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2010'02.07 (Sun)

なんしきっ! 七中生徒と初試合

 六月に入り梅雨の時期ということで各所の大会実行委員は毎年気を揉んで仕方がないが、ここ地区総体が行われる輝ヶ丘テニス競技場は、本日運良く晴天に恵まれた。特に先週まではちょうど梅雨前線に見舞われていたので大会も延期になるのでは、と懸念されていたが、問題なく大会は実行されるようで、生徒や顧問一同は安堵に胸を撫で下ろした。

 佐高市内のテニス部に所属するテニス部員全員が詰め寄せる輝ヶ丘テニス競技場では、既に全てのコートで大会に参加する生徒達が最終調整に精出している。
 ここのテニス競技場は佐高第七中のコートと同じく人工芝のオムニコートが十面設置されている。それぞれのコート同士の間隔も離れているし、ベースラインからフェンスまでも広めに設計されているので、選手達は何の煩わしさもなくプレーに集中出来る。
 ただ一つ難点といえば、ここは港の近くに面した土地柄のせいか、年がら年中日本海から吹き付けるだし風に悩まされていることだろうか。他県から来る選手達は、あまりの風の強さに驚くほどだ。特にソフトテニスのボールは硬式とは違い風の影響を受けやすいので、自然と佐高市の生徒はシュートボールを多用する攻撃型の選手が育つと言われている。

 コートをぐるりと囲む観客席は既に各学校の生徒で埋め尽くされていて、各々の学校の部旗や垂れ幕をフェンスに括り付けて士気を高めている。特に各学校の陣地が決まっているわけではないが、毎回利用している暗黙の了解というもので、東側から佐高第一中、第二中とナンバースクールの順番毎に観客席を陣取っていた。
 なので今年から初参加となる佐高第七中の陣地はない。もっとも部員がたったの六人だけなので、スペースを確保する必要もなく、競技場の隅っこの方に自分達の荷物を置いているだけであるが、他の学校の陣地を見ていると疎外感は否めなく、意味もなく恐縮してしまった。

 生徒達がフリーにコート内で練習をしている。
 その時間は生徒達にとっては気になる相手校の生徒の調子や上達を確認するもっとも大事な時間になる。特に第七中の生徒達は初参加なので、自分達の調子を整えながら周りの実力を計ったりと忙しい。
 その中でも参謀である宗方は、練習そっちのけでパンフレットの名前と他校の生徒を照らし合わせながら、頭の中で戦略を廻らせるのに余念がない。


 さてその間、顧問達は事務所に集まり最終打ち合わせを行った。
 打ち合わせといっても欠席した生徒の確認や諸注意だけで殆ど形式ばったものなので、各顧問としては早く自校の陣地に戻り、生徒達に発破を掛けたくてうずうずしているが、事務所の上座では顧問長の第六中顧問の八幡が長々と講釈を垂れている。
 そんなソワソワした空気の中、安西は顧問会の時に色々とアドバイスをしてくれた第四中の顧問、佐々木から声を掛けられてた。
「おはようございます、安西先生。今日はよろしくお願いします」
「おはようございます。こちらこそ、どうぞお手柔らかに」
「お手柔らかにですか、ハハハッ」
 爽快に笑いながら佐々木は手に持ったパンフレットを開き、団体戦の組み合わせ表を眺めた。
 大会は二日間に渡って開催される。一日目に団体戦が行われ、二日目に個人戦が行われるのだ。
「第七中さんは緒戦が第五中さんとですか。二回戦でうちと当たりますね」
 そう言いながら敵チームの顧問である安西に、変わらない微笑みを送る佐々木。

