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2008'04.07 (Mon)

「…ヨーグルトじゃない!…ケフィアだ!」 第四章


【More・・・】

NEW!更新日4月7日

誰かが隣にきた気配に気付き、僕は目を覚ました。
うっすらと目を開けると、そこにはサラサラの髪を掻き上げながら
心配そうな眼差しで僕を見下ろす友人がいた。
しばらく僕を見つめた後、安心したように顔を緩め、彼独特な物憂げな喋り口調で話しかけてきた。

「…体調は大丈夫?」

「あぁ、なんとか。」

僕は目覚めたばかりで朦朧とする頭を少しずつ動かし、これまでの事を思い出した。
たしか友人達と昼飯を食べていて、弁当の話からクラス分けの話になり、
何故か彼女の話に飛び火して、
クラスメートがはやし立て始めたら彼女が急に登校してきて、それから

「ーーーー!!」

瞬時に頭に血が昇り、毛穴という毛穴からドッと汗が吹き出してくるのがわかった。
多分、目を丸くして耳まで真っ赤になっているだろう僕の様子を眺め、友
人は肩を揺すって声無く笑った。

「…しかし、実に淡白な愛の告白だったな。」

そうだった。僕は彼女に愛の告白をされたのだ。
業務報告かゼミの講義のような告白だったが、それはそれで彼女らしい。
僕は倒れる直前の場面を思い出し、またもや心拍数が急上昇し軽い眩暈が襲ってきた。
それと同時に胸を締め付けるような痛みを感じていた。
嬉しいという気持ちが一定量を超えると、頭がオーバーヒートしてしまい、
何も考えられなくなってしまうらしい。
僕はあらゆる感情を超越して、
真っ白になった頭の中で彼女が最後に言った決定的なセリフを、ずっとリフレインしていた。
しかしそれも束の間、その後に起こったことを思い出し、僕は顔を歪め頭を両手で抱え込んだ。

「…でもお前があの無口っ子を大好きなのはわかるけどさ、告白されて気絶とか、無しだろ。」

そうなのだ。
僕は彼女から告白された後、極度の精神的負荷によりその場で気絶してしまったのだ。
なんとも情けなさ過ぎて自分の臆病さに絶望する。
それよりも、僕は彼女にとんでもない恥をかかせてしまった。
常々あまり僕のやることなすことに口を挟まない母が、唯一しつこいくらいに言うことが、
「女性に恥をかかせるな」だった。
何かトラウマでもあるのか知らないが、あのアッケラカンとしている母が真面目な顔で言うのだ。
よっぽど重要なことなのだろう。
僕は母の言葉を思い出し、ますます頭を抱えてしまった。
はじめは僕の百面相を見てニヤニヤ笑っていた友人は、
本気で落ち込み始めた僕を気の毒に思ったのか、
僕が気絶している間のことを静かに語ってくれた。


保健室を後にして昇降口に向かうと、夕陽をバックに彼女が待っていてくれた。
僕は曖昧な表情で手を挙げると、彼女は小さく頷いた。
僕が気絶をした直後、騒ぎを聞きつけた先生達が倒れた僕を担いで保健室に運んでくれた。
保健室に同行したのは、すぐ側にいた友人二人と驚いた表情のままフリーズした彼女。
保険医が僕の衣類を緩め、脈拍を計り瞳孔を確認して、
単なる一時的なショックによる気絶と診断を下すと一同安堵の溜め息をついたらしい。
そして事情聴取のため、友人の一人短髪の彼が担任に職員室に連れて行かれ、
保健室にはもう一人の友人と彼女だけ残った。
その時には既に元の無表情に戻っていた彼女だが、
始業のベルが鳴っても僕の側を離れなかったそうだ。
そして五時間目が終わり、自習を希望した友人が彼女と代わり六時間目は保健室にいてくれた。
教室に戻る前に友人が彼女に、何か言付けがあるか聞いたところ、
「放課後はいつも通りに」とだけ呟いたらしい。
そして、今に至る。
友人の話によると、彼女は怒っているわけでも失望している訳でもなさそうだったという。
「…あの無表情から感情を読み取ろうというほうが無理。」ということだが、
ただ「…お前が倒れた時に見せた表情には少し驚いたけど。」ということだった。

