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2009'05.07 (Thu)

人懐っこいシェフの場合 前編


【More・・・】

※今回のお話にある人物が登場しますが、あの二人と同一人物とは限りません。
 あしからず。


調理人という人種とは、どうも相容れないことが多い。
とにかく無愛想でプライドが高く融通が利かず排他的な人達ばかりだ。
料理について何か意見をしようものなら「素人に料理の何が分かる!」と、
怒鳴り声と一緒に鉄拳が飛んでくることがしばしば…。
その料理を食べ、評価するゲストは素人だという事実は気付かないらしい。
とりあえず暴言と暴力を用いなければこと会話が成り立たないが、
そのくせ客前に出ることに関しては酷く臆病だ。
恥ずかしがり屋なのか何なのかわからないが、人前に出ることを極端に嫌う。
どうやらお客様から直接料理の評判を聞かされるのが怖いというのが本音みたいだ。
調理人は職人気質と共に芸術家気質も持ち合わせているらしく、
自分が丹精込めて作った料理に「不味い」という烙印を捺されると、
立ち直れないほどに落ち込むそうだ。
まぁ、その気持ちがわからないでもない。

だが、当館の調理人達を束ねる白根シェフ長だけは違う。
ウェディングパーティーの最中、暇さえあれば勝手に会場内に乗り込み、お客様に挨拶をして回る。
もともと明るく出しゃばりな性格なのだが、
調子に乗っている時だと司会からマイクをむしり取り、勝手に挨拶を始める。
ひどい時だと歌まで歌い出す時もある。
もっとも何をさせても器用で口も達者だからお客様からは好評だが。

しかし、そんな白根はお客様に挨拶をするときに必ず尋ねることがある。
そこがまた彼が他の調理人と違う点だ。
大柄な体躯に白衣をまとい、ニコニコと屈託の笑顔を浮かべお客様に近付き、
白根は決まってこう声を掛ける。

「お食事は楽しいですか?」




8Happy
「人懐っこいシェフの場合」




何も全ての調理人が引っ込み思案というわけではない。
小さな飲食店に行けばカウンターを挟んでお客様と気軽に会話を楽しむシェフだっているし、
高級なレストランになれば食事が済んだお客様へ挨拶にくるシェフだっている。
最近ではウェディングパーティー中にシェフ長が
料理説明をしてくれるサービスを行っている式場も見かけるので、
白根の行動はさほど珍しいものではないかもしれない(歌い出す人は珍しいだろうが)。

だが、どのシェフだってお客様の前に出た時に一番で気になるのは、
美味しかったかどうかの評価ではないだろうか?
「お味はいかがでしたか?お口に合いましたでしょうか?」
というセリフが一般的な気がする。
白根は料理の味についてお客様に一切尋ねることはない。
いつも「お食事は楽しいですか?」で始まり、そこから何故か世間話で盛り上がるのだ。
出で立ちが出で立ちなもので、気が利いたお客様から料理についてお褒めの言葉を頂いても
「まぁね。」と曖昧に返すだけだ。
パーティーが終わった後にホールスタッフを掴まえては同じことを聞いて回る。

「今日のお客様方、食事を楽しんでいた?」

料理の評判について尋ねることは一切ない。
彼からすれば、食事が楽しんだか否かの方が気になって仕方がないらしい。

では、かと言って当館の料理が不味いかというと決してそんなことはない。
お客様から返ってくるアンケートには「料理が美味しかった」という声が多いし、
実際にスタッフを対象にした試食会でも評判は上々だ。
よく「料理が冷めていた」というクレームがこの業界では付き物だが、
当館は会場内にキッチンを設置しているため、必ず出来立ての料理を給せるのでこれも問題ない。
とある結婚情報誌の「ゲストが一番気にするランキング」の一位に必ず料理が上がってくる。
それだけお客様は料理に関心が高い。
白根は調理人としては申し分ない腕を持っていると私は思っているし、
お客様のニーズにもきちんと応えられていると思う。
だが如何せん、白根自身が気になるのは「食事が楽しいか」なのだ。
不思議な男だ。



「えぇ!?クロちゃん、正月に山形へ帰ったのかよ!!
 なんだよ!誘ってくれたって良いじゃねぇか!?」

ランチタイムの休憩室に白根の大声が響き渡る。
この男、大柄な体格に比例して声もでかい。
ちょうど今日は週の中日なのでスタッフは少ない。
我々の他に師匠の紫倉チーフがいるだけだ。

