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2008'06.19 (Thu)

「ヨーグルトではなく…そう、ケフィアと呼ぶべきか。」 第五章


【More・・・】

「お母様。お話があります。」

「あ、お帰りなさい。どうしたの、素子?」

「何故学校に通わなくてはならないのですか?」

「え?…いや、言っている意味がよく分からないんだけど。」

「私はもう学校には行きたくありません。」

「ちょ!えぇっ!!なんでそんな事言うの!?本当にどうしたって言うのよ!?」



☆のんびり主婦のゆったりブログ日記☆

題名:素子、登校拒否宣言…。                  2037年5月27日


今日、言われちゃいましたよ。
娘に。
学校行きたくないって…。

もうね、言われた瞬間頭の中が真っ白でしたよ。
だってまだ入学して1ヶ月しか経ってないっていうのに。
もう本当に、親としては凹みますよ。
あぁ、私まで何もかも嫌になってきた~。

↓でも取りあえずコメント返しはしていきます☆


続きを読む



常日頃から旦那同様に、いやそれ以上に
表情に乏しく何を考えているのかさっぱり分からない我が娘。
それでも13年間天塩にかけて育てた我が子なので、
微かにだが感情の揺れを見つけられる時がある。
今がまさにそんな時だった。
しかし、こんな顔をする娘を見るのは初めてである。
彼女が発している感情は、紛れもなく憤りだった。

「でもどうしたのよ。急に学校行きたくない、なんて。理由があったら話してみなさい。」

私は夕飯用に皮を剥いていた空豆をテーブルの端に寄せ、エプロンを外した。
娘は手に持った通学鞄を隣の椅子に置き、姿勢良く自分専用の椅子に腰掛ける。
開け放した窓からは初春の陽気にさらされた暖かい風が優しく入り込んできた。
そんな5月の風に前髪を小さく揺らされ、娘はゆっくりと口を開く。

「そもそも学校という施設は学業訓練を本来の目的とする場所です。
 私も少しは己の精進にと思い慇懃に授業に参加をしておりました。
 しかし教師達は教科書やテキストの朗読を繰り返すのみ。
 正直なところ丸一日学校にいて得るものは何一つありません。」

娘がさっきまで手に持っていた通学鞄はまだ使って1ヶ月あまりだが、
他の生徒のものに比べ真新し過ぎる。
実はその鞄の中に教科書やノートといった類は一度も入った事がない
。鞄に入っているのは、旦那の書斎から持ち出した分厚い本が数冊だけだ。
何故なら娘は、入学前にさっと目を通しただけで、教科書の内容を全て把握したというのである。
にわかに信じがたく、旦那にその話をしたところ「普通だ。」と、
さも当然そうに言い捨てただけだった。
どうやらこの一族の脳みそには、一度読んだだけで書物を
全て暗記、理解してしまうスーパーコンピュータが搭載されているようだ。
確かにそんな娘にしてみたら、学校の授業なんてよっぽど退屈なものだろう。

「でもね、素子。学校っていうのは知識を詰め込んだり脳みそを鍛えるだけの場所じゃないのよ。」

成績がそんなに優秀ではなかった私にとって、
学校は勉強を頑張る場所というよりは、
友人と触れ合ったり人間関係を学ぶ場所という印象が強い。

「授業は詰まんないとは思うけど、友達と遊んだりお話したり色々楽しい事があるでしょ?」

私は自分の学生時代を今の娘に重ね合わせて話したつもりだが、
言った直後に「しまった」と思った。案の定、娘は「友人はいません」と即答する。
無口で無愛想でいつも本ばかり読んでいる娘がクラスでどういう存在か、
容易に想像出来る。
親として大変申し訳無い事を言うが、残念ながら私も娘がクラスメートだったら、
まずこの子と友達になりたいとは思わない。
しかし私はその時に「あれっ?」と首を捻った。

