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2009'03.05 (Thu)

参列拒否をする父親の場合 後編


【More・・・】

次の日、てっきり塞ぎ込んでいるかと思っていた赤沢は、
何事もなかったように笑顔で出勤してきた。
そして私にもいつもと変わらない態度で接してきたので、逆にこちらが面食らってしまった。
だが、私の指示に従ってるのか、彼女は綾さんのお父さんについて、何も話さなくなった。
定期的な段取りの報告はあるものの、その件に関しては全く触れることはなかった。
私の考えに理解を示してくれたのかと、嬉しい反面、何故だか少し残念に思ってしまったが。

そして、何事もなく1ヶ月が過ぎ、綾さんの結婚式はいよいよ明日に迫ってきた日の午後、
赤沢が私の元に来た。

「支配人、明日はついに綾さんの結婚式っす。」

目を通していた書類から顔を上げると、赤沢は屈託のない笑顔を浮かべていた。
私もつられて表情を崩す。

「あぁ、もう明日か。早いものだな。」

「はい。担当を持ったのが半年前なのに、まるで昨日のことみたいっす。」

「そう思えるということは、君もお客様と有意義な時間を共有出来たという証拠だ。
 明日はしっかりとおもてなししなくてはな。」

「了解っす。」

お互いに微笑んだまま、たわいない日常会話を交わしているが、
私は心の中でどうしてもお父さんのことが気になっていた。
あれから赤沢が何も言ってこないということは、事態が好転したとは思えない。
かと言って、本当に明日はお父さん不在で結婚式をするつもりなのだろうか?
自分から釘を刺してしまった手前、聞くに聞けずに迷っていると、赤沢が口を開いた。

「それと支配人。お父さんが明日乗る飛行機は、9:47発だそうです。」

まさに不意打ちだった。
そしてその一言がどういう意味が込められているか、唐突に理解する。
しばらく眠りに着いていたある感覚が、むくりと頭を起こした。
その瞬間から、心臓が早鐘を打つ。

「な、な…赤沢…、何を言って…。」

あまりに突然のことで、呂律が回らない。
だが赤沢は、気にせず話を進める。

「もちろん空港は成田っす。何番ゲートまでは分からないので、明日探して下さい。
 たぶんサイパン行きで調べれば分かるんじゃないっすか?」

「ちょ、ちょ、ちょっと」

「私は担当なんで、朝から綾さんに付きっきりなんですよ。
 なので支配人、お願いします。」

「ちょっと待て!お前は何を言ってるんだ!」

ようやく言葉がきちんとした形として口元を通過した。
自分で言っておいて何だが、赤沢が何を言ってるかは分かっている。
だが、思わず聞かずにはいられなかった。
赤沢はケロッとした顔で答える。

「やだなぁ、支配人。顔を真っ赤にして。赤鬼みたいっすよ。」

「ふざけるな!真面目に答えろ!」

「だから、お父さんを空港から連れてきて下さい。」

いつの間にか椅子から立ち上がっていたらしい。
机から身を乗り出していたため、赤沢の顔が近い。

「そんなの…駄目に決まっている!何度も言っただろう!
 我々サービスマンはお客様の人生に干渉することは許されない!やりすぎはいけないと!」

自分でも気が狂っていると思うくらいに、大声を張り上げていた。
そうでもしないと、自分を律する事が出来なそうで恐かったからだ。
だが赤沢は微笑みを浮かべ、私に顔を寄せてきた。
彼女特有の甘ったるい香りが鼻腔をくすぐる。

「でも支配人は、いつもそうやって一線を越えてやってきたんでしょ?
 口では何だかんだ言ったって、それが支配人のサービスなんじゃないんですか?」

私は魂を彼女から鷲掴みにされたように、動けなくなった。
私が普段腹の底に隠してきたものを、新米の小娘はしっかりと見抜いていたのだ。

「お、お前だって…いや、でも駄目だ…、いや、しかし……」

「こんなこと、支配人じゃないと頼めないっすよ。他にやれる人、いないですもん。」

「だが…やりすぎは…やりすぎるのは……。」

「とにかく、無理矢理でも何でもいいので連れてきて下さい。
 あれでしょ?お父さんに『やっぱり結婚式に出て正解だったぜ!』って思わせるような、
 素敵な式にすれば問題ないんですよね?だったら任せて下さい!
 私がガッチリやりますんで。」

