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2008'03.31 (Mon)

「…ヨーグルトじゃない!…ケフィアだ!」 第三章


【More・・・】

年が明けて、年中は鳴りを潜めていた雪が元旦からぼた雪となって降り始め、
初詣に訪れた参拝客は肩や頭に積もった雪を鬱陶しげに払いながら、賀詞を交換していた。
二学期が終わり、三学期が始まるまでの年を跨いだ短い冬休み。
僕と彼女は、夏休み同様に研究所に籠もった。
夏休みの時には、彼女曰わく「確認作業」のような実験に明け暮れたが、
今回は以前とは少し毛色が違った。
夏休み中に行った実験は、僕の中にある醗酵抑制因子の無限増殖と、
突発性過醗酵エネルギーの検証とエネルギー還元調整が主だった。
それらの実験は、彼女のお父さんが礎を築き、
彼女の頭脳の中で最終形態に完成していた突発性過醗酵エネルギー、
通称『ケフィア』を具体化するための実験だった。
つまり、実験の正当性を検証するための実験である。
しかし今回彼女が僕に提示した実験の内容は、他の醗酵素材より
エネルギー供給が安定しているケフィア菌のデバイスを解明するための実験だった。
実験結果の数値を次々にはじき出し、ジグソーハズルのピースを填めていく作業のような
前回と打って変わって、今回は全くまっさらな状態から手探りで進んでいくような
遅々とした実験を繰り返した。
僕と彼女は色々な仮説を立てて一つ一つを検証していこうとするものの、
全く正反対や見当違いの実験結果を目の当たりにする度に頭を抱える回数が増えていき、
それと並行して検証すべき仮説がまた一つ増えていく。
そんな堂々巡りを繰り返した。
最も頭を抱えると言ってもそれは僕だけで、冷静沈着な科学者たる彼女は
軽く眉間に皺を寄せるだけである。
それに僕が頭を抱えなければならない要因は勿論実験のこともあるが、
去年から続いている彼女の誘惑実験(と、名付けることにした)のせいだ。
あの一緒に眼科医に行った時から始まった誘惑実験は、年を越してもまだ続いていた。
しかし1日で仕掛けてくる回数は減ってきており、現在では1日に一回程度しかない。
それが喜ぶべきなのか悲しがるべきなのかわからないが、
平穏無事を好む僕としては精神衛生を乱される出来事は、少ないほうが嬉しい。
そんなこんなで遅々として進展しない実験や、
一方では進んでいるのか滞っているのかわからない実験も経て、
短い冬休みも終わり、一学年最後の学期が始まった。


学生にとっては三学期は他の学期に比べると中間テストもなく、
小面倒な学校行事もないので虫や動物と一緒に頭の中を来るべき春に備え
冬眠しておきたい時期だ。
しかしそれはやっぱり野生に生きる虫や動物だけであり、
人として生まれたからにはより良い環境に適応すべく日々の努力を重ねなければならない。
…特に僕が通う高校では。
僕の高校では、大学進学に向け選択科目のクラス分けが二年生から始まる。
それは普通だが、他の高校と違う点は希望した選択科目に誰でも入れるわけではない、ということ。
三学期の成績次第で希望する選択科目が受けられるか否かが決まるのである。
高校受験という学力を振るいにかけて残った生徒を、
高校内で更に振るいにかけるわけである。
なかなかシビアなシステムではあるが、学校側としては
「県一番の進学校である我が校に入っただけで勝った気でいるような輩は大成しない」
というスタンスらしい。
ちなみにこれは、実際に始業式で校長が述べた言葉なので間違いはない。
ちなみに選択、というよりも選別されたクラスによっては受験出来る大学も決まっていて、
レベルが下のクラスは指定された範囲の大学以外は受験すらさせてもらえない。
そんなわけで通常の一年生はこの時期、もう一度高校受験を受けるような
意気込みで勉学に精を出す。
二学期の期末テストが終わってすぐ、三学期の期末テストに向けて予備校に通う、
なんていう生徒もざらではない。
僕はといえば冬休みは朝から晩まで彼女と一緒に研究へと精出していたので、
他の生徒よりも一歩も二歩も遅れていた。
非常にマズいと思いつつも彼女の研究所に通うことが既に生活の一部になっていたので、
自然と机に向かう時間は少なくなる。
なので三学期が始まってから僕は、以前のように早めに学校に来て朝勉強を始めた。
悪あがきとはわかっていても、足掻かなければならない。
何もしないよりはマシだ。

