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2010'07.30 (Fri)

私の星乞譚。 第八章

 季節は秋へと移り変わっていった。
 あれだけ暑かった夏が日を追うごとに徐々に熱気を失い、替わりに虫の合唱は勢いを増していく。織り姫と彦星のデートも東の空から西へと傾き、夜空の主役を荘厳なケフェウス王と勇敢なペルセウスへとバトンタッチをする。夜空を見上げれば、東の空からまさに今、武勇で名高いペルセウスの魂であるミルファクと妖艶なメデューサの目、アルゴルがのぼり始めた頃だった。
 それでも秋の夜空は閑散としていて侘びしさが胸を突く。
 古代エチオピア神話の登場人物が舞台となる星屑のステージも、この時期に目立つ一等星といえば、南にポツリと浮かぶフォーマルハウトだけ。
 他の季節とは比べものにならないくらい寂しげな夜空に興味を抱く人は誰もいない。秋に夜空を見上げている人間は稀であり、後ろ指を刺されるほどだった。
 だからだろうか。秋になって急にクラスでは、星乞いに関する話題があちらこちらで聞こえるようになった。今までは陰でコソコソと語り合っていた級友達も、最近では休み時間にも関わらず表立って声高にその手の話題を口にしている。
天空の星に興味が薄らいだ分、地上の星がより輝いて見えるのだろうか。

 そんな秋雨けむる十一月のある日、私は放課後に近所で幼なじみである、ともえちゃんの家に招かれた。
私の家の居間ほどの広さはあるだろう彼女の部屋で美味しい紅茶とお菓子を頂きながら、ともえちゃんは昨日あったことをポツリポツリと話す。
 それは昨晩、ともえちゃんがクラスメートの山崎君に星結いを申し込まれた、という話だった。
「私だって急なことだったから、ビックリしちゃって。クラス委員の仕事で遅くなったから早く帰ろうと思ったら、昇降口に山崎君がいたの。彼、確か先に帰ったはずなのに何でここにいるのだろう、って疑問に思ったけど、一緒に帰ろうっていうから着いて行ったの」
 ともえちゃんの一言一言にドギマギしながら目を丸くする私。口に運び掛けた紅茶のことなんてすっかり忘れて、話に聞き入っていた。ともえちゃんは幾分憂いげに視線を落として話を続ける。そんな姿がいつもより艶っぽく見えた。
「山崎君、駅までは同じ方角だけどそこからは別の道なの。でもいつまでも隣を歩くから不思議に思ったんだ。それで尋ねてみたら、ちょっと近くの公園に寄らないか、って……」
「そ、それで?」
「本当は早く帰りたかったけど少しくらいなら、って。公園のベンチに座ったのだけど、それから山崎君、ずっと押し黙っちゃって。今、思えば大した時間じゃなかっただろうけど、私その時、凄く時間が長く感じちゃった」
 私は山崎君の顔を思い浮かべる。真面目で几帳面で学級委員の彼はいつもクラスのまとめ役だった。
あの夏の動物園以来、同じ班になることが多く、私と、ともえちゃん。鎌田君と山崎君とヒジテツ君の五人は学級行事となると自然にグループへなった。ともえちゃんは女子の中でもリーダー役になりやすいので、山崎君がともえちゃんと好んで話をするのも、リーダー同士だからかと思っていたけど。
 今になってみれば、動物園の時に山崎君がともえちゃんを誘っていたのは、あの頃から彼の星がともえちゃんに向いていたからだろうか。
「それでそれで、どうなったの?」
「うん。私もあと帰りたかったし、声を掛けようとしたら、山崎君がいきなり立ち上がって、私に向かって……好きだって……」
 その一言で私の体はドッとうねり、耳まで赤くなる。あの、いかにも優等生な山崎君が……好きだなんて!
「なになに! それだけ? 山崎君、それ以外に何も言わなかったの!」
「ちょっと心恵ちゃん、落ち着いて? 私も気が動転して何も言い返せなくていたら、山崎君、もう一度はっきりした声で……好きだ、って」

