあるのか!?」

「はい。しかもその後に蒼井君、お嫁さんにサプライズでギターの弾き語りをするらしいですよ。
 しかも三曲。」

「三曲も!?」

「はい。今から必死に練習しているらしいです。」

「ちょっと待てよ…!祝辞は確か五人いるはずだよな!?」

「はい。支配人も含めて五人っす。」

「祝辞が五人、余興が四組、演奏が三曲も…。一体何時間かかるんだ…。
 なぁ、赤沢。彼のウェディングパーティーはそれだけで終わりなんだよな?」

「ハハハ、まさか。今んとこ決まってる内容だけでも聞きますか?」

私は唾をグッと飲み込み首を縦に振る。
そして頭の中でおおよそ掛かるであろう時間を勘定しながら赤沢の話を聞いた。

「えっとまず入場後にプロフィールビデオを流しますが、これは特注らしく12分掛かるそうです。
 そして祝辞が五名、乾杯。あ、乾杯の前に鏡開きだった。
 乾杯後に振る舞い酒して友人スピーチが四名。ケーキ入刀は両親も一緒に。
 ファーストバイトとラストバイトももちろんあるそうです。
 子供から花束贈呈でその時に写真は子供一人一人と撮りたいらしいです。
 あ、ちなみに子供は全員で六人。そして余興が」

「ちょっとストップ。一度深呼吸をさせてくれ。」

「いいっすよ、どうぞ。」

「………。」

「はい、じゃあ続けます。
 余興が四組の後に蒼井君本人によるギターの生演奏が三曲。
 そしてキャンドルサービスは各テーブル毎にスナップ撮影をします。
 それから両親に手紙読んで花束渡してお開きです。
 あ、最後にエンドロールがありますがこれも特注らしく15分の長大編ものです。」

「ちなみにその間にお色直しは三回入ります。」

最後に桃瀬が言葉を引き継いで説明は終了した。
私は途中まで時間をカウントしていたが、中盤あたりで思考を放棄してしまった。
その代わりに沸々と込み上げてきた怒りが一気に爆発した。

「何時間掛ける気だー!!!」

「ハハハ、支配人怒っちゃった。」

「何が可笑しいあんだ!あちゃけ!!一体何時間掛ける気でいるなや!?」

あまりの怒りに方言丸出しになってしまっているが構わない。
彼は素人ではないだろう?
一件のウェディングパーティーが大体何時間くらいか知らないわけではあるまい。

「たぶん五時間くらいじゃないんすか?」

「んだろ!?二倍だぞ!!普通のパーティーの二倍の時間が掛かるあんぞ!!
 あいつあちゃけでねが!?」

「あ、あの、支配人。とにかく少し落ち着きましょうよ。ね?」

桃瀬に宥められて私はようやく荒くなった鼻息を落ち着かせることになった。
この歳になって頭に血が昇ると、クラクラと目眩を起こしてしまうので適わない。
なおも興奮状態な私のために、桃瀬は急いで新しいハーブティーを淹れてくれた。
どうやら神経を落ち着かせる効能があるハーブをブレンドしてくれたらしく、
私はそれを一口飲んでやっと溜飲を下げた。

更新日 5月29日

「しかし…彼だってもう何年もこの仕事をやってるんだ。パーティーの時間配分くらい分かるだろ。」

通常のウェディングパーティーは二時間半辺りを目安に進行を組み立てている。
その位が長くもなく短くもなく丁度良い時間だ。

「それに、君達はそこまで知っているのに何で平然として居られるのだ?
 私には話を聞いただけでも耐えられん。」

互いに顔を寄せ合い苦笑いを浮かべる赤沢と桃瀬。

「だって、ここまですごいとむしろ清々しいというか…」

「はい…。蒼井君、やるなと。」

「なんか限界に挑戦みたいで応援したくなってきちゃうんですよ。
 これはキチンと見届けなきゃな、と。」

あまりの突拍子に二人とも完全に感覚がマヒしているのだ。
そんなのほほんと構えている彼女らを眺めていると、私の方がおかしく感じてきた。

「ほら支配人、結婚式場で働いているスタッフって色々なウェディングパーティーを見てきているから、
 自分の中でやりたいことや理想が一般の人より強くなってるんすよ。」

