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2010'02.28 (Sun)

団体準決勝 先鋒戦  高田・吉川VS村上・佐野

 見るからに強豪校といった佇まいを醸し出す第四中の選手達は、小柄な下級生ばかりで構成された第七中が整列するのを待って、改めて組み合わせ順に整列をし直した。明らかに格下相手にそこまで警戒するものかと些か憤然としたが、それも智将である佐々木の飽くなき勝利に対する気構えといったところか。もしかすると、一見それが正規の組み合わせと見誤らせる作戦の一種だったのかもしれない。どのみち優勝常連校にしては少しばかり姑息にも思える手段だ。
 しかしそれよりも整列した相手の組み合わせを見て、第七中メンバーは度肝を抜かれてしまった。何故なら第四中も、オーダーが三番手、二番手、一番手で組んできたからである。せめて神谷ペアが三番手にでも当たってくれれば多少は勝率が上がったのに、そんな期待をも通さないオーダーに自らが組み合わせを決定した宗方は歯がゆい思いで相手コートをねめつけていた。
 ベースラインに並び大きな声で礼を交わす第四中を倣って、第七中メンバーも部長の号令に合わせてコート内に足を踏み入れた。ネット越しに自分達の対戦相手と顔を突き合わせる両チーム。先ほどの第五中とは違い、第四中は団体全選手が三年生で構成されているため、さらに第七中メンバーとは体格に差が生じて圧巻されてしまう。この時点で早くも第七中メンバーは気後れしてしまっていた。
 神谷と小堺も自分達の対戦相手をジッと観察してみる。強豪校といわれる第四中の一番手ペア。第四中は殆どがジュニア選手で構成されていると聞かされているが、あいにく彼らはこの選手達のことを小学生の頃は知らなかったので、実力のほどは計れないがきっとこの地区では一番の腕前なのだろう。身長差がだいぶ開いているため自分達を見下す格好になっているが、凛然と構えるそのペアに神谷と小堺は目を逸らさないだけでも精一杯だった。
 にっこりといつもの爽やかなスマイルを称えてオーダー表を差し出す佐々木に、安西も握り締めていたオーダー表を手渡し交換した。
「よくぞ第二回戦まで駒を進めてきて頂きました。感謝申し上げます」
 相変わらず丁寧な物言いで挨拶をする佐々木の顔を品定めするように、安西はジッと見据えて返答する。
「はい、運良く。どうぞ第二回戦はよろしくお願いします」
 そして一拍置いてからわざと声を低くして
「こちらはまだまだ弱小ですので下手な小細工無しに挑みたいと思います。『智将』と呼ばれている佐々木先生?」
 と挑発気味に告げた。この幼稚にも捉われかねない仕向けに佐々木がどう反応するか見ものだったが、当の本人は一瞬だけ驚いたように瞳を見開くと、すぐに破顔してクツクツと笑っただけだった。
「それではこちらも下手な作戦は抜きにガチンコ勝負でお相手致しましょう。どうぞよろしくお願いします」
 オーダー表をわざわざ左手に持ち替えて右手で握手を求める佐々木に、安西も笑顔で手を握り返した。なんだか今のやり取りで自分がひどく馬鹿にされたような気がして、安西は内心ムッとした。
 選手達がトスを終え、審判がスコア表に記載するのを確認するとネットを挟んだ両選手は互いに礼を交わして自分の陣地に戻り円陣を組む。
「一番手は高田君、君達だ。相手が誰であろうと全力で戦いたまえ」
「高田君、吉川君。さっきみたいにシュートとスマッシュで相手を驚かせてやろうよ」
「頑張れよ! 不良コンビ! お前らのパワーテニスで三年連中をびびらせてやれ!」
 がっちりと肩を組んでスクラムを組む六人は先鋒ペアに檄を飛ばす。これが終われば高田ペアはすぐに試合を開始しなければならないのだ。
「おう。勝てるとは思っちゃいねえが、一発くらいはぶち込んで一泡吹かせてやらねえとな。なぁ、のぼる?」
「うん。たっちゃんが打ち込んだら僕がすぐスマッシュだね。わかったよ」
 意気揚々と答える二人を見て、小堺と宗方、丸藤はいつもの第七中らしさを取り戻して自信が胸に戻ってきたような気がした。だが、神谷だけは一人浮かない顔をしている。
「どうした、正樹? なんか不安なことでもあるのか?」
 パートナーに声をかけられ、ハッと顔を上げる神谷。そしてとっさに首を横に振った。
「いいや、ただそのプレースタイルはどうなのかと疑問に思っただけだ。気にすることはない」
「なんだよ、疑問って。それに俺達はこれしか出来ねえんだから、気にされても困るぞ」
 怪訝そうに見返された高田へ神谷は「それもそうだな。すまない」と詫びて部長に声をかけた。
「最後の一本まで諦めなければ逆転するチャンスは必ずある。みんな、第四中に一矢報いてやろうじゃないか」
「うむ、副部長の言う通りだ。各々最後まで全力で励みたまえ。佐高第七中―! ファイトー!」
『オー!』
 高らかに声を張り上げ互いの健闘を激励し合うと、第七中メンバーは先鋒の高田と吉川をコートに残し、早々にベンチへ引っ込み固唾を飲んで見守った。既に第四中の先鋒は準備万端で待ち構えている。高田はそんな彼らを元来の凶暴な眼つきで睨み返して威嚇する。
 佐高第七中対第四中の先鋒戦が始まった。

