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2010'02.19 (Fri)

VS第五中 中堅戦

 そんな丸藤の肩を優しく叩きながら、宗方は次の試合に臨むペアに向かい合う。
「さて、まずは我々が初戦を制して、次は君達の番だ。励みたまえ!」
 部長として檄を飛ばした先には第七中の中堅がいたが、後衛の高田は面倒くさそうな顔をして、吉川は苦笑いを浮かべていた。
「なんだね君達! そのやる気のない態度は! 負けたら承知しないからな!」
「うるせえよ、デブ。てめえらの相手は三番手だったから勝てたかもしれねえがな、こっちの相手は一番手なんだよ。どう考えたって勝てるわけねえじゃないか」
「う、うん。僕らに期待されてもちょっとね……。二勝目は次のみやちゃん達にお願いするよ」
「あぁ、そうだな。なんせ俺達、かませ犬なんだからよ」
 すっかり戦意喪失高田ペアだが、それも団体戦の組み合わせと言ってしまえば仕方がない。彼らが第五中の一番手と当たってくれたおかげで、他の2ペアの勝率を上げることが出来たのだから。彼らにしては公式戦の初試合なのだが、明らかに勝てる見込みがない相手でしかも自分達が負けてもチームには影響が少ない、そういう状況でやる気を出せという方が難しい。根性論者なコーチならばここで発破の一つでもかけるのだろうが、あいにく顧問の安西はそういった性質ではないし、他の部員にしても彼らに同情をするしかない。
 そうこうしているうちに、相手選手が既にコートに整列している。
「そんじゃ、ちょっくら行ってくらあ」
「行って来るね、みんな」
 振り向きもせずにダラダラと手を振る高田の後を追っていく吉川。なんだかせっかくテニス部に入って初めての試合なのにあんな態度では、可哀想で仕方なかった。ベンチを守る安西を始め、他の部員も満足な声援が送れなかったが、何かを思いついた小堺が二人の元に歩み寄り、がっしりと肩を組んだ。
「なんだよ! 小堺! 痛えじゃねえか!」
「たっちゃん、サイボーグ吉川、お前達に良いアドバイスがある」
「ア、アドバイス?」
 二人になにやら耳打ちをした小堺は、満足げな表情をしてベンチに戻ってきた。
「ねえ、小堺君。二人に何を伝えたの?」
 不思議そうな顔で小堺に尋ねる安西。だが小堺はニヤニヤするだけで、「まぁ、見てな」というだけだった。安西だけでなく一同が小首を傾げるだけだったが、とにかくこれから始まる試合を見守るしかなかった。