「別にお前を誘う必要はないだろ。そういうお前は正月どこに行ったんだよ?」

「オレか?オレは箱根駅伝を観に行ってた。」

「そういえば毎年の恒例だったな。またどうせ選手に合わせて歩道を疾走してたんだろ。」

「当たり前よ。そんでまた今年も駅伝スタッフと嫁さんに怒られてきたぜ。」

いくつになっても頭の中が歳を取らないこの旧知の友にはとんと呆れてしまう。
白根とは高校時代からの同級生で卒業後に一旦離れ離れになったが、
この会社でバッタリ再会をした。それ以来長い付き合いになる。

「でもさ、声さえ掛けてくれればオレだって一緒に帰省したのによ。
 たまには美穂ちゃんとも飲みたいしな。美穂ちゃんは元気か?」

黒石美穂。私の娘で今年26歳になる。

「あぁ、元気だ。最近では彼氏が出来たとかで毎日ウキウキしているよ。」

「げ!マジかよ!?
 おいおいクロちゃん、美穂ちゃんが他の男に持って行かれるぜ!いいのか!?」

白根の声があまりに大きかったのか、それまで腕組みしたまま目をつぶっていた紫倉チーフが
ムクッと体を起こした。少々うるさくし過ぎたかと省みた私はチーフに低頭する。
だが紫倉チーフは軽く微笑むと再び瞳を閉じた。

「しかしよ、クロちゃん。お前本当に良いのかよ!?
 そのうち『娘さんを僕に下さい』なんて言いにくるぜ!オレぁ絶対に許さねぇ!」

何やら興奮している白根をなだめすかすように、私はわざと声を出して笑ってやった。

「それはそれで結構じゃないか。結婚式が一件増えてくれて、うちとしては大いに助かる。
 もちろんその時には白根、美味しい料理でもてなしてくれな。
 美穂はお前が作る料理が大好きなんだから。」

するとつい今し方まで眉を吊り上げて怒っていた白根は、褒められた途端に照れ笑いになった。

「へへっ。美穂ちゃんがそう言うんなら最高のものを作んないとな!
 それで最高に楽しい時間を過ごしてもらわなきゃな!」

「ん、うん、まぁな。美味しい料理を期待してるぞ、白根シェフ長。」

「ん、あぁ、別に美味いかなんてどうでもいいんだけどな。」

またコレだ。白根はいつも美味しい料理には興味がない。
こいつが気になるのはいつだって「楽しい食事」なのだ。

「なぁ、白根。なんでそんなに『楽しい食事』にこだわるんだ?
 料理は美味しくてなんぼじゃないのか?」

私は常々気になっていた白根の口癖を問いただしてみた。
だが白根はいつものアッケラカンとした調子で返す。

「あ?そんな深い意味なんかないよ。
 ただオレは食事が美味いより楽しい方が好きってだけさ。」

「でもお前は調理人だろ?美味しい料理を追求するのが普通なんじゃないか?」

「そんな小難しいこと言われたってわかんねぇよ。
 いいじゃねぇか、最終的にお客様は喜んでるんだから。」

面倒そうに答える白根。何故かのらりくらりとかわされた感が否めない。
小骨が喉の奥に引っかかったようで気になった私は、更に追及しようと身を乗り出したその時、
休憩室のドアが開いた。

「失礼しまーす。支配人とシェフ長はいますか?」

入ってきたのはプランナーの赤沢だった。
私達を視界に捉えた彼女は「あ、ちょうど良く二人ともいる。」と一人ごちると、
もう一度休憩室の中を見渡し、「加齢臭クサッ」と呟いた。
目をつぶって仮眠を取っていた紫倉チーフの眉がピクッと反応する。
…気にしてるのか?

「それで、私達に何か用か?」

「あぁ、それです。
 去年私が担当したお客様なんですけど、
 来月にうちで祝賀会したいっていうんですけど、良いですかね?」

基本的に当館はハウスウェディング会場とうたっているが、
だからと言って結婚式以外の催しを受け入れていないわけではない。
ただそんな申し出は稀なので、受け付けた際には必ず一度私に報告させている。

「祝賀会っていうと趣旨はなんだ?」

「そのお客様が何でも来月に大学の教授に就任されるらしいんです。
 支配人、覚えてますか?
 あのまだ若いのに発電所の開発に携わっていて、お嫁さんも元東大生っていう超天才カップル。」

