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2009'03.23 (Mon)

気が弱い上司の場合 前編


【More・・・】

事務所の自席にて、私は目を通していた書類を読みながら、溜め息をついた。
先日、本社で行われたプランナー勉強会に赤沢を行かせたのだが、その報告書である。
役席の立場上、とりあえず目を通して判を押さなければいけないが、
赤沢の報告書はとにかく誤字脱字が多すぎて、読む気がしない。
しかもまともに提出期限を守ったことがない。
まったく、小学生みたいな女だ。
今回も請求書の文字が「請及書」になっている。
あれだけ報告書を書くときには辞書を引くように言ってあるのに…。

だが、私が溜め息をついた理由は別にある。
赤沢の漢字間違いなどは日常茶飯事なので既に呆れを通り越しているが、
私は報告書の右上にある上司承認印欄を見た。
そこには先に紅葉谷チーフの判が押されている。
通常こういうものは、作成者がまず直属の上司に提出をして、
その後に式場の統括である私の元へ回ってくる。
ということは、紅葉谷チーフは一度この報告書に目を通した上で、私に回覧をしたのだ。
つまり紅葉谷チーフもこの間違いに気付かなかった、ということになる。

私は目を落としていた報告書から顔を上げると、腕組みをしてもう一度溜め息をついた。
別にミスに気づかなかった紅葉谷チーフを責めるわけではない。
それほどに赤沢の報告書はいつも間違いだらけなので、逆に正しい文章を見つける方が難しい。
だから見落とすことだってある。
では私が一体なぜそこまで憂鬱にならなければならないかというと、
ミスを指摘した時の紅葉谷チーフの態度が手に取るように予想出来るからだ。
それが億劫でたまらない。


5Happy
「気が弱い上司の場合」



今回の間違いは捨て置けばそれで済むようなことだが
「請求書」という文字はお客様の前で書くときもある。
なので、もしも今ミスを訂正しておかなければ、赤沢が恥を掻くことになる。
それだけではなく、スタッフの教養が疑われるし大袈裟に言えば信頼にも関わってくるだろう。
そう考えるとやはり見過ごし出来ない。
私は致し方なしに決心をして、事務所の隅で机に向かっている紅葉谷チーフを呼んだ。
自分の名前が呼ばれ、驚いたように飛び上がりながら紅葉谷は私の元まで駆け寄ってきた。

「はい!お待たせして申し訳ございません!ご用件は何でしょうか!?すみません!」

この時点で私はもうげんなりする。
紅葉谷は何をするにしても常に低姿勢で、口癖のように
「すみません、申し訳ございません」を連呼する。
腰の低さが日本人の美学かもしれないが、ここまでくると卑屈に思えてくる。
私はとにかく手短に要件だけ伝えようと、報告書を突き出す。

「赤沢君の書いた報告書だがね、
 請求書の文字が間違っているので訂正してやってくれないかな。
 一応本社に提出するから、また上からうるさく言われたくないのだよ。」

あまり重たく受け取られると困るので敢えて明るい口調で言ったが、
紅葉谷は深刻そうに俯いてしまった。

「あぁ…私がもっと確認をしていれば…申し訳ございません。
 彼女が悪いのではなく私が悪いんです…。私がもっとしっかり指導をしていれば…。
 すみません……。」

そして紅葉谷は米搗きバッタのように何度も頭を下げた。
一気に空気が暗くなってしまい気が滅入る。
この無駄に責任を感じてしまう性格も勘弁して欲しいが、
何故か私が悪いことをしているように錯覚をさせられるのも嫌でたまらない。
その点も指摘してやりたいが、それを言ってしまったらますます無駄に責任を感じ、
土下座までされかねない。
とにかくどうやって接すればよいのか悩んでしまう。


と、そこへ丁度良く昼飯の買い出しから帰ってきた赤沢が、
元気良く声を張り上げ事務所に入ってきた。
私はこれ幸いとばかりに手招きする。
直接本人に注意してしまった方が早い。