「そういえば、素子。前に一度だけ友達を連れて来なかったっけ?
 名前が、えぇと…野、中?野山?」

「野原苺氏の事ですか?」

「そう!苺ちゃん!あの少しポ~っとしてるけどフワフワしてて可愛い子!」

小学五年生の時にたった一度だけ娘が連れてきたクラスメートがいた。
野原苺ちゃんというくりっとした瞳に見る人の心を和ませる
可愛らしい笑顔が特徴的な女の子だった
の色が娘よりやや薄い栗色に緩いカールが掛かっているので、
まるでフランス人形のような苺ちゃんを見て、
一度でいいからこんな子の親をしてみたいな、とつい本気で思ってしまったのを覚えている。
素子だって瞳が大きく顔も整っているし、色白で美人の要素は揃っているなのに、
どうしてか良いイメージが無い。やっぱり女は愛嬌なのかしら?
そんな彼女と娘がどういう会話をするのだろうかと興味津々で、
お菓子を手に娘の部屋にお邪魔したが、
客人がいるにも関わらず、娘はいつもの調子で分厚い本に視線を落としていた。
その隣では苺ちゃんが間延びした舌足らずな喋り方で、
お母さんに手作りしてもらったぬいぐるみの話を笑顔を浮かべ喋っていた。
同じ空間にいるのに話題を共有しようとしない娘に、
天然なのか気にせず嬉しそうに話し続ける苺ちゃん。
何とも言えないシュールな光景だった。
そんな彼女が不憫に思い、お菓子を手元に置くとしばらくは苺ちゃんの話に耳を傾けた。
するとさらに満面の笑みを浮かべ「あのね、あのね」と、嬉しそうに身振り手振りを加え、
大好きな犬のぬいぐるみの話を延々二時間してくれた。
ちょっと疲れたけど、あの時の苺ちゃん可愛かったなぁ。


「彼女ならば学区外のため隣町の中学校に進学しました。」

それがどうしたと言わんばかりの顔で答える素子。
たぶん彼女にとっては友達としての概念がないのだろう。
あの時だってきっと苺ちゃんが勝手に付いて来ただけ、程度の認識しかないはずだ。
実際に苺ちゃんがうちに来たのは、あの一度だけだった。

ここまでくるとクールを通り越してコールドだな、こりゃ。


「そういえばあなた、科学部に入部したんじゃなかったっけ?」

確か、入学当初に娘からそう聞いたはずだ。
中学校は必ず何かしらの部活動に所属しなければならない。
運動部は論外として、美術部やボランティア部ではなく科学部を選んだあたり、旦那の子供らしい。
ちなみにあの人は勝手に図書部なるものを創立していたが…。
通学中に本を読むだけの部活動。簡単に言えば帰宅部である。
しかし、入学して一週間くらいは遅く帰ってきていた娘は、
いつの頃からか4時前には帰宅していた。

「よう素液の作成や微生物の観察をしているくらいなら早々に帰宅し
 お父様の研究を手伝っている方が余程有意義です。」

あぁ、それはつまらなそうだ。でも中学校の科学部なんてそんなものだろう。
実験といっても理科の授業の延長みたいな事をする程度だと、容易に想像がつく。

「実りのない時間を浪費するだけの授業や稚拙な実験を強いる部活動。
 私にとって学校という施設は苦痛でしかありません!」

よっぽど腹に据えかねていたのだろう。
一息でそう言い切る娘はもはや憤りを通り越して怒りを露わにしている。
そんな娘の様子に戸惑いながらも、私は何となく彼女の気持ちが理解出来る。
私が中学時代に、遠巻きに眺めていた旦那も同じような表情をしていたからだ。
たぶん旦那も娘と同じ気持ちを味わっていたに違いない。
もっと自分に見当たった学力の勉強をしたいのに、
義務教育という鎖に縛られレベルが低い授業に出席する事を強いられる。
彼が卒業後、外国の高校な留学したのはごく当たり前の事だった。

「とにかく…お父さんと話し合ってみましょ。私やあなただけじゃ決められない問題だもの。」

幼い頃に知能指数を測定した事がある。
三歳で掛け算を覚え、四歳で漢字の読み書きをし、五歳の頃には因数分解は簡単に解いていた。
昔から頭は良かったので試すつもりで受けてみたのだが、機械は驚愕の数値をはじき出した。
それからは私立や大学附属の小学校から毎日のように入学の誘いがきた。
中には授業料が全額免除のところもあり、
私としては家計も助かるし娘の学力に見当たった学校に行けるのならばそれが良いと思った。
しかし、それら全てを断ったのは他でもない、旦那だった。
理由は、実は私も知らない。