一月も後半に入り、年始にあれほど気持ちがいいくらいに
降り続けた雪はスッカリ溶けてなくなったが、
寒さの方は相変わらず健全でまだ遠い春に思いを馳せる日が続いていた。
天気予報の話では今日の午後から雪が降るらしいが、
朝からずっと木枯らしが吹いているので積もりはしないようだ。
僕はその日も朝早くに学校へ到着し、期末テストという大学受験の予選に備えた。
しかし体は机の上の問題集に向かっているが、肝心の頭は違うことを考えていた。
昨日の夜に彼女の家から帰ろうとした時、
いつも玄関まで見送ってくれた彼女が「明日は学校を休みたいと思います。」と、僕に告げた。
学校そのものにいかにも関心が薄そうな彼女だが、
何故か真面目に通学に励み理由もなく休むようなことはなかった。
夏休みや冬休みの研究への入れ込み具合を見ると、
彼女の学生という立場が研究の足枷になっているような気がしてならない。
別に学校を辞めるまでしなくてもいいものの、
興味がないことには一ミリも反応しない彼女なら学生生活をもう少し疎かにしそうな気がするけど…。
あの遅刻も早退もしない慇懃な態度は非常に謎である。
そんな彼女が学校を休むというのだ。
気にならないわけがない。
理由を尋ねると「調べたいことがあります。」と、言うのである。
その時の彼女の瞳が、それ以上の詮索を拒むように感じられて僕は口を噤んだ。
仕方なく了承をして自宅に帰ってきたが、どうにも気になってならない。
その夜は深夜二時まで机にかじりついたがほとんど頭に入らず、それが今に至る。
僕は昨日最後に会った彼女の顔を思い出した。
彼女のことをよく知らない人が見れば単なる表情に乏しい顔と思うだろうが、
その中にも僅かだが感情を捉えることが出来る。
たぶん彼女に出会った頃の僕なら安易に見落としてしまっていただろう。
そして彼女自身も、何も言わずとも僕が理解してくれるというのを知っている。
全面的に信頼してくれている、それが嬉しい。
しいと同時に、いや嬉しいからこそ落ち込んでしまう。
彼女が以前から胸に秘めていることを打ち明けてくれないことが悲しい。
僕にも言えないような秘め事とは、一体何だろうか?
最近は悩み成分が充満された僕の頭の中は、もはや勉学に身を入れる労力は残されていないし、
これ以上英単語も数式も記憶出来る容量はないらしい。
僕はなかなか吹っ切れない頭の中にかかったもやに諦めをつけ、
徹夜続きで寝不足になっていた瞼をこすり机に突っ伏し眠りについた。

ホームルームに入る前に近くの席にいた友達に起こして貰い、
僕はレム睡眠が継続したままの脳みそで午前中の授業を受けた。
うつらうつらと時折、船を漕ぎながら先生の話を聞いていたが、
うちの高校の先生方は授業中に居眠りをしても一向に咎めない。
大体の生徒は放課後に学習塾に通い、その後も深夜遅くまで勉強をしていて当たり前。
先生方もそれは重々承知でその辺は大目に見ている。
つまるところ、居眠りをしようが学校を休もうが成績を落とさなければそれで良い、
授業は受けたい人だけ受ければいい、ということなのだ。
なのでこの学校では、テスト直前の三日休校だけでは足りず、
一週間休む生徒がいても不思議ではない。
僕はそんなうちの学校独特なシステムに背徳心を抱きつつも、
午前中の授業は浅い睡眠に当てさせて頂いた。
午前中の緊張から解放され、また午後から始まる憂鬱を払拭するため英気を養う時間、
お昼休みが始まった。
僕は友人と机を囲み、お手製の弁当を摘みながら談笑を繰り広げていた。
いつもご飯を食べ終われば、直ぐに自習を開始しなければならないので、
まさしく束の間の休息である。

