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2008'06.10 (Tue)

「ヨーグルトではなく…そう、ケフィアと呼ぶべきか。」 第三章


【More・・・】

またこのまま、無駄に時間を費やされるのを待つしかないのか、とうんざり仕掛けたその時、
ママが「あの…」と遠慮がちに口を開いた。
この話し合いで、初めてママが発言をする。全員の視線がママに集中した。
ママは気恥ずかしそうに肩をすくめながら小さく、
でもその場のみんなには聞こえる程度の声で話し始めた。

「あなたはずっと昔からご近所さんだったし、
 小さい頃から娘とはずっと仲良しだったのは知っているわ。
 でもね、あなたについてそれ以外の事って結構曖昧なのよ。
 だから教えて欲しい事がたくさんあるわ。失礼なこと言っちゃったらごめんなさい。
 …今はどういうお仕事で生計を立てていらっしゃるの?」

控え目ながらもきちんと現実的な話題から相手の素性を探ろうとするママ。
感情論でまくし立てようとするパパよりちょっとはマシな話し合いが出来そうだ。
流石は家計をやりくりする母親は現実味がある。

「俺の仕事は醗酵作用を活かした新エネルギー源開発の研究だ。」

「?…そうなの。その研究はお給料が貰えるの?ちゃんと安定した収入なのかしら。
 もしも経済的に覚束無いんだったら、この子と産まれてくる赤ちゃんをきちんと養えるのかしら?」

やんわりとした口調だが、意外と厳しいところをついてくる。
正直な話、私自身も彼の収入源を把握しているわけではなかった。
結婚するとなれば家計を握るのは必然的に私という事になるだろう。
何となく聞き辛くて先延ばしにしていた問題だったが、これは渡りに船だ。ママ、グッジョブ!

「スポンサー契約をしてる企業が定期的に研究費を融資してくれる。
 三人で生活をするには充分な額だとは思うが。」

抑揚のない声で淡々と語る彼に、ママは「ちなみにおいくらくらい?」と、すかさず言葉を被せる。
すると彼は少し考えた後に、呟くように答えた。
その額を聞いたパパの左眉がピクリと上がった。
そして直ぐ面白くなさげに荒々しい鼻息を吐き出した様子を窺うと、
どうやら自分より収入が上だったらしい。
男としてプライドを傷付けられた、そんな顔をしたパパは、ますます黙り込んでしまった。
経済的には全く問題ない事が明るみになったからか、
形勢は幾分だけど私達が有利になってきた。
さっきまで真っ青になり苦い顔をしていたママの表情もだいぶ穏やかになってきている。
やっぱりいくら好き合って結婚すると言ってもお金の事って無視できないんみたいだ。
銭勘定があまり得意じゃない私は、そんな事をしみじみと実感していると、
ママが再びおもむろに口を開いた。

「今の話を聞いてあなた達が家計や子供を養っていくのに不自由はないって、よくわかったわ。
 でもね、家族っていうのはお金さえあれば良いってものじゃないのよ。
 私が一番大切だと思うのは…そう、心の繋がりとか絆とかだと思うのよ。」

彼だけではなく、私やパパも黙ってママの話に耳を傾けた。
いつでも自分の事は二の次で、私達の事を一番に考えてくれるママ。
そんなママが「心の繋がりや絆」と言うと、言葉の重みが全然違ってくる。

「あなたが結婚をすれば、娘と子供と二人、家族が増えるわね。
 でもね、増える家族はそれだけじゃないわ。私と、お父さんもあなたの家族になるのよ。」

私はママの言葉を聞いて、ハッとした。
私はただ、両親に結婚の承諾を得る事だけに頭をいってしまい、
大切な事を忘れてしまっていたらしい。
私はてっきり結婚をして彼のうちに嫁ぐものだと、漠然と思っていた。
でもそうなると、兄弟のいない私はパパとママを二人っきりにしてしまう事になる。
私は一人っ子。彼は長男ながらも上には姉がいるし、
お父さんは亡くなって継がなきゃいけない家もない。つまり、