 私は手に持った紅茶のカップを置くと、熱くなった頬を両手で挟み嬌声を上げた。胸が高鳴り興奮が収まらない。ともえちゃんはあまりにも変な声で叫ぶ私をオロオロしながら宥める。きっと家の人や店の人が何事かと駆け付けはしないか、心配したのだろう。
「それでそれで! ともえちゃんはなんて返事をしたの? それに、その……山崎君から、キ、キキ、ス……!」
「落ち着いて、ね? 順を追って話すから。大きい声を出さないでね、心恵ちゃん」
 ともえちゃんに諫められた私は、勢い余って乱れたスカートの裾を直しながら、反省して座り直す。
「それから山崎君、恒光石を取り出すと一つ一つの名前を呼んで、空に打ち上げたわ。全部で七つの恒光石だった。そして、打ち上げ終わると私の肩に手を伸ばしてきたのだけど……その時に、言ったの」
「な、なんて?」
「……ごめんなさい、って」
 瞳を閉じて俯く、ともえちゃん。私も今までお祭り騒ぎだった心が途端に鎮静化してしまい、俯く。
 部屋に飾られた置き時計の秒針の音と、下の階にある呉服屋から聞こえるお客さんの声だけが、こだましていた。
「山崎君のことは別に嫌いじゃなかった。同じ班で話をしていても楽しかったし、男子の中でも優しい方だし。ただ、星を結ぶとなると、どうだろうって……」
 一言一言、選ぶように言葉を紡ぎ出しながら、ともえちゃんは口を開いた。
「もしも仮にこれが普通の告白だったら、普通のお付き合いをして下さいっていう申し出だったら、私は受けたかもしれない。けれど、星を結ぶって考えるとやっぱり特別で。そんな中途半端な気持ちで星座が結べるとは思わなかった。私の中に山崎君に星を差し出せるほどの気持ちは、なかったの」
 人類が誕生して、星座が誕生してからこれまで途方もない長い間、数多の人間が数多の出会いを繰り返してきたはずだ。それなのに何故これほど、夜空には数え上げられるくらいしか星座が生まれなかったのか、その理由の尻尾に触れた気がした。
 自分が思う誰かが、自分を密かに思ってくれている可能性は何パーセント?
 自分が思うほどの気持ちに、相手も高まっていてくれている可能性は何パーセント?
 そう思える誰かと巡り会える可能性は何パーセント?
 そんな相手に巡り会えたとしても、星結いの作法を知っている可能性は何パーセント?
 知っていたとしても、成功する可能性は何パーセント?
 そして、そのチャンスが全く恋愛経験のない初恋で成功する可能性は何パーセント?
 きっと星座を打ち上げるということは、この銀河系が誕生したのと同じくらい、天文学的な確率なのかも知れない。一つの星が誕生する事だって、人間が偶然と思う数百倍以上に奇跡的な事象なのだ。
 私達はそういう奇跡に近い環境の上で、当たり前のように生を育んでいる。その中で星座を打ち上げる可能性なんて、限りなくゼロに等しいんじゃないのか? そんな永遠に辿り着けない謎を、有限を刻む私の体は考えてしまう。
「そのことを、山崎君には言ったの?」
「うん。ちゃんと伝えた。ごめんなさい、だけで彼の気持ちに答えるのは悪い気がして」
「納得、してくれた?」
「うん。急に変なことを言ってごめんな、って。それでね、山崎君。最後に言ったの。明日からは普通どおりに接して欲しい、って」
「そっかぁ……」
 言葉のお尻の方に、溜め息が混じる。ともえちゃんもそっと溜め息を吐くと、ぬるくなった紅茶で口を潤した。
 私からしてみたら男の子に星結いを申し込まれるモテモテな、ともえちゃんが羨ましいくらいだけど、やっぱり彼女にしてみれば、それまで仲良く接してきたクラスメートと気まずい関係になってしまうのだ。こう言ったらせっかく勇気を出した山崎君に申し訳ないけど、決して嬉しいわけではないはずだ。