「…しかしお前んちの弁当、いつ見ても美味そうだよな。」

「だよな。お前んちの母ちゃんすげえよ。
 どうやったら朝からこんな手の込んだ弁当作れるんだよ。オレなんかコレだぜ。」

隣に座るスポーツ刈りでがたいの良いクラスメートは、
挽き肉と卵のそぼろだけというシンプルな弁当箱を僕に向ける。
その横で女の子のようなサラサラの髪を掻き分け、
僕の弁当と自分が手に持った惣菜パンを見比べるクラスメートがもう一人。
この二人は出身校は違えど入学当初から席が近かったため、
いつの間にか一緒に昼飯を食べるようになった仲だ。
二人とも進学校独特なガリ勉さがなく、明るく楽観的な性格を僕はとても好ましく感じている。

「お前んちの母ちゃん、看護婦しながら弁当もきっちり作ってすごいよな!
 オレんちの母ちゃんなんかパートで朝暇なくせに…、チクショー!
 息子は育ち盛りだぜー!」

「…オレんちなんて専業主婦のくせにコレだよ。業務放棄過ぎるだろ…。」

「二人とも、そんなこといっちゃ悪いよ。
 お母さん達だって僕達の見えないところで忙しいんだよ、多分。」

文句をつきながらもそれぞれの昼飯をせわしなく口に掻き込む。
育ち盛りな体は生意気な口より正直だ。
ちなみに僕のお弁当は勿論いつも僕が自分で作ってる。
でもクラスメートに茶化されるのが嫌で、母が作ってくれていることにしている。

「ところで二人とも選択クラスは決まった?」

僕の質問で友人達の手が止まった。
どうやらナーバスな話だったようで二人とも顔を伏せてしまった。
この二人に限った話ではなく、今の時期は誰でもクラス分けのことを考えると
憂鬱な気持ちになってしまう。
僕らにその気はなくとも、このクラスにいる全員がライバルなのだから。

「オレは無理せずに文系?に行くよ。理系なんてとても無理だよ!」

弁当の残りを勢い良く掻き込む隣で言い放った彼の隣で、
小心そうに俯き加減でいるとまるで女の子のようなもう一人の友人は
パンを持った手に力を込めて、

「…オレは無理かもしれないけど、理系?狙いで行くわ。」

と呟いた。
一方は相応な力量のクラスに行くようだが、もう一方はかなり頑張らないと厳しいようだ。
一応、僕としては理系?狙いなのでこのまま希望するクラスに進級すれば、
せっかく仲良くなった友人達と離れ離れになってしまう。
その事実が更に空気を重くしている。

「…お前は確か理系?だったよな?俺ら三人の中じゃ一番成績いいから。」

細々と弁当をつついていた僕に、サラサラな髪の隙間から弱々しい笑顔を見せながら言う。

「お前なら絶対大丈夫だって!
 うちの部活の先輩達も理系?ばっかりでやんなっちゃうぜ!
 あいつらあんだけ部活で体力使って、いつ勉強してんだよ!?」

淀んだ空気を吹き飛ばすように、彼は僕を大声で励ましながら、日頃の愚痴をこぼす。
実際、彼女の研究を手伝いながらの自主勉強なので期末テストは不安だらけだから、
友人の励ましが素直に嬉しい。

「それにお前の愛しい彼女もいてくれりゃあ、鬼に金棒だろうよ!」

僕は口に運んだばかりのおかずが喉につまり、激しくむせてしまった。

「ごほっ!なんで彼女の話が出てくるんだよ!?げほっ!
 それに、彼女とはそういう関係じゃない!」

なかなか咳き込んだ喉が戻らず、ゼイゼイいっている僕にクラスメートの視線が集まる。
予想外な反応を見せた僕が面白かったのか、友人はニヤニヤしながら話を続けた。

「ほほぅ。じゃあお前ら、付き合ってもないのにいつも仲良く下校してるってか?
 甘酸っぺぇ一時を過ごしつつ、ちゃっかり勉強を教えてもらってるんだろ?
 えぇ?幸せもんが。」

僕の顔がむせ込んだだけではないのが一目瞭然なほど赤くなった。
そんな甘酸っぱいことをした覚えなどない。
確かに醗酵食品の中には甘酸っぱいものもあるが…。
それよりも友人の言葉に気になる箇所があった。