 事前に行ったトスで高田ペアはサーブ権後攻を得た。つまり第一ゲームはレシーブから始まるのだが、中学生や初心者同士の試合となるとレシーブ先攻の方が有利とされている。何故なら初心者は力加減がまだ未熟なため、攻撃的なサーブが打てないしダブルフォルト(サーブを二回連続でミスする失点)をする可能性が高いからだ。その点、レシーブはサーブより比較的簡単だし先手を取りやすい。第一ゲームを先取して自分達のペースで進めたいというのは、ソフトテニスをする者として当然の希望だろう。
 審判のコールにより試合が始まる。相手は弱小校と言えども一番手ペア。試合前に行う乱打を見ただけでも、先ほど丸藤ペアと対戦したペアよりは実力者だというのが直ぐに分かった。三番手同様にそれだけテニスに対する思い入れがあるようには見えないが、後衛も前衛もストロークはしっかりとしていた。やはりどう見積もっても勝利する確率はゼロに等しいと一同嘆息しながらも、チームメイトとしてとにかく一本でも多くのポイントを獲得することを祈らずにはいられなかった。
 試合の第一球目、相手後衛の放ったファーストサーブを高田がじっくりと構えて緩やかにレシーブで返す。すると第七中サイドからは小さな歓声が上がった。どんな球でも馬鹿の一つ覚えみたいに力任せに打ち返す高田だが、さすがにレシーブだけはそうはいかない。レシーブは普通のベースライン付近で打つストロークよりもコンパクトに構えなくてはいけないのだ。熟練者なら本気でラケットを振りぬいても、ドライブを掛けたりラケットの面を工夫したりと返球することが出来るが、まだまだ初心者の域を脱していない高田にとってはそんな高等技術は無理である。なのでレシーブだけに関してはチームメイトよりきつく『ただ当てるだけで返せ』と言い含められた。
 レシーブを打った後に高田はすかさず後方に下がり、次のボールに対して構える。何とかコートに納まった打球を相手後衛がシュートともロブともつかないただ流して打っただけのような当たりで返した。様子見なのか、はたまたそれほどやる気がないのかわからないが、高田にとってはチャンスボールである。ラケットを大きく真横に構え、野球のスイングに似た彼独特のフォームで高田は打ち込んだ。しかし力み過ぎてラケットの面がしっかり合ってなかったのか、打球は相手後衛の真横を通過していくほどの威力を持ったままアウトしてしまった。
「どんまい! 高田君!」
「竜輝。もうちょっとドライブをかけろ」
 味方陣地からの声援を横目で一瞥して、高田は自分のポジションに戻る。続いて吉川のレシーブだが、緊張でまだ体が固くなっている彼は相手サーブに対応しきれずに空振りで終わった。
 そしてサーブは相手前衛に変わる。この第五中一番手の前衛はなかなか強烈なサーブを打ち込む選手で、先ほどは何とかレシーブ出来た高田だったが、今回は吉川同様空振りで終わってしまった。
 あっという間にポイントは0-3、相手にマッチポイントを取られてしまった。このまま1ポイントも得点出来ないまま第一ゲームを終えてしまうのかと一同気を揉む中、相手前衛が二本目のサーブを放つ。少し威力があり過ぎたのかファーストサーブはフォルトしてしまい、次いだセカンドサーブ。吉川は強張った足をなんとか動かして丁寧に相手前衛へレシーブする。すると相手前衛は前に詰めた吉川の頭を大きめのロブで越えて自身も前に詰めた。
 その打球を追いかけて右サイドから左サイドまで一気に駆ける高田。瞬発力に長けた彼は一瞬足を止める余裕を持つほどにしっかりとボールに追いつき、渾身の力を込めてラケットを横一閃、思いっきり振り抜いた。第四コートでは初めて聞くような炸裂音と共に弾丸と化した打球は、相手前衛の左頬を掠めてそのままコート内に入ることなくまたもやアウトしてしまった。
 これで第一ゲームは終了。
 結局1ポイントも獲得することなく終わってしまったが、相手ペアは喜びを表すのも忘れて呆然と第七中の一年生ペアの背中を見送った。最後の高田が放った打球、アウトにはなったが、もう少しコントロールがしっかりとしていれば確実に入っていたボールだった。しかも顔面の真横を抜かれた前衛、アウトと見切ったので手を出さなかったわけではなく、あまりの速球に反応が出来なかっただけである。
 もしもあの後衛が放った球がきちんとしたコースで入ってきたら……その場面を頭の中で想定すると、彼らは相手が素人の三番手が相手と言えども楽観視することが出来なかった。

「どんまい。高田君。次のゲーム頑張ろうよ」
「まずは一本。一本ずつ確実に返すことから始めたまえ。そうでなければポイントは奪えないぞ」
 ベンチに戻ってきた二人を励ますチームメイトだったが、当の本人達は涼しい顔で聞き流すだけだった。相手が相手だと諦めて戦意喪失しているわけではないようだが、どうも普段以上に反応に乏しいのが気になる。彼らはタオルで汗を拭くと無言のまま向こうのコートへ行ってしまった。
「ねぇ、小堺君。さっき彼らになんてアドバイスをしたの?」
 試合前に高田と吉川になりやら伝授した小堺だが、あの時から二人は何かを狙っているように映った安西は、そのわけを尋ねてみた。すると小堺は不敵に微笑み、
「別に。ただ思いっきり打って来いって言っただけ」
 と曖昧に答えた。その程度のアドバイスであの二人が目の色を変えるものかと一同首を傾げたが、次に小堺が付言したことでやっと納得した。
「たっちゃんがシュート打った後に吉川の動きを注目してみ?」
 向こう側コートでは相手ペアが準備につくのを待っているのか、吉川がラケットを肩に担いで縦に振っているのが見えた。第二ゲームは彼ら側がサーブなのでその肩慣らしをしているようにも見えるが、チームメイト達にはそれが第七中の最終兵器が予備動作をしているようにも見えた。