「何故駄目だと仰るのですか。理由を説明して下さい。」

大人しい口調ながらもいつものこの子にしては語気が荒い。
無意識だが旦那に反発心を抱いているのが分かる。
年頃ではもう反抗期なんだよな、と自分の若かりし頃を思い出しながら
私は目の前で煮えている鍋を手持ち無沙汰につついた。
食卓を挟んで睨み合う旦那と娘の間には、
電気式卓上コンロにかけられた鍋がグツグツ音を立てている。
少々時期外れだとは自分でも思ってたが、僅かでも穏やかに話し合いが出来れば、
と私なりに気を回したつもりなのだが、どうやら裏目に出てしまったらしい。
感情を表に出さない娘のかわりに、鍋が怒ったように湯気をもうもうと上げている。
私は自分の失敗を悔やみながら、卓上コンロの電源を切った。

「中学生での途中退学は認められていない。これは国民として教育の義務である。
 教科書にそう記されているはずだが。」

鍋には手を伸ばさず、手前のサラダをサクサク食べる旦那。
随分と常識的な解答だが、娘が欲しいのはそんな言葉ではない。

「ではお父様はこのまま私に怠惰を貪れと。
 常に効率性を重視するお父様らしからぬ発言ではないでしょうか。
 それに義務と仰いましたが何も公立だけが中学校ではないはずです。」

本当の話、素子が小学校を卒業するときに、
たくさんの私立中学から入学の誘いがあったのは事実である。
私立の中学校の方が公立と比べカリキュラムもしっかりとしているし、
娘の言う「脳みそを鍛える鍛錬」とやらも充実して出来るはずだ。
しかし旦那は「公立で良い」と、どうでもよさそうに呟くだけだった。

「では素子に問う。現在通う学校を辞め私立にでも通いもしくは自力で勉学に励むとする。
 それで将来お前はどのような道に進むつもりだ。」

普段は本当に研究や科学チックな話しかしない旦那だが、
今日はどうしたことか、娘の進路について議論を交わしている。
こういった姿を見ると、やっぱり旦那も父親なんだなぁ、としみじみ感じてしまう。
しかしもう一人の家族、進路相談受講者である娘は、
そんな旦那を一度も目を逸らさずに睨みつけている。

「愚問です。お父様がそうしたように私もこの研究、『ヨーグルト』を引き継ぐつもりです。」

何となくだが、そうなんだろうとは思っていたけど、あぁ、やっぱりそうなのか。
旦那が研究所にいるときに、私はただ単に手伝いをしているだけなのだが、娘の場合は違った。
今取り掛かっている実験や研究がどんな意味を持ち、
どんな作用をもたらし、どんな結果が予測されるか。
一つ一つを細かく分析し、分からない事は旦那に聞くわけでもなく独自に調べ上げていた。
手伝いの範囲を超えて、まるで自分も『ヨーグルト』の研究員のような振る舞いだ。
それも研究を引き継ぐには申し分ない程に熱心な。
旦那だってそんな姿をただ眺めているだけではないはずだ。
あの射抜くような力強い瞳は伊達に二つ付いている訳ではないはずだ。
しかし、

「ならば尚更の事。お前は現在の公立中学校で学ぶべきである。」

「ねぇ。なんでそんなに普通の中学校に通わせたがるの?
 別に素子が行きたい学校な通わせてもいいじゃない。」

この答えには娘ではなく、つい私が反論してしまった。
ここまで説明も無しに一方的な旦那の態度は珍しい。
ここは何としてでも理由を質さなければならなそうだ。娘も同じ気持ちなのだろう。
旦那の微かな仕草も見逃さないくらいに強烈な視線で縛り付け、沈黙を保っている。
しかし、当の旦那は気にする素振りもなく、
まだ手元のサラダを草食動物よろしく、サクサク食べていた。
ウサギか、お前は。