「あぁ!あの二人か!」

「そうです。誠一さんと素子さんっす。」

私の脳裏に記憶が甦る。
まだ大学生同士の若いカップルで、真面目で優しそうな誠一さんと
眼光が鋭く無表情だが非常に大人しい素子さん。
確か誠一さんの方は大学の講義に研究にと忙しくて二、三度しか打ち合わせに来れなかったが、
代わりにお嫁さんの素子さんが熱心に通ってくれていた。
二人ともまだ若いというのに浮ついたところがなくしっかりとした考えを持っていて、
とても好感が持てるカップルだった。


「その二人が祝賀会って…えぇ!あの新郎さん教授になるのかい!?」

「そうっすよ。だから私もビックリしたんです。」

「だってまだ大学生じゃなかったのか?あ、卒業したか。
 いやいや、それにしても若すぎるだろ。」

「しかも本人が言うには素子さんの方が頭が良いっていうんですよ。
 どんだけ天才なカップルなんすかね?」

「おいおい、そりゃあもうちょっとしっかりした場所で
 盛大に祝賀会をした方が良いんじゃないか?」

当館を過小評価するわけではないが、
都心部に行けばそういった催しに相応しい専用の式場があるはずだ。

「なんかそれだけ盛大にはしないみたいっす。
 それに結婚式に食べた料理が美味しかったんでうちに決めたらしいですよ。」

「ほぅ、それはそれは…」

もう一度その人が作った料理が食べたい、とお客様に思ってもらえるのは、
調理人にしてみれば最高の誉れだろう。
私は嬉しくて感嘆の声を上げたが、白根は興味なさげに耳穴をほじっているだけだった。
この男、本当に調理人か?

「支配人、この祝賀会を受けてもいいっすよね?」

「うむ、当然だ。それで、白根シェフ長に用件っていうのは?」

「そうでした。
 実はっすね、誠一さんからの要望で一度試食会を兼ねた打ち合わせをしたいって言うんですよ。
 その時にシェフ長からも同席して欲しいって。」

それまでどうでも良さげに話を聞いていた白根の目が丸くなった。

「おいらも打ち合わせに同伴しろってかい?」

「らしいっすよ。
 なんでも誠一さん、自分も料理を作るのが好きで色々お話をしたい、みたいなこと言ってました。」

「ほほぅ。…お嬢ちゃん、その手に持っているのは何でぃ?」

白根は赤沢が小脇に抱えていたファイルを指差す。

「あぁ、これはあの二人の結婚式の資料っす。」

どうやら去年のデータをちゃんと保管していたからしい。
普段は事務所のデスクをめちゃくちゃにしているくせに、
こういったものはきちんとファイリングしてあるとは、なかなかやるではないか。
赤沢はそれを白根に手渡すと、白根は早速パラパラとめくり始めた。

「教授の就任祝賀会となると、どこまで人を呼ぶべきかな?」

「やっぱり大学の学長クラスとかは呼ぶんじゃないっすかね?
 あ、環境省の人も呼ぶみたいっすよ。」

「環境省!?なんでまたそんな偉いところを!?」

「発電所の開発で関わりがあるらしいっすよ。」

「こりゃエラいことになりそうだな。本当にどう打ち合わせしたらいいか分からないな。」

「支配人、そいつは他の教授に聞くのが一番良いんでさぁ。」

それまで狸寝入りをしていた紫倉チーフが口を挟めた。

「あ、なるほど。しかし私に教授の知り合いはいないなぁ。」

「御安心を。あっしの昔の伝手で大学院の教授さんがおりやすんで、今度聞いといてみまさぁ。」

「さすがはサービス界のゴルゴ13。人脈の深さと広さは計り知れませんな。頼りになります。」

照れ笑いを隠すように顔をツルッと撫でると、紫倉チーフは再び眼を閉じ、眠りについた。


「そうすると、あと気になるのは料理についてか。
 白根シェフ長、せっかくの祝賀会だからな。記念に残るような美味しい料理を期待しているぞ!」

旧知の友に発破をかけるため、私はわざと声を張り上げて白根の肩を叩いた。
だが白根は、赤沢から預かったファイルをしげしげと眺め、
私の言葉なんて耳に入っていないようだ。
せめて返事くらいはして欲しくて私は白根を肘で小突くと、
急に白根は手に持った資料から目を離し、ニンマリと微笑んだ。