 第四中の三番手、村上と佐野ペアは両選手とも中学入学を機にソフトテニス部に入部した。選手の殆どをジュニア経験者で占める第四中の中では、異例とも言える未経験者にして団体メンバー入りを果たしたという生え抜き選手であるため、『智将』佐々木の評価は高い。癖がないフォームと試合でも安定したプレーに定評があるこのペアは、団体戦の殿(しんがり)役として重宝されている。
 高田と吉川、第七中ペアがサーブで始まった第一ゲーム。高田のファーストサーブは外したが、セカンドサーブは何とか入った。第四中の後衛、村上は緩やかなレシーブで返すとすかさずに次の返球に対して構える。高くもなく低くもない緩やかなボール、高田にしては絶好のチャンスボールだった。全身の力を両足にしっかりと蓄え、タイミングを合わせて戻ってきたボールをしたたかにラケットで打ちつけた。身がすくむような快音が第3コートに響き渡る。第七中サイドは一瞬浮き立ったが、ボールは僅かな差でアウトしてしまった。だが高田のフォームは崩れていなかったし、ラケットに当たる面もそれだけ悪くはない。外しはしたものの一本目からかなり快調な出だしだったといえる。
「ドンマイ、竜輝! 次は入るよ!」
「たっちゃん! もう一本!」
 ベンチから飛んでくる声援に、高田も好感触を得たからか手をかざして答える。
 続いて相手前衛へのサーブは一本目から決まった。これまた緩やかなレシーブを高田の前に返球した前衛はすかさず前に詰める。そのボールをまたもやチャンスボールと渾身の力を込めて待ち構える高田。だがその時、相手選手のレシーブに神谷は違和感を覚えた。
 いくら第一ゲームの様子見だからといって、強豪校とも言われる選手が二本とも連続で緩いレシーブで返すだろうか? 一瞬の考え事だったが、コート上では高田が叫び声を上げて力の限りボールを打ち込んだ。打球は矢のように相手コートに突き刺さっていく。今度はきちんと打球はコート内に収まるようだ。それを素早く察知した吉川は次の動作に移るため二、三歩後退する。その光景を見てカッと目を見開いた神谷はすかさずに叫んだ。
「違う! のぼる、前に詰めろ!」
 神谷の言葉を頭の中で理解するよりも先に、第四中の村上は高田の弾丸のようなシュートボールを同じくらいのシュートボールで若干後退していた吉川に目掛けて放った。気が早くもうスマッシュの構えを取っていた吉川は慌ててボレーの構えを取れずにたたらを踏んでしまい、無残にもそのシュートボールを顔面で受けてしまった。
「のぼる!」
 跳ねるように駆けつけた高田に、吉川は目を押さえながら「だ、大丈夫だよ……」と弱弱しく答えた。高田は怒り狂ったように相手コートを睨みつけたが、第四中サイドは冷めたような表情でゲームの進行を無言で促している。
 第七中サイドは今のプレーに驚きよりも何故今まで気付かなかったのかと、むしろ落胆していた。上級者とまでいかなくとも中級プレーヤークラスでもシュートボールをシュートボールで打ち合うのはソフトテニスでは至極当然なことである。なので少しでも上のクラスの相手と対戦すれば、いくら神谷に匹敵するといわれる高田の剛速球も、打ち返せないレベルのものではないのだ。そんな当たり前のことを経験者である神谷や丸藤をも盲目にしてしまっていたのは、やはり初心者陣の練習に付き合い過ぎていて感覚が鈍っていたからにすぎなかった。
 ソフトテニスのボールは硬式とは違い、顔面にクリーンヒットしたからといって大怪我になるものでもない。事実、吉川の顔から血が出ているわけでもないし、目だって失明するほどではなく時間が経てば回復する。なのでゲームは中断することのなく進むが、それでも吉川の片目はこのゲームでは死んだも同然だった。片目だけではバランス感覚が悪くサーブもまともに打てないし、レシーブにもまともに対処しきれない。結局、第一ゲームは一点もポイント出来ないまま終わってしまった。