あまりに短絡的過ぎて、普通の人なら歯牙にも掛けない話だろう。
きっとどの世界の上司だって、赤沢の言うことを最後まで聞く前に一蹴する。
だが、私は最後まで聞いた上、まともに反対すら出来ていなかった。
内なる何かが鼓舞している。

「じゃあそんなことで、明日はよろしくお願いしますね。」

顔面蒼白で立ち尽くす私を残し、赤沢は軽快な足取りで事務所を後にした。
しばらく経って、ようやく自我を取り戻した私は、力無く椅子にへたり込んだ。
信じられないほどに、今自分が失望していることに気付く。
赤沢の戯れ言めいた要望にではなく、若い頃から全く成長していない自分自身に、だ。

どこで知ったかは分からないが、赤沢が言うように、
私は若い時から限度見境なく何でもやってしまうサービスマンであった。
招待状を手作りしたいが時間がない、というカップルに替わり、作ったり。
結婚を認めてくれないという新婦のお父さんへ、新郎と一緒に頭を下げにいったり。
以前担当した花嫁さんの子供を二日間ベビーシッターしたり。
とにかく、お客様が喜ぶことに、お客様の要望を全て答えることに、全身全霊を賭けていた。
しかし、それでもちろん全てが全て、喜ばれたわけではない。
何度忠告を受けても、勝手な行動ばかり取る私は、
上司にも同僚にも鼻つまみ者扱いだったし、
「そこまでやってくれと頼んだ覚えはない!」とお客様からお叱りを受けることもしばしば。
自分でもやりすぎているというのは重々承知、叱責される度に反省した。
だが、それでも体が、心が止まらなかった。
何度も同じことを繰り返した。
唯一味方をしてくれ、時には共犯者となってくれた白根には、かなり迷惑をかけたし、
お客様から借金を頼まれ、ホイホイお金を貸した結果、夜逃げされたこともあった。
そんなことばかりだったが、私を応援してくれる人もいたので、
人一倍努力し、今の地位を築いた。

昔と違い、今は責任ある立場で、
以前に比べ体力や気力が衰えていると思ったが、間違いだった。
どうやら私は、根っからの『あちゃけ(馬鹿)』らしい。
頭の中では様々な葛藤が渦巻いていて混乱しているくせに、
無意識に気持ちは高ぶってきていた。




成田空港16番ゲートから、9:45発サイパン行きのジャンボ機が飛び立っていった。
私は空港のロビー内にある待合いスペースの椅子に座り、うなだれていた。
セットしてきた髪は乱れ、スーツの第一ボタンは取れてどこかに失してしまった。
朝からどっぷりと疲労が溜まり、大きくため息をつくと、
二つ離れた座席から、更に大きなため息が聞こえる。
恐る恐る横に顔を向けると、綾さんのお父さんも、私と同じように疲れた表情でこちらを見ていた。
私はうなだれるように頭を下げ、小さな声で「申し訳ございませんでした…」と呟くと、
お父さんは弱々しく手を振り、

「もう、ね…。それはいいですから…。」

と、溜め息混じりに答えた。



8:50。国際線16ゲートに一番近い出国管理ゲート付近で、私は綾さんのお父さんを待っていた。
もしもお父さんが本当にサイパンへ旅立つなら、この場所で待っていれば、必ず出くわすはずだ。
来ないならばそれに越したことはない。
お父さんは結婚式に出席することになる。
出来るならそうであって欲しかった。
昨夜は一晩中悩み続け、目が覚めた時には、既に体が空港に向かう姿勢になっていた。
そんな自分に驚きながらも、魂に縫い付けられた己の性に、ただ落胆するだけだった。
どうか綾さんのお父さんが来ないようにと祈りながら、
空港内を行き来する人の流れをつぶさに観察していて、見つけてしまった。
ラフなポロシャツ姿に一人用のキャリーケースを持って、こちらに向かってくるのは、
間違いなく綾さんのお父さんだった。
私は一度深呼吸をすると、高なる心臓を押さえつつ、お父さんに歩み寄る。
自分に視線を合わせて近付いてくる男がいる事に気付いたお父さんは、
はじめは眉をひそめ警戒していたが、それが私だと分かると、曖昧に顔をしかめた。

