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2008'07.28 (Mon)

「ヨーグルト…ケフィア…。最早どうでもいいのです。」 第二章


【More・・・】

「あら♪このイエローの柄もよく似合ってますよ♪でもあまりカラーが明るすぎるから
 落ち着いた色のスカートでアクセントをつけましょうか♪」

「うん。さっき試着した薄緑のカーディガンも合わせてみたらどうでしょう?変ですかね?」

「そんなこと無いですよ♪
 薄緑は今年の流行色なのでどのインナーにも合うデザインになってますので♪」

「………。」

甲高い声を発する妙齢な女性店員と愉しげに私の衣服について議論する彼。
早速次に試着する服の選択をし始めたので私は無言で試着室に入り着替え始めた。
これで既に16回目の試着である。正直そろそろ辟易してきた。

ここは駅ビル構内にある衣服を取り扱う店の中。
初めは遠慮がちに店内を見回していた彼だったが女性店員に話し掛けられ
何度か言葉を交わし緊張がほぐれたのか、
今ではさほど大きくない店内に陳列された衣服を小脇に抱え縦横無尽に闊歩している。
私は裾に軽くフリルがあしらわれたパンツを彼に差し出されたスカートに履き替えながら
軽く吐息をついた。オシャレというのはこれほどに面倒なものなのか。
衣服など体温調整に支障をきたさないものを身につければ充分ではないか。
それに先ほどから形状は同じだが色違いの衣服を代わる代わる試着させられている。
色違いにどのような効果があるのかさっぱり合点が入かない。
色彩感覚など単に光の反射の観測ではないか。
お母様はこれも重要な事だとおっしゃられたが未だに理解出来ない。
こんな事にいちいち労力を費やさねばならないなんて億劫だ。

いや、それよりも彼は何者なのだ?
何故他人の外見にそこまで関心が持てるのだろうか?
それに女性店員との会話を伺っていたが衣服について妙に詳しい。
私が知らない単語が次から次へと口から飛び出す。
普段私と二人きりの時には無口なくせに。
こういった店をよく利用するのだろうか。
まぁ、それならそれで納得もいくが。
そもそも彼のお母様に謁見する事と着飾る事の関連性が掴めない。


先日、我が家の研究所で夕飯を食べている時に
彼から自分の母親に会ってくれないかと頼まれた。
特に断る理由もないので承諾したが、思い詰めた表情の彼を見て不思議に感じた。
彼の家庭事情は大まかに把握していて
(私が聞き出した訳ではない。彼が勝手に聞かせてくれた。)
母親と二人暮らしというのも知っていた。
いつも彼には研究面だけではなく食事の事でも多大な恩恵を受けている。
しかも毎日遅い時間の帰宅になるので彼の家庭にご迷惑を
かけている部分も少なくは無いはずだ。
一度くらいはお詫びを含めた感謝のご挨拶に伺って然るべきであろう。

まぁ、さほど面倒な要件ではなさそうだと安易な気持ちでいたが、見通しが甘かった。
自らの先見力の無さにつくづく呆れてしまう。
私は着替えを終え試着室のカーテンを開ける。
目の前の彼と女性店員は私の頭のてっぺんから爪先まで吟味するとしばらく考え込み、
同時に顔を見合わせ

「やっぱりスカートはそのままでカーディガンはこっちの柄の方が合いますね!」

「ですね!」

とお互いの意見を確認してから頷き合い、私に先ほど試着したばかりの
アクリル繊維素材で編み込まれたヒラヒラの羽織りを手渡した。
また着替えろということか。もういい加減うんざりだ。

私は試着室のカーテンを閉めようと手をかけた時、女性店員が私を呼び止めた。

「彼女さん、せっかくお洋服がお似合いなんですから、
 ヘアースタイルもきちんとされてはいかがでしょう?」

自分の頭を指差しながらそう提案する女性店員を見て私は思わず自分の髪を触った。
後ろ髪を左右に分けて束ねた髪型。
時々伸びてきたら自分で散髪しているが物心ついた頃からこの髪型で定着している。


「そういえばずっとツインテールにしているよね。ちょっと幼く見えるけど僕は好きだよ。」

そう言った後に彼は顔を赤面させ俯いてしまった。
そんな態度をしないで欲しい。恥ずかしいのはむしろ私だ。
そんな彼を好機の眼差しで眺めながら女性店員は言葉を続けた。