「うちへ、お婿さんに来てもらえないかしら?」

遠回しな言い方を捨て、ママはストレートに口にした。
隣に座るパパは、もう一度大きく鼻息を荒げた。
それはパパなりの拒否姿勢だが、言葉に出さないという事は、
パパとしても彼を婿養子としてうちに来てもらうつもりらしい。
普通なら妊娠うんぬんの前に、付き合ってる段階でそれとなく嫁婿の話をしていてもおかしくない。
しかし、残念ながら私達がそういった話題を口にした時は一度もなかった。
ていうか、日常会話すらままならないくらい無口な彼にはハードルが高すぎる話題だった。
…いや、話はしなくとも私が頭の片隅にでも置いておくべきだったのだろう。
そんな事にすら考えが及ばない、箱入り娘な自分が情けなかった。
それで、私同様に脳みそが研究のことでいっぱいで、
そういったことには疎そうな彼はどう言うものだろうと思ったが、これまた意外な反応だった。
彼はママの話を聞いてすぐに「構わない」と、即答した。
これには私以下、パパもママも目を丸くしたが、彼はそんな六つの視線を無視して話を続けた。

「今の提案で俺の研究に支障をきたす要素は別段見当たらなかった。
 故に反論はない。甘んじて受け入れよう。」

結局は研究なのかよ、と突っ込みを入れたくもなったが、
ママが安堵の溜め息をつき「良かった」という様子を見ると、
考えてもいなかった自分としては何も言えない。
パパは彼を見ないように横を向き「結婚には賛成しとらん。」と吐き捨てたが、
最初の勢いは今やどこにもない。
やっぱりパパとしても娘が家に残るとわかり、どこかホッとしているはずだ。
はじめは先行きが全く掴めずに、どうなるものかと生きた心地がしなかったけど、
その日は彼が婿養子になるという事が決まり、何とかまとまった気がする。
パパは最後まで彼を睨み付け「結婚は認めないからな!」と言っていたが、
ママは彼に一つだけ約束をした。

「私はてっきりあなた達がただ単に付き合ってます程度の報告だと思ってたけど、
 まさか妊娠したとはねぇ。さすがにびっくりしたわよ。」

彼を見送るため玄関に顔を出したママは、口に手を当て淑やかに微笑した。
その様子をパパは面白くなさそうに横目で睨む。

「今はすっかり落ち着いたけど…それでも私達はあなた達を本当に認めたわけではないのよ。」

特にお父さんは、と言い視線を隣に向けると、パパは「当然だ!」と大きな声を上げた。

「だからね、一つお願いがあるの。週に一度でもいいわ、うちに顔を出してちょうだい。
 そして一緒に夕飯を食べましょ。私達はあなたの事をもっと知りたいし、
 家族になるんならお互い理解を深めておくべきじゃないかしら?」

ママの提案を聞いて、パパはもう一度「結婚には賛成しとらん。」と呟いたが、
語気が薄いところを見るとまんざらでもないらしい。
彼はママの目を真っ直ぐに見据え「了解した」と言い、小さく頭を下げた。
笑顔で手を振るママと不機嫌そうに横を向くパパを残し、私と彼は研究所に向けて歩き出した。
時間もちょうど夕暮れ。彼に夕飯を作ってあげなきゃ。

「ねぇ。やっぱり緊張した?」

彼と手をつなぎ歩く、長い一本道。
私より頭一つ分背の高い彼を見上げて尋ねたが、
彼は相変わらずの無表情を浮かべたまま答えた。

「しない。事実を報告しに赴いたまでだ。」

「どうせそう言うと思いましたよ~だ。
 もっとも緊張しているお兄ちゃんなんて想像つかないけど。…ねぇ、一つだけ聞いていい?」

「なんだ。」

「お兄ちゃんのお嫁さん、本当に私でいいの?」

今回の件で、自分がいかに浅はかで無知で、周りから守られて生きてきたかを痛いほど実感した。
私もママのように家族の事を考えられる母親になれるのか、
ちゃんと子供を育てられるのか、不安になった。
研究に打ち込む彼の足を引っ張るような事があったら、嫌われてしまうかも知れない。
本当は結婚なんてしない方がいいんじゃないかと思ってしまう。
そんな心配をしていると、彼は急に立ち止まり私の両肩に手を置いた。

「俺にとってお前は分不相応な存在だと思っている。」

そう言うと彼は私を引き寄せて優しく抱き締めた。
普段は恐ろしいほど無愛想で無口だけど、私が倒れそうな時に彼はいつも支えてくれる。
それが嬉しくて、本当に嬉しくて。
彼にとっても私がそういう存在でいたい。
彼が辛いときに、悲しみを分け合えるように強くなりたい。
そう思いながら、私は彼を強く抱き締め返した。