 またもや沈黙が部屋中に積もっていく。
「普通どおりって言われても、やっぱり難しいよね」
 アンニュイな表情のまま呟く、ともえちゃん。
「当然だろうけど、山崎君も中途半端な気持ちや冗談で星結いをしようとしたわけじゃないと思うの。だからそれを断って……私、ひどいことをしたのかな、って」
「ともえちゃんが悪いわけじゃないよ。だってそれは仕方がないことだし。明日から何事もなかったかのように接するのは無理かもしれないけど、そのうちまた、今までみたいに普通にお話が出来る時がくるって」
 でも、それっていつ?
 自分で自分の言葉に疑問を投げ掛ける。
 何一つ非がないのに罪悪感に苛まれている友人を私なりに励まそうと言葉を選ぶけど、その全てがどこか嘘くさくて白々しくなる。誰が悪いわけではない。でも何もなかったように元へ戻せるほど、私達は大人じゃなかった。
「せっかく五人仲良くやっていたのにね。心恵ちゃんに悪いことしちゃったかな」
 サラサラの髪を掻き分け、少し苦笑いを浮かべる、ともえちゃん。
「なんで? 私に悪いことって、何?」
「だって、あっちの男子グループと話し辛くなると接点が薄くなっちゃうかな、って。鎌田君とも」
 そういうことか、と私は納得した。
 ともえちゃんと山崎君が気まずくなれば、自然と私達も気まずくなり、鎌田君ともよそよそしくなってしまうと、ともえちゃんは懸念しているのだ。
「それは仕方ないよ。ともえちゃんが悪いわけじゃない。そうだね。これからは自分からガンガン鎌田君にアプローチしていかなきゃ。同じ班とか関係なく」
 意気込みを語る私を見て、ともえちゃんは目を見張った。
「なんだか心恵ちゃん、前と変わったね。強くなったというか、たくましくなったというか」
 あの晩、挫けそうになった気持ちを恒光石に励まされたことを、私はともえちゃんに話していない。なんだか自分の決意をたとえ親友であろうとも伝えるのが恥ずかしかったし、何よりそれは誰かに言ったりしてはいけないような気がした。
 今までどんなことでも打ち明けあっていた親友に隠し事をしているみたいで、ちょっと後ろめたくはあったけど。
「うん。これからはもっと積極的になろうと思って。照れているだけじゃ、目指す星には近付けないわ」
 そんな私を見て、ともえちゃんは目を細めると紅茶のカップを口に運んだ。そしてそれ以上追及しようとはせず、満面の笑みを浮かべ「頑張ってね」と、私を励ましてくれた。
 全てを語らなくても察して見守ってくれる心強い味方がいる。それだけで私の胸は大きく弾んだ。

「そういえば、ともえちゃんって誰かに星乞いをしているの? 今まで、ともえちゃんの恋愛話って聞いたことないけど。山崎君の誘いを断ったってことは、ちょっとくらい気になっている人がいるんじゃない?」
 自分の事を探られビクンと肩をすくめる、ともえちゃん。いつも冷静沈着な彼女らしからぬ動きに、私はニンマリと頬を緩め、ともえちゃんに詰め寄った。
「その様子だと、好きな人が出来たんでしょ?」
「……え、えー。なんのこと?」
「とぼけたってダメ。いつも私の話ばっかり聞いて自分の話は全然しないんだから。ほらほら、白状しなさい」
 どちらかと言えば二人でいるときは、ともえちゃんがお姉さん役なので、問い詰める度にたじろいでいく様子を見ていると、ちょっぴり優越感になる。
「ちゃんと答えなさい」
「えー。どうしようかな……」
「どうしょうかな、じゃなくて。スパッと言っちゃいなさい」
「でも、やっぱり」
「でも、じゃないの。教えてくれなきゃヤダ」
 そんなやり取りを繰り返していると、ついに観念したのか、ともえちゃんは囁くような声で呟いた。
「もう、誰にも言っちゃヤダよ」
「うん。絶対言わない」
「別に好きっていうわけじゃなくて、ただ気になっているだけなのだけど……。うぅん、まぁ、好きっていうことなのかな。まだよく分からない」
「もう! じらさないで!」
 回りくどく大事な言葉を回避するともえちゃんに、私は目を爛々と輝かせて急かす。
「……大木先生」
 瞳を閉じて搾り出した言葉を聞いて、呆気にとられた。
「え、大木先生? あの、木星の?」
「そう。木星の大木先生」
「……嘘でしょ?」
「うぅん、本当」
 爽やかな微笑みを浮かべるともえちゃんに、私はもう一度詰め寄る。
「大木先生って、あの大木先生でしょ? それ本気で言っているの?」
「そうよ。本気で言っているのよ」
「だって大木先生って言ったら、いつも女子達を取り巻きにしている女たらしじゃない」
「あら、私は全然女子にモテない人よりはモテモテの人に魅力を感じるわ。それに私、体がガッシリとしていて男性的な人がタイプなの。大木先生、包容力あるし、イケメンだし」
「そんなの口がうまいだけじゃない。それにあの人、人じゃないから。惑星だから」
「もう、心恵ちゃんったら。そこまで言わなくてもいいじゃない」
「うぅ。……ごめん、つい」
 ともえちゃんの思い人と知っても、どうもあの先生だけは受け付け難い。いかにも優男チックで軽薄に女子達を手玉に扱う様子は、男性としてどうかと思わずにいられないけど、私は心のどこかでホッとしていた。
ともえちゃんと男性のタイプが違えば、少なくとも同じ男性に惹かれ合うことはないだろう。小説などで三角関係とかよくあるパターンだ。あれは物語の中だから、悲痛と愛情の狭間に葛藤する場面でも感動を味わえるのだ。
 現実に自分の身へ同じ状況が降りかかってきたら、とても耐えきれず魂までも圧し潰されてしまうだろう。

