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2009'12.23 (Wed)

なんしきっ! 安西と学年主任と創部について

「まぁ、問題ないでしょうな」
 新入生からのあまりに唐突な要望を受けた安西は、その休み時間は次の授業の準備が立て込んでいたので、自身が空いている三限目に学年主任の田中へ、部活動新設の件を尋ねてみた。ちょうど田中も三限目は空き授業だったのでもっけの幸いである。
 神谷と小堺の話から始まり、テニス部を新設したいということや、部員は不確定な生徒がもう一人いるのを併せて三人しか居ないこと。神谷は東北大会で優勝経験があり、小堺も東北ベスト8には入賞している実績があることなど、事細かに説明をした。
 そんな安西の話をただ頷きながら耳を傾けていた田中の第一声がそれである。

「え……問題ないんですか?」
「えぇ、申請さえ出せば容易に通るでしょうな」
 あまりに呆気ない回答に目を丸くする安西をよそに、田中は自分のデスクにある棚から一つの分厚いファイルを取り出しパラパラとめくり始めた。
「えぇと、部活動新設に関して……お、あったあった」
 田中は目当てのページを探し出すと、安西にそのファイルを差し出す。そこに書かれてある規約を安西に読ませながら、田中は解説をした。
「とりあえず正式な部活動と認められるには、先に安西先生がおっしゃったように部員が最低でも4人は必要です。でもだからと言ってそれで部活動が出来ない、というわけではないんですな。部員が規定に満たない場合や、校外での活動になる場合は『準部』扱いになります」
「『準部』……ですか?」
「そうです。
 といっても、正式な部活動との違いといえば部費が下りるか下りないか程度ですよ。もしも大会に出場するというなら、その参加費用は学校側が負担し、遠征をしたいというならある程度の補助金は支給されます」
「へぇ……そうだったんですか」
 田中の話に頷きながら、安西は冊子に書いてある規約にも今聞いた事が記載されていることを再確認した。
「でも、やっぱり部活動を一つ作るってなると、教頭先生とか校長先生の許可が必要になってくるんですよね?
 その点は全く問題ないんですか?」
 そう尋ねながら安西は教頭である村田の顔を思い浮かべながら、苦い気分になった。無駄に頭が固く遠慮無しに他人のミスをネチネチ指摘してくる村田を、安西は目の上のタンコブ扱いしていた。昨日もちょうど職員会議で、無視してもいい程度のミスを延々十分もお叱りを受けたばかりである。
 そんな安西の胸中を察してか、田中は苦笑いを浮かべ「大丈夫でしょうな」と答えた。
「部活動新設の承認は校長先生がされるはずです。校長先生は何より生徒の自主性を重んじる方ですからな。二つ返事で了承してくれるはずでしょう。
 それにあの教頭先生も良い成績を修めている運動部はかなり優遇してくれますからな。えぇと、その神谷君という生徒は東北大会……」
「優勝しているそうです」
「そうそう、それです。もう一人の子も東北でしたっけ。それだけ優秀な実績があるならあの教頭も頬を緩めて承諾するでしょうな」
 そう言いながら田中は溜め息を漏らして腕組みをした。
 彼自身、男子バレー部の顧問兼コーチを務めているが、そこは毎回地区予選敗退の弱小チームなのである。特にこの佐高第七中学校は野球部を筆頭にサッカー部、バスケット部と県大会出場常連チームが多いので肩身が狭いのだろう。彼の指導に問題があるわけではないが、運動神経が良い生徒は自ずとそういった強豪部に流れてしまうので、バレー部に残るのは必然的にスポーツよりも勉学やゲームが得意そうな生徒ばかりになってしまう。
 そんな彼にしてみれば、いきなり東北大会出場者が二人も入部するテニス部が羨ましく見えるのだろう。
 だが、スポーツ全般には全く興味がない安西に、そんな苦労は一端も理解出来ないのである。

「活動場所も競争倍率は激しい体育館を使用するでもなく、ここ数年間空き地と化していたテニスコートですからな。学校側としては願ってもないことでしょう。申請書に適当『生徒の自主性を尊重』とか『心身の鍛錬の育成』とか付け加えれば、なおさら心証が良くなるはず。
 そこのところは国語教師の安西先生、あなたの方が上手に書けるでしょう」
 田中の話を小耳に挟みながら、安西は部活動新設規定書の文字を目で追っていた。確かに田中が言うように、部活動の新設はさほど困難ではないらしい。そればかりか規定書の内容を噛み砕いて解釈してみると、逆に部を新設すること自体が優遇されているようだ。
自分が知らない学校の一面を垣間見たようで、安西は感嘆の声を漏らす。