こうして、私達は夫婦になった。


娘が産まれるまでの八ヶ月の間は、後ろを振り返る暇がないほど本当に忙しい日々だった。
お腹の中の娘が日に日に大きくなるに連れ体調が変化する中、
私は結婚式の準備や退職に際して業務の引き継ぎに忙殺された。
出来ればお腹が目立たない内に式を挙げてしまいたかったので、
少々急ピッチ過ぎたのかもしれない。
一度、妊娠中毒症で入院した時は死ぬかと思った。
でも、彼や両親の支えで何とか乗り切り、結婚式が終わって
ホッと一息ついた頃にはすでにお腹も大きくなり始め、出産も間近に迫っていた。
そして今から12年前、私と旦那の間に玉のように可愛い女の子が誕生した。
あんまり泣かないかわりに笑顔と口数が少ない、旦那にソックリな娘に私達は「素子」と名付けた。
旦那が以前「素粒子」と言った時に、初めは正直馬鹿らしいと思ったが、
真ん中の一文字を外せば「もとこ」と読めなくもない。
旦那の意見も尊重したいと思っていたので、丁度良いだろう。
私が娘の名前を呼ぶ度に、素子は大きな目をパッチリと開き、力いっぱい両手をパタパタさせる。
その仕草がたまらなく可愛くて、私はこの子の親になれた喜びをひしひしと感じた。
時々、旦那もそんな娘の仕草を食い入るようにジッと見つめている姿を見かけるが、
無表情同士が大きく目を見開き睨み合っているのが、何とも言えずにおかしい。
彼も親としての喜びを、その鉄仮面の下に隠しているのだろうか?

私は娘が誕生した事を期に、当時流行っていた子育てブログを開設することにした。
長いもので娘が生まれてからだから、かれこれ12年目になるか…。
慌ただしい子育ての合間に、その日の記事を考えるのが、私の唯一の楽しみ。
今日も今日で、またネタになりそうな出来事が目の前で繰り広げられている。

「もぐ。お父様それでは宗教の否定でありもっと哲学的な観点から論理を確立していくべきです。」

「違うな。この場合における見解の拡大解釈は議論の曖昧さを際立たせるだけだ。
 まずは宗教的な意味合いを否定することから『普通の会話』の定義を探るべきであろう。ぱく。」

最近の我が家の夕食時は旦那と娘によるディベート大会が主流になりつつあった。
しかし、娘も旦那に似て抑揚のない喋り方をするので、
議論は今一つ盛り上がっているように感じられない。
かと言って私が口を挟むにはちょっと頭脳指数が足りないようだし。
ていうか、あんたら科学者じゃないんかい?なんで哲学者みたいな話になってんの。
えぇい、口にものを入れて喋るな。
そんな二人の様子を眺め小さな溜め息をつきながら、
私は今日のブログのタイトルは何にしようかと悩んでいた。

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09:26  |  「ヨーグルト…。…いいえ、ケフィアです!」  |  CM(5)  |  EDIT   このページの上へ

Comment

う~ん、やっぱり文章読みやすいですww
明確な文章がさらっと読めちゃいますね~
パパもママもとても魅力的ですww
でもこの家族だんらんってちょっと切ないかも…
momokazura | 2008年06月12日(木) 19:54 | URL | コメント編集

何でこんなに

リアルなんだwwww。

何か思わず入り込んでしまうよね!
(楓´∀`) | 2008年06月12日(木) 22:52 | URL | コメント編集

>>momokazuraさん
文章が読みやすいのは何も考えずに
ストレートに書いているためです。
私もね、この一家団欒なの書いてると切ないんですよ・・・ね。

>>(楓´∀`) さん
リアルなのはやっぱりそれなりに登場人物への愛着があるからですかね。
文章には書きませんが、それぞれにかなり細かい設定を設けています。
例えば、お父さんはお風呂で身体を洗うより先に髪を洗う、とか。
要人(かなめびと) | 2008年06月12日(木) 23:32 | URL | コメント編集

1000ヒットおめでとうございますww

何度もウザいですよね、スミマセン^^;
名前はつけないっておっしゃってたんで、
想像するより他なかったので、今回は
うれしいですwうん、彼女らしい感じで、
とてもあってますね♪
こうなると彼の方も期待してしまうんですが^^;

これからもがんばってくださいw応援ポチ♪
momokazura | 2008年06月13日(金) 23:48 | URL | コメント編集

全然ウザくないですよ!ありがとうございます!

名前はですね、もう便宜上つけないと文章が書き辛くて仕方なく。
だって、お母さんが自分の娘を呼ぶ時に名前じゃないと不自然じゃないですか。だからちょうどお父様で伏線は張っておいたのでいいかな、と思いまして。

たぶん彼の方もこんな感じに名前を出さないと不自然な場面が発生したらつけたいと思います♪

応援ぽちサンクスです☆
要人(かなめびと) | 2008年06月15日(日) 06:11 | URL | コメント編集

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