今、僕の目の前にいる彼女は本当にいつも通りの彼女で、
とても数時間前に僕に愛の告白をしたばかりという雰囲気は微塵も感じられない。
何を言うべきかどういった態度を取るべきか迷い、
顔を赤らめてもじもじする僕を数秒眺め、
彼女は首を傾げながら「行かないのですか?」と、問い掛けた。
急に語りかけてきた彼女に驚き、あひゃ!という間抜けな声を上げ
あたふたする僕を彼女はしばらく訝しげに見つめていた。
あまりに情けない姿の自分に心中で叱咤し、深呼吸を一つ付いて
内心どぎまぎしつつも態度だけは落ち着いたように振る舞い、
僕は「うん。行こうか。」と彼女を促した。

昇降口を抜け、駅に向かう道をいつも通りに肩を並べ歩く僕と彼女。
僕はやっぱり内心落ち着かず彼女の方を何度もチラチラ盗み見たが、
彼女は常と変わらず真っ直ぐ前を向き無表情で歩を進めている。
小柄だがピンと伸びた背筋、歩く度に柔らかく揺れる短いツインテール。
色白な肌にピンク色の唇、そして力強い瞳。
彼女を形作る全てが愛おしい。
恥ずかしい話だが、僕は今まで女の子から愛の告白を受けたことは一度もない。
自分から告白したこともない。
中学生時代にずっと好きな子はいたが何も出来なかった。
なので突然舞い込んできた本来ならば狂喜乱舞すべき事態が対処仕切れずにいる。
ここはやっぱり僕も彼女に愛を伝えるべきだろうか?
いや、考えるまでもない。
そうするべきだろう。
だけど、何て言えばいいのかさっぱり分からない。
ストレートに言った方が良いのか、
キザなセリフで攻めるべきか…。

「ごめんなさい。」

そうだ。
彼女はただ『恋をしている』と言っただけで付き合うとかは一言も言ってなかった。
だから今言ったようにフラれる可能性だってゼロではないのだ!
え?今、彼女は何て言った?

「あなたが倒れるほど体調が思わしくない状態だったことに気付かず
 長話を聞かせてしまい大変申し訳ない次第です。
 ただ私は懸念事項を解明出来たことが嬉しく早々にあなたにお伝えしたかったのです。」

一瞬ギクッとしたがなんて事はない。
彼女は恋をした自分に気付き居ても立ってもいられず僕に会いに来たらしい。
なんて可愛い事を言うんだろう!
恋の魔法は無愛想だった少女をどこまでも積極的にしてしまうらしい。

「しかしこれで今日からは心置きなく『ケフィア』の研究に専念出来ます。
 ご協力の程よろしくお願い致します。」

僕は思わず足を止めた。
自然と歩調を合わせて歩いていた彼女も足を止め、無表情のまま僕を見上げた。
…何かが違う気がする。
僕は一旦目を閉じて、今日彼女が僕に言ったことと、僕が知りうる彼女の性格を思い出していた。
そしてそのまま考えること10秒間。
僕はゆっくりと目を開き、もの凄く曖昧な表情で彼女を見た。

「ちょっと質問していいかな?」

「どうぞ。」

「その…今日、図書館で読んだ小説ってどんな内容?」

「主人公の女性がクラスメートの男性に恋をし悲喜交々の末に結ばれる、というストーリーでした。」

「なるほど。で、その主人公と心境が一緒だと感じ、
 その、なんていうか、ぼ…僕に恋をしたと思ったわけだ。」

自分で言ってしまうと実に恥ずかしいセリフだ。
しかし…違う。
そう、違うのだ。

「正確に言えば心境ではなく症状が酷似していたので。断定するに値すると判断しました。」

「その、一つ聞いていいかな?君は僕のこと、す…好き?」

「はい。
 研究を手助けして頂いておりますし食事の面では非常に感謝をしてますので
 嫌悪感を抱く材料は皆無でしょう。」

その言葉を聞いて僕は頭を抱え、その場にうずくまった。
彼女は少し驚いたのか、キョトンとした表情で僕を見ている。
つまりこういうことである。

『彼女は原因不明の病に侵された。
 不思議に思い自力で調べてみると、誰でもかかるような心的な風邪だった。
 なーんだ、安心した。
 さて原因もわかってスッキリしたし、研究を頑張りますか。』

