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2012'07.06 (Fri)

駄・ランプ  第九章

「ほい。これで全員よ」
 最後の警備員を牢の中に放り投げるリイナ。軽く手で払っただけなのに、大のオトナはゴム鞠のように軽々と吹っ飛んでいく。
 魔力全開プラス願い事で上乗せモードの闘魂の魔人は、力の微調整も容易でなくなっているようだ。
 狭い独房にぎゅうぎゅう詰めされた警備員達は、皆一様に満身創痍状態で、中にはまだ気絶している者もいた。

 判決の間での出来事は、リイナの宣言通りに一瞬で片が付いた。
闘魂の魔人になった今なら分かるが、僕なんかとうてい及ばないくらいの魔力だった。
 呆気に取られる暇もなく、警備員達が次々に殴り倒されていく。まぁ、描写するのも憚られるくらい、圧倒的な暴力でした。

「こやつらをまとめたのは良いが、一体どうする気である。良策はあるのか、少年よ」
 顎に手を当ててジンは訊ねる。次いで父さんも現状の懸案事項を口にした。
「そして例の大司教も未だ姿を見せない。リイナ、一カ所に集めたのはかえって危険じゃないのか」
「あ、うん。そうかもね」
 父さんからは目をそらして答えるリイナ。
 さっきから、この調子である。リイナの態度がいつになく、よそよそしい。
 父さんとの思わぬ再開で気まずいのはわかるが、なんだかこっちまでギクシャクしてしまう。
 しかし、敢えて空気を読むのが嫌いなお嬢様もいた。
「どうでもいいけど、さっさと終わらせてくれないかしら? こっちは何時か知らないけど、私の体感時間では既に深夜の一時よ。夜更かしは美容と脳細胞の天敵だわ」
 佐々木は腕組みをしながら欠伸を漏らす。言いたいことはごもっともだが、ここはもう一つの懸案事項を指摘しておきたい。
「佐々木はさ、何でこっちに来ちゃったの?」
「はぁ? 何よ、その言い草は」
 蛇のような鋭い目つきで睨む佐々木に、背筋がゾクッとした。
「井上くんが心配で駆けつけたんじゃない。フィアンセに対して随分と冷たい物言いね。でなきゃ、なぜ私がこのユルバカ魔人のために手助けしなくちゃいけないのよ」
「いや、あんたは何もしてないから。てか、あんた誰?」
 メンチを切り合う佐々木とリイナの間から、父さんはヒゲをいじりながら割って入る。
「ほほう。お嬢さんは改人と将来を誓い合った仲なのか」
「あら、これはご挨拶遅れたわね。あなたにとって未来の娘になる佐々木茉莉よ。今のうちに言っておくけど、井上くんは婿にもらいますから。よろしくお願いしますね」
「あぁ、ご自由にどうぞ。最終的に決めるのは改人ですから、私は余計な口は挟まん」
「そう。じゃあ婿取りは決定ね」
 まったく面白くなさそうな態度で言葉を交わす二人。お互いが仏頂面なままなので、本気なのかジョークなのか分からない。
 てか、僕の意思はまるっきり無視ですか。
「その話は置いといて、佐々木までこっちに来ちゃったら僕達、人間は向こうに帰れないじゃないか」
 憮然とした態度のまま首を傾げる佐々木。リイナが納得したように手を打つ。
「そっか。ご主人様である改人くんと名前のわからないチビ助がこっちに来ちゃったら、私達を誰もパクれないわよね。君達、人間界に戻れないわよ」