 あまりライバル視はしていないのか、はたまた余裕があるところを見せたいのかわからないが、安西はその貴公子然とした敵顧問をジッと見据えて尋ねた。
「ちなみに、第五中さんはどんなチームなんですか?」
「第五中さんは三年生が少なく二年生主体のチームです。専属のコーチも着いておらず、まぁ、言ってしまえばあまり強くはないですね。どちらかといえば後衛優勢でペア組みをしている傾向にあります。尤も、前衛の育成にウェイトを置いていないだけでしょうが」
 あまりに考える間もなく佐々木が答えたので、安西は目を丸くして呆気に取られてしまった。そして慌てて周りにいる顧問達を見渡す。
「ちょっと佐々木先生、そんな簡単に敵チームの情報を教えていいんですか?」
 以前、顧問会で佐々木に言われたことを思い出していた。あまり情報をペラペラと敵チームに教えてはいけないと。だが佐々木はそんな安西の反応が意外で面白かったのか、爽やかな微笑みを若干崩して子供っぽく笑った。
「私は別に自分のチームの情報を教えたわけではありませんから問題ないでしょう。第五中さんに対する私の率直な感想と評価です。それに、余所様のチームの話を他から又聞き、それが信じるに値するものなのかの判断はご自分でされるのが一番でしょう」
 言われてみればその通りだ。
 それにどちらかといえば素直に相手チームの情報を引き出そうと直接尋ねてみて、仮に返事が返ってきたとしてもその言葉に嘘が孕んでいないとは限らない。いや、むしろわざと自分達の実力を過小評価するか、影に怯えさせるため大きく話すか、どのみち真実など掴める可能性はゼロに等しい。
 だがそれを全く第三者の立場であるチームならば、喜んで本当の情報を提供するだろう。スポーツマンシップもご尤もだが、勝利に繋がるはずの引っ張れる足は引っ張ったほうが良い。
「それに私としては二回戦に第五中さんと当たるよりは、新生第七中さんと当たりたいですから。なんせ今大会のダークホースですからね。実際に対戦してその腕前を試しておきたい」
 さらにそう付け加えられれば、信憑性は一気に増す。
 佐々木が言ったとおりに信じるか信じないかは個々に判断するとして、そこまで言われてしまっては何があっても一回戦は勝ち抜き、二回戦で佐々木率いる第四中の胸を借りなければいけなそうだ。安西はある意味招待状にも似た佐々木の激励を素直に受け取る。
「わかりました。生徒達にも伝えておきます。初戦はなんとしてでも勝つように、と」
 安西の言葉に佐々木は爽やかな笑みを浮かべて答える。
「かしこまりました。では我々も二回戦でお待ちしております」
 自分達のチームは余裕で初戦を勝ち上がるという自信満々なアピールを省いて。

 顧問長の長い話はようやく終わったようで、「以上です」と一旦話を区切ると
「それでは生徒さんのゼッケンをお配りします。それぞれ名前を呼ばれました学校の先生は前に出てきて下さい。なお、名前間違いなどが必ずないよう再度チェックを忘れないように。ではまず始めに第一中さん……」
 次々とゼッケンを配り始めた。そうこうしている内に第四中も呼ばれたので、佐々木は軽く安西に手を挙げ「では、ご武運を」という言葉を残して前の方に行ってしまった。
 一人残された安西は試合のパンフレットを開き、第五中の団体メンバー表をチェックする。

 自分のチームとは違い、団体戦は4ペアのエントリーで記載されているが、四番手は補欠要員という意味だ。それぞれ選手名の隣にある2や3という数字から察するに、これは学年を指しているのだろう。
 確かに佐々木が言うように第五中には2の表記が他と比べて多い。一番手と三番手の後衛のみが三年生でそれ以外はみな二年生で構成されている。
 他の学校もチェックしてみると第二中も同様に二年生主体のチームだが、殆どメンバーは三年生ばかりで三番手や四番手にやっと二年生が入り込んでいるくらいだ。

 そこをいくと、第七中が如何に稀有なチームかというのが分かる。
 ペアは補欠がいなく3ペアのみで全員が一年生ばかり。紙に書かれている文字だけで弱小だというのがありありと想定されてしまう。この時期の少年にとって一年という壁は予想以上に厚い。たった365日しかない一年間で毎日どれだけ積み重ねることが出来るかに皆、必死になっているのだ。
 なので、ついこないだまでランドセルを背負っていた小学生が、体格も精神面も違う上級生を凌駕する可能性がどれだけあろうか。きっと僅か数パーセントかもしれない。
 それでも彼らは、第七中ソフトテニス部のメンバーは誰も最初から諦めていたり、楽観視する姿勢は見せていなかった。果たして彼らは自分自身、プレッシャーなどは感じないのだろうか?