「あ、その気持ち分かるかも。私だって自分の時にはこのドレスが着たいとか、
 自分が着た方が絶対似合うとか無意識に考えちゃってるわ。」

「だよね~。私はね、絶対にお姫様抱っこをしてもらってヴァージョンロードを歩いて欲しい!」

「私も!私も!!」

いつしか自分が花嫁になったらという空想談義に花を咲かせ始めた二人をよそに、
私は腕組みをして考え込んだ。
確かに今までスタッフのウェディングパーティーを何度も拝見してきたが、
どちらかといえば一般の人達より思い入れがより強く感じる。
自らがそれを職業としているので当然といえば当然だが、時には明らかにやり過ぎなスタッフもいた。
さらに勝手知ったるからか、お客様よりもワガママで傍若無人に振る舞うスタッフも珍しくない。
だからそう思えば蒼井のことだって、さほどやりすぎではないような気がしてきた。

「それに支配人、当日は正午からのパーティーですし
 多少は延びても業務に影響ないんじゃないっすか?」

「そうですよ。
 蒼井君にとっては一生に一度の事ですし、自分の気が済むようにやらせてみては如何でしょう?」

「う、うむ。そう言われればそうかも知れないな。
 本人だって一生懸命に考えてパーティーに臨むことだし… 」

「それよりも私は支配人の方が心配っすよ。祝辞、ちゃんと咬まずに出来るんすか?」

ニヤニヤと意地悪そうに笑う赤沢。
私は、ふんっと鼻を鳴らすと彼女の額を指で小突いた。

「馬鹿にするな。こっちは10年以上司会をやってたから人前で話をするのは馴れてる。
 それよりも、そっちこそつまらない余興で場を白けさせないでくれよ。」

「了解っす。フェリスタシオンの底力、見せつけてやりますよ!」

無邪気な笑顔を浮かべ拳を突き上げながら宣言する赤沢。
隣にいる桃瀬も控えめながらグッと拳を握り締めていた。
よほど気合いが入っているようなので、これは今から楽しみだ。

私は一息つくとカップをティールームにあるシンクに持って行く。
ここでは自分のカップは自分で片付ける決まりとなっている。
亭主である桃瀬は自分で洗うから良いと遠慮するが、
美味しいハーブティーを淹れてくれたせめてものお礼である。
私は洗い終わったマイカップを食器棚に戻し、
桃瀬へ「ご馳走様でした。美味しいハーブティーをありがとう。」と感謝を述べる。
すると桃瀬はいつものように愛らしくはにかみながら
「お粗末様でした。ありがとうございます。」と返した。

「赤沢君、君もあまり長居しないで業務に戻るんだぞ。」

パウンドケーキを頬張りながらまだ居座る気でいる赤沢をたしなめ、私は出入り口に向かう。
そしてドアノブに手をかけようとした時、もう一度振り返って

「余興は長くても5分以内な。あまり長くならないように。」

と小言を残し、立ち去った。






↓蒼井「僕、ついに結婚します!!」
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Comment

今回は蒼井さんですねw
どんな人なのかタイトルで何となく察せられますが、
個人的には大仰な披露宴は勘弁してほしいって思います^^;
なんだか支配人もタジタジのような……

前回の白根シェフの最後の言葉が素敵でしたw
性格的には陽気なイタリアンだったのねと妙に納得できました。
素子ちゃんと誠一くんが登場しなくなるのは寂しいですが、
話の都合上仕方ないことなので、また別の機会に期待することにします^^
苺ちゃん辺りはまた書いてみたいとのお言葉もうれしいです~ぜひぜひw
momokazura | 2009年05月22日(金) 08:35 | URL | コメント編集

あら、24歳で若いって言われちゃった。(^^;)
うち、ダンナ23歳、私22歳だったよん。

結婚式・・・友人の結婚式が今週なんです。
大阪です。(--;)
いろんな予定変更や、「来るのキャンセルでもいいよ」と連絡したり、大変そう。
結婚式って本当にいろいろあるもんなんですね。

ところで素子ちゃん、塩分濃度を小数第二位までって相変わらず細かすぎ。(^^;)
みい | 2009年05月22日(金) 10:09 | URL | コメント編集

私の結婚式の時の祝辞は4人でしたよ、かれこれ20年近く前の話ですけど(汗)
妹の時なんて当人達には面識の無い市長が30分程話してました! それも当人達とは全く関係の無いお爺さんの話とか橋の話とか。 私のオバサンなんて居眠りしてましたよ。
前編に桑原さんが出てこなかったのが残念です(泣) でも、まっ、緑川さんが定期的に出てくるから良しとします!
夢 | 2009年05月22日(金) 11:34 | URL | コメント編集