「…なんで僕が彼女から勉強を教わらなきゃいけないんだよ?
 彼女と学校の勉強について話をしたことなんてないよ。」

さっきまで顔を弛緩させていた友人二人は、今度はキョトンと目を丸くして僕を見つめる。
本当に何が言いたいのか分からない。
あまりからかわれるのは好きじゃない。
僕が再び弁当に箸をのばそうとしたその時、
握り締め過ぎて中身がはみ出た惣菜パンを机に置きながら友人が、
不思議そうな顔のままゆっくり口を開いた。

NEW!更新日4月4日


「…だってお前の彼女、学年で成績一番なんだろ?」

僕はまたもや盛大に吹き出してしまった。
クラスメートの視線が一斉に集中する。
今、彼はなんて言った?彼女が学年で成績一番だって?

「…その様子だと本当に知らなかったんだ。結構有名な話なんだけど。」

「あの無口っ子は入学前から殆ど特待生扱いなんだぜ!?
テストはどの教科も満点に近いバリバリの天才だ!
お前、本当に放課後は仲良く乳くり合ってただけなのか!?」

「馬、馬鹿!彼女とそんなことする訳ないじゃん!」

「…じゃあ、いつも放課後、勉強もしないで何やってたの?」

そう突っ込まれるとぐうの音も出ない。
まさか彼らに『ケフィア』の話をするわけにはいかないし。
信じらんないような話だったが、彼女ほどの頭脳の持ち主だ。
学校の成績が悪いわけがない。
しかし、学年一位なんて想像の域を超えている。
僕がこれまで彼女と勉強の話をしなかったのは、別に機会が無かったわけではない。
ただ彼女がそういった類の話題を好まないと思っていたからだ。
授業に全く参加せず、ひたすらノートに実験に必要な数式や構築式を書き殴っているのだ。
誰が学校の成績に関心があると思うだろうか?
彼女と出会って驚かされることばかりで、
そろそろネタも尽きただろうと思ったが、僕はまだまだ甘い。
彼女はどこまでもブラックボックスでビックリ箱だ。
いい加減、驚くのにも疲れた。
茫然自失とする僕を物珍しそうに眺めるクラスメート達に、ほとんど呆れ顔で僕を見つめる友人。

「…あの無口っ子は先生達も一目置くほど、特別な生徒らしいよ。
入試も途中までしかいなくても受かったくらいだから。」

「一学期に古典の先生が噛み付いたことがあったじゃん!?
あの後、職員室で他の先生から笑われた挙げ句、教頭から怒られたらしいからな!
余計なことすんな!って!
お前、凄い彼女と付き合ってんな!?」

僕は片手で頭を抑えながらすっかり体に染み着いてしまった長いため息をついた。
もう昼飯をお腹に納める気力は無くなった。

「だから何度も言うけど、僕と彼女はそういう関係じゃないって…。」

「…じゃあ、お前は彼女のこと何とも思ってないんだ?」

「好きじゃないのか!?」

つい一秒前には意識が朦朧としていた頭が、一瞬にして全身の血液が集まってきたようにカッとなる。
さっき以上に顔が真っ赤になり、あたふたし出した僕をクラスメート達は今度は好奇な目で眺め始めた。
思わず夏休み明けのあの日をリフレインする。

「…嫌いなのか?」

「好きなんだろ!?」

調子に乗り始めた友人達がわざと大きな声で僕を煽る。
クラスメート達もテスト期間の憂鬱感を憂さ晴らしするかのように、騒ぎ立て始める。

「…どっちだよ?」

「男ならはっきりしろよ!」

はじめはテストの話だったのが思わぬ方向に飛び火してしまった。
羞恥心にかられ本当に顔から火が出そうだ。
僕は裁判にかけられた囚人のように、ただただ頭を垂れるしかなかったが、
教室中に渦巻いた騒動が端の方から沈静化していった。
何が起こったか分からずゆっくりと顔を上げた僕の目に、
僕の方を、正確には僕の肩越しを見つめたまま固まっている友人二人がいた。
僕は友人の視線を追って後ろを振り向くと、そこにいたのは彼女だった。


