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2008'06.01 (Sun)

「ヨーグルトではなく…そう、ケフィアと呼ぶべきか。」 第一章


【More・・・】

「つまり背景放射が熱輻射のスペクトルをしていることをどう考えるのです?
 物質に散乱されれば特徴的なスペクトルになると思うのですが。」

「まずはそうなるべくプロセスを組み立てるべきかと思う。そうしなければなにも始まらない。」

「そもそも空間に対する相対速度は光速を超えられないはずですが
 空間そのものが膨張する場合には光速を超えてもなんら問題ないのでは。」

「真空のゆらぎはカシミール効果で間接的に確認されてる。
 それと加速器でブラックホールを作る実験が行われるから
 うまくいけばそこでも確認できるはずだ。」



「…ねぇ。せっかくの夕飯なんだしさ、普通の会話をしない?」

「………。」

「………。」

「そういえばさ、さっき向かいの家のおじいさんがね」

「まずは『普通の会話』の定義を確立するべきであろう。」

「同意です。文学的な見解から解明していってみてはいかがでしょう。」

「………。」



☆のんびり主婦のゆったりブログ日記☆

題名:物理的に有り得ない…。        2036年10月5日
                                     
最近、娘が話す内容が理解出来なくなってきた。
いつも物理やら化学やら天文学やら。とても小学生の会話とは思えない。
旦那も旦那で、以前は研究所に娘が入る事さえ嫌がっていたのに、
ついこの間は実験の手伝いをさせていた。
しかもどうやら私より理解してるっぽい。
…ヤバい。小学生に負けてしまう。
このままでは完全にただの主婦に成り下がってしまいそうだ。
イヤイヤ、娘の成長は素直に喜ぶべきか。
しかしこれから先、娘が研究所にいる時間が長くなれば旦那の隣を
取られているみたいで面白くない。
下らない悩みとは思いつつも気になって仕方がない><




私が旦那と出会ったのは、それこそ小学生の頃だった。
家がすぐ近所で二つ年上のお兄さん。私が小学一年生で初めて登校をするという時、
登校班が同じということで迎えに来てくれたのが、若かりし日の旦那だった。
小さな体に大きなランドセルを背負い、
意気揚々と玄関の戸を開けた時の驚きといったら未だに忘れられない。
私より一回りは背が高くて細身な年上の男子がそこに立っていた。
手にはランドセルには到底入らないような分厚い本を抱え、
感情が全く捉える事の出来ない両目が私を見下ろしている。
以前、図鑑で見たことがある、蛇のような冷たく鋭い瞳だった。
彼は恐怖のあまりにその場に硬直してしまった私から一ミリも視線を逸らさないまま、
抑揚のない声で「学校に行くぞ」と呟いた。
その途端、体中の血液が逆流するような感覚に襲われ、
私は奇声を発すると力一杯玄関の戸を閉め、
その場にランドセルを投げ捨て自分の部屋に逃げ込んだ。
頭から布団を被り、震える体を両手で抱き締めながら大声で泣き叫んでいると、
騒ぎを聞きつけた母が部屋に飛んできた。さぞかし驚いただろう。
玄関に立ち尽くす無表情な男の子に気でも触れたかのように泣き叫ぶ娘。
母にどうしたのかと散々問い詰められたが、
ただ大声を上げて首をぶんぶん振っていた事だけ覚えている。
後になってから母に聞いたのだが、その時に玄関にいた若かりし日の旦那は
何食わぬ顔で分厚い本を読んでいたらしい。
その日は結局、母の必死の説得にもかかわらず布団から出ようとしなかった私は、
当然ながら始業式にも関わらず学校を休んだ。
あの時は本当に怖かった。彼のことを悪魔か化け物かと本気で思い込んでいたのである。
きっと学校という場所にはもっと怖い悪魔がたくさん居て私なんて食べられちゃうんだ、
という不可解な妄想を一晩中考えて震えていた。
そして干からびるんじゃないかというほど泣き続けていた。
これも母から聞いた話だが、私を迎えにきた彼は母から私が休む旨を伝えられても
「彼女を学校に連れてくるよう任命をされた。果たすまでは動けない」と言い、
何度説得しても読書をしたまま玄関から動かなかったらしい。
困り果てた母は仕方なく学校に連絡を入れ、
彼は担任の教師から引きずられるように連れて行かれた。
それが旦那と私の忘れられない初対面だった。