 そんな安堵感を紅茶で流し込みながら、私は話を続ける。
「でも、ともえちゃん。星結いって、彷徨の民が相手でも可能なの?」
 以前に噂で聞いたことがある。木星は約六十以上の衛星を支配していて、それらはすべて大木先生と星結いをした女性の数だというのだ。
「衛星になる、って話は私も聞いた事があるわ。でもね、私はあまり気にしない事にしたの」
「と、言うと?」
「確かに星乞いをしたなら誰でも好きな人と星座を結びたいって願うと思う。もちろん私だってそうよ。でもね、それだけがすべてじゃないわ。たとえ星乞いが成就しても星座を誕生させなきゃ、意味がないかしら?」
「う、うん。そうじゃないの」
 私は鎌田君を好きだし、願いが叶うなら星を結びたい。それ以外を考えたことなんてなかった。
「私はね、星結いよりもっと大事なものは、その先にあると思うんだ。もしも星結いをするチャンスを永久に失うとしても、生涯の中で一番愛しい人といつまでも寄り添っていくことが出来るのなら、私は星座を散らしても惜しいとは思わないわ」
 手元のすっかり冷めた紅茶で口を潤すと、ともえちゃんは背筋を伸ばしはっきりと前を見据えて言った。
 ともえちゃんの凛然とした姿を、私は羨ましくさえ思う。
 普通の女子なら星乞いをしたとなれば、その男子と星結いをすること以外、思いが巡らないだろう。他の全てが盲目になってしまう、それが星乞いをした人間の当然な姿なのだと。でも、ともえちゃんはそんなものには興味がないと言わんばかりに、木星という地球よりも数倍巨大な星の引力に惹かれている。そして、その事に抗うでも焦るわけでもなく、あるがままに星を向けているのだ。
 改めてこの親友の、懐の深さを知った。
 私はホゥと小さく吐息を漏らすと、笑顔で言う。
「わかった。ともえちゃんが大木先生を好きっていうなら、私も応援するね。さっきはひどいこと言って、ごめん」
 これまで、ともえちゃんがそうしてくれたように、私も親友の星乞いを励まさなきゃ。これからもずっと彼女の隣にいれるように、私も大きな懐でいなくては。
 何故か一瞬、悲しげな表情を見せたともえちゃんだったけど、すぐにいつもの品が良い微笑みを浮かべた。
「うん、ありがとう。心恵ちゃんに応援してもらえれば頑張れそうな気がする」
「大木先生、ライバルがいっぱいだからね。先輩達も美人な人ばかりだし。でも大丈夫!ともえちゃんの方がもっと美人だから!」
「うん。なんだか自信がついてきた!」
 それから私達はひとしきり大木先生の攻略法を話し合い、時には戯言も交えて笑い合った。気付くと日もすっかり暮れていて、南の空には一番星の木星が輝いていた。