 そんなことを一人考え込んでいると、いつの間にか他の学校へのゼッケン配布は終わったようで八幡は少し怒気を含んだ声で安西を呼んでいた。慌てて安西は八幡の前まで行くと、顧問長はむっすりとした表情で乱暴にゼッケンを手渡す。
「いつまでもボーッとしてないで、もう少ししっかりして頂かないと困りますよ! 我々だってそんなに暇ではないんですからね! それと、第七中は初参加のチームですから生徒の名前確認をきちんとお願いします!」
 先月の顧問会で遅刻をしてきた件もあって、安西はかなり八幡から目をつけられているようだ。
 学生の頃は優等生だった安西にとって学校の先生とは自分の味方であって、こんな扱いをされるのが初めてだった。急いでゼッケンの名前確認をしながら安西は、生徒のこともそうだが自分のことも少しは慎重にならないといけないと、改めて心に誓った。

 打ち合わせを終えた安西は自分の生徒達を探そうと、観客席を見渡す。それぞれの学校が目に痛い派手な色のユニフォームに身を纏っているため、ますます見つけにくくてたまらない。
 何故スポーツ選手のユニフォームはこうも原色や蛍光色を多用するのだろうか? 落ち着いた自然色系を好む安西はそんなことをぼやいていると、観客席の隅っこにあるスペースから数人の生徒がこちらに手を振っているのが見えた。
 どうやら生徒の方から自分を見つけてくれたらしく、安堵の溜め息を吐きながら安西はそちらに近付いていき、そして生徒達の姿を確認するとマジマジと眺めた。
「あなた達、いつの間にユニフォームを揃えたの?」
 赤とオレンジの暖色系を基調としたユニフォームを着込んだ生徒達は、誇らしげに胸を張って安西を迎え入れた。朝に会ったときには普通の体育着姿だったのに、いつの間にか着替えたらしくて安西は新鮮な驚きを露わにする。
「やっぱり団体戦なら全員同じユニフォームの方が七中の生徒って分かりやすいし、その方が格好いいんで。しかもこれ、同じデザインのもので色違いがもう一着あるんですよ」
「それは明日の個人戦で着るから楽しみにしててくれよな! 美和ちゃん!」
 一番手ペアの神谷と小堺が報告をしてくれたが、その後ろで少し不満げな表情をした丸藤が背中を向けた。
「それはいいんだけど、やっぱりこの文字がちょっと……。ねぇ、宗方君。これってどうしてもプリントしなきゃいけないの?」
 ユニフォームの背中にはご丁寧に「佐高第七中」という文字がプリントされてある。よく見ると他の学校の生徒の背中にも同じように各々の学校名が記されていた。
 だが、その自校の名前の下に小さく、何故か「宗方繁蔵後援会」という文字までプリントされてある。
「何を言う! このユニフォーム購入に際して出資協力を申し出てくれたのは、誰であろう市議会議員である僕のお爺ちゃんの後援会の皆様だぞ! 感謝の意を表して名前を残すのは当然じゃないか!」
 なるほど、と合点入りながら安西は溜め息混じりに手に持っていた救急箱から白いテーピングを取り出すと、宗方の背にある後援会の文字に貼り付けた。
「あぁ! 何をするんですか先生!」
「馬鹿ねぇ、宗方君。こんな個人的なことにお爺様の名前を出したら贈収賄の疑いにかかるじゃない。そこまでいかなくてもスキャンダルの火種くらいにはなるわよ?」
 自身の父親が県議会議員である安西はこの手の政治絡み問題に明るく、むしろ日常的な話題として育ったので一般人よりは敏感だ。
 密かに安西のそういった事情を知っている宗方も言葉の意味を瞬時に察したのか、顔を青ざめさせると安西の手からテーピングを受け取り、すぐに全員の背後に廻って白テープを貼り付けていた。部長のあまりにも身替りの早さに一同、小首を傾げるばかりだった。

