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2010'07.04 (Sun)

私の星乞譚。 第三章

「ごきげんよう、皆さん。この章では星結いの作法について、お教えしたいと存じます。さほど難しいことはありません。幾つかの諸注意を守って頂ければ、あなたも憧れの君と星を結ぶ事が叶うでしょう」
満面の笑みを浮かべて画面いっぱいに登場したのは、朔張校長だ。それはもう、太陽にも勝るほど百万ドルのスマイルを放っている。
薄暗い会場のどこからか拍手が聞こえるが、きっと本人だろう。
「まずは星結いの環境について。
星結いは必ず夜に行いましょう。打ち上がった恒光石は何等級であれ、その時刻の星になります。ですから日中に星結いをしてしまうと星座の観測が困難ですし、最悪の場合は南半球に赴かなければ星を見つけられなくなってしまいます。
そして夜といっても、深夜は近隣にも呼び出された相手にも迷惑になるので控えましょう。
雨天時や曇天でも星結いは可能ですが、晴天の方が心証良いですし、すぐに星座を観測出来るので好都合です」
なるほど。つまりは天体観測に適した条件下で星結いをした方がいいわけか。
「つまるところ、夜に異性から呼び出されたら、星結いをされる可能性もあると心しておくべきでしょうか。
レディは支度に時間がかかるもの。男性ならば、多少待たされても悠然と構える心のゆとりは持ち合わせていたいものですわ」
みんな、わけもなく髪を手櫛で直したりスカートの裾を直し、背筋を伸ばすから可笑しい。そんな私も、つい前髪を指でいじってしまう。
「さて、次に星結いの手順についてですが、ここで世界でも珍しい星結いの場面をビデオに収めた映像がございます。それを教材としてご覧頂きましょう」
すると画面は途端に切り替わる。
画質が古臭くノイズが入っているが、かろうじて見える風景から察するに夜の児童公園だろうか。うちの近所やここら近辺で見覚えがない公園だとすると、どこか別の地域で行われた星結いだと推測する。
カメラはだいぶ離れた位置から撮影しているけど、十メートル先の街灯の下に誰かがポツンと立っている。するとカメラは次に手前に引き、スーッと右側にスライドさせた。
そこには手にマイクを握ったショートカットの女性が、無表情に立っていた。
「現場の夏日です」
つまらなそうにボソッと呟いたのは火星の化身、夏日先生だった。
明らかに気だるいのが映像越しでも伝わってくる。この講義は本当に先生達の自作ビデオなようだ。惑星が一挙に集結と配役はかなり豪華なメンバーの割に、内容が異様なほどチープに感じる。夏日先生、ドッキリ番組のリポーターじゃないんだから……。
「実は今夜この公園で、ある少年が一人の少女へ星結いをするという情報を入手しました。しかも我々の調査では、星結いが成功する確率は極めて高い、と結論付けています。世紀の瞬間は訪れるのか? 今宵、奇跡が誕生する予感に胸の高鳴りは押さえられません」
それでも与えられた役をこなそうと、先生は淡々と棒読みでリポーターを続けた。
画面の下に「星結い後に本人から映像使用の許可は頂きました」と、テロップが流れる。
事後承諾って事はこの映像、確実に盗撮だよね。
「おっとここで、少年が呼び出した少女が公園にやってきたようです。ついに星結いが始まります」
カメラは街灯の下にいる少年少女へとズームアップする。プライバシーを保護するためか、二人の顔にはモザイクがかかっていた。ここだけ見ると、かなり怪しげな映像だわ。
『ちょっと桐野くん。隠しマイクに音声を切り替えて』
フレームの外から漏れた声がマイクに入る。
桐野くん、ということは土星の化身もいるのか。声から察するに朔張校長だろうけど、隠しマイクって……。この銀河系の天体達はまるで変態犯罪集団みたいね。