「赤沢、お前また漢字間違いがあったぞ。
 一体何度同じミスをすれば気が済むんだ?
 きちんと見直しをしてから提出しろと言っただろうが。」

「えぇ、マジっすか?私ちゃんと見直したはずですけど。どこっすか?」

そう言うと無遠慮に紅葉谷の手から報告書を掴み取り、首を傾げながら目を通す。
私が「請求書の『求』が違う」と指摘すると、
やっと気付いたのか下をペロッと出し、笑ってごまかした。

「これはね、アレっすよ。請求を追及しようかと。
 お客様にとことんリーズナブルで価値ある請求を追及するっていう私の意気込みっすね。」

「何が意気込みだ。下らない言い訳をしているヒマがあったらさっさと再提出しろ。」

「え、再提出っすか?修正液で直しちゃ駄目っすか?」

「駄目に決まってる。お前は本社にも目を付けられているからな。
 これ以上評判を悪くしないでくれ。」

「訂正印は?」

「駄目だ。再提出。」

いかにも面倒くさそうな顔で報告書を指でつまむ赤沢。自業自得というものだ。
そんな赤沢の様子を見つめていた紅葉谷は、苦い顔をして赤沢に頭を下げる。

「ごめんね、赤沢君。僕がしっかりと読み直していれば良かったのに。ごめんね。」

この上司、ついに部下のミスを自分のせいにしてしまった。
気が弱いのか自虐的なのか、私はもう、ただ呆れるばかりだった。

「そうっすよ。もんじゃ君がちゃんと見直してれば問題なかったんすよ?」

「うん、そうだよね。僕がもう少ししっかりしてれば良かったんだよね。」

「本当に。これからはちゃんとして下さいね?困るのは私達、部下なんですから。」

「うん、わかった。以後気を付けます。」

「支配人。このとおりもんじゃ君も反省してますから、今回はこれで勘弁してくれませんかね?」

真剣な顔で紅葉谷の腕を掴みながら私に訴える赤沢。
私はデスクにある手頃に分厚い冊子を両手に持って立ち上がり、赤沢の頭上に振り下ろした。

「あっちゃけー!!」

赤沢はカエルが潰されたような声を上げてその場にうずくまった。
その隣で顔を蒼くして小さく悲鳴を漏らす紅葉谷。
赤沢の間抜けも悪ふざけも大概馴れていたが、今のは限度を超えた。
この歳になって久しぶりにムカッときた。

「ちょっと~、支配人なにするんですか。マジで痛かったんですけど?」

脳天を押さえながら赤沢が訴える。
しかし私はさらに声を張り上げ怒鳴りつけた。

「お前がふざけ過ぎているからだ!もっと真面目に仕事しろ!
 それに上司をあだ名で呼ぶとは何事だ!なんだ!?もんじゃ君って!?」

そしてもう一撃、赤沢の頭に書類の束を叩きつける。
隣に座って一部始終を見守っていた緑川が珍しくニヤニヤしているが、気にしない。

「だって、チーフは『もみじや』じゃないですか。
 だから『もみじや君』からなまって『もんじゃ君』。
 美味しそうでいいですよね、もんじゃ君?」

自分の頭を撫でながら赤沢は直属の上司に同意を求める。
顔面蒼白でオロオロしながらも、紅葉谷は弱々しく微笑むと「はぃ…」と頷いた。
それを見てまた一気に頭へ血が上った私は、赤沢だけでなく紅葉谷にもお仕置きを叩き付けた。

「あちゃけ共が!おめ達は揃ってあちゃけだ!!」

ここまで怒るつもりではなかったが、あまりにも腹立たしかったのでつい興奮してしまった。
涙目になりながら声にならない声で頭をペコペコ下げる紅葉谷チーフ。
赤沢などはもうケロッとしていて、苦笑いしながら舌をペロッと出している。
まったく、怒り甲斐のない奴だ。