「それよりもみんな、今日の団体戦、一回戦目の相手は第五中だというのは知っているわね?」
 対戦前のミーティングというわけでもないが、少しは試合のことも話していた方がいいだろうと安西は話題に出してみたが、第五中という名前が出た途端に全員の目つきが変わった。どうやら選手達の気持ちは既に試合モードに切り替わっているようだ。
「先生が仕入れた情報ではね、第五中は二年生主体のチームよ。つまり年齢で言えば君達の一つ上ってだけだから臆する必要はないわ!」
 先ほど佐々木に聞いた話を自慢げに披露する安西。少しは顧問としてチームの役に立ったと思ったが、選手達の反応は薄い。
「先生、言われなくても知ってます、そんなこと」
「へ? なんで?」
「さっき渡されたパンフレット見れば誰でも分かるじゃねぇか。んなこと、いちいち口に出すことじゃねぇっての」
 手に持ったパンフレットをヒラヒラ振りながら、高田が小馬鹿にしたように鼻で笑った。
「じ、じゃあ! 第五中は後衛が主体のペアが多いんだって! 前衛は大したことないらしいわよ!」
 これならばパンフレットには載っていまいと、佐々木から教えられたもう一つの情報を提示したが、それに対しても反応は芳しくなかった。
「さっき各学校が乱打をしているのを見ていましたんで大体は予想がつきました」
「あんまりやる気が感じられなかった学校だったな、第五中って。初戦からいきなり強いとこと当たらなくてラッキーだったぜ」
 ソフトテニス未経験者の安西より、生徒達の方が相手の観察に余念がなかったらしい。全く役に立たない顧問の安西はガックリと肩を落としたが、副部長の神谷は気にする素振りもなく安西に声を掛けた。
「それよりも先生、今のうちに初戦のオーダーを決めておきたいです。オーダー表、もらってきてますよね?」
 神谷に尋ねられた安西は、八幡からゼッケンと一緒に手渡されたオーダー表を取り出して選手達に見せる。
「これの事?」
「それです。誰が一番手でいきますか?」
「誰って。一番手は神谷君達じゃないの? あなた達、一番強いじゃない」
 あまりにも無知に過ぎる顧問に、一同頭を押さえて溜め息を吐いた。何故に自分が落胆されているのか分からずにオロオロする安西に、神谷が団体戦のオーダーのコツを指南する。
「なるほど。つまり一番下手な高田君達を相手の一番上手いペアに当てるように組めばいいわけね」
「おいおい美和ちゃん。もう少し言い方があっても良いんじゃねぇのか? あん?」
 歯に衣着せぬ言い方をされた高田が顧問に抗議をする。だが安西はそんなことにいちいち耳を貸す余裕がないようで、パンフレットとオーダー表を交互に見比べた。
「でも二番手はどうすればいいのかしら。丸男君達を同じく相手の二番手に当たるようにしても勝算はあるの?」
「いえ、乱打だけで相手の実力をそこまで測れなかったので不安が残ります。なので相手の二番手には俺達を、三番手に丸男達が当たれば一番いいんですけど……」
「ちなみに僕は丸藤だけど、でもそんなに都合良く対戦表が組めるわけないよ。相手だってオーダーをずらしてくると思うし」
「団体戦って面倒臭いなぁ。だったらこの際、あみだクジで決めちゃえばいいんじゃないの?」
「小堺君、ちょっと黙っててくれる?」
「しかし先生、策士策に溺れるという言葉もあるほどですので、ここは緻密にして大胆に攻めるのも真理かと」
「ねぇねぇ、たっちゃん。僕、段々緊張してきちゃったよ」
「あ、ななな情けねえな、のぼるはよ。ここここのくらいでびびってんじゃねえよ」
 会議は踊る、されど進まず。個性的に過ぎる面々とそれらを率いるはずの顧問が優柔不断にしてずぶの素人である第七中ソフトテニス部は、話し合いの場面になるとまとまりに欠けてなかなか決まらない。そうこうしているうちに競技場に設置されたスピーカーから開会式を告げるチャイムがなる。策を弄し過ぎて混乱状態になった安西は、頭がパニックになってしまった。
「あー! もうやだ! もう神谷君達が一番手でいいよ! 誰がなったって君達絶対に勝つから!」
 投げやりにそう叫んだ安西に一同大ブーイングをする。宗方も失望しながら今の言葉を誰かに聞かれていなかったか周りを見渡したとき、一人の生徒と目が合ってすぐに逸らした。あのユニフォームは確か第五中、この距離なら確実に聞かれていた……。策士、宗方の頭脳がフル回転する。
「よし! 先生、それで行きましょう! これ以上考えたって仕方ないですから! ほら諸君! 開会式が始まるので第2コートに集合するぞ!」
 そう声高らかに宣言しながら宗方は非難轟々の選手達を無理矢理立ち上がらせる。ブーブー文句を言う選手達の後ろ姿を見つめながら、宗方は安西にそっと耳打ちをした。
「先生、そのオーダー表は今提出しなくてはならないのですか?」
「ん? いいえ、試合直前に相手チームに出せばいいんだって」
 その言葉を聞いて宗方は小さく安堵する。策が満ちる時間は充分にあるようだ。
「開会式が終わったら相談があります。それまでオーダー表は未記入でお願いします」
「う、うん。わかったわ」
 いつも以上に自信満々にそう言った宗方の言葉に、安西は素直に従った。団体戦の組み合わせについて、僅かな時間話し合ったが何一つ確かな根拠がある提案は出なかった。しかしここにきて宗方のあの態度。普段は自意識過剰な彼であったが、それだけではない理由があってのハッキリとした自信が見受けられた。ここは一つ、部長の指示通りにした方が最良だと安西は判断した。

