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2009'03.10 (Tue)

完璧主義なプランナーの場合 前編


【More・・・】

当館『フェリスタシオン迎賓館』では、毎月第一月曜日に、全スタッフ合同の会議が行われる。
会議の内容は、恒例として毎月施行を終えたお客様から返ってくるアンケートの発表や、
各セクションへの要望や連絡事項など。
それが40分程で終わると、私が準備した題材を元にディベートを行うのである。
テーマは実に様々で、クレームやコンプレインへの対応や、経費削減の対策案など、
全員が多種多様な意見を交わし合う、実に有意義な時間となる。
この会議には役席、就業年数は関係なく、誰でも参加自由となっている。
これはスタッフ一人一人の自主性を高めるためだ。
それに、月曜日でもお客様と打ち合わせをするスタッフもいるため、
無理強いをしては、逆にお客様へご迷惑をかけてしまうという懸念もあるからだ。

初めは希望者のみの会議だったが、徐々に休みをずらしてまで参加するスタッフまで出てきて、
いつしかこの月曜会議は、全スタッフ参加が当たり前になっていた。
スタッフそれぞれの就業意識の高さに、上司としては喜びを隠せない。


「さて、今月の議題だが…、少子化や不況の影響がブライダル業界にも侵食し始めている。
 つまり、市場自体が低迷しているということだな。
 当館も現在は順調に売上を伸ばせているが、楽観視はできない。
 露骨な花嫁獲得争いをしている他支社もあると聞く。
 今や、待っていても結婚式がやってくる時代ではない。
 そこで、だ。今後は当館も営業面の強化を図るべきだと思う。
 その点について、みんなから忌憚のない意見を交わしてもらいたい。」

「はい、支配人。」

ちょうど正面に座っていた赤沢が挙手をする。いつになく真剣な表情だ。
赤沢も入社して四年目。
だいぶ仕事にも慣れてきて、自信もつき、ちょうど今が成長する時期なのだろう。
入社当時は、社会人としての当然のマナーすら知らず、だいぶ頭を悩ませたが、
会議で一番に発言が出来るほどに成長したのか。
私は部下の成長に眼を細めながら、赤沢に発言を促した。

「はい、赤沢君。」

「支配人。きたん、って何ですか?」

「…他に意見は。」

このお馬鹿を過大評価した自分が、情けなく思えてきた。
大衆の面前でなければ、確実に脳天を叩いているレベルだが、如何せん今は会議の真っ最中。
私はとにかく赤沢の発言を聞かなかったことにした。他の面々も私同様に聞き流す。
赤沢は隣に座っていた桃瀬に「きたん、って何?」とまた尋ねているが、
優しいお姉さん役の桃瀬は、困ったように苦笑いを浮かべるだけだった。

「宜しいでしょうか、支配人。」

「うむ。緋村君。」

斜め向かいにいた女性プランナー 緋村が挙手をする。
その凛々しくも映る姿に、その場にいた全員の目つきが変わった。

「営業面の強化ということですが、私はまず広告媒体の見直しから提案します。
 特に当館で運営しているホームページですが、あれをまず一番に改善すべきかと。」

「うむ。例えば?」

「はい。現在当館のホームページはフラッシュなど多様に用いて、
 非常に当館のイメージを見栄え良く表してますが、逆にイメージばかりが強すぎて、
 閲覧者に内容が分かり難い構成になっている気がしてなりません。
 フェアの情報や、特別プランなどの告知を、もっと具体的に提示すべきです。」

落ち着き払い、堂々と自分の意見を提案する緋村に対して、皆一様に大きく頷いた。
現状をしっかりと把握し、尚且つ具体的で建設的な意見に、私自身が感嘆する。
これで緋村はまだ入社歴二年目なのだから、驚かせられる。
非常に優秀な人材で、将来は当館、いや全社を背負って立つスタッフになるかもしれない。
とにかく、どのように成長していくか、先が楽しみなプランナーだ。
あの赤沢と同い年というのだから、これまた滑稽な話である。
その当の本人は、またもや隣の桃瀬に、「ねぇねぇ、桃ちゃん。ばいたい、って何?」と尋ねている。
少しは緋村を見習って欲しい。

