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2011'10.29 (Sat)

ペッカ・ドラゴン・ペンギン

お題「ペッカ・ドラゴン・ペンギン」

『ペッカを求め、ペッカに従いなさい』
しんだ僕のおかあさんがいった言葉だ。
ペッカが一体どういう意味なのかわからない。物だろうか、人だろうか、場所だろうか。
僕はそのペッカをさがす旅をしている。ペッカのほんとうの意味をしることが、いまの僕の目標だ。

遠くからペタペタとあるいてくる音をきいて、僕はかおを上げた。
「トゥバンくん、大発見だよ!」
チノリピオーくんのはずんだ声に、僕もおもわずガバッと体をおこした。
その拍子にたたんでいた翼も大きく広げてしまって、ペンギンのチノリピオーくんが風で後ろにころがってしまった。
「あ、ごめん!大丈夫かい、チノリピオーくん」
「もうトゥバンくんは。君は時々、自分がドラゴンということを忘れてしまっているよね。僕はいつもハラハラさ。こないだもそうだったね。コリブ渓谷に行ったときさ」
短い左手でこしをさすりながら、チノリピオーくんは僕にお説教をする。僕は首をすくめて大人しくきいた。
この子が僕といっしょに旅をしているチノリピオーくんだ。
僕の爪先くらいのおおきさしかないペンギンだけど、僕よりもたくさん色んなことを知っている。
旅の途中でしりあったのだけど、チノリピオーくんは将来、学者さんになりたいらしい。だから勉強のために、いっしょにペッカを探してくれるといってくれたんだ。
いまではすっかり、僕の大親友だ。

「それでチノリピオーくん、大発見ってなに?」
よく動くクチバシを見つめながら僕は訊ねる。まだ言い足りない様子だったけど、チノリピオーくんは咳払いをしてお説教をやめた。
「ここから少し行った街にね、有名な教授がいるんだ。僕と同じペンギンの種族だけど、とても優秀なお方さ」
「きょうじゅ?」
「あぁ。ペッカの研究をしている第一人者さ」
僕は嬉しさのあまり興奮して、足を踏み鳴らした。そのせいで地面が揺らいで、チノリピオーくんはアワアワと転げ回った。
「ちょ!トゥバンくん!落ち着いて!あ、痛!」
チノリピオーくんの声で僕はハッと我にかえる。気付けば地面のあちこちに地割れができていた。
「君は本当にドラゴンだという自覚がないな!いや、ドラゴンそのものだよ!感情で行動し過ぎ!」
倒れたままプンスカ怒るチノリピオーくん。僕はシュンとうなだれながら、目の前の親友をジッと見つめていた。
ムチムチと健康的な腿やよく張ったムネ肉。おもわずゴクリとのどが鳴る。
感情で行動っていうけど、僕だって結構がまんしているんだけどな。
チノリピオーくんといっしょ歩いていると、みんな不思議そうな顔をするんだ。
からだの大きさとかじゃなくて、種族が違うからとかじゃなくて。
前にたまたま森で出会った僕の友達ドラゴンが、何も言わずチノリピオーくんに噛みつこうとした。
怒って尻尾で叩きとばしたけど、その友達はすごくビックリしていた。そしてこんなことを言ったんだ。
『悪い悪い。お前の飯だったか』
僕にとってチノリピオーくんは親友だ。彼がペンギンで僕がドラゴンなんて関係ない。僕達はずっといっしょにいるんだ。
「ちょっとトゥバンくん。聴いているのかい?また頭の中が大空を駆け巡っているよ」
後ろ足をクチバシで突っつかれてハッとする。
「あ、うん。ごめん」
僕は無理矢理に牙を見せて、苦笑いをした。
そうだ。チノリピオーくんは親友だ。
だから彼を見て、美味しそうとか思ってはいけないんだ。