「ど、どうした?」

「クロちゃん、こりゃあオレにとって持って来いなお客様だぜ~。」

訳が分からず私と赤沢は目を合わせ首を傾げる。

「何が持って来いなんだ?」

「言ってる意味がよく分からないっす。白根シェフ長にピッタリも何もあったんすか?」

「おうよ。このお客様にはオレみたいな調理人がピッタリなんだよ。
 へへっ、まぁ見てなって。最高に楽しい祝賀会にしてやるぜ!」

そう言って意気揚々と立ち上がり、高笑いを上げながらのっしのっしと休憩室を出て行く白根。
私達はなおも訳が分からず、呆気に取られて白根の大きくたくましい背中を見送った。
何があの男のスイッチを入れる要因になったのかサッパリ掴めない。
白根がやる気を出してくれるなら料理についてはなんの問題もないとは思うが、
それでも私はあの男の態度が気になった。

「赤沢、試食会には私も同席させてもらっていいかな?」

「あ、はい。是非お願いします。」

白根があそこまでやる気を出すのが珍しくて興味がある。
あの男が目指す『楽しい食事』というものをじっくり見定めてみたいと思った。




「なるほど!じゃあさっきの魚料理にかかっていたバンブランソースに
 甲殻類のジュが使われていたんですか!だから魚介の味を一層引き立てるわけだ!」

「そういうことよ!しかしこいつは驚いた。
 調理人でもねぇ若い兄ちゃんの口から『ジュ』って単語が飛び出すたぁ。
 さすがは教授、博識だねぇ。」

「教授だなんてやめて下さいよ。まだ言われ馴れてなくて恥ずかしいんです。」

一般人にはさっぱりわからない調理用語でアレコレと料理について談義をする白根シェフ長と、
祝賀会の主催者である、まだ若き大学教授の誠一さん。
この誠一さんは相当料理について詳しいようで、
端から二人の会話を聞いている私にはチンプンカンプンだ。

「その…『ジュ』って何ですか?」

熱心に会話を楽しんでいるところに横やりを入れるみたいで恐縮だったが、
あまりに内容がわからないので質問をしてみた。
すると白根や誠一さんよりも先に、
それまで熱心に手元のノートへ何かを書き殴っていた彼の奥さん、素子さんが顔を上げて答える。

「『ジュ』フランス語で出汁の意味。魚介類を用いた出汁の事を『フュメ・ド・ポワソン』とも言う。」

全く抑揚の感じられない話し方と鋭い光を放つ瞳を向けられた私は、思わずたじろいでしまった。
何かまずいことでも言ってしまったかと思うくらいに、凄まじい威圧感だ。
だが、そんな素子さんを白根は笑い飛ばす。

「ハハハ、奥さんも随分と博識だねぇ。こいつはもう一丁驚いた。」

「彼女は現在、西洋料理について研究中なんですよ。
 ただいま論文作成しているので興味があるんです。」

誠一さんがすかさずフォローを入れる。
素子さんは確か普通の専業主婦だと聞いていたが何故に研究を?
論文とはいったい?

「ところでシェフ長一つお尋ねします。」

ロボットのように首を白根にスライドさせた素子さん。
彼女の眼光から解放された私は、内心ホッとした。

「先ほどの魚料理に使われたソースの分量とそれに用いたジュの割合と塩分を教えて下さい。
 塩分濃度の数値については小数第二までで構いません。」

突然の質問にしばらく考えた白根は「適当に。」と答えた。
調理人の味付けやレシピは門外不出な場合が多いのでそう易々と教えられないが、
この男の場合は本当に適当作ってそうだ。

小首を傾げてジッと白根を見つめた後に、素子さんは「了解しました」と呟くと、
手元のノートに素早く何かを記入する。
そこには「適量、要調査」と書いてあった。
何をどう調査するつもりだろうか?



事前に試食を済ませた二人と、白根、私は
当館のパーティーホール『グランシンフォニア・ルーム』の真ん中で
テーブルを囲みながら祝賀会の打ち合わせに入った。
本来なら200名は来客可能なこの会場にたった四人と、
だだっ広い空間で打ち合わせというのはいささか落ち着かないが、
本人達の「実際の会場で雰囲気を味わいながら」という希望だったので仕方なくこんな形になった。

「それでは、早速打ち合わせに入らせて頂きます。
 先ほどもお伺いしましたが、招待されるゲストの人数が40名様くらいということでしたね。」

「はい。すみません、こんな広い会場にたったそれしか呼ばなくて…。」

申し訳なさそうに声を潜める誠一さんに、私は笑顔で答える。

「いえいえ、大丈夫ですよ。
 この会場は半分の広さに出来るよう常設の仕切りがあるのです。
 なのでそうすればさほど広くは感じないはずです。」

会場の隅で待機していた紫倉チーフがホールの中央にある隠し扉を開くと、
中から一枚キャスターが付いた仕切り板を出して見せる。
この仕切り板は会場の内壁と同じデザインでしかも地面から天井まで同じ高さで出来ているので、
全て組み合わせると違和感なく会場が半分に仕切れるのだ。
それを見た誠一さんは感心したように溜め息をつき、ホール全体を見渡した。