品行良性、才色兼備。真面目で仕事が出来る優等生のようなキャリアウーマンタイプな緋村。
天真爛漫、自由奔放。仕事は遅くミスが多い。笑顔が取り柄のお茶汲みOLタイプな赤沢。
同い年でありながら全く両極端な二人が、プランナーという部署に配属になったのは、
実は私の隠された意図があってのことだった。

完璧な人間など、この世には存在しない。
完璧そうに見える人間でも、必ず欠点がある。
逆に欠点だらけの人間でも、秀でている部分が必ずある。
緋村と赤沢、この二人が切磋琢磨し合えば、
当館にとっても、本人達にとっても良い相乗効果が生まれるのだ。
私はその点に期待をしている。

3happy
「完璧主義なプランナーの場合。」



大学を卒業した緋村は、初期研修後すぐにプランナー部門へ配属された。
彼女が当館に配属になった時に、その経歴を知った私は、
何かの間違いかと、つい本社の人事課へ電話を掛けた。
なんせ彼女の出身校は、かなり名の知れた国立大で、
普通の民間企業に、しかも結婚式場に就職するには勿体無いくらいの高学歴だったからだ。
別に、出身校でその人を判断する訳ではない。
だが、それでも当館のスタッフとしては、あまりにも眩しすぎる経歴だった。
人事課の人間も異例なほど優秀な人材が入社するとのことで、配属先でかなり揉めたらしい。
いきなりの本社抜擢でも良いのではないか、という意見もあったが、
まずは現場を知るのが一番だろうという役員からの指摘があり、
その研修先として当館に白羽の矢が立った。
新入社員の配属先にまで役員が口を出してくるとは驚いたが、
それだけ全社的にセンセーショナルな人事だった。

さて、多大な期待と好奇心を受け、当館にて勤め出した緋村は、
高学歴を鼻にかけて傲慢な態度を取るわけでもなく、
どんな雑用も厭わず進んで取り組み、目上のスタッフには常に敬意を払い、
同年代のスタッフやパート従業員にも気さくに声を掛け、積極的にコミュニケーションを図る、
非常に模範的な優秀社員だった。
一緒に働くに連れ、彼女の優秀ぶりにますます気付かされるが、
だからこそ、何故彼女ほどの人間が結婚式場に勤めたいと思ったのか、
不思議に思い尋ねたことがある。
すると、常にポーカーフェイスな彼女が、途端に頬を染めて
「小さい頃から、花嫁さんって憧れだったんです。」と、声を潜めた。
そんな仕草が妙に可愛らしくて、いくら完璧な彼女も年頃の女性なんだと実感した。

さて、会議ではいつの間にか緋村の提案を元に、
皆次々とホームページの改善について、意見を交わし合っていた。

「確かにフェアの告知のページは何というか、分かり難いというよりも素っ気ない気がしますね。」

「おうよ。せっかく毎回あっしらホールが丹誠込めてセッティングをしてるってぇのによ、
 お客様がフェアをやってるってぇ知らねぇってんじゃ、意味がねぇわな。」

「その通りでさぁ、師匠。
 調理だってわざわざ朝早くきては、ディスプレイ用の料理を作ってまさぁ。
 それがお客様から見られないなんて、せっかくの食材がうかばれねぇや!」

「まったくだ!こんちくしょう!」

「やってらんねぇぜぃ!べらんめぇ!」

「てか、紫倉チーフに白根シェフ長、うちのホームページ見てたんすか?」

江戸っ子コンビを不思議そうに眺めながら、赤沢がそう言った。
正直なところ、私も同じことを思った。
すると紫倉チーフと白根は声を合わせて威勢良く「あたぼうよぅ!!」と答えた。

「いいかい、お嬢ちゃん。
 サービスマンってなぁ、浮き世の出来事に敏感でなくちゃ勤まらねぇ。
 あいてー時代だからよぅ。」

「その通りでさぁ、師匠。あっしら料理人も同じことよ。
 気になる料理店や食材があったら、ネットでちょちょいと検索すればドンピシャよ!
 ぶろーどばんど様々だぜ!」