その日から彼は毎朝、我が家の玄関で待っていた。
そのたびに彼の姿を見るや否や私は泣き叫び、
母は私と彼をどうにかこうにか説得するといった毎日だった。
私に対しては、彼は怖い人ではないし学校は楽しいところだと説得し、
彼に対しては、学校には始業時間があるから遅れてまで待たなくても良いと説得する。
しかし母の労力虚しく、相変わらず私は布団の中に籠もり、
彼は馬の耳に念仏とばかりに母の言葉には一切耳を傾けず、
自分の肩幅より大きい本のページをめくるだけだった。

事態は一向に進展せず母もほとほと疲れ果て、始業式から一週間が経った日の朝。
その日も私は玄関で静かに立っている彼に気付き、
泣きながら自分の部屋に閉じこもっていた。
いい加減私達を説得するのにも疲れた母は、
既に日常の風景と化した朝の騒動を横目で眺めるだけ。
しかもその日は午前から用事があったのか、母は私達を置いて出掛けてしまった。
一時間程で帰るとは言うものの、当時小学一年生だった私に一人でお留守番の経験はない。
しかも玄関には得体の知れない男の子が見張っている。
駄々をこねる私を説き伏せながら少しずつ玄関に近づいていく。
母は玄関に私が苦手な番人がいるため家から出ようとしない事を知っている。
最後には言い訳混じりの台詞だけ残し、
玄関にいる男の子に私を頼むと言い付け足早に出て行ってしまった。
しかし彼は無反応で分厚い本に視線を落とす。
去り行く母の背中を見ながら、私は六歳にして絶望感を味わった。

悔しさと悲しさに駆られ、私は自分の部屋で更に大声で泣きわめいたが、
いつものようにあやしてくれる母はいない。自分の声だけが空しくこだました。
私はいい加減泣くのにも疲れてベッドに寝そべっていたが、
家の中は物音一つせず静まり返っている。
もしかしたらあの薄気味悪い男の子は飽きて帰ったのかもしれない、と思い、
部屋のドアをそっと開けて玄関の方を見たが、やっぱり彼はいた。
分厚い本を両手で持ったまま直立不動の姿勢を維持している。
あのままで疲れないのだろうか?何の本を読んでいるのか?何年生なのだろうか?
しばらくジッと眺めているうちに、だんだんと彼に興味が湧いてきた。
私はドアの隙間から顔だけ出し、遠目に彼を観察し始めた。
少し色素が薄い短髪に色白で痩せ気味の身体。
本を読んでいるため顔の輪郭はよく見えないが、初めて会った時に見た顔を思い出したが、
あの氷のように冷たく刺すような瞳だけ印象的で鼻や口は記憶に乏しい。
私は彼の爬虫類のように鋭い瞳を思い出してまた恐怖で体が震えていたが、
その時、彼の右手が動きページを捲った。
石像のように微動だにしなかったのが急に動いたので、
私は驚きのあまり、「あひゃ」と小さい悲鳴を上げてしまい、焦って布団の中に潜り込んだ。
ヤバい!あの悪魔に見ていたのを気付かれた!殺される!と思い、
布団の中で息を殺し何度も「神様!神様!」と心の中で唱えた。
そして私を置いていった薄情な母を散々罵った。
早鐘を打つ心臓の音だけがうるさい。

