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2009'12.10 (Thu)

悲恋なプランナーの場合 エピローグ


【More・・・】

「はいよ! 追加のハラミ、お待ち!」
「わぁ~! あざ~す!」
店員から皿を受け取り、赤沢はそのまま熱くなった炭火にかかる網へハラミを全て落とした。私はビールが入ったジョッキを片手に頬杖をつきながら、溜め息を吐き出す。
さっきから赤沢はこの調子だ。
「支配人、眺めているだけじゃお肉は食べれませんよ。箸を伸ばさなきゃ、箸を」
「あぁ、そうだな」

今朝、赤沢からの要望で私達は退社後にフェリスタシオン迎賓館御用達の焼き肉屋さん『食通苑』へやってきた。
以前に赤沢が初司会をした時に、もしも上手く出来たら焼き肉を奢るという約束をしていた。あの時は結局、うやむやになってしまい話はそれっきりだったが、それが今更になって思い出した赤沢に掘り起こされたのである。
約束という事もあるが、昨日の一件もあり元気付ける意味を込めて承諾したのだが、この子の食べっぷりに最初から圧倒されっ放しだ。
牛タンやカルビなど二人前で注文するのはいいが、この子は皿から肉を全部網の上に落とし、一気に焼いてしまうのである。あまりに斬新な焼き肉パーティーに私は見ているだけでお腹がいっぱいになってしまった。
「こういうのは普通、一枚一枚焼いていくものじゃないのか?」
「え~。だって面倒くさいじゃないっすか。それにそんな上品に食べてたら追い付かないっすよ」
煙と炎がもうもうと立ち上がる中、赤沢は一気に肉を二、三枚掴むと口に放り込んだ。
「一人で来るときにはいつもこのスタイルでやってますよ?」
「一人で来るのかよ! もっと他の人を誘ったらどうだ」
「付き合ってくれる人がいないんす。さすがの桃ちゃんも週一は無理だって言うし」
「週一かよ!」
あまりのハイペースに唖然としていると、さらに追加のハラミを持ってきた店員さんが話題に乗ってきた。
「あのユッケの人なら付き合ってくれるんじゃないっすかね」
ユッケの人……きっと緋村のことか。
「えぇ~。でも緋村さん、酒癖悪いから二人っきりだと辛いんす。マジで手に負えない」
「そうか? でも緋村君はお前と仲良くしたがってるんじゃないかな。今回の件だって一番怒っていたのは彼女だったようだし。なんせ唯一のライバルだからな」
すると赤沢はブホッと吹き出した。
「私が緋村さんのライバルっすか!? 無理っす! 端っから足元にも及ばないっすよ!はははっ!」
ライバルからライバルと認められないなんて緋村も可哀想に。それも仕方ないだろう。誰の目から見てもライバル視するには赤沢は力不足過ぎる。

ひとしきり笑うと、赤沢は一呼吸吐いてふと憂いげに微笑んだ。
「でも、緋村さんのおかげかもしれないっす。一昨日のティールームで緋村さんからガツンと言われて、私が何で悩んでいたのか気付かされたから。もしも言われなかったら、私は今頃異国の地にいたかも知れないっすね」
感慨深そうに網の上に乗った肉を箸で転がした後、赤沢は一息に残りの肉を平らげた。
「やはり君達は良いライバルだよ。好敵手というものは望んで巡り合えない、運命みたいなものだ。力量など些末な問題に過ぎない。互いがその場にいるだけで刺激し合える関係、まさに仕合わせじゃないか」
コクリと生ビールを喉に流し込む。今更ながら赤沢と緋村の二人をプランナー部門に置いて正解だったと思う。
「だから赤沢、もっと緋村のライバルとして見合った力量をつけてくれよ。そのうち愛想尽かされるぞ」
「……はいっす」
「少しくらいは否定しろよ。同い年でもお前の方が先輩なんだから」
溜め息を吐いたと同時に店員が追加の肉を持ってきた。赤沢は私のお説教もそこそこに、満面の笑みで注文の品を受け取るやいなや、網の上に肉を全て流し込み、空になった皿だけをそのまま店員へ返す。そしてすかさず追加の肉を注文した。
「まだ食べる気なのか!? 驕りとはいえ少しくらいは遠慮してくれ!」
「だって失恋焼き肉なんですも~ん。悲しい気持ちを埋めるには肉っす、肉」
何が失恋だと頭を抱えながら、私も店員にビールのおかわりを頼む。この子と話をしていると突っ込みところ満載で喉が渇いて仕方ない。