「ちょうど彼氏さんが素敵なお洋服をチョイスしてくれたんだから髪型も合わせないと♪
 せめてストレートに下ろすとか、緩くパーマを当てるとか。」

「もしも髪型にこだわりがあるなら無理強いはしないけど…。」

こだわりと言う程の理由はない。
ただお母様が幼い頃にこの髪型を褒めてくれただけの事。
それにお母様は生前「自分が気に入ったヘアースタイルがあれば変更すべき」と助言をしてくれた。
これまで別段気にかけずにいたが、これは良い機会かもしれない。
ここも一つ彼と女性店員の提案に従ってみるか。

「いえ。特には。」

そう答えると目の前の二人は顔色を輝かせ、また口早に意見交換を始めた。

「この近辺にいい美容院はありますか!?」

「ちょうど地下二階に私が贔屓にしている美容院さんがありますよ♪
 若い店長さんがやってますけど腕は確かですよ♪」

「じゃあそこにしようかな!?そうと決まればそろそろ洋服も決めなくっちゃ!」

「もしよければ予約入れときますか?今の時間からだとすぐ出来るかもしれませんよ♪」

「せっかくですのでお願いしちゃって良いですか!?
 じゃあその間に冬用のコートも選んでおきます!」

「かしこまりました♪少々お待ち下さいね♪」

更に調子が上がり続ける彼を見て私は眉間にシワを寄せ小さく吐息をついた。
果たして今日中に彼のお母様への謁見は叶うのだろうか?


時刻は既に午後二時を回っていた。
一度昼食を摂るため我々は駅から外に出た。
勿論駅ビル構内には飲食店が無いわけではないが、
なにやら彼が馴染みのパスタ屋さんに行きたいとの事。
私も何度か彼に連れられて訪れた事があるがなかなか美味である。
しかしまた美容室とやらに行くため構内に戻らなければならないならば
外へ出る必要があったのだろうか?
洋服といい食事といい彼のこだわりは度々私の予想範疇を容易に逸脱する。
いや、案外そのくらいが普通なのかもしれない。
自分の中にある「こだわり」というカテゴリを開いてみるが、
残念ながら該当する単語は一つも探せない。

研究はこだわりとはまた違う気がする。私にとって研究は生業だ。
そう考えると同時に、何やら愉しげに他人の衣服を選んだり料理を
吟味する彼を見ていると私は虚無感に苛まれる。
私は研究にしか興味がない、それにしか役立つ事がない、
自分も遠心分離器やフラスコのような実験道具の一つのように思えてきた。
いや、過去の失態を浚っていけば研究にとって私は何もプラスな要素を導き出してない気がする。
どちらかと言えば彼の方が研究に貢献してるのではないか?

『ケフィア』の実験結果をまとめたレポートは実に素晴らしい出来だった。
いち早く伯母様の罠に気付き見事に回避したのも彼。
それに学会で論文を発表したのだって…。
彼は自分以外の誰かが発表しても結果は同じと思っているようだが、それは違う。
本当に『ケフィア』に精通し十二分に理解をしていなければあの内容を
口頭で説明出来得ない事に気付いてない。
それほど『ケフィア』は単純で明解な理論ではない。

やはり私と違い研究以外の分野にも造詣の深さを持っている方が良いのだろう。
研究への取り組みや切り口に多様性が広がるだけではなく人格形成の豊さにも繋がりそうだ。
まったく彼からは見習う事が多すぎる。
私の人生は彼と出会う事により大きく飛躍したと言っても過言ではない。
私も彼のように何か一つでもこだわれるような事柄を造るべきかと思っていたが。

…今、目の前で繰り広げられている光景を傍観していて思ったが、考え直した方が良さそうだ。

「だからキュート感を前面に出したいんなら毛先に緩くパーマを掛けるだけで充分だと思うけど?」

「いや、そうするとですね、逆に地味過ぎないかなって。
 服装が服装なだけに田舎っぽくなりません?」

「だったらいっそのことショートボブにしちゃいなよ?
 幸いに彼女、小顔だからボリュームも気にならないし。それか少しカラーも入れる?」

「カラーを入れちゃったら軽すぎるイメージになっちゃいますよ!
 せっかくの清楚な彼女の印象が崩れちゃいます。
 それに染色は校則で禁止されてるから無理です!」

「今時そんな事気にする学生なんていないっての…。」

「何か言いました?」

「いえ別に。」

先程の洋服店の女性店員から紹介された美容室にて
軽く髪を洗い美容台に座らされて早10分。
彼は私の髪型について店長と名乗る30代前半の恰幅が良い男性美容師と
未だに口論を交わしている。