「へぇ~。紫倉チーフも白根シェフ長もすごいです。私、見直しちゃいました。」

無駄に近代的な江戸っ子二人を、眩しいくらいの笑顔で褒める桃瀬。
この二人にとって桃瀬はアイドル的存在らしい。
途端にデレッと鼻の下を伸ばす。

「お、おぅ。いや、あっしらはただ…あれだ、情報収集ってか、なぁ白の字?」

「お、おぅよ。へへへ、桃嬢に褒められちゃあ、照れ臭くてかなわねぇや。」

「ちょっとちょっと、おっさん方。スケベ臭い笑顔浮かべないで下さいよ。いやらしい。
 それにうちのお姉ちゃんを『桃嬢』だなんて、お水っぽく言わないで下さい。」

軽く鼻白んだように二人を睨む赤沢。
この二人を目の前にして、「おっさん」呼ばわり出来るのは、たぶん赤沢だけだろう。
気が弱い紅葉谷チーフは、顔を真っ青にしてそわそわしている。

「けっ、なんとでも言いやがれ。お嬢ちゃんも桃嬢みてぇに色気があれば話は別だがな。」

「違えねぇ。まだ小便臭いガキに何言われたって、負け惜しみにしか聞こえねぇわな。」

「あわわ、申し訳ございません!」

「なんで紅葉谷チーフが謝るんすか?
 なんか私がお色気ないって言われてるみたいで、なんか悔しいんすけど。」

「そうだぞ、紅の字。お嬢ちゃんにも謝っとけぃ。」

「あぁ!ごめんなさい!ごめんなさいね!赤沢君!」

会議は踊る、されど進まず。
殺伐とした雰囲気で進める会議は好きでないが、如何せんスタッフ同士の仲が良すぎるせいか、
度々話が逸れてしまうことがある。
ここは当館の第一責任者として、軌道修正しようかと口を開くより早く、
それまで黙って話を聞いていた緋村が声を発した。

「皆さん、今はそういう話をしてる場合ではありません!
 今後の営業面強化は重要な課題なんですよ?もっと真面目に取り組んで下さい!」

その一言で、その場にいた全員が一斉に口を噤む。
皆、バツが悪そうにそっぽ向いたり、俯いて資料に目を落としたりしたが、
緋村は気にする事なく話を続ける。

「とにかく現状において、早急に解決出来るのはホームページの改善かと思われます。
 支配人、私に担当をさせて頂けませんか?」

「別に構わないが…。紅葉谷チーフ、緋村君の業務に支障はないかな?」

確かプランナー部門の発注関係は、全て緋村が担っていたはずだ。
紅葉谷チーフが思案するように首を傾げたが、
それよりも先に緋村が「問題ありません。」と答えた。

「わかった。でも仕事量は出来るだけ他スタッフと均衡が取れている方がいい。
 赤沢君、当分は緋村君の発注業務を半分手伝ってくれ。」

「了解っす~。」

不満げに私を見つめながらも、「では、お願いします。」と赤沢に頭を下げる緋村。
きっと仕事を分けなくてもやれると言いたいのだろう。
実際に緋村ならばなんの支障もなくこなすだろうが、
やはり赤沢とのバランスを考えると、こちらの方が好ましい。
実力と積極性がある人間は、本当にどこまでも伸びていく。
だが、全ての人間がそうとは限らない。
こちらが目を離せば、緋村と赤沢の差は見る間に離れていく。
そうした時に緋村が、自分にはない赤沢の良いところを気付かないまま、成長していくだろう。
それでは本人達のためにならない。そうならないために手助けするのが、上司の役目だ。

その日の会議は、それで幕を閉じた。
完全に緋村の独壇場だったが、次の日から彼女は早速本社などに問い合わせて、
ホームページ改善に着手していき、僅か二週間で誰もが納得するほどの、
完璧なホームページを完成させた。
これには手放しで驚かされたが、彼女の仕事はいつも本当に完璧で正確だった。
だが、その完璧さも時として不必要な場合もある。
その完璧さが、万人に受け入れられるとは限らない。

