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2010'08.13 (Fri)

私の星乞譚。 第十章


 公園から一目散に走り出し、うちの近くまで来たところで私は膝を折り、うずくまった。急に全力疾走したからか、脚はガクガクで呼吸が乱れる。
 しばらくはそのまま動けずにいたけど、徐々に体調が整ってきて、頭に浮かんだのはさっきの出来事だった。
 ヒジテツ君の真剣な眼差し。私に向けられた切実な愛の言葉。
 その全てが私を痛いくらい苦しめた。
 人を好きになるというのは、こんなにも辛いことなのか。
 つい昨日、ともえちゃんが山崎君に告白された話を聞いた時も同じ感傷を味わった。でもそれはあくまで単なる感傷で、自分が実際に巻き込まれることはないと、対岸の火事くらいにしか思ってなかった。
 それがたった一日を経て、渦中の張本人になるなんて。未だに信じられずにいる。
 でもこの胸の中に芽生えた、焼けるような痛みは本物で、二度と昨日を同じ明日に出来ない悲壮を教えてくれる。
 ヒジテツ君とクラスメートとして他愛ないお喋りをすることも、ちょっぴり背徳感を抱きつつも鎌田君の話を彼から聞き出すことも、明日からは日常の中から無くさなければならないのだ。
 何故、そんな辛く悲しい真実を裏側に潜ませながらも、私達は星を乞わずにはいられないのだろうか。私の星も、いつか鎌田君を無意識に傷付ける時がくるのだろうか。
 分からないけど、とにかく今は内側から溢れ出す痛みに弾けそうな体と心を、力一杯抱き留めるしか出来ない。私の弱気になりたがる気持ちと、懸命に克己する気持ちがせめぎ合って抗う。
 胸元に携えた巾着袋の中では、恒光石達が飛び出したそうに瞬いていたが、私はそれを必死に制した。
 きっとこの子達から励まされれば、以前のように私の心は弾力を取り戻すだろう。でも今だけは、恒光石達に頼らず自分の力だけで乗り越えたい。
 そうでなければ、私はいつまでも弱い、誰かに助けてもらわなきゃ立ち上がれない女の子のままだろうし、なによりあれだけ一生懸命に気持ちを伝えてくれたヒジテツ君に失礼だと思ったからだ。
 私は無理矢理に脚へ力を込めて立ち上がる。
 きっと家では夕飯の準備を終えたお母さんが心配そうに待っているだろう。何気ない顔で、歯を食いしばってでも平静を装うんだ。そして今日、学校であったどうでもいい事をお母さんとお話しするんだ。
 それが本当の強さなのかは分からないけど、きっと鎌田君なら、そうするだろうなと思ったら、自然と気持ちが緩んだ。

 あの告白から三日後、ヒジテツ君はずっと学校を休んでいる。
 明天先生の話では風邪をこじらせたらしいけど、私はそれ以上深く聞けなかった。
 教室ではいつも何をするにも同じ班だった私達も、ヒジテツ君は病欠で、ともえちゃんは山崎君と気まずい関係なので、自然とお互いの間に見えない壁が出来てしまっている。きっと鎌田君も事情を聞いているか、察しているのだろう。妙によそよそしくて口数は少ない。
 あんなに仲良く和気あいあいだったのに、分散してしまうのは一瞬なんだなと思うと、寂寥感が胸をさらっていった。
 その晩、夕飯後に店番をしていると鎌田君が買い物に訪れた。伏し目がちに「いらっしゃいませ」と声を掛けると、鎌田君もややばつが悪そうに弱々しい笑みを浮かべただけだった。
 そしていつもより心持ちゆっくりと店内を回って、商品が入ったカゴを番台に置く。中身は普段買うような日用品や食材ではなく、安いお菓子が二つだけ。果たして鎌田君が本当に食べたくて買ったのか、勘ぐってしまいそうな商品だった。
 私は見るまでもなく値段を知っているお菓子なのに、一つ一つ手にとってはのろのろとレジを打つ。なんだかここを手早く応対してしまっては、ますます気まずくなってしまいそうで嫌だった。
「……百五十円、です」
 私はぼそっと呟く。すると鎌田君は私にも負けないくらいにのんびりとポケットをまさぐって財布を取り出した。財布の小銭入れをあらためながら、鎌田君が口を開く。
「哲也の告白、断ったって?」
 一瞬、私の心臓が大きく鼓動する。だけどすぐに傾き掛けた心を持ち直して、私は真っ直ぐに鎌田君を見た。
「うん。だって私、他に好きな人がいるもん」
 視線を落とした先にある、財布の小銭入れの中で遊んでいた指がピクッと止まる。私は構わずに言葉を続けた。
「その人、同じクラスでいつも一緒にいる人なんだ」
 これはある意味、宣戦布告。
 私の思いが鎌田君を苦しめるかもしれない。背筋を伸ばして立っている事が精一杯な彼の意志を揺るがすかもしれない。
 でも、それでも私は構わない。
 たとえ彼が傷付く可能性があろうとも、恐れずに向き合おうと決めたから。わがままで自分勝手だと蔑まれようとも、私は私の星を乞うと決めたから。
 鎌田君も私の眼差しを真正面から受け止め、しばらく見つめ合った。
 そして鎌田君は一度だけ小さく頷き、私に小銭を差し出す。その手が私の手のひらに、しっかりと触れた。
 熱くなった手のひらの感触に心酔しながら、私も火照りが冷める前に手早くお金をレジから取り出すと、鎌田君の男らしく骨太な手のひらに触れるよう、お釣りを手渡した。
 そのやり取りがどんな意味をはらんでいるか、自分でもよく分からない。ただ、胸元の巾着袋の中にいる恒光石がけたましく呼応していて、うるさかった。


