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2011'11.10 (Thu)

「テレビ・迷路・味噌汁」

お題「テレビ・迷路・味噌汁」

テレビを眺めながら、ぼんやりと朝飯を食っていた。
昨晩は遅くまでゲームをしていたので、気だるくて仕方がない。俺は食欲も湧かず、白米をつついていた。
「昨日も勉強せんと、遅くまで遊んでいたんだろ。早くご飯食べて学校に行きな」
小言と一緒に味噌汁を俺の前に置く母ちゃん。俺は返事をせずに味噌汁を啜りながらテレビを見た。
『さぁ!二人は無事に迷路をくぐり抜け、食材を集めることが出来るでしょうか!』
朝も早くからバラエティー番組である。またしょうもない内容だと思いながら、俺は飯を食った。
アイドルの里中アキとチャラ芸人の速水もこなりが迷路を進み、途中でクイズを答えながら食材を集めるという内容である。
『集めた食材はイケメン料理人の山越シェフに調理して頂きます!山越シェフ、今日も得意のイタリアンで仕上げますか?』
『う~ん、トルコ風で』
『はい、ありがとうございました!山越シェフのドヤ顔も決まったところで、早速スタート!』
トルコ風ってどんなだよ。てか毎週観てるが、一度もイタリアン作ったことないじゃねぇか。
番組の低レベルさに鼻白みながら、俺は漬け物をおかずに白米を掻き込んだ。
『ゲット出来る食材はワカメです!里中さんに問題!五月は何日間?』
『えっと、31日間!』
『正解です!』
『ゲット出来る食材はゴボウです!速水さんに問題!アメリカの首都は?』
『ハワイに決まってるっしょ!』
『不正解です!』
次々と問題にチャレンジしていく二人。里中アキは清純派アイドルの見た目に違わず、スラスラと問題を解いていく。
もこなりは……まぁ、見た目に違わずだな。
『ゲット出来る食材はジャガイモです!里中さんに問題!辞書を英語で言うと?』
『ディクショナリー!』
『正解です!』
『ゲット出来る食材は長ネギです!速水さんに問題!牛を英語で言うと?』
『超ビーフっす!』
『不正解です!ビーフは牛肉です!牛はカウです!』
『げっ!ひっかけっすか!超ありえねぇっす!てか、カウって何すか?』
俺は心の中でアキちゃんを応援しながら、もこなりの馬鹿さ加減に呆れる。アキちゃんの足を引っ張るな、チャラ男。
画面は司会と山越シェフに切り替わる。
『さて、現在の食材はワカメとジャガイモです。季節に合わせて秋の食材も欲しいところですね、山越シェフ』
『トルコはあまり四季がないんで関係ないですね』
『ごもっともです。山越シェフのドヤ顔も冴え渡ってきたところで、迷路で活躍する二人はどんな状況でしょうか』
ちょっとイラついた司会の表情がおかしかったが、俺はふと不思議に感じて箸を止めた。
そして味噌汁の中をマジマジ見つめる。
黄土色の汁に浮かぶ具材が、偶然にもワカメとジャガイモだったのだ。
首を傾げながらも味噌汁を啜りジャガイモを頬ばる。まあ、味噌汁ではスタンダードな具材だから気にするほどでもないか。
『ゲット出来る食材は蒸しエビです!里中さんに問題!唐辛子の辛み成分を何という?』
『たしか、カプサイシン!』
『正解です!』
『ゲット出来る食材は鶏もも肉です!速水さんに問題!数の子は何の魚の卵?』
『カズっす!』
『不正解です!カズなんて魚はいません!』
味噌汁を突っつきながら俺は声を上げて笑った。
「カズってなんだよ。こいつ、本気でバカだ。なぁ母ちゃん、今の聞いた?」
「うるさいねぇ。早く飯食って学校に行きな」
「はいはい。……ん?」
口に運びかけた箸を止める。思わず二度見してしまった。
「なぁ、母ちゃん」
「なんだい。早く飯食って学校に行きな」
「味噌汁の中に蒸しエビを入れた?」
それは味噌汁の中に入っているにはいささか異色を放っていた。赤い蒸しエビが、味噌汁の奥に隠れていたのである。
「知らないよ。早く飯食って学校に行きな」
蒸しエビは身がプリプリしていて美味しかった。そしてテレビをマジマジと見つめる。
なんでさっきから、正解した食材が味噌汁の具材と被っているんだ?
俺はテレビから目が離せなくなった。
『ゲット出来る食材は牡蠣です!里中さんに問題!ローマの休日の主演女優の名前は?』
『オードリー・ヘップバーンさん!私、大ファンなんです!』
『もちろん正解です!』
『ゲット出来る食材はサザエです!速水さんに問題!ロッキーの主演男優は?』