特に、この結婚式場のプランナーには。



私は毎日、館内を散策する。
これはほとんど日課になっていて、廻るコースと時間帯も決まっているのだ。
まず、毎朝8時に出勤し、当館のフェンスの外側を散歩する。
そうすると、必ずと言って良いほどに
一つ二つとゴミや吸い殻が落ちているので、それを拾って廻る。
市街地からは幾分離れていて、前日に施行が何もない日でも、
何故かゴミは落ちているのだから、不思議でならない。
次に建物の周りをぐるっと一周。
さすがにゴミまでは落ちてないが、替わりに雑草や、秋ならば落ち葉があるので、
軽く掃き掃除をする。
こうしておけば、お客様が来館する前には、外観だけでもキレイに保てる。

次に館内を軽く一周。
この時は、本当にあくまでただ早足で通り過ぎる程度で済ませる。
よほど大きなゴミや汚れ、前日に片付け損ねた荷物がそこら辺へ
乱雑になっていなければそれでいい。
それが済むと、やっと事務所に戻る。
ここまで時間はだいたい8:40。
事務所では少し早めに出勤してくる紅葉谷チーフや緋村が、
皆のデスクを拭き掃除してくれている。
そんな彼らと朝の挨拶を交わしながら、私はその日初めて自席に着き、
1日の業務スケジュールを練ったり、本社から届くメールに目を通したりする。

そして朝も9時近くになると、次々に他の社員が出勤してくるので、皆に毎朝一声ずつ掛ける。
『フェリスタシオン迎賓館』の1日が始まる。
全員が揃ったら簡単な朝礼を済ませ、まずは事務仕事に取り掛かる。
だがこの事務仕事は、簡潔に迅速に済ませなければならない二つの理由がある。
まず一つ目は、私のデスクに隣接している住人、経理の緑川との接触を出来るだけ避けるためだ。
彼女の耳が痛くなるほどの悪態や不機嫌オーラには、正直辟易してしまう。
とてもじゃないが、長時間隣に居たいとは思わない。

そしてもう一つの理由は、午前も10時を越すと、お客様が打ち合わせのため来館してくるのだ。
別に私が担当を持っているわけでも、お客様に用事があるわけでもない。
ただ、プランナーがお客様と打ち合わせをしている横を、ブラブラと通り過ぎるだけなのだ。
たったそれだけの事だが、私にとっては非常に重要なことなのである。
普段プランナーがどういった接客をしているか、お客様がどんなことを求めているか、
それを現場において肌で感じるのが私なりの、当館の支配人の在り方だと思っている。
まぁ、ただ単に機会があれば接客がしたいだけなのだが…。
他支社の支配人にその話をすると、明らかに嘲笑されるが、私は至って真面目だ。
時々、不審がるお客様もいるが、大抵名刺を出して挨拶をすれば、警戒心を解いてくれる。
その機会に乗じて、プランナーと一緒に接客に着けようものならば、この上ない幸福である。

そんな私の性質を知っている赤沢などは、たまに私を打ち合わせに招いてくれる。
大概は自分が大の苦手とする見積書の説明など。
時にはコーヒーのおかわりなど、顎で使われる時もあるが、
完全に利用されてると知りながらも、嬉々として従ってしまう自分が、
情けなくもあり、可愛くも思える。

さて、そんな風にいつもの散策コースを廻り、打ち合わせコーナーに赴くと、
そこには緋村と向かい合わせに、担当している新郎新婦が見えた。
あのお客様は、確か3ヶ月後に結婚式を控えた富樫、沢田夫妻だったと記憶している。
第一接客の時に、私も挨拶をさせてもらったが、
二人とものんびりしていて、大人しい性格のカップルだった。
どんな話をしているのかと、若干聞き耳を立てながら近付く。
だが、私はすぐに顔をしかめて通り過ぎた。
そして、足を忍ばせ、パーティションで仕切られた隣の打ち合わせ席に腰掛ける。
ここならば姿は見えなくても、耳をそばだてれば話が聞こえる。
私は息を潜め、緋村とお客様の会話に集中した。


「なんで富樫さんも沢田さんも、招待客リストを忘れてくるんですか?
 今日はそれについての打ち合わせをするって、前もって連絡してたじゃないですか。」

「すいません…。ついうっかり…。」

「まぁ、仕方ないですけど…。忘れただけでご自宅にはあるんですよね?
 恐れ入りますが、明日中にはファックスで送って頂けますか?」

「それが…その、」

「何ですか?はっきりおっしゃって下さい。」

「それがまだ、リストが出来てなくて…」

緋村から何の反応もない。きっと絶句しているのだろう。

「…沢田さんの方は、出来てますよね?」

「…すみません。実はまだ…」

「…私、以前言いましたよね?遅くとも今週中には招待客をリストアップして下さい、と。
 再来週には招待状の構成を決めないと、今月中に招待状配りが出来ないんですよ?
 いいんですか?結婚式はあと2ヶ月後に迫ってるんですよ?」

