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2009'12.21 (Mon)

なんしきっ! プロローグ

更新日 12月21日

エピローグ

 一つ50円のリンゴが二つあったとする。当然のように二つ同じ籠に入っていれば100円の価値が付くだろう。
だがそれが人間ならばどうだろうか。
例えば50の実力を持った人間がいて、そこに同じく50の実力を持った人間を組み合わせるとき、必ずしも二人で100になるとは限らない。お互いの気持ちがすれ違うとき、信頼を失うとき、疎ましく感じるとき、二人合わせた実力は80や60、もっと最悪の場合は50以下になりかねない。
一緒にいない方がマシだ。

 しかし、互いの気持ちが一つに重なるとき、信頼しあうとき、50と50が組み合わされて120や150の実力を引き出す場合もある。
 人間というものは厄介であり、不思議な生き物だ。
だが、だからこそ面白くて素晴らしい。



「先生、テニス部を作りたいんですけど」
 始業式が終わり、これから中学三年間、新しい学び舎で過ごす事に興奮冷めやらぬ新入生諸君を迎えた一年一組の教室。そこでホームルームを済ませた担任・安西美和は、職員室に戻ろうとした足取りをふいに後から掛けられた声に呼び止められた。
振り向くとそこには、たった今自分の教室にいた二人の男子生徒がいた。
安西は手に抱えていたクラス名簿を開くと、そこにいる二人の顔と先ほどの自己紹介の場面を頭の中で照らし合わせた。
「えぇと、神谷正樹君と……小堺朔太郎君、ね」
 まだ初対面なので名前と顔が全く一致せず、安西は確認する意味も込めて二人の男子生徒をフルネームで呼んだ。すると二人はすげなくコクリと頷いたので、安西は内心ホッとして二人に笑いかけた。
「それで神谷君と小堺君。何のお話だったかしら?」
 すると小堺という生徒は屈託のない笑顔をくしゃっと緩ませ小さく吹き出すと、隣にいる神谷に耳打ちをする。
「おい、正樹。この先生、たった今聞いた事をもう忘れてるぜ。本当に大丈夫かな?」
 小堺に尋ねられた神谷は真っ直ぐに前を向いたままの姿勢で、担任教師を値踏みするようにジッと視線を安西の顔を据えた。無表情のまま神谷に見つめられた安西は、彼の吸い込まれそうなほどに奥深い光を持つ瞳に捉えられ一瞬躊躇いだが、すぐに教師としての威厳がむくりと甦り、肩まで伸びた横髪を手で払うと、ムッとした表情を作り小堺をたしなめた。
「先生は急に声を掛けられたので聞き逃しただけです。決して今言われたことを忘れたわけではありません。小堺君、先生に対してそういうことを言ってはいけません」
 生徒や同僚教師からもおっとりとした性格で慕われている安西だが、それでも生徒との過度の馴れ合いやスキンシップは好ましくないと感じている。今の小堺が言ったことも、おどけてジョークで返したり聞き流したりも出来たのだが、とにかく生徒との関わり合いは一番最初が肝心なのだと教師になった当初から肝に銘じてきた。なのでわざと厳しく指摘したのだが、当の本人はケロッとした様子で反省した素振りもない。あけすけとした笑顔を安西に向け、可愛らしく首を傾げて見せただけだった。
 たまにこういう小堺のように、いくら説教をしようとも反省も反発もせずに、糠に釘を打ち込むような生徒がいるので、安西は諦めて隣にいる姿勢良く自分を見上げている神谷に声をかけた。
「それで、話は何だったかしら?神谷君」
 名前を呼ばれた神谷は小さく頷くと、一度小堺に目配せをしてから口を開いた。
「先生、僕達テニス部を作りたいんです」
 安西は神谷の言葉を自分の中で反芻をすると、まだ真新しくブカブカの学生服に身を包んだ二人から、視線を廊下に面した窓にスライドさせた。
 そこからは高いフェンスに囲まれた扇形の野球場が視界いっぱいに拡がって、そのさらに奥には、この佐高第七中学校が開校した当初に植樹されたという桜並木が今まさに満開に咲き乱れている。その鮮やかな桜に目を奪われながらも、安西は野球場の隣にあるバックネットほどではないが緑色の小高いフェンスに囲まれたテニスコートを眺めた。安西に向かい合った男子生徒二人も、彼女につられてテニスコートに視線を移す。たった一面しかないコートだが、砂入り人工芝のオムニコートで、ご丁寧にインコートとアウトコートは色分けされてあり、公立の中学校のコートにしては滅多にお目に掛かれない造りになっている。だが、安西はこの学校に赴任して三年間、一度も生徒達がそのコートで活動をしている姿を目にした時がない。せいぜいまだボールやバットに触らせてもらえない野球部の一年生がトレーニングをしているのに使用しているくらいだ。
 なにせ、この学校にはテニス部自体がない。
 安西は視線を二人に戻すと、神谷と小堺も向き直った。何かを期待するようなキラキラした眼差しが眩しい。
「この学校にテニス部が無いのは知っているようね。それで二人で新たに部を新設したいってこと?」
「そうです」
 神谷は短くそう答えた。自己紹介の時にも感じたのだが、この生徒は大人しいタイプの子なようだ。皆がそわそわと浮き立つホームルームでも、一人お行儀良く背筋を伸ばして淡々と名前と出身小学校だけを述べただけで、逆に印象に残ったくらいである。
 一方、終始周りの友達に喋りかけて自己紹介の際には聞かれてもいないことをペラペラとまくし立てて、神谷とは違う意味で印象に残った小堺が、言葉足らずの神谷を補足するように引き継いだ。
「俺達、小学校のときにジュニアでテニスしてて、中学校に入ってもテニスを続けたいって思ったんですよ。正樹なんてジュニアの大会で東北チャンプになったんですよ! すごいっしょ!」
「東北チャンプ……。すごいのね、神谷君」
「だろ? 正樹はすごいんだぞ!!」
「……朔太郎だって東北ベスト8だったじゃないか」
