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2011'11.24 (Thu)

魔法・パソコン・デザート

お題「魔法・パソコン・デザート」

 イカのような触手が、まどかを襲う。鞭のようにしなった攻撃をまどかは身を翻してかわした。
「もう一撃くるよ! まどか!」
 使い魔であるQBのアドバイス通り、今度は触手が頭上から振り下ろされた。
 対峙するイカ型の悪魔は唸り声を上げながら、触手をくねらせる。
「おっとっと」
 まどかは慌てる様子もなく、次々に繰り出される攻撃を避けていく。ピンクのフリルがあしらわれたコックコートがふわりと舞った。
 まどかは後半に大きく跳んで間合いを空けた。そして両手を宙にかざすと、何もない空間から調理器具が現れた。
 右手に泡立て器、左手にステンレス製のボールが握られていた。
「マスカルポーネチーズ! クリームチーズ! グラニュー糖!」
 ボールの中に言ったとおりの材料が入った。まどかは悪魔の攻撃をかわしながら、それらをシャカシャカかき混ぜる。
「Qちゃん、スポンジはまだ?」
 白い子猫のような使い魔は、ハラハラした様子で後ろのオーブンに目をやる。
「まだ五分はあるよ!」
 ふむ、と額に指を当てながら思案したまどかは、ボールを宙に投げると、右手を天にかざした。
「召喚! 風の精霊!」
 まどかの呼び掛けに応えるように、緑色の風が辺りをおおった。
 泡立て器とボールを二つずつ用意し、それぞれ材料を入れる。
「攪拌をお願いするわ、風の精霊」
 すると緑色の風は電動ホイッパーのように材料をかき混ぜ始めた。まどかの頭上で三つのボールがせわしなく舞う。
「一体何をする気だい?」
 目を白黒させるQBへ、まどかは可愛らしくウィンクを飛ばす。
「時間があるから、もう一品作っちゃうの」
「無茶だ! 魔力が保たないし、時間も間に合わないよ!」
 いつの間にか両手にフライパンを握ったまどかは、自信満々に答えた。
「絶対に大丈夫! 召喚、火の精霊!」
 目の前に現れた炎の固まりにフライパンをかざす。瞬く間にフライパンへ熱が帯びたのを確認して、まどかは頭上に声を掛けた。
「風の精霊さん、よろしく」
 攪拌していたボールの一つから、ミルク色の生地がスゥと垂れた。
 右手のフライパンで受け止めたまどかは、それを円を描くよう均一に敷く。それと同時に生地の表面にブツブツと泡が立ったと思った瞬間、まどかはフライパンをサッと横にスライドさせた。
 くるりと宙を舞った生地は、焼き面を上にして左手のフライパンに着地する。そして着地したと思った矢先に再びポーンとフライパンから飛ばされ、側にあったお皿に乗った。
「スゴいよ、まどか! クレープ生地が一瞬で!」
 QBが驚いて歓声を上げる間に、右手のフライパンには既に次の生地が広がっていた。
 両手に握ったフライパンが真横に烈しく空を切る度に、生地が段々と完成していく。僅か五秒もしない間に、クレープ生地はこんもりと山を作った。