 吉川の目を労わって冷えたタオルで目元を押さえたり、高田のシュートが通じなく他の策はないかと頭を捻っててんやわんやしている第七中ベンチを冷淡に見つめ、顔の前で組んだ手を崩さないまま佐々木は一ゲーム目を先取した村上と佐野に指示を出した。
「指示通りに前衛が潰れてくれた。村上、次も同じように後衛にシュートを打たせてやれ。それを佐野、お前がボレーしろ。そうすれば今度は後衛が勝手に潰れる」
 そして佐々木は今の数本で分析した高田と吉川の特徴を二人に告げる。
「あの前衛はスマッシュ頼りだから横の動きは殆ど無視しても構わない。後衛もロブは当てるだけ。深いボールと浅いボールの緩急に対処しきれない。どう見ても単なる素人だ。一点もくれてやらずにさっさと勝って来い」
『はい! お願いします!』
 ロボットのように感情を含めず淡々と指令を出し終わる佐々木に頭を下げ、村上と佐野は足早に向かいのコートに走っていった。その間も佐々木は氷のような視線と頭脳で相手選手達の一挙動を観察し、それぞれの性格を分析する。彼の頭の中にある第七中専用のデータベースに次々と情報が蓄積されていく。性格や実力は勿論だが相手の使っているラケットからグリップの減り具合まで、一見無駄とも言えるような情報でも佐々木は絶対に忘れないし疎かにしない。
 今はさほど脅威ではない第七中だが、一年後、二年後には必ずや己のチームを脅かす存在になるだろう。ならば今のうちから少しでも多くの情報を収集していて損はないし、潰せる芽は早いうちに潰しておいた方がいい。佐々木がこの第二回戦で掲げている目標はただ一つ、第七中を完膚なきまでに敗北させること。ここで新生チームのやる気と自信を削いでやることが、ひいては将来の第四中にとって有益になるのだ。
 佐々木は自分の傍に控えている一番手の後衛、第四中の部長である黒田を呼ぶ。
「黒田、応援の声が全く出ていない。相手が弱いからといって応援の手を緩めさせるな」
「はい」
 目礼をすると黒田はすかさず観客席にいる二年、一年勢に怒号を浴びせる。
「お前ら! 全然声が出ていない! そんな小さな声しか出せない奴が試合に出れると思うなよ! 試合に出たい奴はもっと声を出せ!」
 黒田の叱咤に呼応するように応援が熱を増した。焼いた暖炉に藁を入れたように急に盛り上がりが増した第四中サイドに、顧問も含めて僅か七人しかいないはただただ圧倒されるばかりだった。

 自分の唯一の武器であるシュートをやすやすと破られ、すっかり戦意喪失してしまった高田を何とか励まして見送った第七中メンバーだったが、うなだれるように背中を丸めて向こうのコートへ走っていく二人を眺め、他のメンバーも居た堪れない気持ちになった。それに輪をかけて相手チームの応援がテンションを上げていく。自分達も喉をからしてまで必死に声援を送っているが、多勢に押し潰されて声はまったく二人に届かなかった。
「美和ちゃん、俺らの声が全然聞こえてねえよ。なんとかならないのかな?」
 悔しそうに地団駄を踏む小堺に、安西はなんと答えれば良いか分からなかった。
「だって先生も応援するの禁止されているし、そもそもうちは部員がこれだけだから仕方ないじゃない。応援だけはどの学校からも負けてしまうわね」
 他のメンバーも沈痛な面持ちで向かい側の応援をジッと見据えた。団体戦に限らず個人戦でも応援の質が試合の行く末を左右する時が多々ある。ミスをしても大勢からの励ましを受ければ気分もグッと救われるし、逆にポイントを決めたときの称賛は多ければ多いほどプレーヤーの覇気を鼓舞する。それに得てして実力が強大な学校ほど必然的に応援にも力が入っているので、弱小校が格上相手を組み伏せるにはそういうプレッシャーをも乗り越えなければならないのだ。そう考えても、多勢に無勢の第七中に第四中は相手が悪すぎる。
「高田君! 吉川君! 一本先攻っ!」
 まだ声変わりをしていない甲高い声を精一杯張り上げる丸藤だが、そのか細い声援は第四中サイドの応援団の前に掻き消えてしまった。
「もうっ! 全然駄目だ! あっち側に声が届かないよ!」
「こっちの声援は仕方ないけど、せめて第四中の応援を抑えることが出来れば……」
 神谷が何気なく言った一言に、安西は不意に何か思い当たったように瞳をパッチリと開けた。
「どうしたの、美和ちゃん? 何か良い事思いついた?」
 不審に思って尋ねた小堺に、安西は何か悪知恵を思いついた子供のようにニンマリと笑みを浮かべた。
「ちょっと、ね。今日は間に合わないと思うけど、明日の個人戦を期待してなさい。最強の応援要員を連れてきて上げるわ」
 不敵に微笑む安西に一同は首を傾げる。つい4月に新設されたばかりのテニス部へ応援に来てくれるような人がいただろうか? 全く心当たりがなかった。