「これは知りませんでしたし、去年結婚式をした時も全然気がつきませんでした。」

素直に驚く誠一さんの姿は、やはりどう見てもまだ去年まで学生をしていた若者だった。
この歳で教授になるくらいだから多少は偏屈な性格なのだろうかと思ったが、
そんなところは全く見受けられない。非常に清々しい好青年だ。
そんな様子に頬を緩ませながら私は話を続ける。

更新日 5月13日

「そしてゲストにお掛け頂くテーブルはちょうどこちらのサイズになります。
 ゲストが40名様くらいとなればだいたい7~8テーブルでしょうか。」

当館で使用している円テーブルは5人掛けで丁度良いサイズになっている。
ウェディングパーティーを経験したこの二人なら
結婚式の打ち合わせで説明をされているので承知なはずだ。

それまで国会の速記係のようにせわしなくペンを動かしていた素子さんが手を止めて、
しげしげとテーブルを観察し始めた。
その表情は相変わらず感情が窺えないが、どことなく憂いているように見えた。
訝しんで声を掛けようとした私より先に、白根が口を開く。

「これよ、例えば全員が一つのテーブルに座るっていうのは可能なのかい?」

その発言に誠一さんがハッと目を見開く。

「えっ!?そういうのって出来るんですか!?」

「長テーブルを組み合わせてよ、確か出来るはずだった気がするぜ。
 前にどこかで見たことがあらぁ。」

そんな白根の提案に私は表情を曇らせる。
白根は料理のことばかりで表のことはわからないだろうが、
40名が一つのテーブルに座らせようというのは些か難しい。

「出来ないことはございません。
 長テーブルを組合わせての会食は可能ですが…
 とんでもなく縦長なテーブルになってしまいますよ?」

単純にテーブルの両面にゲストが腰掛けるとして片面に20名。
ゲスト一人が窮屈な思いをせずに食事が楽しめる間隔が1メートルとすると、
全長約20メートルの超縦長テーブルになってしまうではないか!
学校のプールと同じくらいの長さだが、不可能ということはない。

「その寸法となると仕切りは外し会場をフルに使うしかありません。
 それにどうしても端の方と端の方は遠くなってしまいます。」

私の言葉を引き継いで紫倉チーフが答えた。
このホールのことならチーフが一番熟知している
(ちなみにチーフはお客様の前では「べらんめえ調」を使わない)。

「そう…ですよね。」

残念そうに弱々しく微笑む誠一さん。
何故そこまで落胆するのか不思議に思ったが、紫倉チーフはさらに言葉を続けた。

「ですが、先ほど支配人がおっしゃったように不可能ではございません。
 こちらとしてもお客様に違和感を与えないようレイアウトには工夫しますのでご安心下さい。」

私は思わず紫倉チーフの顔をマジマジと見つめてしまった。
確かにお客様の要望とあればある程度は答えたいが、
会場の寸法からみても明らかに長テーブルはおかしい。前後がガランと空きすぎるはずだ。
ここは円テーブルで提案するのが最良策な気がするが。
紫倉チーフは私の眼差しを涼しい顔で受け止めるだけだった。

「じゃあそうしましょうや。
 やっぱりみんなで一つのテーブルについて食事をするのが一番いいやな。」

「はい、ありがとうございます。」

何故か白根が話を締めたが、誠一さんが満足そうに微笑んだので良しとしよう。
私は打ち合わせを続けることにした。





↓緋村「この間の焼肉?…はい、もちろん食べましたよ。ユッケ…。」
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Comment

何と!誠一君・素子ちゃんが再び登場なんですね!? 桑原さんも登場するのかしら?
誠一君、教授になるの?
いやぁ~、先の話が楽しみですね♪
夢 | 2009年05月09日(土) 14:35 | URL | コメント編集

●管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
 | 2009年05月09日(土) 14:40 |  | コメント編集

おおw素子ちゃんと誠一くん登場ですか!
待ってました~~~要人さん、ありがとうw

白根シェフは素敵な人ですね^^
一流の料理人というのは、料理にだけ気を配るんじゃなく、
こういう人のことを言うのかなってちょっと思いました。
momokazura | 2009年05月09日(土) 18:58 | URL | コメント編集

>>夢さん
桑原さんはどうでしょうね?登場するのかも?
あの彼が教授になってしまいます!
久しぶりにこの名前が出ると私もワクワクしちゃいます♪

情報ありがとうございました!