私はいつ悪魔から見つかるかと涙目になりながら震えていたが、
その悪魔はいつになっても私を捕らえに来ない。
不思議に思い、恐る恐る布団から顔を出して外の様子を伺ったが、
相変わらず家の中は静まり返っている。
もしかしてあの悪魔は私に気付かなかったんだろうか?
そんな事を感じつつ、蓑虫のように体を布団でくるんだまま机に向かうと、
まだ一度しか背負ってないランドセルの中から30センチ物差しを取り出した。
そしてその物差しを握り締め、意を決した私は布団をベッドに戻すと、
再び部屋のドアからこっそり顔を出した。
やっぱり彼はさっきと変わらずに固まったみたいに本を読んでいる。
私はもう一度、彼をじっくりと観察した。
ひょろりと伸びた足や腕はか細く、幼稚園の時にいたイタズラっ子と
そんなに大差がないように見える。確実に力は無いだろう。
あの大きくて重そうな本を持っているだけで精一杯そうだ。
私は少し前の記憶を辿ってみる。
確か幼稚園時代になにかとちょっかいを出してきたイタズラっ子と喧嘩をして、
何回かは泣かされたがもう何回かは勝った気がする。
男の子は股の間が弱点だったようだ。
私は一度、頭を引っ込めると部屋の中で音をたてないように物差しを上下に三度振った。
…勝てるかもしれない!あんなに華奢そうな体だ。
物差しで三回くらい叩けば泣いてどこかに行くかもしれない。
とにかく、私も毎日家の中にいるのは嫌だった。いい加減、お外でも遊びたい。
だから、私はあの悪魔と戦う事を決意した。
もしも捕まったら…たぶんもうすぐ母が帰ってくるので助けてくれるだろう。
私はもう一度、音をたてずに力を込めて物差しを数回振り、意を決して恐る恐る廊下に飛び出した。

真っ直ぐ見据える先には大きな本を持った悪魔が立っている。
両手は塞がっているように見えるが、実はあの本は武器で、あれで叩いてくるのかも。
…それはそれでかなり痛そうだ。少し弱気になり、目にうっすら涙が溜まってきた。
これではいけない。私は怯む気持ちを無理矢理奮い立たせ、じりじりと玄関に近付いていった。
彼は私に気付いていないのか、ピクリとも動かずにただ本を読んでいる。
私は物差しを両手で握り締め徐々に距離を詰めていく。
玄関まであと3メートル…あと2メートル…。
本のタイトルの文字がはっきりと読める距離まで近づいたその時。
視線は本に落としたまま、彼は口を開いた。

「ランドセルは持ってこないのか。」

私はあまりの驚きに本気で飛び上がってしまった。
口から心臓が出てきそうだった。まさか先制攻撃を仕掛けられるとは思わなかった!
予想外の出来事にまた泣きそうになったが、私は唇を噛み締めなんとか堪えた。

「が!がっこうなんか!ぜったいにいかないんだからー!!」

私は彼に対抗するように大声で怒鳴り返した
震えが止まらない両手で物差しを彼に向ける。
しかし、彼は本から目を離さないまま私の返事に対して、
小さく「何故だ。」と切り返しただけだった。
てっきり私の大声に逆上して襲い掛かってくるかと思いきや、
ほとんど無反応な彼に呆気に取られたが、それでも私は力いっぱい反論した。

「だって!がっこうにはこわいひとがいっぱいいるんだもん!!」

「いないよ。お前や俺と同じ人間が集団で学習をしているだけだ。」

「!…しょうこをみせなさいよ!がっこうがこわいとこじゃないってしょうこ!」

「証拠が無いこと事態が何よりの証拠だ。」

言っている言葉が難しくて全然分からない。
大きな声を出し過ぎて息が切れてきた。肩で呼吸をしながらだんだんと空しくなってきた。
なんで私はこんなところで言い合いをしているんだろう?
しかも彼の返答がチンプンカンプン過ぎて、本当に石像と話をしているように思えてきた。

「…なんでまいあさうちにくるのよぅ。」

「登下校の際には必ずお前と同行するよう担任教師から言われた。
 つまりお前が登校しない限り俺も登校が出来ない。」

そして彼はゆっくりページを捲りながら言った。

「故に俺はここにいる。」

きょうし、って何だ?と頭を悩ませていたが、
最後のセリフから察するに私が学校に行かないと、彼も学校に行けないらしい。
何故かはよく分からないがそういう事なのだろう。私は物差しを握った手を少し緩める。