「よし、あとはホイップクリームを層にして完成よ」
 クルッと体を回転させながら、フライパンをイカ悪魔に投げつける。熱々のフライパンに身悶えながら、イカ悪魔は地面を転げ回った。
 その間にまどかはクレープとホイップクリームを層にし、半球型になったそれの表面にメイプルシロップでコーティングした。
 四分の一に切り分けて、皿に盛りミントを飾る。
「よしっ! ミルクレープの完成よ!」
 それと同時にQBの後ろのオーブンからアラームが鳴る。
「まどか! こっちも焼き上がったよ!」
「オッケー。Qちゃん、投げてちょうだい」
 鍋つかみをはめてQBは、ふんわりと甘い香りがするスポンジケーキをまどかに投げた。
 瞳を閉じてダラリと腕を垂らすまどか。その両手にはナイフが握られている。
 スポンジケーキがまどかの顔面に直撃する刹那、ナイフが烈しく閃いた。
 キレイに賽の目型に切られたスポンジケーキを、ガラス容器が受け止める。まどかはそこにビンに入った茶色の液体を振り掛けた。
「アマレットリキュールを煮詰めたシロップを浸して、その上にさっきのチーズクリームを流し込んで……」
 トロリと満たされたクリームをへらで丁寧に均す。
「ココアパウダーでコーティングして、オレンジピールとチョコ細工をあしらえば……ティラミスの完成よ!」
 ピースサインを決めたまどかにQBが発破をかける。
「まどか! 早く対象者を助けるんだ! 悪魔が暴走しようとしている!」
 イカ悪魔が見る見るうちに真っ赤へ変色していく。触手が怒り狂ったように地面を叩いた。
「よしっ。いま、助けてあげるから」
 両手に完成したデザートを持ったまどかは地を蹴ってイカ悪魔に向かった。
 触手の斬撃をひらりとかわし、敵の懐に潜り込む。そして牙がびっしりと生えた口の中にティラミスを放り込んだ。
 その途端、イカ悪魔の動きが急に鈍くなる。地なりのような唸り声を上げながら小刻みに震える。そしてイカ悪魔の腹部に、女性の顔の輪郭が浮かんだ。
「もう一押し!」
 ミルクレープを口に入れるまどか。するとイカ悪魔は断末魔の叫びを上げて霧散していった。
「ふぅ~。終わった終わった」
 イカ悪魔が消えた代わりに、一人の女性が横たわっていた。どうやら気絶しているだけらしい。
「今日も一件落着だね」
 トコトコと歩み寄ってきたQBに満面の笑みを浮かべるまどか。しかしQBは頬を膨らませて苦言を呈した。
「全然落着じゃないよ。まずは精霊の力を使いすぎ。そんなんじゃ長期戦の時に魔力不足になっちゃうよ」
 ペロッと舌を出すまどかにQBは溜め息を吐く。
「それにスポンジケーキなんてわざわざ焼かなくても、材料で召還すればいいじゃないか。あれでまた時間が取られちゃうんだよ」
「ティラミス用のスポンジケーキは手作りしないと味が整わないの。それにミルクレープを作る時間も出来たから万々歳じゃない。ティラミスだけでは悪魔祓いは難しいかったわよ」
 ごもっともな意見だが、QBはやれやれと首を振った。そんな手厳しい使い魔に、まどかは無邪気にピースサインを送る。