「…おはようございます。渡瀬様。」

「あぁ、確かあなたは『フェリスタシオン迎賓館』の支配人さんでしたね。
 …おはようございます。」

私の前に立ち止まると、お父さんは落ち着きなく周囲を見渡した。

「なんですか?最近の結婚式場のスタッフは、
 わざわざ客の海外旅行の見送りまでしてくれるんですか?」

「いえ、違います。」

「じゃあ、あなたは何のためにここに?」

「もう一度、考え直して頂けないでしょうか?今日は綾さんの結婚式なんですよ?」

少し驚きつつも、やっぱりな、と言わんばかりに不敵な笑みを浮かべるお父さん。
緊張しながら嚥下して見つめる私に、お父さんは首を横に振る。

「前にも言いましたが、それはあなた方には関係のないことです。
 放っておいてくれませんかね?」

「ですが、綾さんはお父様が結婚式に来られることを、心から望んでらっしゃいます。」

「…だから、それはあなた方には関係ないと、先日お伝えしたじゃないですか。
 あなた方は黙って結婚式場で自分の仕事をしていればいい、違いますか?」

「確かにそうかもしれません。
 ですが、お客様の幸せを切に願い、全力を尽くすのが我々の仕事。
 綾さんがお父様に来て欲しいと思えば、我々はいくらでもお手伝いします。」

「つまり、私を引っ張ってでも連れて行くと?」

「…大変、申し訳ございませんが……。」

お互い顔を真っ青にしながら睨み合う。
お父さんの顔には、まさか式場のスタッフがここまでするのかという、戸惑いが色濃く映っていた。
不自然に視線が泳いでいる。かなり動揺しているらしい。
私はその様子を目の当たりにして、お父さんも本心は結婚式に出席したいのでは、と悟った。
でなくては、私の話に耳を貸さず、早々にゲートを潜ればいい。
私は心揺らぐお父さんに、最後の一押しとばかりに、腰を折り膝をついた。

「渡瀬様!どうかお願いでございます!綾さんの結婚式に、行ってあげて下さい!!」

声を張り上げ、額を地面に擦り付けた。
その声が空港内に響き渡り、周りにいる人達や空港スタッフが、何事かと一斉に視線を向ける。
ざわめき足を止める一般客。
素早く目配せをし合う空港スタッフ。
目を丸くしてあたふたするお父さん。

私は素早く頭を回転させる。
このシチュエーションで機内に逃げ込むのは難しいだろう。
出来ればこのまま、私ともども空港警備員からつまみ出されれば、という考えが頭を巡っていた。
…私自身も興奮のあまり、冷静な判断が出来なくなっていた。

だが、私が思っていた以上に、お父さんは頑固な人だった。
顔面蒼白になり額に汗を浮かべながら、お父さんは拳を握り締め、

「だから!あなた方に言われる筋合いはないと言ってるじゃないか!もう勘弁してくれ!」

と怒鳴り、私の横をすり抜けて行こうとした。
私は慌てながら、反射的にお父さんのキャリーケースにしがみつく。
急に腕を引っ張られたお父さんは、バランスを崩し、そのまま転倒してしまった。
私は無我夢中になり、お父さんの腕や足を掴まえようとする。
だが必死に抗うお父さん。
中年男二人が、空港のロビーでくんずほぐれずになっている光景に、いつしか人垣が出来ていた。

「お願いです!結婚式に出て下さい!!」

「イヤだ!私は絶対に行かん!」

「そこをなんとか!綾さんのために!!」

「うるさい!この!離せ!!」

「駄目です!!ほら!まんず良いがら!式場さ行ぐぞ!!」

「イヤだ!絶対にイヤだぁ!!」

「ワガママ言てねで!大人しくせぇ!!」

「離せ!離せぇ!!」

「駄目だ!絶対に離さねがらの!」

我々の乱闘に歓声を上げていた人垣を掻き分け、警備員が四人掛かりで私達を引き離した。
そしてそのまま、我々はスタッフルームまで連れて行かれてしまった。

若者と違い、既に中年男である私とお父さんは、あれだけ短時間の乱闘だったが、
完全に体力を使い果たし、スタッフルームで暴れるでもなく、ぐったりと横たわってしまった。
それに興奮していたといっても、年相応の分別も弁えているので、
大人しく警備員からの説教に頭を垂れた。
事情聴取のような事をされている間に、サイパン行きの飛行機は飛び立ってしまった。
お父さんの弁明もあってか、我々は単なる口論という扱いで、
なんのお咎めもなく、警備員から解放された。
そして、現在に至る。