「まさかお前、私にまで変なあだ名をつけてたりしないだろうな?」

別に他意なく聞いたのだが、赤沢が無言で私を見つめる。
…あるのか。

「怒らないから正直に言ってみろ。」

「いやいや、支配人絶対に怒りますから。」

「いやいや、まず良いから言ってみろ。」

「いやいや、絶対に怒りますって。」

「いやいや、怒らないから。」

「いやいや、怒るから。」

「…言え。」

「………。」

ここまで言われて教えてもらえないのも気持ちが悪い。
赤沢は私から視線を反らしながら生唾を飲み込み、ボソッと呟いた。

「…そば。」

「……は?」

「…蕎麦です。」

あまりに意味が分からないあだ名に、私は首を傾げる。
何故に私が蕎麦なのだ?
さほど好きでもなければ嫌いでもないが。
理由を尋ねるよりも先に、赤沢が口を開いた。

「ほら、結婚式場とかサービス業って二月と八月が暇だって言うじゃないですか?
 だからヒマそうに館内をブラブラ漂っている支配人は、年がら年中二八蕎麦」

最後のセリフを聞くより先に、私は書類を投げ捨てると赤沢を掴まえるために手を伸ばした。
しかし一瞬早く反応した赤沢は俊敏に身を翻すと、一目散に事務所から走り去っていった。
相変わらず逃げ足の早さだけは折り紙付きである。
後には怒りの余りに息切れした私と、ガクガク震えながら蒼くなる紅葉谷だけが残された。
緑川だけが冷静に赤沢の後ろ姿を睨み付けながら舌打ちをした。

私は息が整うより先に、あの馬鹿の教育係である紅葉谷を叱り飛ばそうとした。
だが、それより前に紅葉谷は人とは思えない早さで頭を上下し続け、
謝罪の言葉を繰り返していた。

「本当に申し訳ございません!本当に申し訳ございません!全て私の責任です!
 私の教育不足です!ですのでどうぞお慈悲を!赤沢を許してあげて下さい!
 本当に申し訳ございませんでした!大変申し訳ございませんでした!」

不正を犯した企業が記者会見で陳謝する場面がある。
もしその場にこの男がいたら、きっと記者達は言及する気力を根こそぎ奪われるだろう。
それほどの勢いで紅葉谷は頭を下げ続けている。
昔から「先に謝ってしまった者勝ち」とよく言われるが、まさにその通りだ。
これだけ謝っている人間を叱責するこっちが、悪者のように錯覚させられてしまう。
果たして紅葉谷のこの性格は損なのだろうか、得なのだろうか…。

しかし、そんな閉口してしまっている私の隣にいる緑川は、
これ幸いにと瞳を爛々と輝かせて紅葉谷を責め立てる。

「そうよ!あんたのその腰抜けな性格が悪いのよ!
 あんな馬鹿娘一匹を扱えないなんて、上司失格なんじゃない!?
 もっと自覚を持ちなさいよ!あんたはプランナー部門のチーフなのよ!?
 そのうち緋村にだって馬鹿にされ始められるわ!案外もう見下されてるかもね!」

まるで傷口にカラシを練り込むように追い討ちの手を休めない緑川を横目に、私は背筋が凍った。
一応序列では自分より上の人間に、よくぞここまで言えるものだ。
…悪魔め。


紅葉谷チーフはもともと本社の人間だった。
歳は40歳で二人息子の父親でもある彼は、大学を卒業してすぐに当社へ入社した。
三年ほど現場を体験し、本社の人事課へ異動となる。
出世欲が強い人間は兎にも角にも本社への異動に憧れる。
現場で長年ちまちま仕事をしていては、いつまで経っても上には昇っていけない。
本社の人間も優秀な社員がいれば、勤続年数問わずいつでも抜擢する。
なので紫倉チーフや私のように現場至上主義な人間は別として、
本社への異動は誰もが憧れることだった。
僅か三年で本社に引き抜かれた紅葉谷は、
やはりそれだけの資質と期待をかけるに値する人材と評価されたのだろう。
実際に入社直後は、他支社というのに紅葉谷の評判は私の耳に届いてくるほどだった。