どうやら私のイメージに合う髪型がなかなか決まらないらしい。
私は手持ち無沙汰に椅子へ腰を掛けていたが
とても鞄から本を取って欲しいと言える雰囲気ではなさそうだ。
先程まで濡れていた髪はとっくに乾いてしまった。
こだわりも結構だがほどほどにして頂きたい。

誠実な男性だと思う。
しかし誠実も度が過ぎれば厄介なだけだ。
是非彼には「過ぎたるは及ばざるが如し」という言葉を贈呈したい。


漸くというか遂にというか、美容師が作業を開始したのはそれから10分後の事だった。
意見を衝突し合わせていた彼等だが美容師が
渋々彼の意見を承諾するという形で討論会は幕を閉じた。
満足げな表情を浮かべ彼は待合いスペースにあるソファーに腰を掛けると、
手持ちの鞄から参考書を取り出しせっせと勉強を始めた。
私は熱心なものだと感心したが
それ見た美容師は苦い顔を浮かべ「うわぁ」と呟いた。

それから私は美容師に髪を切ってもらっている最中に時間を持て余したので
彼から鞄に入っている本を取り出してもらい読んでいた。
しかし本を下向きにして読むと髪の毛が落ちてきて読み辛い。
それではと腕を伸ばし本を垂直に持っていたがすぐに上腕二頭筋が悲鳴を上げたので、
私は仕方無く読書を諦め、目の前にある鏡を見つめた。

鏡の中には無表情のまま固まったもう一人の私がいる。
お父様の遺伝子を色濃く受け継いだ証の大きな両目に白い肌。
一度だけだが彼がこの肌と瞳を褒めてくれた事がある。
確かちょうど1ヶ月ほど前の夕食時、
彼は顔を朱色に染めて目を逸らしながら、すごく綺麗だと言ってくれた。
あまりに唐突な事だったので私はどう対応して良いのかわからず沈黙してしまった。
しかし後々になって彼の言葉は風邪薬のように徐々に私の体内へと効果を発揮していった。
夜眠る時にベッドの中で彼の言葉が何度もリフレインし、
嬉しさのあまりその日はなかなか寝付けなかった事を覚えている。

しかし同時に私は悔しかった。
何故その場で彼に対し感謝の意を示すなりのリアクションがとれないのだろうか?
まだ生前、お母様はお父様と会話を交わすときにいつも愉快に微笑んでいた。
お父様もそんなお母様を見ていて実に嬉しそうだった。
私もお母様のように情緒豊かな女性になりたい。
そして彼にもお父様のようなささやかな幸福感を味わって欲しい。

時々不安に駆られる事がある。
いつか彼はこんなユーモアの欠片もない私に愛想を尽かしはしないだろうか?
面白みのない女だと飽きられはしないだろうか?
そして自問する。
彼はこんな私と一緒にいて何が楽しいのだろうか?何のメリットがあるのだろうか?

もしもこの先、彼のそばに表情豊かで可愛らしい女性が現れたら
彼は私よりそちらを選びそうな気がする。

更新日8月2日

そんな事を想像すると私の心は恐怖で萎縮してしまう。
不思議なものだ。
彼を愛しいと思えば思うほどそれに比例して私の中で醜い感情が肥大し蓄積していく。

人の想いというものは量子に酷似していると私は考える。
粒子であり波の性質も持つと言われる量子。
人の想いも同じで砂時計の粒のように時間をかけて積もっていくと思いきや
些細な波風ですぐに喜怒哀楽が変貌してしまう。
量子論が確立してから今日までゆうに数百年は経過しているというのに
未だ解明は成されていない。
それと同じく人間の心理状態のデバイス解明も数千年の時を経ているのに遅々として進まず。
もしかすると量子論が解明される時は同時に人間心理学の夜明けを意味するのかも知れない。

…いくら眺めていようとも微動だにせず能面のような
可愛げのない鏡に映る自分の顔は、いい加減に見飽きた。
私は自重気味に溜め息をつくと静かに瞼を閉じた。
あまり長いこと彼のそばに居たため癖が伝染したのかもしれない。
以前までの私ならこのような事に思考を及ばすなどまずなかった。
それがいつの頃からか彼の事を思うようになり、
つまらない妄想まで思い描くようになってしまった。
不思議なものだ。
ほんの前は頭の中は四六時中研究や実験の事だけで支配されていたはずなのに
今では研究の事などに頭を回すことが少なくなった。
自我に反して急速に変化し続ける私の心と体に怯えつつ、
いつの間に現れた睡魔によって私の意識は深い眠りの世界へ誘われていた。
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06:04  |  「ヨーグルト…。…いいえ、ケフィアです!」  |  CM(14)  |  EDIT   このページの上へ