「あんた…いや、支配人さん?」

「…いえ、黒石で結構です。」

「黒石さんは、東北の出身ですか?」

「はい。生まれが山形県です。」

先程の取っ組み合いの時、あまりに興奮し過ぎて、
後半はずっとお国訛りを連発してしまっていた。
気を抜くと、ついつい訛ってしまうのが、私の癖である。
あれだけ方言で喋るのは、正月に地元へ帰った時以来だ。

「…実はね、私も東北の生まれなんですよ。」

「それは……どちらで?」

「岩手です。
 高校を上がって大学進学を機に上京しましてね、それからこっち、ずっと東京暮らしですよ。」

そう言うと、お父さんは小さく笑い、遠くを見つめてポツリと呟いた。

「上京してすぐ、付き合い出した女性がいたんですよ…。」

私は顔を上げ、体ごとお父さんの方に向ける。
お父さんは今、結婚式に出席したくなかった本当の理由を、話そうとしている。

更新日 3月9日

「その女性は専門学生。私は大学生。彼女の方が先に卒業して社会人になった。
 近くに住んではいたが、やはり社会人と学生では、時間も価値観も違い、
 やがて感情もすれ違い…。結局、別れてしまったよ。
 それから私は傷心を引きずったまま過ごした。
 だがね、それから二年後に私のバイト先で彼女と偶然再会したんだ。
 私がどこでバイトをしてたか、分かるかい?」

私はおおよその予想はついたが、わざと首を横に振る。
お父さんはうっすらと苦笑いを浮かべ、「結婚式場だよ…」と呟いた。

「こう見えても私は、結婚式場でアルバイトをしていたんだ。
 彼女とは本当に偶然の再会だった。
 私はチャペルのドアオープン係。彼女は純白のウェディングドレスに身を包んだ…花嫁だった。」

「皮肉な…偶然ですね。」

「あぁ。チャペルの入り口にスタンバイした花嫁を、彼女を目の前にした時、
 一瞬で頭の中が真っ白になってしまった。
 むこうも私に気付いたが、場面が場面だ。
 もしも彼女が私に声を掛ければ、お相手さんに不信がられるからね。
 黙って目を反らしたよ。
 私も同じく声を掛けれず、震える手を悟られないように、ドアノブを力いっぱい握り締めた。
 その時にね、私はまだ彼女の事を愛していたんだと、思い知らされた。
 必死に涙をこぼさぬよう堪え、次々に蘇ってくる彼女との思い出を振り払いながら、
 私はヴァージンロードへと進んでいく彼女を見送ったよ。
 そして、扉を閉めたと同時に、堰を切ったように涙が溢れて止まらなかった。
 その日を最後に、私は結婚式場のアルバイトを辞めた。」

そう言うと、お父さんは自嘲気味に鼻で笑い、瞳を閉じた。

結婚式場で働いていると、本当に様々な人に出会うことがある。
卒業式以来に会うことがなかった同級生、学生時代の恩師、以前の職場の上司、
そして、昔の恋人。
それはゲストとして、親として、新郎新婦として出会うことになる。
この職業に就いていれば、必ずそういう場面に遭遇することを念頭に置いておくべきだし、
いかなるお客様が来ようとも、同じようにおもてなしをする覚悟があってしかるべきだ。
ただ、その時のお父さんは、あまりにも若すぎて、気持ちに余裕がなかったのだろう。
己を嘆くしか出来ないほど、不器用だったのだろう。
それが今、20数年の時を経て、甦ってしまった。

愛する我が子の結婚式という形で…。

「上の娘の時は、たぶん大丈夫だろう、
 もう学生の頃の自分じゃないんだ、と言い聞かせていたが、やっぱり駄目だった。
 式が終わって、披露宴に入る間際、仮病を患って退席したよ。」