音声が切り替わると、私達と同じ歳頃な男の子の声が聞こえた。話の内容からすると、今まさに愛の告白の真っ最中らしい。
ドラマで見るような素敵な告白ではなく、たどたどしくて内容も整ってないけど、切実に精一杯の気持ちを込めて……。あまりのリアルさに聴いているこっちが赤面してしまう。周りを見渡してもみんな同じことを感じているようで、既に堪えきれず下を向いている女子もいた。隣のともえちゃんも、瞳をキラキラ輝かせて見入っている。
するとまた、テロップが流れた。
『まずは秘めた胸のうちを打ち明けて、ムードを高めましょう』
悪気はないんだろうけど、何だか水を差された気分だなぁ。
思いの丈を伝えた少年は、胸元から恒光石を取り出した。そして一言一言噛み締めるように、星の名前を叫ぶ。命名された恒光石は眩い光を放ち、夜空へと高らかに飛んでいく。映像は荒くて画質も悪いけど、星が生まれる瞬間というのは、これまで目にした事がないほど幻想的で、美しい光景だった。
そんな映像に胸が高鳴り、うっとりとしていると、またもやテロップが邪魔をする。
『恒光石の名前を呼びましょう。途中で噛むと恥ずかしいぞ(笑)』
きっと制作側としては、お茶目なつもりなんだろうな。
カメラはアングルを夜空に向ける。映像に乱れはあるが、そこには微かに瞬く星が、確かに誕生していた。星が生まれた貴重な瞬間に、みんな胸をときめかせながら息を飲む。
『あっ! ちょっと桐野くん、どこ撮っているのよ! 早く二人を映して! 決定的瞬間を逃しちゃう!』
再びフレームの外から朔張校長の急かす声が聞こえた。カメラは慌てた様子で二人にフォーカスを合わせる。
その時、会場のあちこちから小さな悲鳴にも似た吐息が上がった。私もじっくりと目を凝らして映像に集中する。そして飛び上がりそうなくらいにビクンと身をすくめた。
ズームアップした画面の中にいる二人の距離がさっきより近い。というよりは、触れ合っている。
少年は両手を少女の肩に置き、ゆっくりと顔を寄せる。体育館のスピーカーから聞こえる、声を押し殺して興奮する校長の喚き。ガタガタと揺れるカメラ。
そして少年は少女の唇に、自分の唇を重ねた……!
叫び声が体育館中にこだまする。
私も顔を真っ赤に染めてワナワナと震えながら、ともえちゃんの手を握った。ともえちゃんも私の手をギュと力を込めて握り返す。そうしていないと、頭が沸騰して魂がどこかに飛んでいってしまいそうだった。
私だってもう高校生だし、テレビドラマで俳優さんがキスをしていても、目をそらさないようになれた。
でも、このキスは違う。お芝居でも冗談でもない、生々しい感情が形を成した、そんな意味が込められていた。
そしてきっと、この場にいる全員が想像しただろう。いずれ自分も誰かに星結いをする時、もしくはされる時に、同じ体験をすることを。小学校高学年の時に物々しく催された保健体育の授業なんかより、もっと赤裸々でやるせない衝撃を味わった。
阿鼻叫喚となった女子生徒達に構わず、こんな場面なのにテロップが流れる。
『恒光石を打ち上げたらキスをしましょう。ドキドキは最高潮に達して、星結いの成功率が急上昇!』
……ギブアップ。もう、見ていられない。

触れた唇を離した少女は、少年の告白に対して律儀に返事をする。というか、キスを受け入れた時点でオーケーみたいなものでしょうが。それも星結いの作法なのかしら。
そして少女も同じように恒光石に名前を込めて夜空に打ち上げる。すると少年の打ち上げた星と少女の打ち上げた星は寄り添うように煌めき、星と星の間にうっすらと線が浮かんだ。
正方形に手足が付いたような形の星座、これは確か『かに座』だ! 星座の誕生に、思わず全員が惜しみない拍手を送る。
わざわざ『やったね!星結いの成功だ!』というテロップも流れた。
あぁ……感動が半減。

