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2010'06.25 (Fri)

私の星乞譚。 第二章

 始業式が終わり、体育館の上座にいた来賓達がまず退場していく。そしてこれから私達も各教室へ案内されるだろうと思った矢先、体育館のスピーカーからアナウンスが鳴る。
『これより、男子生徒は講堂に移動して下さい。女子はこのまま体育館に残って下さい』
 ざわめく館内。だが先生達はそんな反応を予想していたかのように、何ということもなく男子生徒を体育館から出て行くよう誘導を始めた。理由もなしに退去を命じられた男子生徒達は口々に不満を漏らしていたが、それは女子にしても同じだった。小学、中学と強制的に女子校と男子校に分け隔てられ、やっと高校になって共学になれたというのに、ここに来てまた区分されることに不信感は募っていくばかり。私も黒い人だかりに混じって去っていく鎌田君の後姿を、寂しく目で追っていった。
 男子生徒が全て退出したのを見届けると、一人の女性教師が体育館の扉を閉める。閉鎖された空間に女子生徒達は何が始まるのかと口々に囁き合っていた。私も隣に座ったともえちゃんに声を掛ける。
「ねぇ、ともえちゃん。一体、何が始まるのかな?」
 清楚な彼女の顔にも幾分、暗雲が立ち込めている。それでも、ともえちゃんは努めて、品良く凛然と構えていた。
「わからないわ。でもここは学校だし、変なことをされるわけじゃないと思うけど」
 
 ざわめきで埋め尽くされた中、ステージの演台に一人の女性が歩み寄る。背丈は私よりも少し高いくらいで、カールが掛かった銀色の髪に透明なほど白い肌。黒い外套に身を包んだ出で立ちは異様過ぎるが、それよりもっと不思議なのは彼女の容貌だった。一見すると小学生くらいの童顔にも見えるが、表情によっては四十歳を超えた熟女にも見える、年齢不詳な女性だ。その女性をステージの上で見るのは本日二回目、一度目は始業式のとき、最初に挨拶をしたので印象に残っている。
 そしてその女性は一度目と同じく演台に両手を乗せて、にんまりと微笑み口を開いた。
「先ほどもご挨拶申し上げましたが、改めましてごきげんよう。この創天高等学校の校長である朔張望と申します。またの名を『ミセス・ムーン』。月の化身です」
 校長の話に、その場にいた全員が信じられないものでも見るように目を見張った。
 闇夜を照らす月や、夜空を彷徨う惑星には化身がいて、この地球上のどこかで私達のような人間の身なりで存在している、と聞いたことがある。それは南極老人星と呼ばれるカノープスのような、実在はしているけど見ることのない、おとぎ話の主人公のようなものだと思っていた。
 だけど今、私達の目の前にいる女性は自ら『月の化身』と自身満々に名乗った。疑おうにもその独特な風体を目の当たりにして、否定できない自分がいる。その姿の背景に、見上げた夜空に煌々と輝く月と同じ感触を味わった。
 私だけでなく、他の女子生徒達も同じような気持ちで息を飲んでいる。普段は天空に鎮座する白光の主が、今は手を伸ばせは届く位置にいる。それだけが違和感として拭えなかった。
 そしてさらに月の化身である校長は言葉を続ける。