僕が行ったことのある結婚式もだいたい二人くらいだったと思います
基本は両氏の上司の方

今回はタジタジの支配人が見られそうで楽しみです
いい年した方が後ずさる所なんて中々見られませんもん
シェフの声・・・良いなァ!
楚良 紗英 | 2009年05月22日(金) 15:01 | URL | コメント編集

>>momokazuraさん
今回は少しKYな蒼井君のお話です。
誠一、素子はまた別の機会でご登場願おうとは思いますが、
今のところ、予定は未定です。
苺ちゃんも・・・そのうち、ね><

>>みいさん
私も結婚したときは24歳でした。
みいさん22歳だったなんて、純愛結婚だったんですね♪
この時期の大阪、大変そうですね。
でも、あまり過敏になる必要はないと思いますが…。
結婚式場で10年間働いて一度もインフルエンザに
かかった経験がない私が保証します!

>>夢さん
今でも時々ありますよ、四人くらいとか。
当時の市長はあの人・・・ですが、今の市長は話しが上手くてスマートなスピーチをします。
居眠りならまだしも、タバコを吸い出す人も出てきますので
たまったもんじゃありません。
蒼井君の次は緑川さんなので、乞うご期待!!

>>楚良 紗英さん
タジタジどころか切れちゃいます、支配人♪
祝辞って本当に長いといやなものです。
一人で15分近く話された日にゃあ…もう、寝ちゃいます><
要人(かなめびと) | 2009年05月23日(土) 06:01 | URL | コメント編集

おおお~!緑川さんが出てきた!!
その強気な態度がイイですね♪ でもやっぱり私の近くには居て欲しくないかも。
次は緑川さんの話ですか!? 楽しみです!!
私の頃は祝辞は4人っていうのが普通の感じでした。 時代の変化でしょうか?
妹の時の祝辞をした方は大〇市長だったハズ。 今はなにしてるんでしょうねぇ。
夢 | 2009年05月23日(土) 09:16 | URL | コメント編集

さり気なく紅葉谷チーフ好きな僕が通りますよ、っと・・・

おっほう!
切れちゃうんですか支配人!
感情をぶつける人達の間で育ってるんで今回のお話しも楽しみです
そして次回の緑川さんにも期待

今年で転勤になった先生の話が25分ほどありました
他の先生は5分もなかったのに・・・なんであの人だけ・・・!
楚良 紗英 | 2009年05月23日(土) 23:00 | URL | コメント編集

あいかわらず緑川さんがいいキャラw
彼女の言い分もっともだと思うんですけど、
どうしてこう、喧嘩ごしなんでしょうねぇ^^
まあ、そのへんは次のお話に期待するとして、
蒼井さんはちょっとKYな人なんですね^^;
こういう職場にいてスタッフ全員に招待状とはw
momokazura | 2009年05月24日(日) 14:02 | URL | コメント編集

>>夢さん
書いてはいるんですけど、なかなか進みません><
実はただいま大賞応募用の作品を手掛けているので…。
でも緑川さんのもしっかりと書き上げますので!

某元市長は時々見ますね。特に何もしてないみたいですけど。


>>楚良 紗英さん
事務所内での紅葉谷チーフの逃げスキルは秀逸です。
学校の先生は得てして話が長いですよね。
祝辞などで校長などが来ると、もう・・・。

>>momokazuraさん
実際にこういうスタッフがいるから困ったものです。
以外と結婚式のスタッフほどいざ新郎新婦になった時にKYが多いです。
私は・・・違う意味でKYだったようです。
要人(かなめびと) | 2009年05月24日(日) 16:20 | URL | コメント編集

私も緑川さんに大賛成~♪
でも、文字通り「何でもやりたい人」いますよね~。
案外、プランナーとかに多かったりもするし・・・(爆)

この業界で働くと同僚の披露宴の欠席はやむを得ないですね。
私たちは、当日司会をするか、別の仕事を受けて欠席か途中抜け、遅刻・・・どれかを選択です。
私は、もちろん、同業の前での司会はお断りです!!!!(笑)