「つまりそういうこと。父さんがこっちに来たのは良かったんだけど、佐々木くらいはあっちに残っていなくちゃダメじゃん」
 リイナの指摘に佐々木の顔がみるみるうちに赤く染まっていく。
「う、うるさいわね。愛ゆえの暴走だわ」
 一同、腕を組んで唸る。誰かが僕か佐々木のランプを擦ってくれればいいんだけど、一体いつになることやら。
 チラッとリイナを見る。事態を楽観視しているのか、呑気に欠伸をかみ殺している。
 もしも人間界に戻ることがなければ、このままこっちでリイナと一緒に……。
 ブンブンと頭を振って邪念を払う。一瞬、淡い期待を抱いてしまったが、今は少しだけ不謹慎に感じた。
「さてさて、本当にどうしようかな」
「もし宜しければ、私が送って差し上げましょうか」
 背後から突然に声が聞こえたので、慌てて振り返る。それと同時にリイナとジンは目の色を変えた。
「いやいや、私に闘いの意志はありません。お二人とも、魔力を収めて下さい」
 朗らかに微笑みながら、大司教は両手を挙げて敵意のないことをアピールした。
「大司教! 今までどちらにいらっしゃったのですか!」
 牢の中から警備員達が救いを求めた悲痛な声を上げる。しかし大司教は、さっきまでとは人が違うようにイタズラっぽく肩をすくめた。
「すたこらと避難していました」
 警備員達もそうだが、リイナとジンも困惑の表情を浮かべている。
 いつでも攻撃を繰り出せる姿勢を崩さない二人に、大司教はフレンドリーに語りかけた。
「いやはや、一時はどうなるかとヒヤヒヤしましたが、きちんと思惑通りに事が進んで安堵しました。本当はリイナくんと、あらじんくんだけのつもりでしたが、まさか紅蓮くんまで揃うとは。図らずとも『カオスの天秤』ギルドのオフ会開催となりましたね」
 リイナとジンが驚愕を露わにする。僕の頭の中でも話がカチリと繋がったが、あまりの意外さに信じられずにいた。
「あ、あなた……もしかして?」
「リアルでは初めてお会いしますね。改めてご挨拶を。『カオスの天秤』ギルドマスターのエスカマリです」
 胸に手を当てて礼儀正しくお辞儀をした大司教に、僕達は愕然とした。
「だ、大司教が、エスカマリさんだったんですか?」
「そうですよ。バレはしないかと不安でしたが、杞憂でしたね」
「え、冗談じゃなくて、本当なの?」
「もちろんですよ、リイナくん。マホロバは魔人界で一番人気のネットゲーム。大司教がやっていても不思議ではないでしょう?」
ガックリと膝をつく。一番の強敵だと思っていた相手がまさかのまさか、最初から味方だったなんて。
とんでもなく気合いの入った茶番劇だったとは。
「改人くんには本当の事をお伝えしても良かったんですが、敵を欺くにはまず味方からと言いますし。ですので、あなたに対する失礼な発言の数々をお詫び申し上げたい。決してあれは私の本心ではないとご容赦頂ければ幸いです」
 頭を下げる大司教に、僕の方が逆に恐縮してしまった。
「自分のところのギルメンが魔力を剥奪されるなんて、マスターとしてはあまりに心苦しく耐えきれなかったのです。それに大司教の立場としても、今回の一件は罪に対する罰が相応しくないと感じておりました」
慈愛を込めてゆっくりとリイナと父さんに目を向ける大司教。