Comment

素子ちゃんの衣装選び、彼は何気に楽しそうですね。
彼のお母さんが戦意喪失するような
可愛らしい洋服を着せてあげてくださいw応援ポチ♪
いいえ、名無しです | 2008年07月29日(火) 00:41 | URL | コメント編集

スミマセン、名前入れ忘れちゃった~^^;
momokazura | 2008年07月29日(火) 00:44 | URL | コメント編集

>>momokazuraさん
きっと彼が一番楽しそうだと思います。
応援いつもありがとうございます♪
要人(かなめびと) | 2008年07月29日(火) 06:08 | URL | コメント編集

「ですね!」で彼の楽しさがひしひしと伝わってきました。
前作を読んでる分、素子の考え方が意外(失礼)と人間味があってなんか嬉しいですww

彼に嫉妬w
キイト | 2008年07月29日(火) 07:58 | URL | コメント編集

お洒落には興味ないけど、彼に対する思いや困ったときの反応なんかを見てると、素子ちゃんも普通の女の子なんだなぁと感じました。
とびきり可愛い素子ちゃんを期待してます♪
四葉dort | 2008年07月29日(火) 14:23 | URL | コメント編集

髪型は変えるんでしょうか。
変えちゃあもったいない。
ツインテは武器でしょうにw

それが分かるお母様だったらちょっとイヤですがw
雲男 | 2008年07月30日(水) 02:12 | URL | コメント編集

>>キイトさん 四葉dortさん
素子は無口なだけで中身は意外と普通の女子高生だったりします。
嫉妬すんなwwwwwwwww

>>雲男さん
すいません。髪型変更です。
ツインテールは私の中で最強の萌え要素ですけど
ストーリーの進行上仕方なく、です。
要人(かなめびと) | 2008年07月30日(水) 08:24 | URL | コメント編集

要人さん。残念ながら俺の脳内では既に素子は俺のy(ry
おっとこれ以上書くと彼にペンで刺されてしまいますねww
こんな俺にしたのは要人さんのせいですからねっ!


冗談抜きで気持ち悪いので、止めます。スイマセン。
兎に角、これ位いつもwktkです!(どれくらいだwww)
キイト | 2008年07月31日(木) 07:50 | URL | コメント編集

はじめまして
このブログ見つけてから一気に読みました。
続きが楽しみです。


個人的なイメージで素子は
髪型を黒髪ボブに脳内変換して読んでました。
司 | 2008年08月01日(金) 01:06 | URL | コメント編集

素子ちゃんと言えばツインテールという
イメージが出来上がってたものですから、
正直ちょっとさみしいですが、
新しいヘアスタイルも楽しみです^^応援ポチ♪
momokazura | 2008年08月01日(金) 02:51 | URL | コメント編集

>>キイトさん
右の太腿にご注意を!
いつもwktkしてくれて本当にありがとうございます♪
これからもがんばりますね!

>>司さん
どうもはじめまして♪
一気に読んじゃうなんてスゴイですね!!
貴重な時間を割いて頂いてありがとうございます♪

>>momokazuraさん
私もツインテールが好きなんですけど
高校二年生にもなってツインテールかよ?って思いまして。
しかもこれから大学まで話が飛ぶ予定なので
大学生にもなってツインテールかよ?って思いまして。

いつも応援ありがとうございます♪
要人(かなめびと) | 2008年08月01日(金) 08:32 | URL | コメント編集

素子ちゃん、可愛い!
彼も可愛いです!!
この先も楽しみです。
夢 | 2008年08月17日(日) 17:51 | URL | コメント編集

>>夢さん
彼が何故ここまで女性のファッションに詳しいか、
私もよく分からないのですが書いてて楽しかったです♪
要人(かなめびと) | 2008年08月18日(月) 06:16 | URL | コメント編集

>彼が無口
ちょwwwおまいが言うなww
話かけない二人想像して吹いたww
八頭身派 | 2008年10月21日(火) 18:08 | URL | コメント編集

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