「ちなみに、この学校には『彷徨の民』の化身も四人います。夏日さん、夕子ちゃん、こちらへ」
 校長に促され、壇上に上ってきた二人の女性教師。一人はスラッと伸びた長身にショートカットの金髪。キリッとした顔立ちに刺すような赤い眼。
「こちらの格好良いお姉さんが当校のアラビア・ギリシャ語講師の西郷夏日さん。火星の化身よ」
 もう一人は小柄な体格に無理矢理丈を合わせたスーツを身にまとい、オレンジ色のフワフワとした髪の女性。まるで子供のような顔つきだ。
「こちらは当校の歴史講師、明天夕子ちゃん。金星の化身よ。この時期でいう宵の明星ね。お子ちゃまに見えるけど、かなりお婆ちゃんよ。年齢はこの太陽系と同い年だから」
 軽口を言う校長を明天先生がキッと睨む。
「そんなこと言うけど、ルナちゃんだって同い年でしょ。おババは私だけじゃないんだから!」
 皆の視線が集中しているというのに頬を膨らませる明天先生を、気にせずにケラケラと笑い飛ばす校長。
「そりゃそうだわね。でも微妙に生まれた年が違うわよ。私は四十五億年前だけど、夕子ちゃんの方が先なんじゃないの? 太陽に近いし」
「うっ。そんな細かい設定は必要ないでしょ! 原始惑星の頃から考えればみんな同い年なの! 同級生なの! 四月生まれか八月生まれかの違いじゃん!」
「まぁ、そんな話はどうでもいいのですけど。ちなみにもう二人、木星の大木歳蔵さんと土星の桐野耕一さんは男子の方に行っているので、また後日改めて皆さんにご挨拶述べさせましょうか」
「どうでも良くない!」
 壇上でキャンキャンと喚く明天先生とは対照的に、隣の西郷先生は終始無表情で佇んでいた。
 頭がおかしくなりそうだ。化身とはいえ、太陽系の惑星が四つに地球の衛星がこの学校に集結している。いつも冷静沈着なともえちゃんですら、人目も憚らず口をあんぐりと開けて呆けている。

 全生徒が自分の常識と目の前にいる天体の化身達の存在をすり合わせようと必死に頭を痛めている中、校長は思い出したかのようにマイクを握り直した。
「さて、話を戻しましょうか。何故、我々『忠義の淑女』や『彷徨の民』がこの創天高等学校に集結をしているか、その理由をお伝えしなければなりません。皆さんは『星結い』や『星乞い』という言葉はご存知かしら?」
 その瞬間、女子生徒達の目の色が一斉に変わった。空気の変化の理由が掴めず、秋空のフォーマルハウトのような孤独感を覚えて周りをキョロキョロと見渡す私に、ともえちゃんが片目を瞑ってウィンクを飛ばす。
 その合図で私はやっと合点が入った。始業式前にともえちゃんが言っていた『星を結ぶ』という言葉の意味の謎が明らかになるということか。
 生徒達の反応を満足げに眺めながら、校長は口元を三日月のように歪めて微笑んだ。

「ふむ。皆さんはなかなか世事に聡いのか、それともおませさんなのか、どっちかしら? どのみち説明が楽で助かるのは事実ね」
 自体が未だに把握できていない私は置き去りに、校長は話を続ける。
「皆さんは『恒光石』は持っているわね。ちょっと見せて下さる?」
 そういうとその場にいた女子達はおもむろに胸元に手を入れると、巾着袋のような小さな袋をそれぞれ取り出した。中にはハンドメイドの巾着を持った人もいるが、その袋の殆どは同じ柄で、ご丁寧に「天野総合病院」と刺繍まで入っている。もちろん地元で産まれ、地元で育った私の袋も、幼馴染のともえちゃんのも同じものだ。
「よしよし、ちゃんと持っているわね。親御さんの躾が良い証拠よ」
 校長はみんなが手にかざした袋を繁々と眺め、満足そうに頷く。
「きっと今まで、この石を肌身離さず持っているように、小さい頃から言われてきたことでしょう。この恒光石は皆さんが産まれたと同時に授かった、魔法の石……星の元となる石なのです」
 相変わらず校長の一言一言に、驚愕で眼を丸くしているのは私だけのようだった。他のみんなはさも当然のようにすまし顔で、少し頬を上気させている。
 私は巾着袋の紐を緩めると、落とさないように慎重に中から恒光石を取り出した。やや小振りで透明な六つの玉が、私の小さな手の平に転がる。暗がりでかざすとぼんやりと淡い光を放つ恒光石。これが星の元になるというのは、本当なのだろうか?
「人が生を授かった時に必ず手にしているという恒光石は、古来より様々な使われ方をされてきました。最もポピュラーなのは運勢占いでしたが、ある地方では災厄の根源と扱われて早々に処分されたり。また別の地方では幸運の賜物として奉納されたり。ともかく恒光石はその地方の歴史と文化の影響を受けて、独自の扱われ方をされてきました。
 そこで、我々が眼をつけたのが、この天野市だったのです。この地方では古くより、恒光石を『星結い』の手段として重宝されていたのです。初めて人を好きになった思いが重なるとき、恒光石を空に打ち上げ星座を結ぶ行為を、天野市に住む人々はごく自然に行ってきました」
 その言葉を聴いた瞬間、胸の奥がジュッと熱くなった。そして私の鼓動に共鳴するように、手に持った恒光石が鈍く光を放つ。私は自分の鼓動を抑えるように手をギュッと握り締めた。
 壇上の校長、そして火星と金星の化身である女性教師二人は凛然とした態度で佇んでいる。
「私達、『忠義の淑女』と『彷徨の民』がこの天野市に集結した理由はただ一つ。漆黒の闇である夜空に、星座を広げる手助けをするためです」
 心の中に、尾を引いた星がスッと流れていった。