しかし、その期待と評価が、あの性格の紅葉谷には重荷だったらしい。
人事課に配属してからは良い評判をぱったりと聞かなくなった。
当時は私も役席がプランナーチーフだったので、本社の人事課とは接点がなかった。
なので彼がどういう業務をしていたのかは知らない。
だが、人事課に配属されて五年もしないうちに、紅葉谷は今度は総務課に異動させられていた。
そして二年もしないうちに次は営業部、さらに二年もしないうちに秘書課と、
本社内のありとあらゆる部署をたらい回しにさせられた。
これは異例中の異例である。

本社の内部事情などには明るくない支社の人間にとってはひどく異様に見えたが、
それは中の連中も同じだったらしい。
以前に、同期入社で本社の営業部長と会う機会があったので、
話のついでに紅葉谷の事を聞いてみた。
すると営業部長は苦笑いを浮かべて「あいつは本社じゃ使い物にならないさ。」と言った。

その理由を尋ねると、営業部長は「あいつは人に指示を出せない」と続けた。
本社の人間は内部の事務処理は当然の業務だが、
数ある支社の業務を統括するのが主な業務となる。
例えば人事課ならば、人事配置や異動、労働状況の監督など。
営業部ならば、各支社の利益目標の制定や広報の監督など。
とにかく支社の人間が円滑に業務を行っているかを統括するのが本社の仕事だ。
そのため、時には支社の代表である私よりも決定権がある場合もある。
なので時には本社の人間と衝突することもあるが…。

紅葉谷は人事課で勤務をしているときに、
支社からの示唆には判を押すことが出来るが、
支社から要求された事項に意見を述べることが出来なかったらしい。
つまり、手元にある仕事は適切に処理出来るが、他人に対して指示や意見が出来ないのだった。
最初、人事課のスタッフはそんな紅葉谷を見て
「まだ若いし、来たばかりで勝手が分からないのだろう」と寛容に見守っていたが、
それが三年経っても四年経っても変わることはなかった。
他人から意見を求められると、すぐに言葉に窮しまごまごしてしまうらしい。
そんな紅葉谷は人事課には適性がないと判断され、
他部署に回されたが、そこでも同じ調子だったようだ。
とにかく他人に指示を出せず、後輩の指導もままならず、気の利いた提案も出来ない紅葉谷は、
散々本社内を転々とした挙げ句に、「能無し」のレッテルを貼られ、孤立してしまった。
入社当時は期待の新星ともてはやされた彼も、35歳になる頃には
いつの間にか同期のメンバーから追い越されていた。

その話を営業部長から聞いた私は、早速人事課に問い合わせて、
差し支えがなければフェリスタシオン迎賓館のスタッフとして迎えられないかと頼んだ。
すると人事課は二つ返事で承諾した。
ちょうど電話口に出たのが人事課長だったので、決定は即断だった。
本社の方でも紅葉谷の扱いには手をこまねいていたらしい。
なんでも一度本社に招いたスタッフを支社に戻すのは、
本社の沽券に関わるという話を聞いたことがある。
そんな下らない見栄と私の要望が一致したようだ。
翌月から紅葉谷は、まだ創立5年の新しい支社である
フェリスタシオン迎賓館のプランナーチーフに就任した。
それがちょうど5年前の話になる。

何故、私が本社ではつまみ物扱いの紅葉谷を当館に招いたか、本社の人間に訝しがられた。
当館は1日一組限定のハウスウェディング式場なので、
それほど人員を必要とせず必然的にスタッフは少数精鋭型になる。
つまりマンパワーが評価の対象になり、
小さな組織の中では上下関係より横の連携に重点を置かなければならない。
ならば紅葉谷のような人材は適任なのである。
縦社会に縛られた本社では紅葉谷の実力は全く発揮出来ないだろう。
だが当館のような小規模な組織だと、
少し気弱に過ぎるが他人に気遣うことに長けた紅葉谷がスタッフ間の良い潤滑油になる。
それに入社三年で本社勤務に抜擢されるほどならば、その実力は折り紙付きだ。