それから僕達はどうでもいい話をしながら待った。
その教授さんが、なんと僕に会うためここまで来てくれるらしい。
僕は街中までいくとみんなを驚かせてしまうから。しんせつな教授さんだ。
しばらくすると、ペタペタという足音と共にメガネをクチバシの上にのせたペンギンがやってきた。
「ほほう。これはなかなか立派なドラゴンだ」
僕をみあげながらそのペンギンはいった。
「は、はじめまして。トゥバンっていいます」
僕からすこし距離をあけてジロジロ見つめる教授さん。こっちは緊張で、尻尾をブンブンと振るしかなかった。
「あなたは、ペッカの意味を知らないそうな」
「は、はい!そうです!」
「トゥバンくんのお母さんがね、亡くなる前にペッカを求め従えと言葉を残したのさ。だから彼はペッカの意味を探してずっと旅をしていたんだ」
「う、うん!」
緊張のあまり、口からファイアブレスを吐かないようがまんするのが精一杯な僕のかわりに、チノリピオーくんが助けぶねをだしてくれた。
嬉しくて顔を向けると、チノリピオーくんは軽くウィンクをした。
「それで教授、ペッカとは一体なんでしょうか?物?人?場所?」
僕がきくより先にチノリピオーくんはきく。すると教授はメガネの奥にある小さな目をとじて、首をふった。
「どれも違う。ペッカとはそういう具体的なものではない」
「では、一体……」
「いうなれば、ドラゴンであるがための矜持……プライドかの。ペッカとは、常に己の魂を試す行為を意味する」
話がチンプンカンプンだ。教授さんの難しい言葉に頭がグルグルする。
「プライドを試す行為とはなんだい?そもそもそれはドラゴンとして、必ずしなければいけないのかな」
頭が悪い僕にかわってチノリピオーくんが話を進めてくれる。
「必ずしもすることはない。ただし……」
そこで教授さんは片目だけ開けて、まっすぐ僕を見た。
「心にやましいことがあるならば、気高きドラゴンとしてペッカを試さなくてはならん」
ドキッとした。心臓が驚いたときみたいにバクバクいっている。
「ドラゴンとはこの世で最も優れた種族。それは屈強な力を有するがためでなく、誇り高き魂を数百年に渡り保ち続けるからという。故に己の心にやましいことや卑しい気持ちがあるときには、自らの心臓でもある頭の角に賭けなくてはならない」
「頭の、角に?」
「そう。角を真下に、宙より地上に向けて落下をするのじゃ」
その場面を想像しただけで心臓がとまりそうになる。頭から生えた角が折れてしまったら、僕達ドラゴンは死んじゃうんだから!
「ただし、いやしい魂に打ち勝つ気持ちの強さがあるならば、角は折れず更に強大な力を得るであると伝え聞く」
そう言うと、教授さんはまた目を閉じた。それまでだまって話をきいていたチノリピオーくんは、急にわらいだした。
「なんだ、ペッカってそんなものだったとは!なんだか拍子抜けだよ!トゥバンくん、どうやら君には全く関係ないものだったようだよ。だって君は誇り高いドラゴンだ。ペッカを試さなければいけないほど、やましいことなんてないだろう?」
両手をパタパタさせながら笑顔をむけるチノリピオーくん。でもその笑顔がくもったのを見て、僕は目をそらした。
「まさか君ほどのドラゴンが……。悪い冗談なら止めなよ。僕はそんな情けない顔をする君なんて見たくない」
胸がくるしかった。
チノリピオーくんがガッカリして僕をみつめる。僕は一番やましいと思われたくない相手に、やましさを持っているんだから。
君を食べてしまいたい、だなんて。親友失格だ。
僕はおおきく翼をひろげると、地面を蹴って浮上する。その風圧でチノリピオーくんと教授さんは、象四頭分くらいの距離ほど吹き飛ばされた。
「トゥバンくん!何をする気だい!」
「ペッカに決まっているよ!」
ぐんぐん上昇しながら僕はこたえた。地面ではまだチノリピオーくんがチャンチュン何か言っているけど、もうきこえない。
僕は雲の高さまでつくと、そのまま頭を下にして翼をたたんだ。
僕はきみの親友にふさわしいドラゴンになりたいんだ。やましい気持ちなんて持たずに、きみと向き合いたいんだ。
だから、この角を賭けてペッカをする。
僕の体はスピードをつけて、地上めがけて落ちていく。そして地面につくと思った瞬間、僕の目はチノリピオーくんをとらえた。
なぜだか、わからなかった。
チノリピオーくんは、笑っていた。