「素子。科学者にとって最も大切な事は何だと思う。答えよ。」


娘は少し考えた後にすっぱりと言い切った。

「飽くなき真理への探究心です。」

実にこの子らしい模範的な科学者の解答に、思わずため息が出る。
しかし、旦那は娘の答えに大して軽く鼻を鳴らしたくらいだった。
その態度が癪に触ったのか、娘はますます眉毛をつり上げた。

「それも恐らく正しいだろう。
 だが私が思う科学者にとって最も大切な事とは『当たり前』を知ることだ。」

この解答には私だけではなく、娘にしても理解がいかないのか、小首を傾げている。
その仕草が話が上手く通らない時にする旦那の癖にそっくりだ。
旦那の事だからとてつもなく理解に窮するような言葉でも飛び出してくるのかと思いきや、
随分と普通の単語が出てきたもんだ。
当たり前を知る?いくら考えて深い真意を探ろうとしても、当たり前は当たり前だ。
そんなことは誰でも知っている。不可解過ぎて頭が混乱しそうだ。
取り敢えず、私達は旦那に無言で続きを促した。

「当たり前と言ってもこの世を司る物理法則を理解するというわけではない。
 当たり前というのは人間としての日常生活や
 人付き合い更に細かく分類すれば感情の起伏による喜怒哀楽。
 当たり前を知るとはそういう単純と複雑を表裏一体とした
 揺るぎない物事を体感し常に肌で感じる事にある。」

娘はいまいちピンと来ないのか、小首の角度を更に傾げる。
しかし、私には旦那の言いたい事が痛いほどに合点入った。

「アインシュタインもボーアもホーキングも多大な功績を残した科学者達は
 一様に真理の探求と同時に自然や人間生活といった
 当たり前という人が成り立つ基盤を疎かにはしなかった。
 しかしお前はどうだ。研究や学習以外の事に目を向けようとした時が何度ある?」

普段は舌が石化しているんじゃないかと本気で思ってしまうほど
無口な旦那が、今日はいつになく能弁だ。
しかも難しい化学方程式や長ったらしい有機化合物の名前について
話しているのではなく、娘に人生を語っているときたもんだ。
素子に対して語りかけているはずなのだが、
旦那はまるで自分自身に言い聞かせているようにも見えなくない。
そんな錯覚すら覚える。

「別にお前の人格形成を否定しているわけではない。
 だがお前は今まで見向きもしなかった事、当たり前の事を知る必要がある。
 それが今後の研究や物事を論理的に考えるために大いに役立つはずだ。」

そう言いながら旦那はおもむろに箸を持ち直すと、話の途中にも関わらず鍋をつつき始めた。
すっかり煮えすぎた白菜を頬張る旦那。
せっかく今は良い流れなのに…。あなたはちょっと空気を読む訓練をしなさい。

「もぐ。当たり前を学ぶにはそういった環境に身を置いておくのが最も効率的であろう。
 勉強は独学でいくらでもいつでも体得出来る。
 しかし今という時期は今しか体感出来ない。それは実に何よりも代え難いものである。」

そこで一旦言葉を区切り、向かい合わせの私に視線を移す。

「学生の頃は俺もお前と同じ研究の事しか頭にない人間だった。
 しかしそんな俺に当たり前の大切さと人の情が与えてくれる喜びを
 気付かせてくれたのがお前の母だ。」

私は自分の目が点になり、顔は朱色に染まっていくのを感じた。
旦那が私の事をそんなふうに思っていたとは…。
恥ずかしながら年甲斐もなく、いやこんな歳だからか、涙が出そうになる。

普段は本当に無口過ぎて何を考えているのかさっぱり掴めず、
実は研究の事すら考えていないんじゃないかとついつい心配をしてしまいがちな旦那だったが、
どうやらそんな考えは杞憂だったらしい。
旦那は旦那なりの哲学を持っていて、素子の事もきちんと考えていてくれていたようだ。
私はすっかり感心してしまっていたが、旦那は気にせず鍋を自分のお椀によそって食べ始めていた。
どうやらお腹が空いていたらしい。
私も鍋の中から自分の大好きな魚介類を取り分けようと箸を伸ばしたが、
隣に座る娘は依然と小首を傾げたままで固まっていた
。どうやら彼女なりに考えが纏まらず、納得いかないらしい。
確かに旦那の話は理屈で理解する事ではなく、感情で理解するような事だ。
どんなに頭が良い娘でも、こればかりは波動方程式もブランク定数も応用出来ない。
これも当たり前な事を知るための一歩なのかとほくそ笑みながら、
彼女の為にならずと助言は控えようと思ったが、
今日の旦那はとことん娘を持つ父親らしく口が軽いようだった。
少し冷めてきた鍋の具を咀嚼しながら、娘にある提案を持ち掛けた。