…穴があったら入りたい。
そして浮かれまくっていた自分を小一時間ほど罵りたい。
彼女が僕に告げたのは愛の告白ではなく、報告なのだ。
何かがおかしいとは思っていた。
恋愛感情どころか一般的な人付き合いすらおざなりにしている彼女が、「恋をしました」だもんな。
彼女にしてみたら恋愛なんてものは麻疹のようなものなのだろう。

「まだ体調が優れないのですか?」

相変わらず抑揚のない声だが、無表情の中にも若干僕を気遣う色が見受けられる。
僕はそんな彼女をうずくまったまま見上げ、何事もなかったかのように立ち上がった。

「大丈夫!なんともないよ。さぁ、行こうか?」

「はい。」

馬鹿なのは僕の方だ。
大好きな彼女の隣にいて実験を手伝ったり、一緒に夕飯を食べたり出来るだけで充分じゃないか。
それ以上の何を望もうか。
それに手詰まりになった研究や論文の行方、期末テストなど、目の前に課題は山積みだ。
まずは一つ一つ解決していこう。

「…あのさ。」

「何でしょうか?」

「ケフィア菌のデバイスの解明、頑張ろうね!」

僕はワザと声を張り上げて、真っ直ぐ彼女を見た。
彼女は一瞬考えた後、ゆっくりと力強く頷いた。
それから僕と彼女はいつもより少し弾んだ足取りで駅までの道のりを歩いて行った。



色々あり過ぎたせいで僕の頭が正常に回っていなかったか、
それともただ単に僕が精神的にまだまだ幼稚だったのかわからない。
ただ、この時。
僕は一番大切な事実を見逃していた事を、後からになって改めて思い知る。

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08:23  |  「ヨーグルト…。…いいえ、ケフィアです!」  |  CM(4)  |  EDIT   このページの上へ

Comment

彼女は付き合って欲しいとかじゃなくて…ただ自分の気持ちを伝えたかったんじゃないかな?
同じような出来事、私にもあったな・・・それって相手にしてみたら迷惑だったのかな? と、今更ながら考えています。
う~ん…過去を振り返らない私が要人さんの小説を読み始めてから、やたら振り返ってる気がします。
ところで、彼が見逃していた大事な事実って何だろう? 気になります。

はい、私は美容師です。
どうにかここまでたどり着く事が出来、仕事の合間を見て読ませて頂いております。
要人さんの話が面白くて、ついつい事務仕事がおろそかに(汗)
何故気づいたのですか? 
夢 | 2008年08月05日(火) 17:46 | URL | コメント編集

>>夢さん
やっぱり当たった!!
えぇっとですね、何で分かったかと言うと・・・。
今度話します。来月髪切りに行くのでその時にでも♪

彼が見逃したことは最後まで読めば分かるです。
そんなに大したことではないです。
要人(かなめびと) | 2008年08月05日(火) 23:21 | URL | コメント編集

お久しぶりです^^
今までなかなか小説を読むどころか、コメントさえしに行けなかったのに、いつもコメントしていただき、ありがとうございます。

あまりに久しぶりだったので、前回までの内容を一つ一つ思い出しながら読みました!
結局、告白したのではなくて、恋をしたという報告だったのですか(汗)
一風変わっている彼女とのストーリーはこの先も楽しみです♪

最後になりますが……
応援ポチッ★
桜輔 | 2008年12月04日(木) 17:03 | URL | コメント編集

>>桜輔さん
お久しぶりです♪
学生さんは勉強に部活に学校行事に忙しい身分ですから。
それでも時間を割いてきて下さってありがとうございます♪
ここからさらにストーリーが二転三転しますのでお楽しみに。
応援ありがとうございます!
要人(かなめびと) | 2008年12月05日(金) 06:10 | URL | コメント編集

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