静まり返った教室の中、彼女は無言のまま椅子に座った僕を見下ろした。
クラスメート達は話題の中心人物が登場したというのに、
さっきまでの騒動は何だったのかと言いたくなるほど大人しい。
やっぱりみんな、言いはしないものの彼女が苦手らしい。

「かねてから私の思考回路に支障をきたしていた懸案事項が解決したのでご説明します。」

水を打ったように静寂に包まれた教室に、彼女の抑揚のない声が響く。
誰かの唾を飲み込む音が聞こえたような気がした。

「あ、あぁ。そうなんだ。今日はどこに行ってたの?病院?」

「市立図書館です。」

彼女を悩ませてきた懸案事項というのは図書館で調べれば解決する程度のことだったようだ。
僕は内心ホッとしつつも、やっぱり彼女の悩みというのが気になる。
彼女が今、説明してくれるというし無言で続きを促した。

「私が抱えていた懸案事項というのは特定の条件になると発する体調の異変です。」

体調の異変?確かにここ最近はおかしな行動が見受けられたが、体調が悪かったのか?

「その症状は発作的な心拍数と体温の上昇、胸部の圧迫感、思考能力の低下など。
しかしその症状が発生する時はあなたが側に居る確率が高いのでした。」

さっきまでは静まり返っていた教室が、彼女の演説が進むに連れ次第にざわめいてきた。
きっと彼女の声を聞くのが初めての人もいれば、
こんなに長々と話す彼女を見るのも初めてな人もいるだろう。

「そこで私は身体異常の原因を追及すべくあなたとの距離による心拍数を調査し
続け近ければ近い程数値が上昇するという結果を得て
原因はあなたにあると確信したのです。」

あの誘惑作戦はそんな事を調べるためだったのか…。
相変わらず一本調子に話す彼女だが、心なしか語気が強くなっているような気がする。

「発作が引き起こされる特定原因を突き止めた私は次に症状の分析にかかりました。
はじめは医学や人間工学、生理学を元に解析を行いましたが遅々として進まず。
しかし全く専門外の分野から解決の糸口を見つけたのです。
それが作り話や小説といった文学でした。」

教室内のざわめきは更に大きくなり、皆一様に僕と彼女を交互に見比べ瞳を輝かせている。
そして、聡い人は彼女がこれから言わんとしていることへの期待に興奮し、
鈍い人はこれから起こることが判らずとも周りの反応に乗じて興奮している。

「物語の文献に記された登場人物達がある状態に遭遇した時の
行動パターンや身体状況が私と同じだったのです。
それらを踏まえた上で私が達した結論は」

「ちょっと待ったー!!」

経験は薄いものの、人と人の間に通う感情や彼女がいう症状に見に覚えのある僕は、
どちらかと言えば前者だろう。
なのでこれから彼女が言うセリフが予測出来てしまう。でも…でも、

「その続きは、ここで、言わなきゃ、駄目なのかな!?」

きっと今僕は恥じらいや狂喜や驚愕やらが入り混じった滅茶苦茶な顔になっていることだろう。
心臓の鼓動は今まで聴いた事がないほど強く速く、出口を求めて体中を叩いている。
気を抜くと口から出てきそうだ。

「私は一向に差し支えはありませんが?何かあなたにとって不具合なことでも?」

あるわ!…と思いっきり叫びたかったが、クラスメートの視線が強烈に突き刺さってきた。
みんなの目が「余計な事を言うな」と恐喝している。
僕も続きを聞き出したい欲望と羞恥心を帯びた理性が、
頭の中でグルグル葛藤し、口ごもってしまった。
僕の無言をいつものように了承と判断した彼女は、ゆっくりといつもの彼女の口調で言った。

「私はあなたに恋をしました。」

時が止まった。
心臓も鼓動を止めた。
クラスメートもざわめきを止め、教室の中の全てが動きを止めた。

だが、次の瞬間、教室内にいた女子の歓喜を帯びた嬌声と男子の興奮した怒号がクラス中を駆け巡った。
あまりの大騒音にビックリした隣のクラスの人達が何事かと見に来た。
ある女子は友達と手を取り合い赤い顔をしてキャーキャー騒ぎ、
ある男子は隣のクラスから見に来た友達にいきさつを口に泡をためて説明している。
騒ぎが更に大きな騒ぎを連れて来て掻き乱す、春先に急に現れるハリケーンのようになっていた。
その騒ぎの中心では、まだ動けずにいる僕と彼女がいた。
僕の思考回路は完全にショートし、何も考えられない状態になっていた。
ただ彼女が言った一言が頭の中でグルグル回っていた。

密かに思っていた彼女が、僕に恋をした。

守りたいと思った彼女が、僕に恋をした。

憧れだった彼女が、僕に恋をした。

目の前で、いつもの変わらない無表情だけど輝く力強い瞳が美しい彼女が、僕に恋をした。

僕が大好きな彼女が、僕に恋をした!