「でも正樹の方がすげぇって! だってあの佐藤・大野ペアから勝ったんだからな!」
 まるで自分のことのように胸を張る小堺に、照れて少し俯く神谷。テニスという競技はいまいち良くわからないが、小学生の大会でも東北大会で優勝するなら大したものだと、安西は素直に感心した。
「なるほどね。それなら部を作りたいっていうのも肯けるわ」
「それで、テニス部は作れるんですか?」
 照れ隠しをするように少し早口で催促する神谷。安西は頬に手を当て、しばし思案に耽った。
 彼女がこの学校に赴任してから、部を新設したという話を聞いたことがないし、それに関する規約には一度だけ目を通したことはあるが、さほど興味を示す内容ではなかったので覚えていない。だが規約がある以上は決して不可能というわけではないだろう。
「部員ってあなた達二人だけなの?」
 安西の問い掛けに顔を見合わせる二人。いくら長年放置されていたテニスコートの担い手が現れたかといって、新入生二人だけに全て委ねるというのも、学校教育や管理上適切とは思えない。それに確か部員が数名いなければ部として認められないはずだった。
「一人くらいは心当たりがいますけど……」
 自信なさげに答える神谷に、同じように不安そうに表情を曇らせた小堺が尋ねてきた。
「ねぇ先生、やっぱり部員がいっぱいいないとテニス部作れないの?」
 さっきまで見せていた満面の笑みとは打って変わって暗い顔に、安西は仕返しとばかりに意地悪げに声のトーンを落として重々しく答える。
「そうね、やっぱりある程度は部員が必要になるわね……。そうじゃないと部活動って認められないもの……」
 たったそれだけのことだったが、小堺が急に眉毛をへの字にして今にも泣き出しそうに唇を噛み締めた。隣の神谷も血の気が引いたような顔をして固まってしまったので、安西は慌てて明るい口調に戻す。
「で、でもね! そんないっぱい居なくってもいいのよ! たぶん3,4人くらい居れば部活動って認めてくれるはずよ! 大丈夫だって!」
 すると途端に二人は瞳をパァッと輝かせて、元の顔色に戻ったので安西はホッと胸を撫で下ろした。いくら中学一年生と言っても、つい先月まではランドセルを背負った小学生だったのだ。この歳の児童は多感な時期なのでちょっとした発言にも機微に反応するので、教師としては細心の注意を払わなければならなくて気苦労が耐えない。
「とにかく私もあまり詳しいことはわからないから、学年主任の先生に聞いてみるわね。帰りのホームルームが終わったらまたお話をしましょ」
 彼女自身も次の授業が控えているので、この二人とそんなに長話は出来ない。ひとまずここらで話を一旦締めることにした。神谷と小堺も納得したようで、元気良く「はい!」と答えるとペコリと頭を下げた。そのまだあどけなく可愛らしい仕草に安西も頬を緩めて頷く。そして二人に手を振って、踵を返そうとした時、背後から神谷が声を掛けてきた。
「ちなみに先生。テニス部と言ってもソフトテニス部なんですけど、問題ないですか?」
 振り向いて神谷の言葉を繰り返す安西。
「ソフト……テニス?」
 そして同じように、その言葉を神谷と小堺は繰り返した。
「ソフトテニスです」
「先生、ソフトテニスだよ」
 困惑したように小首を捻って考え込む安西。テニス、まではもちろん知っているが、ソフトテニスという単語に解釈がない。
「なに?テニスってソフトとかハードとかってあるの?なんだかコンタクトレンズみたいね」
 安西は必死に頭の中でテニスの図を展開させる。コートに張られたネットを挟んで、ラケットを持った選手が対面し黄色いボールを打ち合う。ごく一般的なテニスの風景だが、そこのどれがソフトになるのだろうか? ボールだろうか? ラケットだろうか? それともネット? ソフトボールと野球の違いすらいまいち良く分からない安西はただただ戸惑うばかりだった。
「はい。テニスには硬式と軟式があります。」
「そうだったんだ……。ちなみにウィンブルドンとかシャラポワとか松岡修造とかお蝶夫人とかは?」
 自分が知っているテニスに関する単語を並べてみたが、それに対して神谷は「全部硬式です」と即答した。ますます知識の範疇からかけ離れていったソフトテニスという単語に、頭を悩ませている安西を眺めていた小堺が、小馬鹿にしたように吹き出した。
「先生、ソフトテニスも知らないの?」
「ムッ。だって先生が学生の頃にはソフトテニス部なんてなかったもん」
「でも先生だったら何でも知ってるものなんじゃないの? おいおい正樹、この先生で本当に大丈夫なのかな?」
 生徒に馬鹿にされて頬を膨らませる安西が面白かったのか、小堺は声を上げて笑い出した。そんな小堺の頭を相方の神谷が小突いた。
「知らないなら仕方ないです。僕達、今日ラケット持ってきてるんで、実際にやってるところを見てもらったほうが、話が早いと思います。放課後、テニスコートを使ってもいいですか?」
 少々むくれている担任教師を気遣って、神谷が話しを進める。どうやら小堺よりは神谷の方が常識があるようだし、考えが大人なようだ。安西は教師の顔に戻すと、
「わかったわ。とにかく部活動新設のこともテニスコートの件も学年主任の先生に聞いててあげるから、放課後まで待っていてね」
 と優しく語りかけた。そして小堺には
「だからそれまでは大人しくしておいた方がいいわよ、小堺君」
 と念を押す。だが本人はわかっているのか分かっていないのか、ニヘラッと顔を緩めただけだった。
 そんな歯ごたえのない生徒を目の前に安西は溜め息を漏らしながら、もう一度窓の外に目を向ける。ちょうど風が強くなってきたのか、満開の桜はその大木をゆらゆらと揺らし、たくさんの花弁を散らせていた。その花びら達が風に乗って、ゆるやかにテニスコートに次々と着地していく。誰も立ち入る機会のないオムニコートは、桜の花びらで賑わっていた。
 まるでこのグリーンスペースは自分達以外の誰にも侵されないと主張するように。