確かに、招待状はある程度の期間内に配らないと、
招かれる側の都合もあるし、なかなか心象が良くない。
この作業が遅れてしまうと、必然的に他の準備をも切迫してしまう事になる。
緋村が溜め息混じりに資料を捲っている音が聞こえた。

「予定をしていた大安の日は駄目になりましたから、
 後は来月始めの3日、この日しか大安はありません。で
 すので、最低でも25日までは印刷をかけないと間に合わないですね。」

「…あの、緋村さん。あの…」

「どうしましたか?沢田さん。」

「あの…あの…、期間ってもうないんですよね…。」

「当然です。何度も言ってますように、
 招待状は決められた期間に出さないと、大変な事になります。」

「そうですよね…。ごめんなさい。」

「では、今日は予定を変更して、テーブル装花とクロスを決めましょう。
 さすがに実物で確認というのは難しいので、パンフレットからお選び下さい。クロスは…」

その後も優柔不断な二人は、なかなか装花もテーブルクロスも決められずに、
さらに緋村をイライラさせていた。
この様子では今日中に何も決まらないだろうと思案しながら、
足を忍ばせ打ち合わせスペースから離れた。

しかし、あの様子では富樫さんも沢田さんも、自分達の要望を伝えられないだろうし、
緋村も気付いてはあげられないだろう。
あのままの調子で打ち合わせを続けていけば、双方にとって不幸なまま当日を迎えてしまう。
私は腕組みをしたままロビーを歩き、ふと顔を上げると、
フィッティングスペース『フィオーレ』の店内でちょうど桃瀬が接客をしている姿が見えた。
花嫁の隣には、自分の担当なのか赤沢も居る。
ここからではさすがに声は聞こえないが、赤沢が何かを指差し大口を開けて笑っている。
それにつられてか、隣にいる花嫁と桃瀬もお腹を抱えて笑っていた。
私はその様子を眺め、あることを決心した。
ちょうど今が緋村を成長させる良いタイミングなのかも知れない。

確かに緋村は大変に優秀なプランナーである。
だが、それ故に見えない部分もある。
それに気付けるか気付けないかで、プランナーの質は決まってしまう。
出来ればあまりやりたくない方法だが、多少は荒治療の方が効果はあるだろう。
と、一人ごちながら、私は事務所に引き返した。

更新日 3月15日


「つまり、私に富樫様方の担当を外れろとおっしゃるのですか?支配人。」

ややきつめの剣幕で私に詰め寄る緋村。
それを私はやんわりとかわす。

「違うよ、緋村君。次回の打ち合わせだけ、赤沢君に任せないか、と提案してるんだ。」

「それは実質的に担当を替われと言ってるのと、なんら変わりません。」

悔しそうに眉間にシワを寄せる緋村の隣では、
赤沢がキョトンと目を丸くして、私と緋村を交互に見る。
先の打ち合わせが終わったのを見計らって、私は緋村と赤沢を事務所に呼び寄せた。
そして今言った内容を二人に伝えたのである。

「私は別に構わないっすけど、それってなんか意味があるんすか?」

緋村ほどではないが、赤沢自身も意図が掴めず訝しむ。
赤沢の発言に緋村が反発する。

「私には出来ないのに、赤沢さんなら出来る事があるんですか?」

さすがは優等生。話が早くて助かる。
この二人、別段仲が悪いわけではないが、同い年というのもあってか、
お互いライバル心を持っている。
どちらかといえば、楽観的な赤沢より緋村の方がその気持ちが強いようだ。
何事においても自分の方が優れているという自信があるようだ。
だから私は、わざとその自尊心を刺激するように「そうだ。」と即答する。
プライドを傷つけられたのか、怒りを堪えるように緋村は顔を歪め問い掛けた。