「綾さんや奥様は、そのことをご存知で?」

「いいや。さすがにそんなこと、恥ずかしくて言えんよ。」

弱々しく手を振りながら、お父さんはそう言った。
そして、私の眼を真っ直ぐ見据え、再び口を開く。

「これが、私が結婚式に出たくない理由だ。どうだ、黒石さん。下らないだろ?馬鹿馬鹿しいだろ?
 私はね、娘が可愛くて堪らん。一生懸命愛情を注いで育ててきた。
 そんな娘が嫁ぐ姿を見る度、私はまた、あの頃を思い出して惨めになってしまう。
 そんな姿、娘に見せたくはない。あんたにその気持ち、分かるかい?」

私は辛そうに訴えるお父さんから視線を逸らさず、ゆっくりと答える。

「分かります。…私にも娘がいますから。」

私にか、自分自身にかわからないが、お父さんは酷く同情するように眉をへの字に曲げる。

「…娘さんは、一人ですか?」

「はい…一人です。」

「他に兄弟は…」

「いいえ、一人娘です。ちょうど綾さんと同じ、年頃です。」

「それは………。」

「はい………。」

「それは、さぞかし辛いでしょうな………。」

「……はい…。」

娘を持つ父親の心境は、誰でも同じだ。
自分の娘を心の底から可愛がり、慈しみ育てない父親などはいない。
だから私は、頭ごなしにお父さんの思いを否定することは出来なかった。
何度も嫁ぐ女性を見守ってきたつもりだが、
それでも自分の娘となれば、そんなにすんなり見送ることが出来ないかもしれない。

「ですが、私も自分が人の親になって、初めて気付いたのです。
 親が子供に対する愛情は、全くの見返りを期待しない、無償の愛情なんだと。
 自分が子供だった頃は、そんなことに見向きもせずに過ごしてきましたが、
 親になって改めて自分の両親の背中を思い出すようになったのです。」

口を噤み、黙って耳を傾けるお父さん。
たくさんの人が行き来する空港のロビーの待合いスペースに、くたびれた中年男が二人、
静かに俯いていた。

「だから、将来綾さんが親になった時、きっとお父様とお母様の背中を思い出されるでしょう。
 そして同じように自分の子供が結婚式を挙げられる時に、
 思い出すべきお父様の背中がないのは寂しすぎると、私は思うのです。」

きっと、私もお父さんと自分を重ねて見ていたのだ。
近い将来、私の娘も嫁ぐだろう。
その時に事実を受け入れることを拒んでしまいそうな自分を、
お父さんを説得しながら、自分自身を説得しているのだ。

私が話し終わるのを待っていたかのように、お父さんは深い溜め息をつく。
その溜め息に、私は少し背筋を伸ばした。

「つまり、それが黒石さんのサービスというわけですか?」

「そんな大それたものではありませんが、言われてしまえば、その通りかもしれません。
 だからいつも、限度を超えてしまうのです。」

「あなたのそれは、全くサービスとはかけ離れていますよ。」

「…返す言葉もございません。」

「そう、あなたのそれは…サービスではなく『慈愛』です。」

その言葉に、私の背筋が更に伸びる。
そして無言のまま立ち上がり、深々と丁寧な一礼をした。
私の行き過ぎた行動と、生意気な説教には勿体無いくらいの褒め言葉を頂いてしまった。
これでは、いくら頭を下げようとも、いくら感謝の言葉を述べようとも、足りないくらいだ。

