2017年03月 / 12月≪ 12345678910111213141516171819202122232425262728293031≫01月

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--:--  |  スポンサー広告  |  EDIT   このページの上へ

2010'02.24 (Wed)

VS第五中 大将戦

 そんな高揚した気分の輪の中から神谷と小堺は抜けると、黙ってラケットを持ちストレッチを始めた。その静かな闘志を湛える二人の背中を見つめ、他のメンバーもそれぞれ口を噤み出す。辺りを見渡せばいつの間にか他のコートでは第一回戦の対戦が全て終わっていた。スコアボードから読み取れるに、第1コートで勝利を収めたのは第六中。第2コートでは第一中。そして第3コートではやはり佐々木率いる第四中が次の試合に駒を進めていた。特に第四中など全ての試合をオール0の完全試合で勝利している。試合を終えた学校は第一回戦最後の試合を見学すべく、第4コートをぐるりと囲んでいた。特に第七中の一番手、今大会のダークホースの実力をその目で確かめておきたいのだろう。試合が始まるのを今か今かと固唾を飲んで待ち構えている。
 全ての選手が注目する中、神谷と小堺は動揺する様子もなく体を解している。その後ろ姿がこれほど頼もしく見えるのかとメンバー一同感心をしていたが、それでも仲間として声援を送らずにはいられなかった。
「神谷君、小堺君。頑張ってね!」
「まぁ、君達の実力なら心配することもないとは思うけど、精々励みたまえ」
「てめえら上手いんだからよ。さっさと勝って帰ってこいや」
「みやちゃん、さくちゃん。ファイトだよ!」
 みんなの激励を受けて、神谷と小堺は振り返り小さく微笑んだ。そのいつもより大人びた表情に、安西も顧問として声援を送る。
「君達が望んで立ち上げたテニス部での初公式戦よ。私が言うまでもないでしょうけど、勝利で飾りなさい。そして今、観戦しているこの佐高中のソフトテニス選手達に君達の実力を知らしめてあげちゃいなさい!」
『はい!』
 元気良く返事をすると、神谷と小堺はお互いに視線を交わすとコートに足を勇み入れた。
 佐高第七中対第五中の大将戦が、今始まろうとしていた。

「朔太郎と公式戦で組むのは、四年生の時以来か?」
 相手の大将、二番手ペアは未だに顧問から熱心にアドバイスを受けている。あまりやる気が感じられない学校というイメージが強かったが、やはりここにきて初参加のしかも一年生ばかりの学校に負けるのは沽券に関わると思ってきたらしい。
「そうそう、俺らがテニス始めてまだ間もない頃だったよな。それからすぐに他の奴と組んだから正樹と組む機会ってなかったもんな」
 実はこの二人、小学校の時にはテニスクラブでそれぞれ別の選手とペアを組んでいた。それが中学校に進学するにあたり、お互いのペア同士とは学区が違ったため、引き離されたことになる。実力でいえば神谷は一番手の後衛、小堺は二番手の前衛だった。
「実質本当の試合で俺達が組むのは初めてみたいなもんか。……よろしく頼むな」
「なんだよ、改まって。俺はずっと前から正樹と組みたかったから、やっと夢が叶ったようなもんだぜ。こっちこそよろしく頼むな」
「そう、だったのか。そういうものなのか?」
「そういうものだ」
 にっかりと白い歯を見せる小堺に、神谷も微笑みで返す。そうこうしているうちに相手選手の準備も整ったらしい。大衆に見守られているせいか、些か緊張した面持ちでコートに足を踏み入れた。そんな対戦相手を見据えながら、小堺は司令塔である神谷に指示を仰ぐ。
「正樹。この試合、どうやって攻める?」
「もちろん、初めから全速力で走り抜ける」
「いいね! 俺、そういう単純な作戦の方が好きだよ!」