「リイナくんのなさったことは確かに禁忌です。しかしながら、リイナくんが本当に重信さんの気持ちを改変したかったのかといえば、どうでしょうか? 過失に近かったのではありませんか?」
判決の間の時みたく、口を閉ざして俯くリイナ。大司教はリイナの答えを待たず、言葉を続けた。
「もしも過失ならば、当然ながら情状酌量の余地ありでしょう。それなのに魔力剥奪という極刑を科すのは、やり過ぎではなかろうかと。しかしながら、禁忌というものはやはり禁忌。一度でも見逃した判例を残しては後々に大議論へ発展するでしょう。ですから、今回は改人くんから過分なご協力を賜った次第です」
大司教の優しい声が独房階の廊下に響く。そして大司教は無邪気にピースサインを見せて「罪を憎んで人を憎まず。名裁きでしょう」と微笑んだ。
牢の中にいる警備員達は、大司教の言うことがまったく信じられないようである。全員が全員、記憶喪失にでもなったかのように目が点になっていた。
なんというか、お気の毒でした。
「それで大司教さんとやら。我々人間が、向こうに戻る手立てがあるのですな?」
大司教の慈悲深い計らいなど歯牙にもかけていないように、父さんは現実的な話だけを聞く。
「はい、もちろんです。私の魔法はゲート。人間界とこちらを繋ぐことなど造作もありません」
そう言って大司教は目の前に大きく円を描く。するとその空間だけ、まるで切り抜いたように景色が変わった。
そこに映っていたのは、僕の部屋だった。
「時空間どころか、異空間の壁すらも超越するとは。いやはや、恐るべき魔力よ」
舌を巻くジンを見て大司教は上品に笑う。
「勝負の申し出ならいつでも受け付けましょう。本日のは私もいろいろとズルをしましたので、イーブンということで。機会をみていつの日か」
「うむ。その際は真剣勝負で参りますぞ、ギルドマスター殿」
ジンとしっかり握手を交わすと。大司教は「さて」と呟いてから僕を見た。
「そろそろこの場を収めるとしましょう。改人さん、なにか良案はありますか?」
全てを見透かしたような大司教の瞳に、僕は苦笑しながら首を縦に振るしかなかった。
「はい。一つ確認してもいいですか? 魔人が魔人の記憶を改ざんすることは……」
「全く問題ありません。ただし私は外して下さい。私まで記憶を失っては後々、面倒なことになりかねませんから」
苦笑に苦笑が増す。
そうだ、僕もそろそろ人間界に帰ってゆっくりと眠りたい。
「リイナ、ちょっと長くなるけどいいかな?」
可愛らしく微笑みながら頷く空色の魔人。
「この中にいる警備員達の記憶を変えてもらいたい。ジンやリイナ、僕と戦ったことは全部忘れて、禁忌の刑だけがきちんと執行されたという内容で」
人差し指を突き出して、青白い光を牢の方へ向けるリイナ。
ギョッと身構えた警備員達の中から、豪快な笑い声が上がる。
「がはは、闘魂の! どうせなら、我らが貴様等を確保したという記憶に変えてもらえんかのう! 手柄が欲しいのじゃ!」
首が曲がったままの剛森の提案に、肩車されている伊丹が言った。
「いいこと思いつくじゃな~い。大司教様~、私達を社員登用して欲しいわ~ん」
涼しい顔で大司教は「契約社員でよければ」と答えた。
嬉しそうにハイタッチをする二人を尻目に、リイナは呪文を唱える。