 高田一本目のサーブ。ファーストサーブはフォルトしたがセカンドサーブはなんとか入り、相手後衛は素直に高田へレシーブした。少し浅めの打球で返された高田はバランスを崩しながらもボールを拾うが運悪く相手前衛の真正面に返してしまったので、あえなくボレーされてしまう。このゲームも先ほどと同じ展開で終わってしまうのかとチームメイトはやきもきしていた。
 次いで二本目のサーブ、高田のファーストサーブが入り相手前衛がやや小振りなロブで返球しネット前に詰める。浅くもなく深くもなく、スピードも乗っていない打球。高田は素早く真横にラケットを引くと同時にストレートに立つ相手後衛を一瞥する。足運びもラケットを引くタイミングもばっちりだった。高田は心の中で叫びながら激しく打球を放った。
「喰らいやがれ!」
 再び第四コートに炸裂音が響き渡ると同時に、すさまじいスピードを備えたボールが相手コートに突き刺さる。予想外の速さに驚いた相手後衛は、バランスを崩したフォームで何とかラケットにボールを当てる。ボールが高くふわりと宙に舞った。
「来るぞ! のぼる!」
 高田が叫ぶよりも早く、吉川は既にサービスエリアよりも後ろに下がる。そしてかざした左手で力なく落下してくるボールへ照準を合わせた。そして全身にギュッと溜め込んだ力を右腕と肩に集中し、一気にボールを叩き付けた。
 ゴムボールが割れてしまったのではないかというほどの轟音と共に弾かれた打球は、またもや反応できずに棒立ちした前衛の真横をすり抜け誰もいない左サイドをしたたかに叩いた。その瞬間、第七中ベンチからは歓呼の声が湧き上がる。興奮した高田と吉川も大声で互いのペアを称え、ハイタッチを交わした。ただただ度肝を抜かれた第五中サイドは声もなくその光景を眺めている。
 高田が得意とする神谷をも凌駕するハイスピードのシュートボールと、吉川の引き足の速さとスマッシュの威力を融合させた彼らしか出来ない攻め方が、試合という極限の場面で確立された。未経験者とは思えないパワーを有した二人らしい戦法に、チームメイトは味方ながらも逆に恐怖すら感じてしまうが、今はただ惜しみない称賛を送った。

更新日 2月23日

 キレイと表現しても大袈裟ではないようなコンビプレイに気を良くした二人だったが、それで試合自体の流れが変わることはなかった。もっとも緊迫した場面ではたった一球が試合の流れをガラリと変えてしまうことはあっても、相手は熟練者で実力は大きくかけ離れすぎているため容易に覆すことは難しかった。その後も何本か高田のシュートボールと吉川のスマッシュが決まったが、その威力を警戒した相手ペアは二人を散々振り回し、意識を拡散させて自滅をさせた。終わってしまえば結果はゲームカウント4-0。二人がポイントを取ったのはゲーム中に僅か五本ほどという惨敗に終わった初公式戦だったが、彼らは悔しがる様子もなく、清清しい表情で仲間達が温かい拍手で迎えるベンチに戻ってきた。
「ナイスボールだったぜ、たっちゃん! やばいくらいにボールが走ってたぜ!」
「のぼるもナイススマッシュだった。引き足もタイミングも練習の時どおりだったよ」
 一番手ペアの歓迎に、高田と吉川は上機嫌で笑顔を浮かべる。安西も興奮した様子で、立ち上がり二人に惜しみない拍手を送った。
「本当に凄かったわよ! あんな上級生相手に君達堂々とテニスをしていたわ! それにとってもパワフルだったわよ! 先生、ほら! こんなに興奮しちゃってるもん!」
 いつも以上にキャピキャピしている安西が可笑しくて、第七中メンバーは声を出して笑った。そんなみんなで輪になりながら喜びを分かち合う空間に浸りながら、高田と吉川は今まで味わったことのない至福を感じていた。思えば野球をしていた頃は、どれだけ自分達が良いプレーをしても喜んでくれるのはコーチや学校の先生のみ。苦楽を共にするはずのチームメイトには疎まれるばかりだった。こうして同世代の友人達と一丸になれることに、ある意味二人は渇望していたのかもしれない。
「たっちゃん……テニス、やって良かったね。僕ね、もっと強くなって次は勝ってみたい!」
 珍しくはしゃぐ親友を見て、高田は鼻で笑いながら相槌を打った。
「おうよ。どうせやるんだったら負けるより勝たなきゃな。次は絶対に負けねえぞ!」
 ただ自分のために勝利を望むのではなく、それ以上に誰かと分かち合いたいために望む勝利というものもあるのだと、不遇な小学生時代を過ごして来た高田と吉川はしみじみと実感していた。


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08:12  |  なんしきっ!  |  CM(2)  |  EDIT   このページの上へ

Comment

●No title

 
デブルジョワと丸男くんの息が揃いましたね!
まさかデブでブルジョワな彼が素直に感謝するとは・・・
自分は奴を何だと思ってんだって話ですけどさ

顔面すれすれ怖いだろうなぁ・・・
自分だったら目が点になっちゃいます
 
楚良 紗英 | 2010年02月21日(日) 22:10 | URL | コメント編集

●No title

>>楚良 紗英さん
宗方は丸男を信用していますからね。
器が小さそうで実は大きい、がコンセプトの宗方君です。

顔面すれすれは恐いですが、普通だったらその前に反応していますけどね。
相手が油断していたってことで。
要人(かなめびと) | 2010年02月22日(月) 07:05 | URL | コメント編集

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