「もぐ。只今述べたのはあくまで単なる俺個人の意見ではあるが
 やはり親としてはお前の人格や思想を尊重すべきかと思う。
 そこで一つ提案がある。俺と賭事をしてみないか。」

斜めにした頭を今度は逆に傾け、「賭事ですか?」と娘は呟いた。

「たまには法則通りの秩序に逆らい命運とやらに全てを委ねてみるのも一興であろう。方法は…」

旦那の続く言葉に私は苦笑気味に娘を見る。
彼女もどう反応すべきか悩んでいるようで、眉間に皺を浮かべている。
今日の旦那はつくづくらしくない事を言うものだ。
だけど、そういう一面を見るのも悪くはない。
いつも無口で無愛想なのは流石に飽きる時もある。

NEW!更新日6月22日

深夜も一時を周り草木も寝静まり微かな風の音色だけが暗闇を支配する時刻ではあるが、
我が家の研究所には年がら年中、止む事のない幾多の機械音やモーター音が響き渡っていた。
私は欠伸をかみ殺しながら、お湯を入れたカップラーメンを
時々食卓として使う大きめな実験台に置く。
旦那はありがとうとも言うことなく実験器具と睨めっこをしているが、
いつもの事なので別段気にしない。
今夜は徹夜で実験を行うらしい。普通の時間に行う実験ならば私も娘も手伝うんだけど、
深夜となると流石に付き合いきれない。
家事全般を預かる主婦としてはライフサイクルを崩すのは死活問題になるし
、娘だってまだまだ育ち盛り。頭脳は一級品でも体は貧相でちんちくりんだ。
それに女性にとって夜更かしは美容の天敵でもある。

「じゃあ、私寝るね。あまり遅くまでならないようにね。」

うんともすんとも言わないところを見ると、どうやら本気で徹夜らしい。
別に徹夜をしようが責めるわけでもないんだし、せめて返事くらいはしたらどうだ、
と文句の一つでも言いたいところだが、きっとその言葉すら無視されるんだろうなと思い、
言わない事にした。
それでもシカトを決め込まれたまま眠りにつくのは目覚めが悪そうだ。
なので、私はさっきの夕飯時に気にかかった事を尋ねてみた。

「素子にあんな風に言ってたけど…本当はもう一つ理由があるんじゃないかって私は思ったんだ。」

私の話に相槌を打つわけでもなく実験器具に向き合う旦那。
今日はとことん無視を決め込むつもりかと歯痒くなりそうだが、
この場合の無言は旦那なりの続きを促す合図だ。

「…研究ばっかりに没頭して、素子がお義姉さんみたいにならないか、心配なんじゃないの?」

旦那は手に持ったバインダーに何やら書き込む作業を止め、真っ直ぐ私を見つめた。
私も腕を組んだまま、無言で旦那を見つめ返す。
しばらく二人の間に支配する沈黙。
私も旦那を真似てみる。無言は会話を促進させる合図。
今度はそっちが話す番よ。

「俺はただ同じ過ちを繰り返すのを座視する愚かさに抗いたいだけだ。
 あくまで俺個人の主観である。素子がしたいことをすればいい。」

それだけを言うと、旦那は再び実験器具に向き直った。
私は思わず小さく吹き出してしまった。

以前、私が幼い頃に実家の庭で犬を飼っていた時期がある。
少し小柄な雑種犬だったが、私は毎日散歩に連れて行き、ご飯を与えていた。
そんな犬と遊んでいるときに、嬉しさのあまりか私の手に噛みついたり服を汚したりする事があった。
その時に私はカッときて叱りつけるのだが、
当の犬はバツが悪いのか顔を背け素知らぬ素振りをするのである。
今の旦那の仕草が、当時に飼っていた犬とソックリだった。
旦那もバツが悪かったのだろう。どうやらあんなに人間らしい物の言い方をしたのが、
彼自身も恥ずかしかったようだ。
その証拠に、手に持ったバインダーに何やらペンを走らせているが、ペン先が紙についていない。
少し不機嫌そうな顔をしているが、背中でこっちを探っているのが手に取るように分かる。
可愛い奴め。