更新日 2月13日

 全てで十コートある輝ヶ丘テニス競技場のうち、六面を女子の大会で使用し、四面を男子用としている。これは競技人口が女子の方が若干多いことと、女子の試合は何故か男子に比べて進行が遅い、ということが理由とされている。
 なので開会式を終えた男子の選手達は、顧問やコーチ陣からの最終コーチングを終えるや否や、それぞれコートに整列をする。団体メンバーでない選手達も自チーム後方の観客席を陣取り、応援に向けて万全の体制を取る。第1コートから第一中と第四中のBチーム、第2コートは第六中と第二中、第3コートで第四中のAチームと第三中、そして第4コートにて新生第七中と第五中が対戦となる。

 それぞれの学校の選手達は準備が整い次第、コートのベースラインに整列する。やはり強豪校といわれる学校ほど整列が迅速だ。そして相手校もベースラインに整列をすると、大きな声で挨拶を交わし試合が始まる。これがソフトテニスの団体戦である。
 第七中の生徒と顧問は、向こう側に整列をした緒戦の相手、第五中選手の並ぶ順番を確認して、作戦通りに策が要ったことに内心で歓喜した。ベースラインの左側から先鋒、中堅、大将と整列するのがルールとなっているので、相手チームが順番どおりに並んだ時点で自分の対戦相手が分かる仕組みになっている。第五中の先鋒は三番手ペア、中堅は一番手ペア、大将は二番手ペア。対するこちら側、第七中は先鋒に丸藤、宗方ペア、次鋒に高田、吉川ペア、大将に神谷、小堺ペアと、思惑通りの組み合わせになった。
「本当に、宗方君の言う通りになったわね……」
 感心しつつも少々驚きを隠せない安西に、宗方は大きく胸を張る。
「当然です。僕の戦略に隙などありません。第七中の諸葛孔明と呼んで頂きましょうか」
「いや、そこまでは言わない」