そんな私の思惑は幸いに良い方向に作用してくれているようだ。
実際に紅葉谷はお客様からの評判は上々で、
今まで一度たりともクレームを頂戴したことがない。
それに非常に真面目で献身的な性格故に、
結婚式が終わったお客様から感謝の手紙が多数寄せられる。
その評判の良さは本社や他支社にも聞こえていくようで、
フェリスタシオン迎賓館に配属して僅か一年もしないうちに、
紅葉谷は「能無し」の汚名を返上することになる。
その証拠に、当館に配属されたその年に、
紅葉谷は全社で最もお客様アンケートに名前が記載されたという理由から、年間MVPを受賞した。
これには当館としても大変名誉あることで、これまで受賞したスタッフは紫倉チーフのみだった。
皆一様に栄えある受賞を褒め称えたが、
紅葉谷チーフはいつものように恥ずかしげに頭を下げながら
「すみません。僕にはもったいないです…。」と恐縮しただけだった。
どうせなら胸を張って大口の一つでも叩いて欲しかったが、
それはそれで紅葉谷チーフらしく微笑ましかった。

更新日 3月28日


さて先日だが、そんな紅葉谷が担当しているお客様からクレームがついた。
いや、クレームというほどのクレームではないかもしれないが、
紅葉谷を名指しで怒りの電話がきたのは初めてだった。

ちょうどその日、紅葉谷は休日だったので、
電話を取った緑川はしばらく黙って受話器を耳にあてがった後に、
「担当者に変わります」と事務的に伝えると、私に受話器を押しつけてきた。
いつも以上に不機嫌になった緑川を訝しんだが、
取りあえずと受話器を耳にあてると途端に怒鳴り声が飛んできた。

「どうなってるんだ!お前んとこの式場はよ!!」

急なことに私は目を白黒させる。
緑川はつまらなそうに荒く鼻息を吐き出し、

「クレーマーです。」

と言い捨てた。
私は眉間に皺を寄せてとにかくお客様の話を聞くことにした。
受話器からはなおも耳をつんざく怒鳴り声が響いてくる。

「お客様、ひとまず落ち着いて下さい。お名前をお伺いしてもよろしいですか?」

「人に名前を聞く前にてめえが名乗ったらどうだ!」

「これは大変失礼致しました。私は当館の支配人の黒石と申します。」

「あ?てめえ、紅葉谷じゃねぇのか?紅葉谷を出しやがれ!」

「申し訳ございませんが、本日紅葉谷はお休みです。」

「何勝手に休ませてやがる!いつ何時お客から電話きてもいいように待機させておけ!」

確かに緑川が言う通り典型的なクレーマーなようだ。
ここまで話をしただけでも分かる。
だが、まだ肝心の用件を伺っていないので判断は出来ない。
声を聞くところ私と同い年くらい。きっと新郎新婦どちらかの父親だろう。

「さっきてめえ、支配人って言ったか?するとてめえが一番偉い奴か?」

「はい。僭越ですが私が当館の責任者を務めさせて頂いております。」

「だったら話が早ぇ。 
 こないだ紅葉谷が請求書を持ってきたんだけどよ、なんだ?この金額は!?」

私はそこで、全て聞く前に合点が入った。
一番よくあるどうしようもないクレームである。

「こんなに金が掛かる結婚式があるわけねぇだろ!!」

「………。」

見積もりの段階で金額が高いとゴネる親御さんはよくある話だが、
全てが終わった後に金額へ文句をつけるのは単なるクレーマーの証拠である。
終わってからそういうトラブルにならないように、
こちらは何度も見積もりを出して確認を頂いているはずだ。