目元の涙を拭い、私はわざと大きな欠伸をして「じゃあ私、本当に寝るね」と声を掛けた。
旦那は早く出て行って欲しいのか、軽く体をずらし、完全にこっちへ背中を向けた。
その華奢だが厚みのある背中に、私は置き土産を残す。

「素子だったら大丈夫よ。世界で一番可愛い科学者になれるわ。だってあなたと私の娘だもん。」

旦那の手元が一瞬止まり、また忙しなくバインダーの上を往き来する。
何となくだが、こっちから見えない旦那の顔が赤くなっているような気がした。

…あなたも世界で一番可愛い科学者よ。
今のところは、ね。

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06:32  |  「ヨーグルト…。…いいえ、ケフィアです!」  |  CM(16)  |  EDIT   このページの上へ

Comment

ひえ~!?ほ、ほんとに苺ちゃんだよ~www
うれしいwうれしすぎますww本当に、本当に
どうもありがとうございますっ//
ワタクシ柄にもなく、ニタニタがとまりません~
苺ちゃんの天然っぷりサイコーですねっ!!
いかにも彼女らしいっていうか笑
素子ちゃんとの絡みが、これほど笑えるとは
思いませんでしたよ(爆)すごいウケる~ww
でも、ほんのちょっとの登場だと思ってたんで、
こんなに幅取っちゃって許されるんでしょうか^^;
他の読者様ごめんなさい、でもわたしはとっても
幸せですww要人さんありがとうございましたww
とっても堪能いたしました~^^応援ポチ♪
momokazura | 2008年06月19日(木) 20:45 | URL | コメント編集

あ、それと私も記事中に今回のことを
ちょっとだけ宣伝させて頂いてもいいですか?
お名前と貴ブログ名を載せさせて頂きたいのですが、
不可の場合はお手数ですが、ご連絡お願いします^^
今回は本当にどうもありがとうございましたww

コメント分割してしまって、申し訳ありません><
momokazura | 2008年06月19日(木) 21:28 | URL | コメント編集

>>momokazuraさん
もちろんおkですよ!
こんな感じでいいんですかね?
出来ればもっと登場願いたいところではありますが、
機会があれば、是非!
要人(かなめびと) | 2008年06月19日(木) 22:42 | URL | コメント編集

許可を頂きありがとうございましたっww
何分、文章に不自由な人間でありまして^^;
お気を悪くされたら、申し訳ありませんっ><

も、もちろん大満足ですっ!!
要人さんの書かれた苺ちゃんを読んで、
あらためて愛しさが湧いてきましたww

物語の流れ上、十分すぎるエピソードでありますv
これ以上の我儘は申しません^^;
ありがとうございましたw応援ポチ♪

コメント欄、占領してしまい、申し訳ありません…
momokazura | 2008年06月20日(金) 01:14 | URL | コメント編集

>>momokazuraさん
なんぼでも占領してもらっても構いませんよ♪
私も苺ちゃん大好きなんで是非、もう一度登場願いたいくらいです。
要人(かなめびと) | 2008年06月20日(金) 06:15 | URL | コメント編集

実は携帯からなのでゆっくり読めてないです
リンク貼りたいのですが、携帯からだとできないのでしばらくお待ちください
天壌の蒼響 | 2008年06月20日(金) 22:29 | URL | コメント編集

また、読み返しちゃいましたww

パパも人の親だったんだなと、
ちょっとうれしくなりました^^
いいところで終ってたので^^;
想像するしかありませんが…

また機会があったらとのことで、
もしそんな素敵なことがありましたら、
ぜひとも、よろしくお願いします!!
応援ポチ♪

本当に何度もスミマセン…^^;
このコメ、放置でかまいませんからっ
momokazura | 2008年06月21日(土) 02:09 | URL | コメント編集