 真木まどかは、私立女子高に通うごく普通の女の子だった。
 料理研究部の副部長を務める、明るいだけが取り柄の女の子だった。
 そう、使い魔のQBに出会うその日までは。

 QBに初めて会ったその日、まどかは放課後に一人で家庭科室にいた。
 シュー生地をオーブンの天板に絞っていると、気付けば目の前に一匹の白猫がいたのである。
 どこかの窓から入ってきたのだろうか、と思ったが、まどかはその猫を見つめて不思議に感じた。
 額に大きく赤い宝石が嵌められていたのである。
 近所の子供のイタズラだろうかと訝しんだ矢先、その白猫は口を開いて喋ったのである。
「ねぇキミ、僕と契約して魔法パティシエになってよ」
 驚愕のあまりに尻餅をついたまどか。それからは10分ほど、逃げ惑うまどかを説得しようと追い掛けるQBにと、家庭科室は大混乱になった。
「それで……私が作ったデザートで悪魔祓いが出来るのね」
 ようやく落ち着いたまどかは、冷静にQBを見つめる。乱れた毛並みを整えながらQBは話を進めた。
「そうさ。僕が追っている悪魔は思春期の多感な時期の女の子に取り憑くんだ。そして不安定な心を乗っ取り、夢や希望といった養分を吸い尽くすのさ」
「でも、なんでデザートが利くの?」
「悪魔は甘い物が嫌いだからね。それに美味しいデザートであればあるほど、女の子の心を刺激して悪魔から救いやすくなるのさ」
 ふむ、と腕を組むまどかだったが、その表情にはまだ躊躇いがある。QBはまどかに歩み寄ると、とっておきの情報を教えるように声を潜めた。
「魔法パティシエになればね、いくらでも材料を使ってもよくなるよ」
「え。本当に?」
「うん。君の思うがままにどんな材料でも手元に現れるよ。さらにはキッチングッズだって何でもOK。水道橋の老舗屋さん並みに各種取り揃えているよ。調理器具 だって同様さ。コンロにオーブン、フライヤーにサラマンダー。高級ホテルの厨房で使用しているものだって用意できるよ」
「ス、スチームコンベクションは?」
「お安いご用さ。さらには精霊を召喚すれば、魔法で君のお手伝いをしてくれるよ。あぁ、洗い物や後片付けは全部ボクがやるから、君は気にせず調理に専念してくれ。ジャンジャン汚してくれて構わないよ」
「やります。いえ、やらして下さい」
 QBに土下座して懇願するまどか。
(うわぁ、土下座までしちゃったよ。そこまで魅力的なんだ、魔法パティシエが)
 本来ならお願いする立場のQBから引かれつつも、こうしてまどかは魔法パティシエになったのである。


 まどかが魔法パティシエになってから3ヶ月が過ぎた。
 その日もまどかは一人で放課後の部活動に勤しんでいた。
 元より料理研究部の部員は二人しかいない。もう一人は今日も学校を休んだ。
 まどかは溜め息を吐きながら調理をする。窓から差す夕陽が、孤独に包まれた家庭科室を朱く染めた。
 その窓がスゥと開き、一匹の白猫が入ってきた。
「まどか、新しい悪魔を見つけたよ」
 相棒の言葉にまどかは目の色を変える。そしてエプロンを外すと、短く呪文を唱えた。
 制服姿から瞬時にコックコートに衣装チェンジする。フリフリピンクがあしらわれたコックコートこそ、魔法パティシエまどかの戦闘服である。
 QBが窓からジャンプするのに続いて、まどかも軽やかに窓のサンに足を掛けると跳躍した。
 風の精霊の力を使って家々の屋根を駆けていく二人。
「今度の悪魔はちょっと手強いよ。なんせ呪縛タイプだからね」
「呪縛タイプ?」
「そうさ。まぁ、見てもらった方が早いね」
 QBを先導にして目的地へと向かう。そして目指す場所に着いた時、まどかは息を飲んだ。
「この家の住人だよ」
「ここって、さやかちゃんの……」
 美貴さやか。まどかの大親友でもう一人の料理研究部員、部長のさやかの家だったのである。
 まどかは唇を噛み締める。そして扉を開き、さやかの部屋へ入った。
 カーテンも閉め切った薄暗い部屋に、一つだけ明かりが見える。ノートパソコンの液晶画面だった。
 虚ろな目をしたさやかはパソコンを前にして微動だにしない。
「さやかちゃん! 私だよ、まどかだよ!」
 親友の呼び掛けにもさやかは全く反応しない。魂がこもっていない人形のようだ。
「無理だよ。これが呪縛タイプの悪魔の特徴さ。ごらん、このパソコンを」
 QBが顎でしゃくったパソコンを注意深く観察すると、黒いモヤが覆っていた。そしてそのモヤは、さやかの指や頭にも絡み付いている。
「この呪縛悪魔は元々、パソコンに寄生していたようだね。そしてパソコンに触れた対象者の心の奥底に少しずつ入り込み、黒い根を張り巡らせて養分を吸収するんだ。対象者を悪魔にしてしまう今までの奴らよりタチが悪いよ」
 そしてQBは尻尾をさやかの目の前でヒラヒラと振った。
「この通り、対象者が全然反応してくれないからね。デザートを食べてくれるかどうか」
 スゥと息を吸い込んで深呼吸をする。まどかは両手を開き、風の精霊を召喚した。
「でもきっと、美味しいデザートが目の前にあれば反応するはず」
「そうだね。まどかの強い思いがこの女の子に届けばいい」
「……さやかちゃん、待っていてね。私が絶対に助けてあげるから」
 まどかが両手をスライドさせると、キッチングッズが舞うように現れた。
「Qちゃん! フルスロットルでいくよ! 調理器具を全部出して!」
「うん!」
 まどかに呼応してQBは調理器具をズラリと並べてオーブンを余熱状態に設定する。
「いくよ!」
 キッチングッズに合わせてフルーツや卵、小麦粉や牛乳などの材料が渦を巻く。
 まどかの怒涛の調理が始まった。