 そう言うなり、校長はスッと右手をかざす。すると体育館内の照明は徐々に暗転し、ステージの上からは真っ白く巨大なスクリーンが下りてくる。そのスクリーンにプロジェクターが上映を始めた。
「この学校の年度予算を全て注ぎ込んで、理事会と県の教育委員から大目玉を喰らって手掛けた力作よ。ご覧あそばせ」
 マイクで椅子に腰掛けるよう促すと、校長と二人の惑星はステージから降壇した。その場にいた全員がおずおずと着席をすると、途端に体育館のスピーカーから荘厳な音楽が大音量で流れる。スクリーンにはコンピューターグラフィックを駆使したと思われるアニメーションで、大きく「創天高校プレゼンツ」という文字が現れた。まるで映画のオープニングのようで、一同はスクリーンに目を奪われていた。

 無駄に豪華なオープニングを終えると、画面はそのまま宇宙空間のアニメーションが流れている。壮大な銀河系を悠々と流れていく映像に、随分とお金が掛かっている製作だと改めて感心させられた。
 その映像をしばらく眺めながら、スピーカーからは心地良い男性の声で、宇宙の起源や雄大な歴史についてナレーションが流れている。私は呼吸をするのも忘れて、しばらくはスクリーンに見入っていた。
 現在、夜空に見える星座や星雲などの解説も終え、その侘しさすらも抱かせる星空に憂慮の念を嘆きながら男性の声がスーッと遠のいていく。そして画面は急にシンプルになり、赤い文字で「レッスン1。星結いとは?」と映し出された。
 どうやらここからが本題らしい。私は高鳴る胸を抑えつつ、今まで知らなかった世界に一歩足を踏み出す感触に、微かな痛みを覚えていた。
『ほしゆいというのはー、すきな人にじぶんの気持ちをつたえることを、言うの、ですっ』
 体育館中がずっこけた。
 スピーカーから突如として流れてきたのは、明らかに小学校低学年くらいの舌っ足らずな女の子の声。セリフの内容と声が明らかにミスマッチ過ぎる。しかもこの声、どこかで聞き覚えがあると思えば、先ほど壇上で挨拶をした明天先生ではないか。
 本人はというと、みんなの視線が気に入らないのか、ムッスリと不機嫌な表情をしている。隣に座る校長は期待通りの反応とばかりに、手を叩いて大笑いしていた。
 もしかしてこの映像は、先生達の自主制作なのだろうか。

 気を取り直して画面に眼を戻すと、さっきのオープニングとは対照的過ぎるほどチープなアニメーションが流れている。一発で手書きと分かる下手くそな絵で描かれた女の子が、ビー玉を手に持っている。
『ゆうこちゃんは、す……すきな男の子がいましたっ。彼のことをかんがえると、よるもねむれません。そのおもいは、ひにひに大きくなっていくばかり、ですっ』
 明天先生の声が震えている。こういうナレーションは得意でないのかもしれないし、なにより映像の女の子の名前が自分と一緒なので、照れているだろうか。
『それでも、ゆうこちゃんはけついしましたっ。だ、大好きな、お、男の子……としぞうくんに、告白しること、決めたのですっ! キャー! なんで私が木星に告白しなきゃいけないのよ! ミスキャスト! 役名を変え、もがもが……』
 途端に私情が挟んできたのか、映像の内容とセリフが全く合っていないコマが数秒ほど流れた。本人は暗がりでも分かるほど真っ赤な顔をして、頬の辺りがピクピクと痙攣している。校長に関しては足をバタバタと踏み鳴らして、声なき大爆笑に悶絶していた。
 というよりも、撮り直せば良かっただけではないのか?