「契約コード詠唱! ハタライタラ・ソコデ・ゲームセット・デスヨ!」

 牢の中が柔らかい光で満たされる。そして光が消えると、警備員達はぐったりと気を失っていた。
 きっと目が覚めた頃には、この人達の記憶はすっかり入れ替わっていることだろう。

更新日 7月8日

「井上重信さん、一つご提案があります」
「何でしょうか?」
 微笑んだまま父さんに向き合う大司教。
「あなたの改ざんされた、その折れない心ですが、息子さんの願い事を使えば元に戻すことが可能です。いかがでしょう? 幸いに改人さんは願い事をたっぷりお持ちのようです」
 きっと契約コードを詠唱した直後に、リイナの頭に浮かんだ数字を見たのだろう。
 人間の感情や性格を変えるのは禁忌。ただし戻すことは禁則に触れていない、と大司教は暗に示している。
 ヒゲをいじりながら、ふむと独りごちる。そして僕をチラッと見てから口を開いた。
「確かにこの心になってから私は、泣きたい時に泣けず、哀しみたい時に哀しめない男になってしまいました。さらには息子との間にも、見えない隔たりを作ってしまった時期もありました」
 思わず俯いてしまう。父さんは僕の抱えていた鬱屈に、ちゃんと気付いていたのだ。
「ですがその反面、便利なこともあるわけです。一家を支える立場なら、なおさら折れずにいる方が都合良い。私には守るべきものが、一番大事なものがありますから。それが亡くなった妻が唯一残してくれた、私達へのはなむけだと思っています」
 むっすりとしたまま父さんは、僕の頭を優しく撫でた。
 その手のひらは分厚くて固く、でもとても温かい。幼い頃に父さんの膝に乗りながらアラジンの映画を見ていた、あの頃に撫でられた手と何一つ変わっていなかった。
 目頭がジンと熱くなる。僕の心にも凝り固まっていた小さい鋼鉄が、ゆっくりと融解していくのを感じた。
 父さんは僕の頭に置いた手を、そのままスッとスライドさせると、横にいる空色の髪を撫でた。
 そこで初めて、父さんとリイナは視線を交わした。
「それにもしも本当にこの子の罰が償われるのならば、今度からはこの繋がりを罪ではなく、絆に変えていきたいと思います」
 大司教は大きく頷いた。
「ありがとうございます。もしもあなたがその鋼鉄になってしまった心を疎ましく感じていたのならば、やはりリイナくんにはきちんと罰を受けてもらおうと思っていました」
「必要ありませんな。私はこの子に詫びたい気持ちはあっても、謝罪してもらいたいことなど、何一つない」
 リイナは遠慮がちに微笑み、おずおずと自分の頭に置かれた手に、自分の指を絡ませた。
「ありがとう、シゲノブ。ねぇ今度さ、人間界に行ったらお姉ちゃんのお墓参りに連れていってくれる?」
「あぁ、もちろんだ」
 未だにリイナの魔力が生きている父さんは、すぐに答えた。そんな短い会話が、二人のこれまでのわだかまりが氷解したのを如実に物語っていた。
 過去を封印したリイナは、ようやく未来に向き合えたのである。

「さて、それでは人間界の皆さん。元の世界へお送りしましょう」
そう言って大司教が宙にグルッと円を描こうとした時だった。
その手をリイナが遮ったのだ。
「どうしました、リイナさん?」
高貴な微笑みを浮かべたままの大司教に、リイナはモニョモニョと口ごもりながら言った。
「あの、エスさ……大司教。私はやっぱり、罰を受けた方がいいと思うんです」
その申し出に一同が目を見開いた。
大司教だけは表情を変えずに、優しい声で「何故でしょうか」と訊ねた。
「私、今回のことですごく色々な人に迷惑を掛けちゃって。高杉や大司教にもそうだし、ご主人様の改人くんにも、そして一番はシゲノブに。さっきシゲノブはああ言ってくれたけど、やっぱり悪いことしちゃったのは私だし……」
「なに言っているのかしら、このユルバカ魔人。一番迷惑を被ったのは、私なんだけど。まぁ、井上くんの手前もあるし、特別に土下座して詫びるだけで許して上げる」
「黙れ。話の腰を折るな、チビ助」
佐々木とメンチ切りの応酬を交わし、リイナは咳払いをして仕切り直した。
「それなのに、自分だけ無罪放免っていうのも身勝手過ぎるというか。都合良すぎるかなって」
僕や高杉も、リイナを助けたい一心で傷を追ってもここまでやってきた。
もちろん、大司教も。父さんだって。
でもみんな、肝心なところを考えることに欠けていたと思う。
言うまでもなく、リイナの気持ちだった。
「私が禁忌を犯してしまった事実は消えません。もっと言葉を気にかけてさえいれば、シゲノブだって……」
リイナは面倒くさがり屋でぐうたらだけど、本当は真面目で優しさを持った女性なのだ。
自分で自分を責める気持ちを、なかったことには出来ないのだろう。
「ふむ。実に殊勝な心掛けに、感服致しました」
話し終えて頭を垂れるリイナに、大司教はゆっくりと頷いた。
「ここにくる罪人の皆が皆、リイナさんのような心構えならば、私の仕事もだいぶ楽なんでしょうけどね。仕方ないことです。
確かにリイナさんの罪は許し難いものではありますが、本人に反省の意志が充分に感じられますし、先ほども申し上げましたが、禁忌ではあれ細かく見れば過失に近い。情状酌量の余地は申し分なくあるでしょう」
そう言うとエスカマリさんは、全員を見渡した後に、もう一度宙に大きく円を描いた。
「ですので、リイナさんに科す刑罰はこんなのでどうでしょう?」



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