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07:07  |  なんしきっ!  |  CM(5)  |  EDIT   このページの上へ

Comment

●No title

 
おっかえりなさいませー☆

中学だと軟式が主流ですねー
自分の学校にもテニス部あるんで思い出しちゃいました
そう言えば一年の頃仮入部してたなぁ
何か疲れたんで本入部する前に止めましたが・・・

はてさてどんなお話しになるのかしら?
楽しみにしております
そしてタイトル見てけい○ん!思い出した自分は吊ってきます

・・・・・・ケフィアや剣、儀式人シリーズが見付からない・・・だと・・・?
 
楚良 紗英 | 2009年12月21日(月) 17:43 | URL | コメント編集

●No title

やった~!始まりましたね♪
私の楽しみが持続できて嬉しい限りです(涙)
お互いの気持ちがすれ違うとき、信頼を失うとき、疎ましく感じるときかぁ…私は相手に信頼が無くなったら付き合ってはいけないですね凹
小堺君、カワイイですね♪ ぜひ家の息子に(笑)
私も安西先生と同じく、軟式と硬式の違いが分かりませんけど…
夢 | 2009年12月22日(火) 13:01 | URL | コメント編集

●No title

>>楚良 紗英 さん
私も高校の頃に仮入部したんですが、
何故かそのまま三年間在部することになってました。
今では良い思い出です。

タイトルはもちろん、例のひらがな四文字を意識しました。
ケフィア達へのリンクが見つかりにくくなったのは意図的です。
もしよければ月別アーカイブから入っていってください。

>>夢さん
はい~また戻ってきましたよ。
小堺の他にも個性的過ぎるキャラが続々登場します。
どうぞお楽しみに。
硬式と軟式の違いはこれからゆっくりと解説していきます。
要人(かなめびと) | 2009年12月23日(水) 07:07 | URL | コメント編集

おっおお!
復活なされましたか。一瞬、ブログにはアップしないと書いてあったので心配いたしました。
今度はスポーツを題材としたお話ですか。
楽しみに待っています。


ちょっと思ったのですが過去の作品も読める総合相互インデックスを作って貰えれば嬉しいですね。
世界の一場様 | 2009年12月24日(木) 17:28 | URL | コメント編集

●No title

>>世界の一場様さん
はい、復活です。
というのも、落選しましたので。
スポ根ものの小説ってあんまり読んだことないので
修行のつもりで書いてみました。

過去の作品は諸事情によりインデックスを作らないつもりです。
もしもどうしても読みたい場合は、月別アーカイブから飛べます。
面倒ですみません。
要人(かなめびと) | 2009年12月25日(金) 06:54 | URL | コメント編集

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