『俺、マジ大ファンっす!シルベスタスタスタローンっしょ!』
『不正解です!スタが一個多い!』
恐る恐る味噌汁の中をすくってみる。そして箸が捉えた具材に、体が震えた。
牡蠣だった。
食べてみると果てしなく美味い。さすがは海のミルクと誉れ高い牡蠣。濃厚なエキスが口いっぱいに広がっていく。
「夏に日本海沿岸で穫れる岩ガキもたまらない味わい深さがあるんだよな……って、違う違う!一体どういうことだよ!この味噌汁、テレビと四次元ポケットで繋がってんのかよ!母ちゃん!なぁ、母ちゃん!」
流し台に向かって洗い物をしていた母ちゃんにしがみつく。
「母ちゃん、こりゃどういうことだ!ドッキリか?素人参加型のドッキリ企画か?」
不機嫌そうに振り返った母ちゃんは、前ぶりもなくビンタをかました。
「早く飯食って学校に行きな」
洗い物の途中だったので、ビチャビチャの手でされたビンタは、濡れたやら痛いやらで実に複雑だった。
俺は袖で頬を拭き、食卓のイスに座った。
母ちゃんは駄目だ。さっきから同じことしか言わない。お前はドラクエの村人Aか。
底の見えない黄土色の液体がとてつもなく不気味だった。この何の変哲もない味噌汁椀が、異次元に続く扉に思えてきた。
とにかく、今はテレビを見るしかない。
『ゲット出来る食材は松茸です!里中さんに問題!徳川初代将軍、家康の幼少期の名前は?』
『竹千代!』
『正解です!よく分かりましたね』
『私、実は歴女なんです』
『なるほど!さて続きまして、ゲット出来る食材は舞茸です!速水さんに問題です!本能寺の変で下剋上された武将は?』
『織田裕二っす!サムバリトゥナイトっす!』
『不正解です!レインボーブリッジは封鎖されません!』
急いで味噌汁の中を探す。
あった!松茸キター!ありがとう、アキちゃん!
早速食べてみる。松茸特有の芳香に脳みそが溶けそうだ。
『山越シェフ、ようやく秋の食材がきましたね』
『ぶっちゃけ舞茸のが良かったかな。松茸の香りってトルコ料理と相性悪いんですよね』
『なるほど。ありがとうございます、当番組の食材監修も務めた山越シェフ』
ピリピリしたムードの司会から、画面は回答者の二人に切り替わる。
迷路をあっちこっち進んでいくアキちゃんに馬鹿なもこなり。やはり、間違いなくこの番組で正解した食材が味噌汁の中に現れるようだ。朝から味噌汁に松茸が入っているほど、我が家のエンゲル係数は狂乱していない。
『ゲット出来る食材はタラバガニです!里中さんに問題!太陽が空を巡る軌道を黄道といいますが、月の軌道をなんという?』
これは難しいがタラバガニは魅力的だ。アキちゃん、是非とも頑張ってほしい。
『月、ですか。えっと分かりません』
『残念!正解は白道でした!』
ガッカリと肩を落とすアキちゃん。ああ、今すぐ慰めて抱きしめてあげたい。
『ゲット出来る食材は大トロです!速水さん、問題です!アンドロメダ座を構成する星の中で一番明るい星をなんという?』
まさかもこなりに分かるはずもない。それに万が一当たったとしても大トロはいいや。
『アルフェラッツっす』
『不正……え?正解です!』
マジでかー!
『俺、天体マニアっす』
変なとこで博識になるな!バカはバカのままでいろ!
味噌汁を覗き込んでガッカリする。ピンク色の切り身が、脂と共にプカッと浮いてきた。
大トロを口に含んで、さらに後悔する。味噌汁で微妙に温まった切り身が生臭さと食感の悪さを引き立てる。さらには味噌汁の表面に浮いた脂が汁全体を侵した。
『俺、トロって魚が大好きなんすよ。何気にマグロに似てますよね』
『似ているというかマグロです。トロという魚はいません』
もう、この摩訶不思議な朝食に付き合っているのも疲れてきた。美味しいのは美味しかったが、胃の中が気持ち悪くなってきた。
俺は味噌汁をジッと見つめる。そして意を決して飲み干した。
味噌汁が原因なら無くしてしまえばいい。訳の分からない食材を食べるのにも、おさらばだ。
空になったお椀を食卓に置いて一息つく。さて、あとは歯を磨いて学校に行くとするか。
しかし、そのお椀を母ちゃんが回収する。そしてまた味噌汁をなみなみと注ぐと、静かに俺の前に置いた。
驚愕に顔を上げる。母ちゃんはグッと親指を立てると、ダンディーな笑顔を見せた。
「早く飯食って学校に行きな」
こんのブスぅぁぁあああぁぁ!
また足したら学校に行けねえじゃないか!ふざけんな!
なんで母ちゃんという生き物は常に矛盾を帯びているのだろうか。怒りよりも悲しくなってきたぞ。