「…おにいちゃんはがっこうにいきたいの?」

「あぁ。」

彼の返事を聞いて、途端に私がもの凄く悪いことをしていた気がした。
よく母が言っていた言葉を思い出す。
『自分のしたいことだけ考えてちゃダメ』。
いまいち何でかは分からないが、
私は学校に行きたいはずの彼を自分の都合で足止めしてしまっていたらしい。
わがままに泣き喚いていた自分が情けなくて、今度は違う意味で泣きそうになった。
私は悲しくなり、物差しから手を離して下を向いて俯くと、
頭の上でパタンと何かが閉まる音が聞こえた。
顔を上げると、彼は両手で持っていた本を閉じ右手に抱え、私を見つめていた。
どこまでも真っ直ぐ前を向き、一点の曇りもない強さを秘めた瞳が、私を見つめていた。
私は思わず呼吸をする事を忘れてしまっていたが、
かわりに短く、やや早く鼓動する心音を感じていた。
彼の瞳を見るのは二度目だが、最初に抱いた怖いイメージは今はない。

「ランドセルは持ってこないのか。」

彼の声で我に返った私は慌てて首を縦に振ると、
自分の部屋からランドセルを取りに行くために戻った。
その時、何故か風邪を引いた時のように顔が熱を持っていたのを覚えている。

慣れないランドセルがイヤに重く感じて少し歩きづらかったが、
私はちょっと距離を置いた彼の背中を眺めながら通学路を歩いた。
輝くような力強い瞳に悪い印象は払拭されたものの、完全に彼を信用したわけではない。
いつどこで化けの皮を剥がすかわからないし、やっぱりまだ学校は怖いところなような気がする。
そんな少し後ろを歩く私を気にする素振りは見せず、彼は真っ直ぐ背筋を伸ばし、足早に歩く。
おかげで私が小走りになってしまうじゃないか。

「…ねぇ、おにいちゃん?」

「何か。」

「そのおっきいほん。なにがかいているの?」

一週間も前から立ちっぱなしで読んでいた本。実は少し気になっていた。
彼は少し間を開けると、いつもと変わらない抑揚のない声で答えた。

「超ひも理論の展開時に生じるローレンツ変換のパラドックと新解釈について。」

さらに訳のわからない単語が出てきた。
私は首を傾げながら、まるで呪文のようだなと思い、唐突に理解した
彼は魔法使いなのだ!
そして私がこれから行く学校には空を飛ぶ先生や可愛い妖精がたくさんいるに違いない。そ
んな妄想を繰り広げていると、なんだか学校に行くのが楽しみに思えてきた。
これは失敗した!そうと知っていたらもっと早くに学校へ行っていたのに!

それから私と彼は毎日登下校を一緒にするようになり、少しずつだが仲良しになっていった。
彼は相変わらず無口だったが、私から話し掛ければ必ず答えてくれる。
時々難しい単語を使う時があったが、分からないと言えばきちんと理解するまで教えてくれた。
私はいつしか彼を「お兄ちゃん」と呼ぶようになった。
学校で嫌な事があっても、お兄ちゃんと登下校をするのが楽しくて、全部忘れられた。
でもそれは私が小学四年生まで。
私が五年生に進級した時、お兄ちゃんは中学校に進学した。
始業式の日、いつものように朝、迎えに来てくれる
お兄ちゃんを待つため玄関にいた私を、母は訝しんだ。
そしてその時になって初めて中学生になったお兄ちゃんが、もう迎えにきてくれない事を知った。
失望感に打ちひしがれた私は、泣きながら一人で登校した。
昨日の夕飯で聞いたお父さんの会社の話、寝ている時に見た夢の話。
通学路を一緒に歩くときにお兄ちゃんに
話してあげようと用意していた楽しい話を思い出しながら。
…今にしてみれば、私はその頃から旦那の事が好きだったのだろう。