「私、てっきり部活動を作るのって、もっと面倒くさいものだと思ってました。
 例えば教頭先生が大反対して隣町の中学校と試合をして勝たなければ部活動新設が認められなかったり、教育委員会が圧力をかけてきて皆で雨の中土下座をしに行ったり……」
 安西の根拠の無い妄想に、田中は声を上げて笑った。
「今時そんなことをしたら、PTAに何を言われるか分かったもんじゃありませんよ! 先生は面白いことを考えますな! 漫画の読みすぎではないですか?」
「私、漫画は読みません……」
「じゃあ、ドラマの見過ぎですな! ハハハ!!」
「う、うぅ……」
 顔を真っ赤にしながら俯く安西。生徒たちにも時々、乙女チック過ぎるとか妄想癖が激しいなどと笑われることがしばしばである。本人から言及させてもらえば、周りの人間が淡白な思考過ぎるだけだ。
「わかりました。田中先生、ありがとうございました」
 そう言ってファイルを閉じ、安西は田中に恭しく返した。田中も朗らかな笑顔でそれを受け取り、棚に戻す。


「それと田中先生。放課後に彼らが早速テニスコートを使用したいらしいんですが、それは大丈夫でしょうか?」
 彼らからの、さし当たって即急性の高いもう一つの要望を学年主任に尋ねてみると、田中は数瞬考え込みながら答える。
「大丈夫だと思います。ただ彼らだけというのも後々面倒になりそうですので、安西先生も付き添って下さい。教頭先生には私から話しを通しておきます」
「何から何までお手を煩わせて申し訳ございません。あの子達もきっと喜びます」
「いえいえ。私としてもそこまで行動力のある生徒は久しぶりですからな。今後に期待しますよ」
 慇懃に感謝の述べ、頭を下げる安西。
 てっきり放課後までに色々な先生や事務員に話を聞かなければいけないと高を括っていたので、こんなにもあっさりと事がまとまったので、田中には心から感謝していた。学年主任の名は伊達ではないと、安西は改めて感心した。

 そんな田中にお礼の意味を込めてコーヒーでも淹れようと席を立ったとき、田中は何か思い出したように手を叩くと、安西を再び席に着かせた。
「そうそう、大事なことを忘れてました! 正式な部活動でも準部でも、必ず必要になってくるものがあるんです」
「それは一体、なんでしょうか?」
 これまであまりにトントン拍子に話が進み過ぎたので、きっと大きな落とし穴があると思った安西は身を引き締めて田中の次の言葉を待った。
「……顧問です」
「顧問、ですか?」
「そうです、顧問です。どんな部活動でも必ず一人以上は顧問が就かないといけない規則があるのです」
 安西はホッと安堵の溜め息をついて肩の力を緩めた。あまりに当然な事につい笑いさえ込み上げてくる。
「それはそうでしょうね。部活動といっても生徒だけでは出来ることに限界がありますし、それも教師としても責務でしょうから」
「まったくその通りです。そこまで分かっているなら話が早い。安西先生、頼みましたよ」
 安西の中で一瞬、時が止まった。
 田中の言葉を飲み込むまでしばらく時間が掛かったが、理解をした安西は思わず驚いて身を乗り出した。
「私が顧問ですか!?」
 大声を上げて驚いた安西に、田中は逆に驚いてしまった。大きく目を見開いた安西に負けないほど、目を見開いた田中が不思議そうに尋ねた。
「だって、そうでしょうな。安西先生が持ち込んだ話ですし、その二人の担任ということもありますし」
「でも私! 現在、科学部の顧問もやってますよ!」
「何をおっしゃいますか。科学部なんて名ばかりで、実際のところは帰宅部でしょうが。活動なんてせいぜい月に二、三回程度でしょう?」
「う……」
 田中が言うことがごもっともで、安西は反論出来ずに塞ぎ込んだ。

 確かに科学部は月に数回、理科室に集まるだけで、それも活動といってもせいぜいやる気のない生徒達と校庭に生えている草花を観察したり、スライムを作る程度である。
 正直なところ、安西は運動部の顧問というものが苦手だった。自身が運動音痴というのもあるが、顧問になると授業以外で拘束される時間が倍以上になる。放課後は必ず部活に立ち会わなければいけないし、休日ともなれば練習で確実に半日は潰れてしまう。只でさえ中学教師は忙しいのに、運動部の顧問ともなればますます学校生活に忙殺される羽目になるのだ。それに屋外での運動部ともなればお日様の下に晒される時間が長くなり、お肌のケアも大変になる。お嬢様育ちの安西には、それが耐えられなかった。
 なのでこれまで、上手く理由をつけてなんとか科学部の顧問以外の仕事から逃げてきたが……。