俺の嘆きなどつゆ知らず、番組は進行していく。
『ゲット出来る食材はトンカツです!里中さん、問題です!え、トンカツ?なんで?』
『トンカツ、ですか?』
それ、食材じゃなくね?読み上げていたアナウンサーも素になっていたぞ。
『あ、あの山越シェフ。トンカツは食材には入らないのでは?』
思わず画面の端から司会者が口を挟む。
『は?食材でしょ。カツ丼作るにはトンカツが必要でしょうが』
『まぁ、そういう理屈ならば……』
『だってトルコ風カツ丼作るのに必要でしょ』
は……?
『こちら、しばらく中継を繋げなくするので、里中さんに速水さん頑張って下さい』
そういう言うと司会者は上着を脱いだ。そこで画面が途切れてしまった。
『え、えーと。それでは気を取り直して問題いきましょうか、問題。1+1は?……なんじゃこりゃ』
山越め、確実にトルコ風カツ丼を作るつもりでいやがる。ここまでヤラセだと逆に清々しいぞ。
『……2です』
『はい、正解です』
テンションがガタ落ちながらも、きちんと笑顔で答えるアキちゃん。君はアイドルの鏡だよ。一生応援するよ。
そして目の前の味噌汁にプカーと浮かぶトンカツ。もう、絶対に食わん。
『次の食材は卵です。速水さんに問題。3×7は?』
今までの過程はなんだったのかと言いたくなるような問題だ。最早視聴者の大半はチャンネルを変えただろう展開なのに、もこなりは腕を組んで唸っている。
『やべっ。俺、三の段が苦手なんすよね。さんしち、さんしち……にじゅうしち!27っす!』
『よっしゃ!不正解です!』
山越ざまぁ!貴様のドヤ顔は一人のバカによって遮られたのだ!単なるトンカツに決定!松茸風味のトンカツでも作りやがれ!
そこでチャイムがなった。どうやら今ので最終問題だったらしい。
『パーソナルチョイスの時間になりました!最後の問題は二人同時にフリップへ書いてもらいます!そして正解した方の食材を山越シェフに調理して貰いましょう!』
画面が司会者席に切り替わる。乱れたセットの真ん中にポツンと座る山越。
右目に大きな青あざを付けてドヤ顔で言った。
「山越イリュージョンでなんとかします」
いや、なんとかならんだろ。
アキちゃんが勝てばなんら問題はない。ただし万が一、もこなりが勝ってしまったら、食材は大トロだけだ。
刺身以外にどうにも出来んだろ。
『それでは最後の問題です!有名な赤レンガ倉庫のある地区は何県でしょうか?さあ、一斉にお書きください!』
さらさらとフリップに答えを書く二人。ここはもこなり、ちゃんと空気を読めよ。
『出来たようですね!それでは同時にオープン!』
アキちゃんの答えにカメラが寄る。答えは当然ながら『神奈川県』。
そして次にもこなりの答えが映った。
その瞬間、視聴者も番組スタッフも山越シェフも、みんなの心が一つになったはずだ。
『速水さんの答えは「横浜軒」!色々と違います!よって勝者は里中アキさん!』
ファンファーレが鳴り響き、紙吹雪がアキちゃんに舞う。そして対照的にもこなりは足元の床がパカッと開くと、そのまま落ちていった。
ああ、これで良かったのだ。様々なことがあったが、これでやっと味噌汁から解放される。
そう安堵の溜め息を吐いた瞬間だった。
味噌汁が爆発したように吹き上がる。驚いて椅子から転げ落ちたが、味噌汁から出てきたそれを見て、ますます腰が抜けそうになった。
速水もこなりだった。
味噌汁で顔を濡らし、頭にトンカツを乗せたもこなり。キョロキョロとうちの台所を見渡すと、不思議そうに首を傾げた。
俺はガクガク震えて母ちゃんにしがみついた。
「か、母ちゃん!もこなりだ!もこなりが出てきた!」
しかし母ちゃんはまたもやノーモーションでビチャパンビンタをかます。
「早く飯食って学校に行きな!」
そして何故か、もこなりにもビチャパンをお見舞いする。
「あんたも早く学校に行きな!」
頬に赤い紅葉を咲かせたもこなり。釈然としない顔をしながらも、俺に手を差し出してきた。
「やあキミ、僕のファン?サインあげようか」
「絶対いらね」

おわり

お題提供・キノコを愛でる麗人、てとらん。Thanks!


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21:54  |  三題噺  |  CM(0)  |  EDIT   このページの上へ

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