 美貴さやかの周りに積まれたデザートの数々。
 ショートケーキ、モンブラン、ガトーショコラ、苺ムース、キャラメルタルト、マカロン、フルーツカクテルジュレ、アップルパイ、フルーツパフェ、バタービスケッツ、チョコクッキー。プリンアラモード、桃のコンポート、ババロア、シュークリーム。
 しかし、そのどれもが闇に巣喰われたさやかの琴線に触れることはなかった。
 がくりと崩れるように膝をつくまどか。
「まどか! 大丈夫かい!」
「……平気よ」
 途切れそうな気力を振り絞って答える。
「平気なものか! 精霊の力を酷使し過ぎて魔力が尽きたんだ! だから言ったはずさ! スポンジとかは作らずに材料で召喚すれば良かったのに!」
 歯を食いしばりながら、まどかは首を横にする。
「ダメ。丁寧に調理しなきゃ、さやかちゃんの心には届かない」
 まどかは思い出していた。最後にさやかと会ったあの時を。
 高校生料理コンテストの決勝トーナメントを。

 まどかとさやかは学校対抗の料理コンテストに参加し、見事決勝トーナメントへ進出した。
 制限時間30分でデザートを一品完成させる。二人は順調に調理していた。
 だがその時、さやかは致命的なミスを犯す。小麦粉とベーキングパウダーを間違って使用したのだ。
 結局、調理は失敗。二人は採点対象外として失格になった。
「それ以来、さやかちゃんは落ち込んで学校にも来なくなっちゃった。私はずっと一人で、さやかちゃんのことを家庭科室で待っていたの」
「なるほどね。そんな気持ちを悪魔に憑け入れられたんだね」
 まどかはムクリと立ち上がる。そして傍らに置かれた電子レンジを持ち上げると、よろよろとさやかへ歩み寄った。
「私、絶対にさやかちゃんを助けたい。どんな方法であろうとも」
「ど、どうしたんだい。何を作る気だ、まどか」
 目を丸くするQBに、まどかは弱々しく微笑んだ。
「違うよ、Qちゃん。作るんじゃなくて、壊すんだよ」
 そう言うとまどかは電子レンジを振り上げた。
「せいやっ!」
 ノートパソコンに電子レンジを叩き落とした。派手な破壊音と共に砕け散るパソコン。
 すると、さやかを覆っていた黒いモヤが霧散していき、さやかの瞳に光が宿った。
「あ、あれ。私は一体……。それに何でこんなにデザートが。うわっ! まどか! いつからそこにいたの?」
 目を白黒させたさやかに抱きつくまどか。
「やった! 正気に戻ったんだね、さやかちゃん! ずっと悪魔に憑かれていたんだよ!」
「そうだったんだ! 助けてくれてありがとう! そして心配かけてごめんね!」
「うぅん! また二人で一緒に部活をしようね!」
 涙を流しながら抱き合う二人。離れ離れになった絆が、今こうして結び直されたのである。

 だが、そんな二人を茫然と眺めながら、これまでの幾多に渡る闘いを全否定された気分のQBは、絶望感に打ちのめされながら呟いたのである。
「こんなの、絶対おかしいよ……」

 おわり


 お題提供・ドラゴンは爆弾要員です、すばるん。Thanks!
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22:21  |  三題噺  |  CM(0)  |  EDIT   このページの上へ

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