「恐れ入りますが、お客様のお名前を頂戴してよろしいですか?
 そうでないとこちらもお話を満足に伺えないもので…」

「あぁん!?オレが誰かくらいそっちで把握しておけ!」

わかる訳ないだろ!と心の中で悪態をつきながらも、
名前は追々聞けばよいので私はとにかく話を伺うことにした。

「それで…請求書の金額がいかがなさいましたか?」

「いかがもクソもあるか!高すぎるって言ってんだよ!
 何なんだ、てめえらの式場はぼったくりか!?」

「…事前にご提示させて頂いた見積もりとそれだけ差額があったのですか?」

「あぁ?差額なんざそれだけねぇよ。てめえのとこの紅葉谷が持ってきたのとピッタリだったよ。
 ただな、高すぎるんだよ!たった三時間程度なのに一体何百万ぼったくる気だ!!」

それからこのお父様は延々と、当館のどこが悪いあそこが悪いと罵り続けた。
それを私はただ電話口で相槌を打ちながら聞いていた。
結局、お父様は45分間も文句を言い続け、やっとのこと名前を聞き出した私は、
明後日にお宅へ伺うという約束を取り付けた。
僅かな時間だったが、その日1日分の疲労が蓄積したように
ぐったりしながら私は静かに受話器を置き、深い溜め息を吐き出した。
すると緑川がさっさとどけとばかりに、肘で小突いてきた。
彼女のデスクで電話を取ったので、長電話と分かると席を変わってもらったのだ。
しかし、電話が終わった途端に邪険な扱いとは…。
クレームを散々聞かされて気疲れしていると分かっているはずなのに、どうにも配慮が足りない。
…悪魔め。


↓紅葉谷チーフ「すみません!すみません!押して頂けるんですね!申し訳ございません!!」
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06:30  |  儀式人の楽園  |  CM(7)  |  EDIT   このページの上へ

Comment

赤沢さん…この調子だったら私もムカツキますね(怒)
入社して何年も経ってるのに…上司の指導不足なんでしょうね。
紅葉谷さん、しっかりしろ!って感じですね。

カルピス酎ハイ好きなんですか? 私は先日夜中にむしょうに日本酒が飲みたくなりました。 けど家に無かったし買いに行くのが面倒で我慢した。 そして次の日一升瓶を購入。 これで当分大丈夫♪ 
夢 | 2009年03月24日(火) 10:20 | URL | コメント編集

実際こういう人って珍しくありません。
うちの会社にいっぱいいます。
基本的に上司が注意しない会社はこうなるんでしょうね。

時々夜中にカルピス酎ハイが無償に飲みたくなるときがあるんですよ。
昨日はちょうどそんな日だったのでショックでした。
要人(かなめびと) | 2009年03月24日(火) 10:36 | URL | コメント編集

上司頑張れ~!! ですね。
今日はお休みですか?
カルピス酎ハイは飲んだ事ないので今度飲んでみますね♪
HPに“お家でのお手入れ方法”を足してみました。 見ずらかったり説明不十分な点などあったら教えて下さい。
夢 | 2009年03月24日(火) 15:19 | URL | コメント編集

>>夢さん
昨日は午後出勤でした。
HP見ましたよ!早速カキコさせて頂きましたわ♪
要人(かなめびと) | 2009年03月25日(水) 06:31 | URL | コメント編集

緑川さん、やっぱり好きですね~♪ 傍に居られるのはイヤだけど(汗)

一番乗りありがとうございます!
今日は暇みて再び携帯HPにチャレンジしたのですが出来ません。 もう掃除して帰ります(泣)
夢 | 2009年03月25日(水) 16:55 | URL | コメント編集

>>夢さん
こういうおっかない人も集団には必要なんですよね。
私も傍に居られたくないですけど><
要人(かなめびと) | 2009年03月27日(金) 06:06 | URL | コメント編集

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 | 2009年03月28日(土) 11:36 |  | コメント編集

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