それから二年後。私も小学校を卒業し、お兄ちゃんの通う中学校に入学をした。
私は内心嬉しくて仕方なかったが、さすがにもう子供ではない。
一緒に登下校をする事は恥ずかしくて出来ない事を知っていた。
ただ、朝にわざとお兄ちゃんと通学路で会う時間を見計らい、
偶然を装ってしばしば一緒に登校していたが。
中学生になって驚いたことが一つ。
お兄ちゃんは女子生徒の憧れの的で、皆からは白馬に乗った王子様のような存在になっていた。
まぁ、要するにモテモテになっていたのである。
端正な顔立ちに肉が付きすぎずスラリと伸びた背丈。
成績優秀で知的クールなフェミニンボーイ。
そして何より、全てを魅了する光を宿した力強い瞳。
先輩達の話では目が合った女子全員が、その場で恋に堕ちたとか堕ちないとか。
入学仕立ての頃、廊下で見かけた時に普段通りに「お兄ちゃ~ん!」と
呼びかけた時に感じた周りからの突き刺さる視線には本気で危機感を抱いた。
バレンタインデーの時などはひどいものだった。
靴箱、机、鞄などお兄ちゃんが所有する全ての入れ物に溢
れんばかりのチョコが詰め込まれていた。
小学生の時なんて私からしかチョコを貰ってなかったくせに。
告白を受ける事は日常茶飯事で、お兄ちゃんはそれらを全て断った。
理由は毎度同じ。『興味がない』から。
しかし、そんな冷たい態度がまた人気に拍車を掛けていた。
私が知っている中学三年生のお兄ちゃんは、
取り敢えず常に傍らでは積極的な女子が付きまとい、
遠巻きには内気な女子の視線を受けている、
そんな生活だった。
…まぁ、何が言いたいのかと聞かれれば、正直面白くなかったわけである。
私はてっきり中学生になったらまたお兄ちゃんと仲良く遊んだり(一方的に私が)、
お話をしたり(一方的に私が)、楽しい一年間を過ごすはずだったのに…。
私が出来た事と言えば、遠巻きに眺める女子の一員だけだった。

しかもその後、中学校を卒業したお兄ちゃんは外国の高校に留学してしまっていた!
一言もそんな話を聞いていなかったのが、とてもショックだった。
しかも本人から聞いたのではなく、母からご近所の噂話で。
私はひどく落ち込んだ。お兄ちゃんにとって私は、
単なる小学校の時に登下校をしただけの女子という認識だということをありありと知らしめられた。
ただ私だけ勝手に楽しみにしていて、私だけ勝手に片思いしていただけだったんだ。
失意に打ちひしがれ、私はその時にお兄ちゃんの事はすっぱり忘れようと誓った。
私の好きだった人はあんなにモテモテだった、
そんな人と小学校時代は一緒に仲良く登下校をしていたんだぞ、と。

それから私は地元の私立高校を経て、都心の短期大学に進学した。
お兄ちゃんは外国の高校からそのまま大学も向こうで過ごし、
私達が再び出会ったのは、私が短大を卒業して地元の企業に勤め出した頃だった。


私の職場は地元からそう遠くなく、
通える距離の場所で特にアパートなど借りる必要はなかったから、父と母と三人で暮らしていた。
しかし通勤は電車を利用していたので、毎日駅前から続く、
無駄に長い一本道をくたくたになりながら飽きもせず歩いた。
いや、正確には飽きを通り越した、だろうか?
とにかく毎日毎日、牛の涎のように長く退屈な一本道を通勤する中で、
お決まりのように見てしまう一軒の建物があった。
それは以前、彼が住んでいた家。
現在は改築をして小さな工場のような出で立ちになっている。
なんでも彼のお父さんが勤めていた健康食品会社を辞めて独自に研究をするためらしい。
これもご近所から聞いた風の噂だが、独自に新しい健康食品でも開発するんだろうか?
まぁ、近所でも変わり者で有名なオジサンだったのでそんなに驚きもしなかったが。
しかし、会社を辞めてまで取り組みたい健康食品とは一体、何なのだろう?
ダイエットに効きそうな健康食品ならば試飲食モニターにでもなってあげて構わないんだけどな。
と、当時はそんな認識しかなかった。
ただ、外壁は真っ白で新しいその建物を眺めていると、
扉を開けてひょっこり彼が顔を出すのではないか、
そんな事をボンヤリ想像しながら通り過ぎていた。
一時期は本気で忘れたいと思い悩んだが、一度抱いた気持ちは簡単に消えはしない。
まだ煩わしい仕事や複雑な人間関係なんて存在しなかった毎日遊んで過ごした幼少期。
いつも側に居てくれたのは彼だった。
ふとしたときに昔を思い出す。そんなときはいつも真っ先に彼の面影が蘇る。
簡単に忘れる事など出来やしない。私にとって彼は未だに『大好きなお兄ちゃん』だった。