手元にあったグラスを飲み干すと、赤沢が尋ねてきた。
「支配人は、奥さんの事を本気で愛していたんすか?」
思わず口に含んでいたビールを吹き出しそうになったが、赤沢が真面目な表情のまま網に乗った焼き肉をひっくり返していたので、私も正直に答えた。
「そうだな。私はずっと美佳さんの事を愛していたんだと思う。だから無理矢理だったが結婚式を挙げたり、一緒に生活が出来たんだろう。病気のようなサービス精神の成れの果てだと思っていたが、今回の一件でそうでないことに気付かされたよ」
年若い部下を前に、愛してるだのと恥ずかしいセリフをよく言えたものだと照れてしまうが、この子が今聞きたいのはそういうことなのだ。
「ですよね。結局、私を最後に引き留めたのは、私が鎌田さんについて行けなかったのは、本当に心の底から愛していなかったからだと思います。もちろん昨日に言ったとおり、他のお客様を置いてプランナーを辞めれない、っていうのもあったからですけど」
「境遇にも寄るだろう。私は男でお前は女だ。立場が違えば別の答えが出ていたかもしれない。状況が変わっても、同じ答えを出したかもしれない」
ちょうど店員が持ってきたおかわりのビールをクピクピと飲み、息をホッと吐き出して言った。
「だがつまるところ、今回お前が出した結果が全てで、それ以上もそれ以下も答えはなかったということだ。それを後悔しなければいい」
そう、人は生きている限り幾つもの分岐点に差し掛かり、その都度ぜったいに答えを出していかなければいけない。進むも道、逃げるも道だ。どれだけ考えようとも悩もうとも、答えは一つしか出せないし、やり直しもきかない。ならばせめて、後悔しない道だと選びたいものだ。
私の話を少し俯き加減で聞きながら、赤沢は
「そうっすよね。私も、後悔しない人生を送りたいっす」
と力強く答えた。

更新日 12月12日

「でもどこかにいるんすかね、運命の人。私の全てを捧げてもいい! っていうほど愛せる人が」
いかにも若者らしい悩みに、私は微笑みながらビールを傾ける。
「そりゃあ、いるだろうさ。お前はまだ若いんだから、好きな人くらいすぐ見つかる。失恋焼き肉なんて言わずに、たっぷり食ったらまた新しい恋でも探しなさい」
「えっ。新しい好きな人なら出来ましたよ?」
今度は盛大にビールを吹き出す。勢いで気管の方までビールが逆流してむせてしまった。咳き込んでしばらく苦しんでいたが、ようやく回復すると私は怒鳴り声を上げる。
「お前はっ! 昨日の今日でよくそんな節操のない事を言えるな! どこまで頭が軽いんだ!」
だが赤沢は気にする様子もなく、もぐもぐと焼き肉を食べている。
「節操がないなんて非道いっすね~。仕方ないじゃないっすか、恋に落ちるなんて一瞬なんすよ。油断してるとフォーリンラブっすよ」
唐突過ぎるというか、簡単過ぎるというか。今回の騒動は一体なんだったんだと落胆してしまうほどの衝撃だった。それとも最近の若い子はみんなこんなのばかりなんだろうか。変わり身が早過ぎてついていけない。

「ったく。どこの誰なんだ、お前が一瞬で気を乗り換えられるような男は」
「あ、気になります?」
「まぁ……多少は、な」
すると赤沢はニンマリと不気味な笑みを浮かべると言った。
「その人はですね、普段から優しくて面倒見がいい人なんすけど、ただ優しいだけじゃなく厳しくするところはきちんと押さえてくれるんです」
私はビールを傾けながら、ほぅ、と感心した。
「そうだ。ただ甘やかすだけが優しさではない。時には冷たく突き放して教訓を促すのも、一番の愛情だったりするのだ」
「でしょ~。しかもその人、傷心だった私を優しくハグしてくれたんす~。その直後にですよ、急に『お前の道はお前が決めろ』ですもん。しびれちゃった~」
「飴と鞭の使い分けが出来ている。なかなかしっかりした男性ではないか」
赤沢にしてはまともな相手に惚れたものではないかと安堵した。失恋した直後というものは自暴自棄になりやすくて悪い。そんなときに赤沢が今言ったような男性が近くにいてくれたら、もっけの幸いだ。

そして赤沢は何故かじっとりした眼を私に向けて言った。
「でもその人、ちょっと変で。興奮するとすぐにお国訛りの方言が出るんす」
私は思わず吹き出して笑ってしまった。
「なんだそりゃ! そんなあちゃくせ奴がいるのか! やっぱりお前が惚れるくらいの男だからおかしげな人だとは思ったよ!」
声を上げて笑う私をポカンと口を開けて眺める赤沢。そして次にはガクリとうなだれた。
「そういえば支配人って、かなり鈍感なんでしたね」
「むっ。それは敏感な方ではないが、今その事を言われる筋合いはないぞ」
心底がっかりしたとでも言わんばかりに私を恨めしく睨み付ける赤沢。好きな男の話をしていたかと思えば、途端に落胆したり睨んできたり。まったく、最近の若い子は何が言いたいのかサッパリ掴めない。

それでも、だからと言って捨て置けないのもサービスマンとしての性か。若年層のお客様と話を合わせるヒントがあるかもしれないと感じ、私は赤沢にもう一つ突っ込んで話を聞いてみようと思った。
話が長引けば喉も渇こう。
 私は徐々に頬を赤らめてきた赤沢を横目に、店員へ新しいビールを注文した。