更新日 3月5日

 そんな考え迷う部員達を余所に、コートでは第二ゲームに突入する。続いてはレシーブサイドになった高田と吉川はどうにかボールを繋げようと相手サーブをじっくりと集中した。だが相手後衛は先ほどのレシーブ同様に、明らかに手加減と分かるスピードの乗っていないサーブを送ってきたので、高田は拍子抜けしたようにあっさりとレシーブを打った。先ほどのシュートをシュートで返された打球を見るからに、サーブだって本来はそれ相応の威力を持っているはずだ。なのにまるで格下の自分達に合わせるようなゲーム展開に、高田は激しくプライドを傷つけられた。真剣勝負で臨んでいるはずの試合にわざと手を抜かれることがこれほどまでに屈辱的なことなのかと、高田は歯軋りしながら次の打球に備える。そして次に返ってきたボールも打って下さいと言わんばかりの緩やかなロブに、高田はその悔しさを右手にグッと溜めて鬱憤を晴らすように力いっぱいラケットを打ちつけた。取れるものなら取ってみろ、シュートで返せるものなら返してみろ、そんな高田の意地が籠められた打球は今までにないほどの威力を持ってラケットから打ち返される。
 しかし、そんな打球を待っていたとばかりに、相手前衛の佐野は素早くコートを横切り余裕を持ってボレーで決めた。そんな心地良いくらいのショットがコートに響き渡ると同時に、第四中サイドは歓声が轟く。高田は今、自分が持てる最高の力を籠めたシュートボールをあっさりボレーで返されたことに、屈辱をも含めた闘志や意地というものを根こそぎ奪われてしまい、なす術もなくがっくりと膝をついてしまった。
「竜輝! まだ終わってないんだぞ!」
「何をやっておるか! 立ちたまえ! 高田君!」
 チームメイトから飛ばされる檄も、第四中の荒波のような声援にかき消されてしまい彼の耳には届かなかった。ペアの吉川もどう励ましたらよいか分からず、同じようにうなだれるばかり。もとより吉川は、高田がシュートを打ち込むという前提がなければ活躍のしようがないのだ。シュートを打っても後衛にシュート返しを喰らうか、前衛からボレーの餌食になるだけ。万策尽きてしまった。

 それからの試合は第四中にとっては実に面白みにかけた淡々としたものになり、第七中にとっては公開処刑にも似た無残な展開となった。シュートが完全に通じないと悟ってしまい、既に戦意喪失した高田に対して相手後衛はまたもや緩やかな打球を返すのみ。殆ど精神的に亡骸と化した高田だが懸命にシュートを打ち込もうとするが、それらはやはりシュートで返されるか前衛のボレー練習替わりにされてしまった。そして第三ゲームが終わりゲームカウントは0-3。きっとこれが最後のベンチコーチングになるだろうが、第七中サイドはすっかり意気消沈してしまいまともにアドバイスを出来る人間は一人もいなかった。第四中サイドではコーチングを受けようと駆け寄った村上と佐野に対して、佐々木はただ一言短く「潰せ」と伝えたのみだが、それだけ充分だった。佐々木が言うまでもなく、既に勝敗は決していた。第四ゲームも殆ど目ぼしい活躍がなく、高田と吉川は最後まですっかり失望したまま結局1ポイントも獲得出来ず、完全試合で惨敗を味わされてしまった。


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