事実が頭に心に届いたその時、動きを止めていた心臓が乱暴にドッ!と稼働を始めて、
急すぎる血圧の上昇に耐えきれなくなった僕は強烈な眩暈と耳鳴りに見まわれ、その場に倒れ込んだ。
目の前が真っ白になり、地面が頭の上にある感覚に襲われる。
意識がスゥッと遠のく直前、自慢の瞳を大きく見開いた彼女と目が合った。



あぁ、お願いだから、キライにならないで…。



気絶して倒れた僕に友人が駆け寄り、騒ぎがますます大きくなり過ぎたのか、
終いには職員室から先生達が乱入する騒ぎになった。
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15:15  |  「ヨーグルト…。…いいえ、ケフィアです!」  |  CM(9)  |  EDIT   このページの上へ

Comment

●こんにちは!

要人さん、こんにちは^^
この度はキリ番を踏んでいただき、どうもありがとうございました♪
気付くのが遅くなってしまいましたが、確かにメールにてリクをお受けしました。
ご期待に添えるよう精一杯がんばりますっ。

小説はまた後日ゆっくりと読ませていただきますね!
ではでは、また来ます^^
あつき | 2008年04月02日(水) 15:25 | URL | コメント編集

初めまして、こんにちは。
藍色イチゴと申します。

自分のプログに訪問していただいたみたいで、ありがとうございます。
自分も、要人さんのプログにお邪魔しております。

小説、とても面白い内容で読みやすかったです。
特に、彼女と主人公の男の子のやり取りが、とても微笑ましく感じました。
続き、楽しみに待っていますね。
それではこれにて失礼いたします。
藍色イチゴ | 2008年04月03日(木) 15:33 | URL | コメント編集

>>あつきさん
レス遅くて申し訳ありません。
たまたまキリ番踏んでしまいましたが、コレも何かの縁だと思って、
今後ともよろしくお願いします。

それでは、少しあやふやなお題でしたが、ガンバテクダシア!!!!111


>>藍色イチゴさん
小説お読み頂きまして本当にありがとうございます。
今度そちらにも遊びに行きますね♪宜しくです。
要人(かなめびと) | 2008年04月07日(月) 08:48 | URL | コメント編集

やっぱり彼女は彼に恋してたんですね!
それにしても、彼女の告白に倒れてしまうとは…
この先、二人がどうなって行くのか気になります。
夢 | 2008年08月03日(日) 12:32 | URL | コメント編集

>>夢さん
夢さんってもしかして美容師さん?
要人(かなめびと) | 2008年08月03日(日) 15:56 | URL | コメント編集

●あ

うわああああああ。ついにかw
にやにやしちゃう。
あ | 2008年08月28日(木) 19:58 | URL | コメント編集

>>あさん
ついに、でございますよ♪
要人(かなめびと) | 2008年08月28日(木) 20:49 | URL | コメント編集

お久しぶりです!
ちょっと忙しくて、自分のブログは更新できない状態ですが、少し小説が読みたかったので来ましたw

主人公の料理の上手さを改めて感じますwww

主人公自体、頭が良いのに、彼女はずっと研究してテスト勉強などしていないはずなのに、主人公より成績が良いって・・・不思議です。
そして、何だか複雑な関係です!
桜輔 | 2008年09月13日(土) 19:15 | URL | コメント編集

>>桜輔さん
本当に頭の良い人って勉強しなくても成績が良いものだ、ってばっちゃんが言ってました。

ブログがなかなか更新されてなくてどうしたものかと不安でした!
余裕が出来て更新される日を楽しみにしてます♪
要人(かなめびと) | 2008年09月14日(日) 05:52 | URL | コメント編集

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