そんなかしこまった私を微笑みを浮かべ眺めながら、
「ヨイショ」と小さく呟き、お父さんも立ち上がる。

「さて、サイパン行きのチケットも無駄になってしまったし、
 愛する娘の結婚式に出席しましょうか。」

「それでは、当館までお送り致します。」

お父さんの手からキャリーケースを預かると、私は前に立って先導した。

「しかし、参ったな。あれだけ頑なに結婚式に出ない、と言っていたので、
 モーニングを合わせていない。」

「それでしたらご安心を。フィッターの桃瀬がお父様のモーニングもご準備してございます。」

「えっ?私は一度も合わせてないぞ?寸法が合わないかもしれない。」

「それもご安心下さい。桃瀬は一度その人を見ただけで、
 寸分の狂いなくサイズを合わせることが出来ます。
 前に一度、綾さんの衣裳合わせに同行されましたよね?」

「なんと!さすがは『フェリスタシオン迎賓館』だ!」

愉快そうに声を上げて笑うお父さんに、私は少し意地悪を言いたくなった。

「しかし、ここまで綾さんに心配を掛けてしまいました。
 お父様には罰として、泣き顔をしっかり写真に残させて頂きます。」

「おいおい、黒石さん!それは勘弁してくれよ!」

空港のエントランスを、高笑いを上げながら私とお父さんは抜けた。

時間はまだ10:30前。結婚式には充分間に合う時間である。



それから1ヶ月後、結婚式の写真が出来たので、二つのお詫びも兼ねて、
私と赤沢は再び渡瀬家を訪ねた。
そのお詫びとは、一つはやはりお父さんを無理矢理に空港から連れてきてしまったこと。
そしてもう一つは、結婚式直後に、あまりにお父さんが号泣し過ぎたところを
フィルムに収めてしまったので、
客間に飾るには、些かはばかりがある出来になってしまったことである。


終わり






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Comment

支配人さん、やりますね~! うん、空港内の様子が想像できます。 お父さんはもう結婚式に出るしかないですね~!

昨日はアドバイスありがとうございました! 早速写真を撮ったのですがアップロードが…それ以前に私には写真を撮る才能0みたいデス凹
夢 | 2009年03月06日(金) 13:10 | URL | コメント編集

>>夢さん
でも本当はこの行為、軽く犯罪だと思います。
ただ時と場合に寄るんですよね!細かいことは気にしない!

写真撮ったんですね。これは楽しみです♪
色々と悪戦苦闘だと思いますが、まだHP初め1ヶ月くらいですよ。
これからドンドン上手くなっていくはずです!
応援してます!!
要人(かなめびと) | 2009年03月07日(土) 00:08 | URL | コメント編集

もしかしてお父さんの元カノさんって…

写真貼り付けたんですけどイマイチ出す自信が無いんですよ…
街タウンには先ほど登録してみました。
仕事忙しそうで大変ですね。 体調には気を付けて下さいね。
夢 | 2009年03月07日(土) 11:07 | URL | コメント編集

おじさん二人がくんずほぐれつって、
さぞや異様な光景でしょうねw
必死なとこがさらに笑えますよ^^
支配人の方言もいい味出してますね♪
momokazura | 2009年03月07日(土) 23:50 | URL | コメント編集

>>夢さん
お気遣いありがとうございます。
体調を崩す心配はないので大丈夫でしょう。
HP段々進歩してますね。これは期待です♪

>>momokazuraさん
私、実際に某駅でオッサン二人のくんず解れずを見たことあります。
その時は酔っ払いの喧嘩だったんですけどね。
支配人の方言は私の実家のものです。
ちょうどケフィアの熊沢さんの方言と一緒です♪
要人(かなめびと) | 2009年03月08日(日) 00:06 | URL | コメント編集

私はてっきり綾さんの相手の方のお母さんが元カノさんだと思っていました(汗)
お父さん、結婚式に出て良かったです♪ 
それにしても、結婚式場で働いていると色んなドラマがあるのですね!驚きです。
夢 | 2009年03月09日(月) 16:10 | URL | コメント編集

多分大丈夫だろうなって思ってましたけど、
お父さんが出席してくれて良かったですw
お父さんの号泣も娘さんにしてみたら、
それだけ自分のことを思ってくれてたんだって
知ってジーンときますし良い結婚式だったんでしょうね。
momokazura | 2009年03月10日(火) 02:32 | URL | コメント編集

>>夢さん
なるほど!そういう展開もありでしたね!
ここに載せる話は全部フィクションですけど、実際はもっとすごいドラマがたくさんあります。

>>momokazuraさん
娘さんはやっぱりお父さんに見届けてもらうのが一番嬉しいんでしょうね。
今日からは新ストーリーのスタートです。
どうぞご期待下さい!
要人(かなめびと) | 2009年03月10日(火) 06:28 | URL | コメント編集

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