「それは…なんですか?おっしゃって頂ければ改善します。」

「そうっすよ。緋村さん、頭良いからすぐに直しますよ。」

「お前と違ってな。」

「そうそう。ハハハ。」

「ふざけないで下さい!」

我々はいつもの調子でやり取りしたつもりだったが、真面目な緋村には癪に触ったようだ。
私は、悔しさのあまり目にうっすら涙を溜める緋村をなだめるように、優しく答える。

「確かに口頭で伝えるのがもっとも効率的かもしれない。
 だが、仕事というものは勉強と違って、ただ単に知識として身につければよいわけではない。
 実体験で体に身に付けさせなければ、役に立たないのだよ。
 大切なことなら尚更、ね。
 そして、ただ教えられるより、自分でそれに気付くことが何より重要なのだ。」

それでもなお、緋村は納得いかないようなので、私は奥の手を出すことにした。

「緋村君。実は沢田さんは君に要望があったようだけど、気付けてあげれたのかい?」

驚いたように目を丸くする緋村。
私は構わずに続ける。

「プランナーとして、どんな些細なことでもお客様のニーズに気付けるか、
 答えられるかがもっとも重要な資質だと思う。
 たぶん赤沢ならば、すぐに気付くと思うが…。」

そういうと緋村は、嫉妬と屈辱を込めた視線を赤沢に向ける。
だが、そんな優等生のライバルにはやや荷が重そうな赤沢は、
相変わらず呆けたように首を傾げた。
緋村も好敵手がこれでは、さぞかし張り合いがないだろう。
だが、取り敢えず緋村の負け嫌いには火を点けることが出来たようだ。
ぐっと唇を噛んだ彼女は、細く深呼吸をすると口を開いた。

「かしこまりました。では次回の打ち合わせを赤沢さんにお願いします。
 支配人、勉強させて頂きます。」

そう言って深々と一礼をすると、緋村は踵を返して事務所から出ていった。
取り残された赤沢は、ポリポリ頭を掻き、「本当に私でいいんですか?」と言った。

「あぁ、変なお願いをしてすまないね。当日は普段通りにやってくれ。」

「支配人が変なのはいつものことっすから。でも緋村さん、少し可哀想ですよ。」

「変、って…。そりゃあ、私も気が進まないよ。
 でもね、時にはそういった指導も必要なのさ。良薬口に苦し、と言うだろ?」

すると、それまで全く口を挟まなかった気性の荒い隣人、経理の緑川が、
お札を数えていた手を止めて「ふん!」と鼻を鳴らした。

「実体験がどうのこうの言ってましたがね、支配人!
 何度口で言ったって!何度同じミスをしたって!学習しない奴もいるんですよ!」

急に不機嫌モードで怒鳴られ、私はたじろぐ。
もっとも、この人の機嫌が良い時など、入社した時から見たことない。

「まぁまぁ、緑川さん。そんな人でも根気良く接していれば、いつかは変わっていくんですよ。
 誰ですか、それは?」

「あなたの目の前にいるでしょ!この子、また領収書の記入をミスしたんですよ!」

やっぱり、と思いつつ顔を前に戻したが、すでにそこに赤沢の姿はなかった。
脱兎の如く事務所から逃げ出す後ろ姿だけは確認出来た。
あまりの逃げ足の早さに呆気にとられていたが、
緑川は本人がいないにも構わずに、愚痴を続けた。
どうやら説教がしたいわけではなく、ただ愚痴を言いたかっただけらしい。

「まったく!あの子は何度同じミスを繰り返せば気が済むのかしら!
 だっておかしいですよ!たかが領収書なんてどうやっても間違いようがないわ!
 緊張感が足りないのよ緊張感!もう一回学生からやり直せばいいのよ!
 あんなんでよく社会人が務まるわね!そもそも支配人が…」

緑川の愚痴は止まることなく、私はただひたすら頷くだけだった。
事務所の隅で小さくなりながら仕事をしていた紅葉谷チーフが、
足音を潜ませ事務所から逃げ出すのが見えた。あいつめ…。

未だに赤沢への不平不満がつきない緑川の話を聞きながら、些か不安になってきた。
本当に赤沢にやらせて大丈夫だろうか?
普段の接客でのクレームはないが、私の思惑通りの結果に行き着くか、心配になってきた。