映像はそこで終了したが、体育館は興奮の坩堝と化していた。
私とは違い、ある程度は星結いの知識があった人達でもキスまでは知らなかったようだ。茫然自失とする女子もいれば、顔を真っ赤にしてキャーキャーはしゃぐ女子もいる。みんな、反応はそれぞれだけどセンセーショナルだったことには変わりはない。
私は隣に座る、ともえちゃんを指でつつく。いつも冷静沈着な親友の意見も賜りたいところだ。
「ねぇ、ともえちゃんは知ってた? その、キ……キ、キスのこと」
駄目だ。その単語を口にするだけで心拍数がヤバいことになる。顔を朱色に染めてともえちゃんを見上げたけど、彼女は私の言葉が耳に入っていないか、瞳をキラキラと輝かせているだけだった。さすがのともえちゃんにも、今の映像は刺激が強すぎたらしい。
もう一度つついてみると、ともえちゃんはビクンと驚いた。その反応にこっちの方が驚く。
「ご、ごめんね、心恵ちゃん。ボーっとしてた」
少し焦った表情を見せる親友に、再度問い掛けようとした時、スクリーンに映し出された映像がまたもや朔張校長に切り替わった。
「以上が世界的にも非常に珍しい映像、かに座が星結いで誕生した瞬間でした。大変ロマンチックでしたわね。
それでも、惹かれ合ったカップル同士が星結いを出来るなんて稀なことなのです。中には望まない相手からの星結いも少なくはないもの。
そこで、次の章のテーマをご参考にして下さいまし」
画面が変わり、赤い文字が浮かび上がる。
「レッスン三。星結いの上手な断り方」
もう駄目。限界。あまりの赤裸々さに、私だけでなく大半の女子が撃沈していった。


 体育館の扉が開かれると、女子生徒達は明らかな疲労の色を眉間に寄せ、新たなクラスへと三々五々向かう。その覚束無い足取りには、新入生の溌剌さが失われていた。
 私も例に洩れず、がっくりと肩を落としてフラフラと体育館を後にする。
 全編一時間半に渡る『星結い』の講義は、まさに圧巻の一言に尽きた。今まで知らなかった世界の真実を心構えも無しに突き付けられるのは、別の銀河系から天体を見せられるような違和感に満ちていた。それまで目印にしていた一等星達を探しても本当にその星は自分が知っている星なのかと疑ってしまいかねない、危うさが心に巣くってしまう。
 だからさっきまで見ていた世界の色や匂い、音までもが別のものに変化したように感じる。これは私が鎌田君を好きだと認識した時の感触に似ていた。あまりの変化について行けず、足をたった一歩踏み出すことさえ恐かった。でもそんな臆病な気持ちの陰に、きっとこんな風に大人へなっていくんだろうなという期待感もあって、それが少しだけこそばゆかった。
 みんなはどうなんだろう? 私と同じ感覚に襲われることがあるのだろうか。ともえちゃんは? そして、鎌田君は?
 もしも鎌田君も同じ気持ちを味わっているなら、教えて欲しい。その思いは誰に向かって伸びているのか……。そして、こっそりと伝えて欲しい。出来れば私にだけ聞こえる、私の望む答えだけが聞こえるようにと、身勝手な要望を挟みながら……。
 私の横を歩くともえちゃんは流石と言った風に、少し思い詰めた表情を浮かべているものの、真っ直ぐと前を向き足取りはしっかりとしていた。
 私はともえちゃんの袖をギュッと握りながら呟いた。
「ねぇ、ともえちゃん。私……自信なくなってきちゃった」
 あまりにも素直に弱音を吐いてしまった私を、ともえちゃんは優しく微笑みながら袖を引いた手を包んだ。
「そんなこと言わないの。まだ始まったばかりじゃない」
「でもね、私ってば本当に今まで何も知らなかったから。鎌田君に、その……気持ちを伝えられればいいかな、くらいしか考えなかったのに。星結いだなんて。それに、キ、キキ……」
 さっき見た映像が生々しく甦ってきて、私は息苦しくて言葉を続けられなかった。
「あんな恥ずかしいこと、出来ないよぅ!」
 私はガーネット・スターみたく顔が真っ赤になってしまった。確かにこんな頻繁に赤くなってしまっては早めに寿命が来てしまいそうだ。
「でもそれは今すぐっていうわけでもないのだし。そんなに焦ったり思い詰めたりする必要はないじゃないかしら? 心恵ちゃんは心恵ちゃんのペースで、鎌田君の気持ちに近付いていけばいいのよ」
「そ、そうかな? でも私、居ても立ってもいられなくて」
「そういう募る思いが恒光石を育ててくれるらしいわよ。大丈夫だって。きっと鎌田君は心恵ちゃんの気持ちに答えてくれるわ。今はゆっくりと星を温めておきましょう?」
 赤くなった頬を指の先で撫でながら、ともえちゃんは私を励ましてくれる。ともえちゃんが側にいてくれて良かった。彼女の言葉がいつもはぐれそうな私の心と体を、元の座標に戻してくれる。
「そうすれば、いざキスをする場面になっても落ち着いていられるわよ?」
「キッ! キ、キキ! ……んもぅ! ともえちゃんの意地悪!」
 そして時々こんな風に私をからかっては、小さく舌を出すのだ。
 怒って袖を引っ張ろうとする私から逃げるように、クスクス笑いながら小走りになる、ともえちゃん。そんなちょっぴりお茶目な親友を私は心から信頼している。