更新日 8月14日


 その晩、私は店番の後すぐにヒジテツ君へ電話をした。
 だいぶ戸惑いながら電話口に出た彼に、私は先日のお詫びを述べる。するとヒジテツ君は小さく笑いながら答えた。
「いや、もともとは俺が悪かったんだ。始めから恋愛相談なんて姑息な事をしないで、酒留にちゃんと正面から向き合うべきだったんだよ。ただ俺、恒光石を無くしちゃったじゃん。だから自分に自信がなくって……」
「うぅん、私の方こそごめんなさい。何も言わずに逃げ出しちゃうなんて。でもね、ヒジテツ君と普通にお話しをしているの、私は楽しかった」
「マジで? そう言ってもらえると本気で嬉しい」
 鼻をすすりながら、本当に嬉しそうに声を弾ませながらヒジテツ君は言った。
「風邪、まだ治らないの?」
「おう。でもだいぶ回復してきたから明後日くらいには学校に行けそう。あの寒空の中、あれから三十分くらいはボーっとしていたから」
「うぅ、ごめんなさい」
「酒留が悪いわけじゃねえって。俺が学ラン一枚で外に出ていたのが悪いんだって」
 そう言った直後、ヒジテツ君は豪快にくしゃみを一つした。
 私は可笑しくてクスクス笑うと、ヒジテツ君もまた鼻をすすりながら笑った。

「酒留は、他に好きな人がいるのか?」
 ひとしきり笑った後、ヒジテツ君が尋ねる。私は笑顔で緩んだ口元をキュッと引き締めた。
「……うん」
「それって、雅士のことか?」
 心臓が一瞬だけチクリと痛んだけど、私は唾を飲み込みハッキリと答える。
「うん」
「そうか、やっぱりな。前からそんな気がしていたんだよ」
 その一言を聞いて、私はシュンと肩を落とす。
「もしかして、私って態度でバレバレかな」
 あの朔張校長に見破られるなら分かるけど、ヒジテツ君にすら言い当てられるのなら、私はよっぽど感情だだ漏れっ子じゃないのか?
「さぁ、どうだろうな。ただ俺の場合はお前をずっと見ていたからな。何となく勘付いただけ」
 若干ホッとしつつも、私は最後に鎌田君の親友であるヒジテツ君に尋ねる。
きっとこれが、私がヒジテツ君からもらえる最後の情報になるだろう。
「鎌田君は、私の気持ちに気付いているかな?」
「それも分からねえ。知ってのとおり、あいつって自分の事は滅多に話さないからな。それに聞いても教えてくれなさそうな気がするし」
 私はそれを聞いて少し安堵した。
 やっぱり孤高な魂を持つ彼の本心に触れるには、生半可な覚悟では駄目らしい。だからこそ彼へと星を向ける度に、私は強くいられるのだ。
「なんなら雅士に探りを入れてやるか? 散々、恋愛相談に乗ってもらったから、今度は俺が協力するぜ」
 そんなヒジテツ君の申し出を丁重にお断りする。確かに願ってもない話だけど、それではヒジテツ君にあまりにも失礼な気がして、請けられなかった。
 私はもう一度きちんとお詫びを告げ、電話を切った。
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09:17  |  星乞譚  |  CM(0)  |  EDIT   このページの上へ

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