↓緋村「恐れ入りますが、こちらを押して頂けますか?そうです、二つともです。」
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Comment

1げと?
飛天(ry流の使い手だけあって完璧レディなんですね。
桃ちゃんかわえーよ桃ちゃん
これは全面的に押し出す人材でさぁ!
どんなお話になるかと思っていたらなかなか興味深いシリーズなのでwktkです
もちろん押させていただきやした
蒼響黎夜 | 2009年03月11日(水) 11:27 | URL | コメント編集

>>蒼響黎夜さん
余裕の1げとだからwwwwww
言われて初めて「働きたくないでござる!」の人を思い出しました!
そういえば同じ苗字でしたね。
桃ちゃんのお話は多分、もう3話くらい後にやる予定です。
乞うご期待!!
ぽち、ありがとうございやんす♪
要人(かなめびと) | 2009年03月11日(水) 21:24 | URL | コメント編集

今回は緋村さんの巻ですかw
彼女みたいなタイプ、カッコ良くて憧れます。
でも完璧主義がどんなふうに問題なのか、
次回で明らかになりそうですね。

赤沢さんのボケっぷりやそれを流すとこ、
江戸っ子二人の会話もおもしろかったですw
momokazura | 2009年03月13日(金) 00:30 | URL | コメント編集

>>momokazuraさん
完璧な人ほど、他人も自分と同じように出来る人間だと思いがちです。
そこに落とし穴があるでしょうね。
江戸っ子二人、と書いてますが、白根チーフは支配人と同じく東北出身なんですwwww
東京の色に染まってしまったのですwwww
要人(かなめびと) | 2009年03月13日(金) 05:56 | URL | コメント編集

紫倉チーフに白根シェフ長+赤沢コンビ、笑えますね~!
緋村さん、怖っ! 期限守らなくてもお客様はお客様なんですよねぇ…
昨日もコメント入れたのに…無い。 私のコメントどこに行っちゃったの?
夢 | 2009年03月13日(金) 10:37 | URL | コメント編集

「もう3話くらいあと」のコメントに、まだそれだけいっぱい読めるんだ♪ と嬉しくなりました。^^

人を笑顔にできる、リラックスさせられるってすごい才能ですよね。
私にはないので、赤沢さんが羨ましいです♪
みい | 2009年03月13日(金) 12:33 | URL | コメント編集

招待状って難しい物ですよね
相手方も中々「行く」or「行かない」がハッキリしない場合だと、特に

赤沢さん良い方だなァ・・・!
一緒にいて笑える方って好きなんです
楽しいじゃないですか
やっぱり結婚式は楽しく行いたいですもん
楚良 紗英 | 2009年03月14日(土) 19:29 | URL | コメント編集

>>夢さん
でも結局期限を守らないと困るのはお客様だったりする訳ですし・・・。
ボタンを押し間違えたりすると、コメントが載らないときがあったりするみたいです。
それとHP新しくなりましたね!!
きちんとキレイに画像まで載っていてビックリしました!

>>みいさん
一応ネタのストック的には、あと14話分があります。
まだまだたっぷり読めますよ♪
赤沢の性格は天性のものです。私も羨ましいくらいですが><
ただ抜けているところも多いのが欠点なようです。

>>楚良 紗英さん
招待状が全ての始まりですからね。
これが出ないことには結婚式は始まらないのです。
しかも返信ハガキがなかなか期日通りに返ってこないという難所も・・・。
結婚式って本当に大変ですよぉ・・・。
要人(かなめびと) | 2009年03月15日(日) 01:14 | URL | コメント編集

赤沢さんは天然でやってるんでしょうけど、
その場の空気を和ませることができる人っていいですねw
緋村さん、分が悪い?彼女の成長に期待します!

遅くなっちゃってすみません。
まだラフですけどいつものところで確認よろしくです。
momokazura | 2009年03月15日(日) 01:15 | URL | コメント編集

>>momokazuraさん
赤沢がかなり人気があるようですけど、
私的には緋村さんの方がタイプなんですよね。
バリバリキャリアウーマンが大好きなんです、私(///)
要人(かなめびと) | 2009年03月15日(日) 01:23 | URL | コメント編集

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 | 2009年03月15日(日) 17:08 |  | コメント編集

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