「安西先生、ここら辺が潮時かもしれませんな」
 意地悪そうに歯を見せて笑う田中には、全てお見通しだった。学年主任として、常々彼女に教師として新たなステップを与えたいと考えていた矢先に、今回のテニス部新設は絶好の機会だったらしい。
「先生もご存知の通り、現在我が校の教師は全員何かしら部活動の顧問に就いていて、新たに出来るテニス部の顧問をする手間はないんですよ。
 そこをいくと、帰宅部状態の科学部顧問でいらっしゃる安西先生が一番適任かと思いますが、如何ですかな?」
 安西自身も自分しかいないというのは分かっていたが、それでも気持ちが良しとしない。頭の中では諦め悪くも、さっきから何とか言い訳を考えようとフル回転している。
「やっぱり……科学部をしながら兼務となると難しいんじゃないかな、と思うわけですよ」
「そうですかな? 現状からいくとさほど無理はないと思いますが?」
「いやいや、今年からですね……科学部も本腰を入れて活動を始めようかなと、思いまして……」
「ほうほう、例えば?」
「……草花を植えたり」
「それは美化委員会の仕事でしょう」
「……巨大スライムを作ったり」
「そんなものを作ってどうするんです? 教頭先生が頭から湯気を立てて飛んできますよ?」
「……うぅ」
「先生、観念してテニス部の顧問をやられてはどうですか?」
「……うぅ」
 なおも抗おうとする姿勢を崩さない安西を前に、田中はまるで生徒をたしなめている気分になった。
 いや、下手をするとまだ生徒の方が言うことを聞くなと呆れて、彼は仕方なく最終手段に出ることにした。彼女の教師としての使命感に訴える。

更新日 12月25日

「では仕方ありませんな。顧問がいないというならば、テニス部の話は無しということで……」
「えっ! 何でですか?」
「だって、さっきも言いましたとおり、他に顧問が出来る先生はいませんし。顧問がいないとなれば、やはり受理されないのですよ」
「そんな……」
「その生徒達も可哀想ですな。せっかく意気揚々とテニス部を設立しようとしていたのに……。
 ただ顧問がいないというだけで。残念です」
 安西は今朝出会ったばかりの神谷と小堺の顔を思い出していた。大人しい性格の神谷と、明け透けとした性格の小堺が最後に見せた笑顔……。あれは自分を頼り、信じた笑顔だった。もしも自分が顧問をやらなければ、あのせっかく見せてくれたあどけない笑顔を無碍にすることになる。それは教師として、大人として……正しくない。
「……わかりました。顧問をやります」
 田中は内心ほくそ笑みながらも、わざと驚愕の表情を作った。
「本当ですかな?」
「はい。私、あの子達のために頑張ります」
 渋々ながらも、しっかりとした意思を持って安西はそう告げた。田中はホッと溜め息を漏らしながら、顔をツルッと撫でた。
「そう言って頂けると助かります。いやいや、安西先生。ありがとうございます。それでは私は放課後までに部活動新設に必要な書類を集めておきましょう」
「何から何まで本当にありがとうございます。あ、私コーヒー淹れてきますね」
 そうお礼を述べると、安西は職員室専用の給湯室に向かった。

そしてあることに思い出して、田中に尋ねる。
「田中先生。ソフトテニスってご存知ですか?」
 小首を傾げながら田中は「軟式テニスの事ですかな?」と即答した。どうやら知らなかったのは自分だけで、それほどマイナーなスポーツではないらしい。
「じゃあ、ソフトテニスとハードテニスの違いまでご存知です?」
 今度は反対側に首を捻りながら、田中は少し自信なさげに「確かボールが違ったような……」と呟いた。物知りな学年主任といえども、さすがにそこまで博識ではないようだ。
「わかりました。ありがとうございます」
「あ、安西先生。一つだけ……」
「はい? なんでしょうか?」
「硬式テニスをハードテニスとは言わないと思いますよ」
 田中の当たり前過ぎる指摘に、安西は納得したように大きく頷く。いくらスポーツが苦手でも、ここまで来ると知らないというレベルを超越している。だが、そこまで無知な自分を気にする様子も無く、安西は朗らかな微笑みを残して、再び給湯室に向かった。

 その後姿を眺めながら、田中は再び溜め息をつく。
 最近はマスコミなどで『キレる中学生』などと、学生を無駄に危険視する報道が見受けられるが、それはあくまでごく一部の生徒だけで、彼の視点から見ればそれほど一昔前と変化は無く、むしろ教養がしっかり身に着いた生徒が増えてきているように感じる。自分が接している生徒達は非常に聞き分けがよく大人しい子供ばかりだ。それが良くないという意見もあるが。それよりも面倒なのは……どちらかといえば同僚教師や親などの大人達だろう。
 そんなことをさっきのやり取りを通して感じた田中だが、すっかり機嫌を直し鼻歌を歌いながら給湯室でコーヒーを淹れてくれる安西を見て、ここにもまた聞き分けの良い子供が一人、と声に出さずに笑った。




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