 試合開始直前に行う一分間ほどの乱打の段階で、観客からは既にどよめきが湧き上がっていた。後衛同士の乱打は神谷の独壇場で、一糸乱れぬ豪快なフォームでシュートボールをガンガン相手後衛に繰り出している。対戦相手は始まってもいないのにタジタジだ。小堺の方も同様で、前衛の割にはストロークに威力がある彼はドンドン相手を追い詰めていき、少しでも緩いボールが来るとネット前に詰めて軽々とスマッシュを打ち込んでいた。僅か数本交わした乱打だったが、それだけで実力の差は圧倒的だということを、観客のみならず相手チームも容易に察していた。
 そればかりか第七中サイドも、彼らの本気を知る丸藤以外は口をポカンと開けて二人の姿に見入っている。普段の練習では初心者である部員達に付き合って手を抜いているので、彼らの本気のプレーを見るのは部員達も初めてなのだ。
「ね、ねぇまるちゃん。みやちゃんとさくちゃんって、こんなに上手かったの?」
 唖然とする吉川に丸藤は素っ気無く答える。
「いや、彼らはこんなもんじゃないね。どちらかというとあの二人、スロースターターだったから試合をしながら調子を上げて来るんだよ。まだ実力の半分くらいかも。神谷君だってもっとシュートが速くなっていくし、小堺君だってもっと動きが良くなっていくよ」
 その丸藤の解説に一同さらに驚愕する。それと同時に今まで自分達が彼らの練習の邪魔をしていたのかと反省してしまうくらいだった。審判のコールにより乱打は中断され、いよいよ試合開始になる。燃え上がる闘志が幻影で見えるのではないかと思うほどに真剣な表情をした二人を遠目で眺め、安西は半ば呆れながら苦笑した。
「一回か二回勝てば上等だなんて、謙遜にもほどがあるじゃない」

 サーブ権は第七中が先攻なので、まずは後衛の神谷が第一球目のサーブを繰り出す。速さと正確さを兼ね備えたサーブは余裕にサービスエリアに突き刺さり、タイミングを見誤った相手後衛はラケットのスイートスポットを外してレシーブをネットした。早速の1ポイント先取に彼らは大きな声で歓声を上げハイタッチを交わす。そして二本目、またしても相手前衛はレシーブをネットに返してしまう。あっという間に二本連続、サービスエースで得点した。そして続いては小堺のサーブ、神谷と違いじっくりと溜めを作ってから渾身の力を込めて放ったサーブに相手後衛は反応も出来ずに空振りをした。そしてマッチポイント、小堺は一本目のサーブをフォルトしてしまったが、二本目のサーブを打つや否や、そのボールを追うようにネット前へ一気に詰める。その機動力に意表を衝かれた相手前衛はレシーブコースを塞がれて、なす術もなく小堺の目の前に返球してしまい、それを呆気なくスマッシュで打ち返された。得点四本中にサービスエースが三本と、第一ゲームは驚くほど異様なスピードで幕を下ろした。
 息つく暇もないまま、第二ゲームに突入する。続いてレシーブのゲーム展開となるこのセットでも二人は圧倒的な実力の差を見せ付ける。一本目のレシーブを神谷はすかさず相手前衛のサイドを抜いて1ポイントを先取した。全くどのコースを狙っていたのか分からない打法を得意とする神谷の真骨頂である。相手前衛は何をされたのか分からず、ただ呆けて棒立ちになっていた。
 次いで小堺のレシーブは相手後衛のダブルフォルト。ポイント2-0で相手前衛のサーブは、神谷がシュートボールで相手コートのミドルを正確に打ち抜き得点した。そして第二ゲームのマッチポイントは小堺が相手サーブをカットレシーブで短く返し、またもや1ポイントも落とすことなくゲームポイントを獲得した。
 第三ゲームも殆ど第1ゲームと同じゲーム展開に。二人のサーブに全く反応が出来ない相手ペアはまたもや1ポイントも奪取すること叶わずついにゲームポイント3-0で第四ゲームを迎える。ここまで来ると最早相手チームは戦意喪失してしまい、観客達も彼らに同情を禁じ得なかった。だが神谷と小堺はそれでも手を抜くことは決してなく、最後の一本まで全力でボールを打ち込んだ。
 結果、終わってみればゲームポイントは4-0。しかも全てのゲームにおいて失点0とパーフェクトゲームで彼らはデビュー戦を勝利で飾ったのである。それと同時に、佐高第七中、団体戦を初戦突破し第二回戦へと駒を進めた。