 それは開会式終了直後、宗方は顧問を含める全選手をあまり人が来ない外れの草むらに召集をかけた。そして、さっき安西が大きい声で言ったことを第五中の生徒に聞かれたことを皆に伝える。
「おいおい美和ちゃん、どうすんだよ! 作戦がばれちゃったじゃん!」
「そ、そんなこと言ったって。うぅ……ごめんなさい」
 塩を振られた青菜のように意気消沈する安西を横目に、神谷は部長に話しかける。
「それはもう過ぎたことだから仕方ないけど、どうする気だ?」
 そんなことを伝えるためにわざわざ呼び出したわけではないというのは、宗方のプクッと開いた鼻穴を見ればわかる。彼は何か上策を思いついたとき、ついつい鼻が開いてしまうのだ。
「だから、逆に相手に知られたことを利用しようと思う」
「利用するって、どんな風に?」
 ペアの丸藤が不安そうに眼鏡をたくし上げながら尋ねる。
「うん。つまり第五中にしてみたら先鋒に神谷君ペアが来ると信じるはずだ。きっとあちらもさっきの乱打の時に二人の実力は把握したと思うからね。少しでも勝率を上げたいがために先鋒に三番手を当ててくるはずだ」
「なるほど。つまりうちと一緒で一番手には一番下手くそなペアをぶつけるってことね?」
「おいおい美和ちゃん。さすがに温厚な俺様でもそろそろキレるよ?」
「そして、我々は大会初出場にして一年生で構成されたメンバーだ。きっと団体戦で番手をずらしてくるとはあまり考えないと思われるはず。ストレートに一、二、三番手のまま対戦してくると思うだろう。そこを考慮すると、第五中の組み合わせは、三、一、二番手、これで来ると思う。そのように想定すると我々が最も優位な組み合わせは……」
 宗方はそこで一旦言葉を区切ると、それぞれのペアを指差して指名する。
「先鋒は我々。中堅は君達、不良コンビ。大将はもちろん君達、神谷君と小堺君だ」
 宗方の案に一同、深く頷く。確かに言われてみればその組み合わせが最も勝率の上がる方法だろう。反論の余地もないが、それでも不安はよぎる。
「ねぇ、ぶうちゃん。もしも、だよ? もしもその通りにいかなかったら、どうなるんだろう?」
 図体の割りに神経が細い吉川が心配そうに問いかけたが、宗方は自信満々に答えた。
「その時はその時だろうね。勿論全てが画策した通りにいくとは僕もそこまで楽観していない。しかしだね、僅かでもすがれる可能性があるのならば、それにすがってほんの一ミリでも勝率を上げる方が有意義だとは思わないかね?」

 そして、まさにその通りになったことに宗方はますます鼻を高くして、部員達に声を掛けた。
「それでは諸君! 間抜けにも策にはまった敵の顔でも拝みに行こう! 一同整列、礼!」
『よろしくお願いします!』



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Comment

●No title

要人さん、お久しぶりです。
お待たせしました!
この度、第一志望校に合格したため、ブログをリニューアルして再開する事になりました。

えぇっと、ものすごく長い間、リンクを追加したままにしていただいたようで、しかも一番上に。
もう感謝感謝でございますm(_ _)m

こちらではリンクの準備は完了済みなので、よろしければまたリンクに追加していただけると嬉しいです。
ではでは。

PS:もう小説は書いてないんですか!?
桜輔 | 2010年02月12日(金) 19:14 | URL | コメント編集

●No title

>>桜輔さん
どうもお久しぶりです!
そして合格、おめでとうございます。
もちろんリンクに追加させていただきますね。
 
今でも懲りずに小説を書いてますよ。
最近は主に新人賞に応募するため執筆中です。
要人(かなめびと) | 2010年02月13日(土) 07:22 | URL | コメント編集

●No title

>>要人さん
ありがとうです!

よく読んだら、この記事、要人さんの日常の話じゃなくて、小説ですか!?
おぉw
いつか書店に並ぶ日をお待ちしています^^
がんばってください^^b
桜輔 | 2010年02月13日(土) 20:53 | URL | コメント編集

●No title

>>桜輔さん
気付いてくれましたか。
ソフトテニスをテーマにした小説にチャレンジしてみました。
よろしければ暇な時にでも読んでみてください。
要人(かなめびと) | 2010年02月14日(日) 08:18 | URL | コメント編集

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