>>momokazuraさん
私が理想とする料理人の姿って、白根シェフ長みたいな人なのかもしれません。
料理人って気難しいけど付き合えば意外と優しい人が多いんです。
要人(かなめびと) | 2009年05月10日(日) 06:07 | URL | コメント編集

続いては、シェフなんですね~♪
色々な料理人さんがいますもんね(笑)
私がよくお世話になってる会場の料理長もとってもいい人
なんですよ~。
お料理残されてる率が多かったりすると原因を聞きにきたり、
ちょくちょく披露宴の様子をのぞきに来られたり・・・。
ほとんど顔を合わせることのないポジション同士ですが、
こういう方だと一緒にいい披露宴を作り上げてるって感じがします。
すみれ | 2009年05月10日(日) 21:51 | URL | コメント編集

ようやく追い付いた人です
ブログ放置気味なんでね、なんかアレですが……
筆を執って以来、人様の文章が気になります まだ自分は至らんなぁ、と描写を眺めながら読んでおりました
面白い方向で前作と絡んできて期待が膨らみます
各キャラ毎に葛藤やらストーリーなど、深みのある設定でwktkですよ

最近はダヴィンチという雑誌の賞に注目してます。何でもアイデアだけで受賞できるとか……
それでは!
蒼響黎夜 | 2009年05月10日(日) 23:15 | URL | コメント編集

>>すみれさん
そういう料理長さん、素敵ですね!
まさに白根シェフ長のようです。
時々、料理は作るだけで食べる人のことは無関心な調理人もいますので
そちらの会場の料理長さんは素晴らしい人だと思います。
食べている人の顔を見てこそ、料理は作った甲斐があるってものですよ。

>>蒼響黎夜さん
お久しぶりです♪
私も実のところ最近スランプ気味でして・・・。
語彙の少なさや技法の拙さに悪戦苦闘しています。
やっぱり他の人の作品を読むってすごく勉強になるな、と感じる今日この頃です。

ダヴィンチったらかなり大手の雑誌じゃないっすか!
私も何か賞に応募したくてアイデアもあるんですが、
如何せん執筆する時間がなくて・・・。
休みの日はトルネコの大冒険で忙しくて・・・><
要人(かなめびと) | 2009年05月11日(月) 06:15 | URL | コメント編集

白根シェフ長と誠一さんの会話が楽しみです♪ それと素子ちゃんも。
素子ちゃんは確か専業主婦でしたよね? 料理もバッチリこなしちゃってそうですよね。
今日、学生寮にチラシを配ろうとしてたらバイト君に会いました! 思わず「こんにちわ! 〇〇〇〇さんですよね!?」と、声をかけてしまいました。 友達も一緒だったのについつい… いやぁ~、会う時あったらヨロシク伝えといて下さい。 
夢 | 2009年05月11日(月) 20:33 | URL | コメント編集

結婚式の料理ってパターンが色々あって印象に残るんですよね
まだ2,3回しか食べたこと無いですけど・・・
久々の彼らの登場にうきうきしてますっ
楚良 紗英 | 2009年05月11日(月) 23:25 | URL | コメント編集

>>夢さん
素子は現在専業主婦です。
愛する誠一のために日夜頑張っております。

彼らに会いましたか!では今度来るときによく言っておきますね♪
周りの友達にも勧めるようにって。

>>楚良 紗英さん
ここだけの話ですが、どちらかというとパターンというよりは
値段で色々あるっていうのが本音です。
久しぶりに誠一、素子ペアが出ますよ♪
要人(かなめびと) | 2009年05月12日(火) 00:30 | URL | コメント編集

素子ちゃん、さすがですね~! 相変わらずですね~! 今度は西洋料理についての論文作成中なんですね。 ところでその論文が完成したら桑原さんに提出するの?
バイトくんが次来る日を楽しみに待ってます♪
夢 | 2009年05月12日(火) 14:34 | URL | コメント編集

>>夢さん
もちろん桑原さんに提出をして、きっつ~い一言を頂戴します><
論文作成は素子の趣味みたいなものですから。
バイト君はたぶん土曜日に来るはずなので話を聞いてみます♪
要人(かなめびと) | 2009年05月13日(水) 06:26 | URL | コメント編集

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