 大将戦を終えて各々礼を交わすと、次に団体戦メンバー一同がネット際に整列し、審判により総合の礼を交わす。初勝利の感激に浮き足立つ第七中と対照的に、初参戦チームから敗北を喫された第五中は失意に沈んでいた。その敗戦校の顧問が沈痛な笑みを浮かべて手を差し出す。安西も若干申し訳なさそうな笑顔を浮かべながら手を握り返した。
「初勝利、おめでとうございます。それにしてもテニスが上手い一年生だけ、よくもこんなに集められましたね。本当に羨ましいくらいです」
「ありがとうございます」
「最初の対戦組み合わせから一杯食わされましたよ。生徒の噂話なんか真面目に耳を貸すものではありませんね」
 第五中の顧問は宗方の策に嵌ってしまったことを悔しそうに語った。
「いえ、こっちもたまたま運良く対戦表を組めただけです。もしも当たる相手が違っていたら、負けたのはこっちだったかもしれません」
 声を出さない笑いをして第五中の顧問は手を離す。そして安西の目を真っ直ぐに見据えて言った。
「次の試合はさすがにすんなりと思い通りの対戦表は組めないと思いますよ。いや、考えるだけ無駄かもしれない。なんせ第四中には『智将』がついてますから」
 安西は怪訝な表情で「智将……?」と繰り返すと、第五中の顧問は第三コートのベンチで輪を作り、話をしている第四中を瞥見した。
「佐々木先生のことですよ。彼はその独特な指導法から『智将』という異名をつけられているのです」
 安西も同様に人垣の中心で熱心に指導中の佐々木に目をやり、今朝の事や顧問会でのやり取りを思い出した。常に爽やかな笑顔を称え、貴公子然とした態度で優しく自分に色々と教えてくれた佐々木。そんな彼に『智将』という渾名はあまりにも猛々しく感じて違和感を覚えたが、第二回戦の対戦相手の情報は少しでも多く引き出すべきと思った安西は、とにかくその理由を尋ねてみることにした。
「独特な指導方法って、どんなのなんですか?」
「彼は確かに生徒に対して親身に指導を行いますが、試合での生徒の動きや作戦は全て自分が企てるんです。その分、他校の生徒の実力や特徴を非常に良く観察、分析されてますが、生徒達に自分でテニスを考えさせるということは絶対にしないそうです。全ては自分の指示通りに試合展開を構築するように、佐々木先生にとって選手達は盤上の駒でしかないんです。それを如何に差配して手堅く勝利を収めるか……まさに智将です。」
 苦虫を噛み潰したような顔をして語る第五中顧問は、その智将に幾度となく敗北を喫されてきたのだろう。顧問会で他の先生達も佐々木に対する態度がどことなく薄ら寒いものを感じたが、やっと理由が分かった。
 学校の、特に中学校教諭は生徒の自主性や考える力を育成することに重点を置いて指導を行う。なのでどれだけやる気のない生徒ばかりの部活動でも、本当は心の中で辟易としながら表面上は熱心に励ましを欠かさない。全ては生徒のため、思春期で人一倍感受性の強い敏感な彼らの意欲を少しでも刺激するためである。
 だが、佐々木の指導は完全にその思考から外れているともいえる。確かに有力者が最適な指示を行えば勝率はグンと上がるだろう。特に自ら考える力が未発達な選手ばかりならば、優秀なコーチが全ての指示を出してくれればこれほど楽なことはない。しかしそれでは生徒の自主性を全く無視した指導にも思えるし、生徒達は勝ちを生産するための単なる駒として個性など全く尊重しないと言っているようなものだ。もしも佐々木が本当にそういった指導をしているというのならば、学校教育という概念から完全に逸脱しているとも捉えられるが、何よりもそんな佐々木が管理する手駒達が勝ち上がっていく姿が、他校の顧問達は非常に面白くないのだろう。
「ですので、あの智将相手に下手な作戦を講じるのは逆効果になる場合もありますので、どうぞ気をつけて下さい」
 そう話を締めて第五中の顧問は生徒を引き連れて解散していった。その後ろ姿をしばらく眺めて、安西も自分の選手達をベンチに促した。最後にあの顧問が言った言葉がいつまでも頭の中に響いている。顧問である自分が下手な企てを考えられるほどテニスのことはわからないし、選手達にしてもまだまだ未発達な一年生ばかり。勝率を目論めるとすれば一番手の実力者ペアか、第七中の参謀である宗方の画策次第か。しかしその一方が完全に塞がれるとなれば、どう足掻いても第四中に勝つ見込みはゼロに等しくなる。つまり第五中の顧問はそういう事を言いたかったのだろうか。