地面に墜落したドラゴンの衝撃は凄まじいものだった。
地球の一部が抉れるほどの爆発。次いで大地が震えるほうこうを放ち、ドラゴンはぐったりと横たわった。
その巨体が見る見るうちに生気を失い、岩肌にも近い頑丈なウロコは砂と化し崩れ落ちていく。
するとウロコばかりではなく、全身が砂となっていく。一分もしないうちに、その場には小高い砂山が築かれた。
俺はクチバシを歪め、声を出さずに笑った。
「こいつ、デザートドラゴンだったんだな。スカイドラゴンだと死ぬ瞬間に気体化すると聞く。デザートだけに砂かよ」
俺は間抜けなドラゴンの亡骸に歩み寄ると、前足で砂山を蹴り上げた。
「まんまと騙されやがった!なんて単細胞なんだ、ドラゴンってやつは!」
砂が宙に舞いキラキラと輝く。俺はそれが可笑しくて、何度も砂を蹴り上げた。
「まったく見上げた奴だよ、お前は。あのドラゴンを騙し殺すなんてな」
後ろにやってきた仲間ペンギンが呆れたように言う。
「お前だって大したものさ。ちゃんとそれらしく演技していたぜ、教授さんよ?」
「けっ、やめてくれ。目の前にドラゴンがいるってだけで心臓が縮み上がったぜ」
そう言ってそいつはクチバシの上に乗ったメガネを投げ捨てる。そしてさも愉快そうに言った。
「しかし、己を試すのがペッカってなんだよ。んなわけあるかっての。なんであのドラゴンは真に受けるんだろうな。相当にバカだろ」
爪先にこつりと何かが触れた。俺は足で砂をササッと掻き分けてそれを取り出す。
リンゴほどの大きさを持つ宝石だ。
「だよな。これが本物の『ペッカ』だっていうのに」
ドラゴンは死ぬと、亡骸と共に巨大な宝石を残すという。別名ドラゴンの心臓と呼ばれるコレこそが『ペッカ』なのだ。
俺はペッカを手の上で転がしながら、苦々しい記憶を思い出していた。
まだ小鳥だった頃、俺の母親はこのドラゴンから無慈悲に喰い殺された。
躊躇なく頭からぐしゃりと巨大な口に飲み込んでいくのを、俺は震えながら眺めていた。
「あいつは素知らぬ顔をしていたがな、俺のことを舌なめずりしながら横目で見ていたのに気付かないでいたと思ったか。肝を冷やすこともあったが、今回はそれを利用させてもらったんだよ」
反吐が出そうな友情ごっこが好きそうなあいつに、今までずっと合わせていたんだ。それもこれも、母親の復讐をするためだ。
あいつの心臓、ペッカをこの手中に納めたカタルシスに心が震える。
食物連鎖を覆してやった。俺は自らの力でドラゴンを殺してやったのだ。
「なあ、チノリピオー。そのペッカをどうするんだ?」
「売っ払うに決まっているだろ。ペッカに高値が付く話は有名だからな。久しぶりに新鮮なニシンを山ほど食いたいぜ。お前にも世話になったからな。一杯おごるさ。それともメスペンギンでも漁りに行くか?」
好色にクチバシを歪める仲間に、俺は不敵に笑って返してやる。
そして手元にある資金源に目を落とす。そこで俺は首を傾げた。
ペッカが少しずつだが、小さくなっている気がする。いや、よく見てみると段々と溶けているのだ。
「おいおい、なんだこりゃ」
宝石の表面が氷のように溶けていく。俺は慌ててもう片方の手を受け皿のようにしたが、濡れた感触は全くなかった。
溶けたペッカは滴り落ちるでもなく、俺の手の中に吸い込まれていく。第六感で危険を察知したときには既に遅かった。
体がムズムズするなと思うやいなや、腕や足の筋肉が膨れ上がっていく。そればかりか尖ったクチバシは横に裂け、牙がびっしりと生え揃う。飛ぶことを忘れた手羽は湖より広い翼に変わる。
気付けばじぶんの目線が、雲にとどくほど高くなっていた。
魂がなにかをせき立てる。なんだか、ひどくあばれたい気持ちだ。
あの森をおれのはきだす炎で焼きつくしてやりたい。
あの山をおれのしっぽで粉々にはかいしてやりたい。
そのまえに、はらがへった。
なにか、くうものはないか。
しんせんなにくが、くいたい。
なんだ。めのまえにペンギンがいるじゃないか。
ふるえてやがる。

くっていいよな。

おわり


お題提供・ギルマスのエバさん。Thanks!


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 | 2014年09月25日(木) 09:04 |  | コメント編集

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