>>天壌の蒼響さん
携帯からだったんですね。これは失礼しました。
了解です♪じっくりと待たせて頂きますわ☆

>>momokazuraさん
やっぱり自分も人の親なので、いくら理屈重視の
パパと言えども娘の前では父親なのかな、と
思って書いてます。
コメント、何度ももらえて嬉しいですよ♪
もちろんその都度レスさせて頂きますわ☆
要人(かなめびと) | 2008年06月21日(土) 06:42 | URL | コメント編集

はじめまして!
いつも楽しく拝見させて頂いています。このブログに触発されて物理の勉強を始めました。高校、大学と文系で全くの独学で、参考書の1ページ目から苦戦しています。でも、未知の世界に触れるというのはとても楽しいです。
長くなりましたが、これからも素晴らしい作品を慇懃と読ませていただきます。
四葉 | 2008年06月22日(日) 06:12 | URL | コメント編集

>>四葉さん
この小説を読んで物理に興味を持って頂けたなんて大変光栄です!
私の場合は図書館にある本を読み漁って勉強している
ような感じですけど、最初はやっぱりアインシュタインの
「特殊相対性理論」から入るとわかりやすいですよ♪
また遊びに来て下さいね♪
要人(かなめびと) | 2008年06月23日(月) 05:47 | URL | コメント編集

流れ流れてたどり着き仕事中に第一話から読んでますw
…が!
「ヨーグルトではなく…そう、ケフィアと呼ぶべきか。」 第四章 のリンク先が死んでませんか?

き、気になる…読みたい…
朝から仕事ほっぽらかして読んでる俺に免じて
なにとぞ復旧をぉぉぉぉぉを!!!!!!!11

正直WEBでこんな面白いの初めてです。
毒 | 2008年08月26日(火) 13:54 | URL | コメント編集

>>毒さん
どうもはじめまして♪
最初から一気に読んでくれたなんて本当に嬉しいです!
第四章のリンク、私のPCからは正常にジャンプするんですけど・・おかしいですね。
もしアレでしたらこちら↓から飛んでみて下さい♪

旦那の手元が一瞬止まり、また忙しなくバインダーの上を往き来する。
何となくだが、こっちから見えない旦那の顔が赤くなっているような気がした。

…あなたも世界で一番可愛い科学者よ。
今のところは、ね。

「ヨーグルト…。…いいえ、ケフィアです!」 | コメント:11 |
<<「ヨーグルトではなく…そう、ケフィアと呼ぶべきか。」 第四章 | HOME | 「ヨーグルトではなく…そう、ケフィアと呼ぶべきか。」 第六章>>
要人(かなめびと) | 2008年08月26日(火) 20:12 | URL | コメント編集

お返事ありがとうございます。
なんか意味不明な数字が1~31までタテに並んでいて、
数字のいくつかはリンクが張られているけど
何もないページに飛ぶというわけわからん状態でしてw
↓こんな感じ
http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_042856.png
当方mac環境なのでそのせいもあるのかもしれません。

でも、携帯で読めることがわかったので
そっちで読ませていただきます!
今日も仕事そっちのけでwwwww
うっひょひょーいヽ(・∀・)ノ
なんにせよありがとー超ありがとー!!!!!!
毒 | 2008年08月27日(水) 10:36 | URL | コメント編集

>>毒さん
macでしたか。
私は主にwindowsのfirefoxを使っているもので。
でも携帯でも読んで頂けるんだったら嬉しいです♪
てか仕事してwwwwwwww
要人(かなめびと) | 2008年08月27日(水) 11:46 | URL | コメント編集

最新のものまで読ませていただきました!
いやホントにキャラがすごくいい!!
登場人物全部好きです。完っ璧ハマリました!

今日も仕事ほったらかして最初から全部読み直すつもりですwwwwwwww

あとPCでは読めなかったページ、直ってました。
毒 | 2008年08月28日(木) 12:30 | URL | コメント編集

>>毒さん
一気に読んじゃうなんてスゴイです!
一応、休まずに毎日更新しているので日課にしてもらえれば幸いです。
大体毎朝7時頃にうpしてます。
要人(かなめびと) | 2008年08月28日(木) 17:23 | URL | コメント編集

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