更新日 2月27日


 一人考え込む安西を余所に、選手達は団体戦初勝利を収めて興奮の坩堝にいた。
「しっかし! お前ら、本当に強いな! びっくりしたぜ!」
「あぁ。やはり君らが一番手で間違いない。部長としても鼻が高いよ」
「むしろ僕達初心者組が練習で足を引っ張っていたんだね。これからはもっと自分達の練習に専念していいからね。みやちゃん、さくちゃん」
 部員達があまりにも手放しに称賛するので、神谷と小堺は段々と気恥ずかしくなってきた。試合前に全力でとは言ったが、実のところ二人とも第二回戦に向けて調整をしていただけで、本当は少し流し具合で試合をしていたのだ。なのであまり褒められると、なんだか悪い気がしてならない。
 そんな二人の心中を察していた丸藤は小さく溜め息を吐き、口を開いた。
「それよりも第二回戦のオーダーを決めちゃおうよ。僕らが一番最後の試合だったんだからもう時間がないんだよ。だから早く、ね? 先生」
 そう言って安西に話を振ったが、当の本人はもの思いに耽っていた。眉間に皺を寄せてなにやら考えあぐねいている安西がやっと皆に注目されていることに気付いて、驚いたようにパッと顔を上げる。
「ふぇ? な、何が?」
「だから、第二回戦のオーダーをどうしようか、って。聞いてました? 先生」
「あ、ごめんごめん。どうする? 宗方君。何か良い案はある?」
 顧問直々に作戦の指揮を任された宗方は、大げさに咳払いをして立ち上がった。
「もちろんですよ! 安西先生! そういった用件ならばこの宗方繁蔵の孫である僕にお任せ下さい!」
 いつもの鬱陶しい物言いに一同閉口したが、直ぐに宗方は自信なさげに表情を曇らせたので不思議に思った。
「とは言ったものの、実はそれほど妙案があるわけではないのです。試合の合間に隣のコートを観測していたのですが、正直あまりにも実力の差があり過ぎていて、その、策を弄そうにも……」
 その言葉に一同も腕を組んで押し黙ってしまった。宗方だけではなく、全員自分のチームを応援しながらも、隣のコートが気になっていたらしくちらちらと横目で第四中を観察していたらしい。そしてハッキリは見なかったものの、その差に歴然とした何かを感じ取ってしまっていた。
「つまり、今回はオーダーでどうこう出来る相手ではないってことね。でも対戦表は決めなければいけないわけだし。どうする? 素直に一番手から順番にやる?」
 下手な作戦は逆効果だといった第五中の顧問のアドバイスを考慮した安西はそう提案したが、宗方は宗方なりに考えはしていたらしく「いいえ」と、その案を否定した。
「それではもし万が一に神谷君ペアや我々がどちらか一勝を収めた時に、不良コンビに全責任を負わせることになります。君達、そのプレッシャーに耐えられるかい?」
 宗方の問い掛けにブンブンと首を振る高田と吉川。当然だろう。全くの初心者ペアにチームの命運を握る大将戦は荷が重過ぎる。
「なのでオーダーは全くの逆で行こうと思います。先鋒が不良コンビ、中堅が我々、そして大将は一番手コンビ。こうすれば各々、少しはプレッシャーを気にせずにプレーが出来るかと」
 勝率の問題ではなく精神的負荷を考慮した差配に一同頷くところを見ると、どうにも全員始めから否がおうでも勝つという気概はないようだ。それもそのはず、相手は佐高中内でも最強のチームである。大事なのはどれだけ勝てるかではなく、どれだけ良い試合を出来るかなのだ。
 下手な作戦どうこうは意味を成さないことを、どうやら安西以上に選手達の方がよく分かっているらしい。
「分かったわ。それでいきましょう」
 そう言うと安西はオーダー表に選手の名前を順番ごとに書き記し始めた。そして書き終わる頃には、既に佐々木率いる第四中が第3コートに整列をしているのが見えて、第七中メンバーは慌てて隣のコートに移動する。第二回戦は第1コートと第3コートの二面で行われるようだ。
 取るものも取り合えず、ラケットだけを手に持つと安西以下選手達は駆け足で列を整える。
 地区総体の団体戦、第二回戦が幕を開けた。

もくじはこちら



FC2ブログランキング にほんブログ村 小説ブログ スポーツ小説へ
にほんブログ村
スポンサーサイト
07:00  |  なんしきっ!  |  CM(2)  |  EDIT   このページの上へ

Comment

●No title


2人目のお子さんのご誕生おめでとうございます!
元気で健やかに育ちますように・・・
名古屋からエールを送っております♪

奇しくも第七中初勝利と同じ日ですね、きゃー運命!
清々しいくらいの鬱陶しさなデブルジョワに惚れ惚れしちゃいます
 
楚良 紗英 | 2010年02月26日(金) 00:35 | URL | コメント編集

●No title

>>楚良 紗英さん
ありがとうございます♪二人目は女の子でした。
名古屋からのエール、しっかりと受け取りました。
要人(かなめびと) | 2010年02月26日(金) 07:25 | URL | コメント編集

コメントを投稿する


 管理者だけに表示  (非公開コメント投稿可能)

このページの上へ

 | HOME | 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。