更新日 7月8日

 講義の後にクラス分けが発表されたので、私とともえちゃんは一年一組の教室へと向かった。幸いに同じクラスへなれた事に安堵感でいっぱいになる。そして教室に入る前に私は一旦あしを止めた。
 講堂での講義が先に終わったのか、各教室には一足先に男子がいた。その男の子が教室にいる風景を目の当たりにして、改めて共学校に進学してきたのだと実感した。
 内気な女子生徒は気恥ずかしいからか、なかなか教室に入る事が出来ず、廊下の端に固まってキャーキャー黄色い声を発している。
 落ち着かないのは男子も同じようで、廊下に面した窓からは餌を求める雛鳥のように顔を突き出している。爛々と輝かせた瞳を剥き出しにしてこちらを凝視しているので、女子達はなおさら教室に入りづらくて堪らない。
 しかも今さっきあんな講義を聞いたばかりだ。性別という隔たりが男子と女子の間に大きい溝を作ってしまっている。
 あまりに狂乱状態で教室へ入れず困っていると、各クラスの担任教師が注意を促し始めた。潮が引いていくように恨めしそうな顔を窓から引っ込める男子生徒達。ホッと安堵の表情で女子達も次々に教室へと入っていく。
 私達も中に入ろうとした時、ふいに名前を呼ばれて立ち止まる。声がした方に顔を向けた途端、グッと息を飲んだ。
 窓から顔を出していたのは、鎌田君だった。
「酒留も大山も、同じクラスだったんだな」
 窓のサンに頬杖をついてニッコリと微笑む鎌田君。もうそれだけで呼吸が詰まり、私の顔は再び赤色超巨星になってしまった。
 なんて答えたらいいのか分からず、ただ立ち尽くす私に構わず、鎌田君は話を続ける。
「二人と一緒のクラスになるのは、保育園の時以来だな。またよろしくな」
 高鳴る鼓動と混乱する頭で上手く返事が出来ない。でもこのままではせっかく話し掛けてくれたのに、感じの悪い印象を持たれてしまう。
 私はとにかくなんでもいいからと必死に口を開いた。

「お、おはようっ!」

 鳩が豆鉄砲を食らったようにポカンとする鎌田君。でもすぐに小さく吹き出すと、声を忍ばせてクツクツと笑った。
「そうだな。そういえば朝の挨拶を返されていなかった。酒留は相変わらず反応が遅いな」
「ち、違うよ! たまたまだよ! 今のはたまたま遅かっただけだってば!」
 慌てて言い返した私が可笑しかったのか、鎌田君はとうとう声を上げて笑った。
 その笑顔があまりにも眩しくて、周りの星さえも霞むほどに眩しくて……。私は輝く瞳を鎌田君から反らせずに、いつまでも見つめていた。

 ……やった。おはよう、って言えた。





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08:35  |  星乞譚  |  CM(2)  |  EDIT   このページの上へ

Comment

目次から名前まで厨ニ病乙
いいえ、名無しです | 2010年07月04日(日) 08:41 | URL | コメント編集

↑米乙
頑張って最後まで読んでみてやって下さい。
要人(かなめびと) | 2010年07月04日(日) 21:06 | URL | コメント編集

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