そんな甘酸っぱい哀愁を噛み締めつつ、仕事帰りに駅構内のスーパーマーケットで買い物を終え、
帰路につく途中にいつもの場所でいつものこじんまりとした建物を眺めながら歩いていた。
今日の夕飯は決まってるが、明日の朝ご飯はどうしようかと、
割とどうでも良いことを考えながら通過しようとした、その時。
私は心臓が止まるのではないかと思う程、驚愕した。
飾り物かと思ってしまうほどに開いた時を見たことのない建物の扉が開き、
中から彼が出てきたのだ。
髪は少し長くなり、中学校の頃よりさらに一回り大きくなったが、細身の体は昔から変わらない。
相変わらず色白で端正な顔立ち。そして何より、静かに強烈な光を放つ屈強な瞳。
…私の大好きな瞳は当時のままだった。
目と口をこれでもかと大きく開けて固まっている私に気付いたのか、彼は真っ直ぐに私を見つめた。
全身の体温が瞬発的に上昇し、毛穴という毛穴からは汗が噴き出し、
皮膚という皮膚はたちまち朱色に染まりだす。
そんな私を不思議に思ったのか、彼は首を傾げたまま静止している。
私はパニック状態でフリーズした脳みそを何とか起動させ
カラカラに渇いた喉から力一杯声を振り絞った。

「お、お!お!お兄ちゃん!!」

しまった!声が裏返った!
あまりに大きな声だったので周りにいた通行人がみんな私を振り返る。
しかし、お兄ちゃんは微動だにせず数秒間私を見た後、無表情のまま「あぁ、お前か。」と呟いた。
その一言を聞いて、私の中で暴れまわっていた感情が動きを止め、
次に目尻のある涙腺を力任せに破壊した。
周りで私達を見守っていた通行人が一斉に息を飲んだのがわかった。
私は買い物かごを地面に落とし、子供のように泣きじゃくった。
中学校になってからは全然会話を交わしてないし、目も合わせていない。
あれから数年、一度も会っていないのに…お兄ちゃんは私を覚えていてくれた。
それだけが嬉しくて、嬉しくて仕方なかった。
そして急に泣き出した私を心配して周りの皆がオロオロとする中、
私は成長してますます男前になった彼の姿を思い出し、さらに顔を赤らめていた。
…私は、もう一度お兄ちゃんに恋をした。

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17:56  |  「ヨーグルト…。…いいえ、ケフィアです!」  |  CM(9)  |  EDIT   このページの上へ

Comment

再開とてもうれしいです♪
ちょっと意外なはじまりでしたけど笑
でも性格そっくりで、笑っちゃいましたww
やっぱりおもしろいですね!
momokazura | 2008年06月02日(月) 01:14 | URL | コメント編集

>>momokazuraさん
早速のコメント、ありがとうございます!
冒頭の部分がイミフだったかな、と思いましたが
大丈夫だったんでしょうか?

私も書いていてこっちの方が楽しいです。
要人(かなめびと) | 2008年06月02日(月) 06:08 | URL | コメント編集

冒頭は確かに「ん?」と思いましたが、問題なしです。^^
またとっても楽しみにしてます♪
みい | 2008年06月03日(火) 08:56 | URL | コメント編集

>>みいさん
私も冒頭の部分は大丈夫かな?と不安でしたが・・・。
楽しんでいただければ嬉しいです。
要人(かなめびと) | 2008年06月04日(水) 09:53 | URL | コメント編集

コメントありがとうございました。

小説ちょくちょく読ませて頂きますね^^
yuk | 2008年06月04日(水) 21:45 | URL | コメント編集

>>yukさん
初めまして。ゆっくりしていってね!
要人(かなめびと) | 2008年06月05日(木) 10:03 | URL | コメント編集

おにーちゃーn!!
うわあチョット涙腺やられるところだよ!!
ツンデレ(ちょっと違うか)がどう心を打ち解けあうのかでおなかいっぱいだおwwwww
もうビーカーとうどうでもいいお
おかあさんかわいいよおかあさんwwwwwwww
八頭身派 | 2008年06月08日(日) 19:53 | URL | コメント編集

>>八頭身派さん
ツンデレとはちょっと違うけど、俺もお母さん好きです。
要人(かなめびと) | 2008年06月08日(日) 21:37 | URL | コメント編集

むしろツンデレはおとうs(ry
wktkしてまってますお
八頭身派 | 2008年06月08日(日) 23:51 | URL | コメント編集

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