更新日 6月30日

『ハァハァ……そして夜。ゆうこちゃんは、近所のこうえんにとしぞうくんを、呼び出しましたっ。そうです、ほしを結ぶためです。胸にひめたおもいを、と、としぞうくんに、打ち明けるためですっ! ……もぅ、本当に名前を変えてよぅ』
 そして暗がりに現れた、これまた素人が描いたであろう男の子。この子がとしぞうくん、なのだろう。目元が離れた落書きのような顔をした男の子が手を挙げる。
『どうしたんだい、ゆうこちゃん! こんな時間に僕のことを呼び出して。何か素敵な用事でもあったのかな?』
 これまたキャスティングミスな声優が現れた。棒読みな明天先生とは真逆の、ノリノリで妙に抑揚がある男性の声。きっと想像するに、ここにはいない木星の化身と言われている先生なのだろう。この映像は、本当に先生達の自主制作らしい。
『実は歳蔵君に聞いて欲しいことがあって呼び出したの。わたし歳蔵君の事が好きでした。気持ちを受け取って』
 明天先生の声が急に低くなり、冷めた棒読み口調に変わった。よっぽど木星の先生が嫌いなのだろうか。あまりに淡々とした告白のセリフに、とてもじゃないが感情移入出来ない。……始めから出来ていないが。
 アニメーションのゆうこちゃんは手に持ったビー玉、二つの淡い光を抱く恒光石を、としぞうくんの前に差し出す。
 そしてゆっくりとセリフを続けた。
『あなたへの気持ちを証明するために私は恒光石の名を呼んで空に打ち上げるわ。ズベン・エル・ゲネビ。ズベン・エル・ハクラビ』
 名前を呼ばれた恒光石は突如として眩い光を放ち、夜空へと一直線に飛んでいった。
 すると今度はとしぞうくんも手に持った恒光石を二つ、ゆうこちゃんの前に差し出す。
『ゆうこちゃんの気持ち、受け取った。凄く嬉しかったよ。僕も、君の気持ちに答える。一緒に星を結ぼう。ズベン・エス・カマリ! ブラキウム!』
 同じく光を放つ恒光石は夜空に打ち上げられた。そして四つの星と星の間に、うっすらと光の線が架かる。少しいびつな長方形型だが、そこにははっきりと星座が浮かんでいた。
『やったよ、ゆうこちゃん! 僕らの愛が星を結んだ! そうだ。あの星座を天秤座と名付けよう! 僕らの愛はいつまでもどちらが過不足することなく、平等で均衡であり続けると誓う! いや! そんな秤なんて壊れるくらいの大きな愛を築いていこうじゃないか!』
『そうですね……』
 いやに能弁な気障男と既に冷め切っている女の、全く絵と合っていないラストシーンを見せられて、画面にはエンドの文字が浮かんできた。あまりのちぐはぐさに一同、声も出ない。校長ただ一人が拍手を送っていた。
 
 なんとも飲み下せない感情が胸に渦巻いていたが、分かったことが二つあった。
 『星乞い』とは生まれて初めて誰かを好きになること。そして『星結い』とはつまり、好きな相手にその思いを打ち明けることなのだ。恒光石を空に打ち上げるのは、愛の証なのだろう。そして思いが通じ合った時、夜空に輝いた恒光石は線で紡ぎ、星座となる。
 始業式前にともえちゃんが私に言った言葉、鎌田君と星を結べればいいね、だなんて。今にしてみれば知らなかった方が幸せだった気がする。ロマンチックというには、この小さな心と体では捉えきれないほどあまりにも壮大で、私はただただ茫然とするばかりだった。

 そんな呆ける私をよそに、終わったとばかり思っていた映像には、またもや大きな赤文字が浮かぶ。「レッスン2。星結いの作法」
 ……まだ、あるの?



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