「いけない。もうこんな時間。長々とお邪魔しました」
「いいえ。特別なおもてなしも出来ずに」
 そう言って私達は居住まいを正すと、かしこまって頭を下げ合う。これが最近、私達の間だけで流行っている大人の女性を真似た遊びだ。
 クスクスとしのび笑いをしたあと、私は壁に掛けられた時計に目を移す。そして、あることを思い出してハッとした。
「いけない。私、早く帰らないといけないんだった」
「何か用事でもあったの?」
ティーカップやお菓子の袋を片付けながら尋ねるともえちゃん。私はダッフルコートを身にまといながら答える。
「うん。六時にヒジテツ君から電話が来る予定なんだ」
「阿部君から電話が? なんでまた」
 訝しんで眉を潜めるともえちゃんに、私は少し大人びたように胸を反らす。
「実は私、ヒジテツ君から恋愛相談をされているんです」


更新日 8月6日

 あれは二学期になってすぐの頃だろうか。
化学の授業で同じ班だった私とヒジテツ君は、授業後にジャンケンで負けた罰として、実験道具の清掃をしていた。その時にヒジテツ君から相談を受けたのである。
『俺、最近好きな人が出来たんだけどさ。やっぱり恒光石を持っていない奴なんて、イヤかな?』
冗談半分で恒光石の名前を唱えてしまった彼は、もう永久に星結いをする機会を失ってしまったのだ。サッパリとしていてひょうきんな性格だと思っていたが、案外にナイーブな一面もあるのだと感じ、私は親身になって話を聞いてあげた。一つ二つアドバイスをするとヒジテツ君は気を良くし、また相談に乗ってもらっていいか、と尋ねたので、私は快く承諾した。
それからというもの、たまにではあるが休み時間や体育の自由時間などにちょくちょくヒジテツ君と話すようになったのである。
そして今日、六時頃に家へ電話をしていいかと聞かれたので、私は別に構わないと伝えた。

「心恵ちゃんと阿部君、最近一緒にいると思ったら、そんな話をしていたんだ」
ともえちゃんは納得して頷いたが、その顔はまだ悩んでいるようにも見えた。
「そうよ。他の人の恋愛話って結構勉強になるし、それにヒジテツ君は鎌田君の親友でしょ? こっそり情報を教えてもらっているの」
「阿部君には鎌田君を好きだって、伝えているの?」
「うぅん、それはさすがにちょっと。ともえちゃんにしか言えないよ」
 実際、ヒジテツ君からの相談といっても半分以上は関係ない話になる。だから彼の口からは自然と仲が良い鎌田君の話題が飛び出してくる。私にとっては貴重な情報源だ。
 それに、私としてもクラスの男子と普通にお喋りをしていることに、軽く優越感を覚えるのだ。
 小学、中学と強制的に女子校に通わされたせいか、クラスの大半の女子は未だに男子に対する免疫がついておらず、一歩引いたところから眺めているだけだし。
 ヒジテツ君とお喋りしていると楽しい。男の子はやっぱり女の子と違って少しがさつだけど、モノの考え方や発言が直球で力強くて、今までと別の世界を提示してくれる。
 もちろん恋愛感情なんてないけど、ヒジテツ君は私が高校生になって初めて出来た、気が許せる男友達だ。

 私はダッフルコートのボタンをとめる手を早める。約束の時間は六時だけど、時計はまさに今、縦一文字を刻もうとしていた。ともえちゃんのお家からは走れば一分もかからない距離だけど、電話とはいえ友達を待たせるのは悪い。
「それじゃあ私、帰るね。紅茶とお菓子、ご馳走様でした」
「あ、うん。また明日、学校で」
 すっかり上品な笑顔に戻った、ともえちゃんに見送られ、私は手を振って大山家の玄関をくぐる。
 そして去り際、ともえちゃんは少し考え込んだ後、口を開いた。
「心恵ちゃん。私がこんな事を言うのも変だけど……みんながみんな、理想の形で星結いが果たせるわけじゃないと思う。でも、それでも期待してしまうのが人っていうものじゃないかしら?」
 最初は何の事を言いたいのか真意を探りあぐねいたけど、私はてっきり、ともえちゃんが自分と大木先生のことを言っているのだと思い込んだ。
 そんな親友に深々と頷き、手を振って応える。その時なぜか、ともえちゃんは言い知れない複雑な顔をしていた。まるで以前に見た鎌田君の哀愁漂う表情に似ていて、心の隅にザラリとした感触が残った。


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