これから、どうやってパーティーへと準備を進めていくのか
楽しみです。
すみれ | 2009年05月25日(月) 10:16 | URL | コメント編集

>>すみれさん
私なんて同僚の結婚式で何回司会をしたか・・・。
むしろデビューが会社の同僚でした><
社長が目の前にアバッババー!とパニックでしたね。
要人(かなめびと) | 2009年05月26日(火) 05:55 | URL | コメント編集

祝辞、来賓祝辞2名、乾杯発声時に短く祝辞するひと、ケーキ入刀のあと、友人スピーチ2名、再入場後余興の最後に、新郎新婦の兄弟からスピーチ各1名・・・ってのもありました。
結構きつかったです・・・
結婚式場のスタッフって、やっぱりそこで結婚式しなくちゃいけないんですよねえ・・・
どうなるんだろう、蒼井クン・・・
やん | 2009年05月26日(火) 14:19 | URL | コメント編集

>>やんさん
いやいや、それだと田舎ではまだスタンダードな方ですよ。
結婚式場のスタッフはもちろん自分のとこ以外でやるのは
絶対にタブーです。
もしもやったら・・・首が飛ぶかも><
要人(かなめびと) | 2009年05月26日(火) 19:13 | URL | コメント編集

蒼井くん(くん付け決定w)の結婚式、
このままだとスタッフが足りなくなりそうですね^^;
なんとかなるって、ホントに誰が料理を運ぶんでしょう~
支配人の采配に期待します♪

結婚式場のスタッフはよそでやるのはタブーなんですかw
…まあ、そうなのかな^^;
momokazura | 2009年05月26日(火) 20:23 | URL | コメント編集

>>momokazuraさん
そりゃあ、もう・・・タブーですよ。
他の式場でやった方がスタッフ全員を呼べるし、他式場の勉強にもなるし、
でも一件の結婚式が挙がるって結構莫大な利益になるんですよ。
そこを考えるとほいほいよそでやれません。
それに、私個人の意見としては好きで働いている式場で挙げたいと思いますがね。
要人(かなめびと) | 2009年05月27日(水) 06:25 | URL | コメント編集

蒼井君、我が道を爆走してますね!
スタッフ全員が出席した時の様子が目に浮かぶようです。
きっと乾杯の声と同時にパートの方々がドヤドヤ~って席立って料理を運ぶんですよね(笑)
支配人VS蒼井君のこの先が楽しみです♪

うちのETCは喋りません、高くて買えませんでした(泣)
1000円以下の所って割引なんないんでしたね!(怒)
夢 | 2009年05月27日(水) 10:00 | URL | コメント編集

うわ~!!!
その進行表、見たくないです(笑)
すみれ | 2009年05月27日(水) 10:54 | URL | コメント編集

>>夢さん
会社の宴会だと、もろにそんな感じなんですけどね。
乾杯と同時に裏方へ走っていく社員、とか。

ETC使うとかなり安いみたいです!
夏に金沢へ行くのでソレ用に購入しました。

>>すみれさん
その進行表、とくとご覧あれ!!
要人(かなめびと) | 2009年05月28日(木) 06:01 | URL | コメント編集

何だか支配人、桃瀬さんと赤沢さんに丸め込まれた?
5時間の披露宴でも楽しければ飽きないのかと。
私は19才頃、5時間の披露宴を体験しましたけど…内容は全く憶えてませんね。 ただ、金屏風の後ろで寝てた新婦の男友達の疲れてた様子だけ覚えてます(笑)
支配人の方言、いつも普通に話してる言葉なんですけど文字になると読みづらいですね(汗) 以前、方言メールがきた時があったんですけど、これも凄く読みづらかったです。
夢 | 2009年05月29日(金) 10:08 | URL | コメント編集

>>夢さん
五時間ともなると楽しいのは最早新郎新婦だけになってきます。
でも私が体験したのは最高で4時間ですかね。
余興が一つ25分もあって・・・><まさにフェリスタシオンのスタッフのように
感覚が麻痺して寛容な気分になってました。
方言は文字にすると本当に何を言っているのかわからないです!
自分で書いていても「何だ、この言葉は?」と首を傾げてしまいます!
要人(かなめびと) | 2009年05月30日(土) 05:51 | URL | コメント編集

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