おわり



この度は『儀式人の楽園』を最後までお読み下さいまして、本当にありがとうございます。今年の三月から始まった儀式人シリーズもようやく終わりを迎えることになりました。これも一重にいつも温かいコメント、ご愛読下さった皆様の励ましがあればこそと感じ、重ねて感謝申し上げます。

もともと自分の職場である結婚式場をテーマに小説が書きたくて今日までやってきましたが、思いのほか楽しかったのと、自分の職業に対する姿勢を改めて考えさせられました。
特に支配人の視点を通してお客様やスタッフ達を見つめる時、果たして自分はここまで真摯な気持ちで向き合っているかと何度も自問させられました。そしていつしか、支配人のサービスマインドが自分自身の理想として胸に灯るようになりました。
ただ楽しい小説を書きたい、以外にも自分を成長させることが出来た良い機会にもなったと思います。

さて、現在私は何をしているかと言えば、きちんと小説を書いてます。ただしそれはこのブログに載せるためではなく、新人賞に応募するためです。
これまでは皆様に楽しんでもらうために小説を書いてきましたが、これからは自分の力を試すために小説を書きたいと思います。

なのでこの記事を最後に、ブログの更新を終了したいと思います。

儀式人シリーズから、いやもっと前のケフィアシリーズからご愛読頂いた皆様、そしてたくさんのコメントを下さった皆様、相互リンクをして下さった皆様、今まで本当に長い間ありがとうございました。約二年以上という期間、ブログを更新し続けてこれたのも皆様のおかげです。またいつかお会い出来る日を楽しみにしています。
皆様もどうかお元気で!

今まで本当に、ありがとうございました! 要人(かなめびと)






↓要人「長い間のご愛顧、ありがとうございました!」
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06:33  |  儀式人の楽園  |  CM(9)  |  EDIT   このページの上へ

Comment

支配人、イイ事言いますね!
ちょっと考えさせられました。
1つだけの答え、私は何ヶ月経っても出せてないですね~、なのに歳はとっていく…(涙)
夢 | 2009年12月11日(金) 17:02 | URL | コメント編集

>>夢さん
最後ですからね。支配人には格好良くいてもらわないと。
一つだけの答えって何ですか?
要人(かなめびと) | 2009年12月12日(土) 07:09 | URL | コメント編集

支配人…超!鈍感ですね、そこまで言われて何故気付かない?
その鈍感さに思わず笑っちゃいましたよ~!!
この2人の行く末に興味津々♪ 機会があったら2人の続編をぜひ(笑)
今日で終わりなんですね。ここに来るのは私の楽しみの1つだったので残念です(涙)
夢 | 2009年12月12日(土) 10:12 | URL | コメント編集

 
ども、お久しぶりです
来れていなかった分を一気に読んだのですが、
何を言おうと感嘆の溜息に変わってしまいます
グッと来ちゃいました
登場人物が間近に迫るようで、何というか「圧巻」
一つ一つの話に感じる物があって素敵でした
何度も読み返したいです

自分なんぞが言うのもアレですが、お疲れ様でした
一年半以上通っていたのがフッと途切れるのは寂しいですが、
ネットに住んでいると仕方がないことなんでしょうね

停滞中の物書きな自分も、こちらでかなり成長できたと思います
小説が自分と要人さまの出会いでしたからね
とうとう風子は渡せず終いになったことをお許し下さい・・・うぅぅ
何だか目の前がぼやけるよマジで・・・
言いたいこといっぱいですが、切りがないのでこの辺で

こちらこそ本当に有り難う御座いました
またお会いできる日まで、お元気で

p.s. しし座流星群、離れていても同じ空の下で眺めましょうね♪
 
楚良 紗英 | 2009年12月12日(土) 22:30 | URL | コメント編集

どうもありがとうございました。
せ | 2009年12月13日(日) 07:11 | URL | コメント編集

>>夢さん
支配人の鈍感さ加減は折り紙つきですからね。
私としてもこの二人の行方、フェリスタシオンの行方をもう少し書きたかったんですが。
もしも新しい作品が載せれそうなら載せます。
そのときはもちろんご連絡いたします。
今まで本当にありがとうございました。

>>楚良 紗英さん
お久しぶりです、ちゃふ子さん。
長い間、仲良くして頂いて本当にありがとうございました。
ちゃふ子さんにはかなり励まされた気がします。
年齢はこれほど違うのに色々お話が出来たのはネットならではでしたね。

これからも物書きはずっと続けていくつもりです。
ペンネームも要人のままでいくので、いつか本でお会いできるように頑張ります。
もう一度、本当にありがとうございました。

P.S 今日はふたご座流星群の極大日です。どうか星が流れますように♪

>>せさん
こちらこそ、ありがとうございました。
必ず本が出せるくらいにちゃんとした物書きになれるように頑張ります。
要人(かなめびと) | 2009年12月14日(月) 07:01 | URL | コメント編集

●管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
 | 2009年12月17日(木) 16:21 |  | コメント編集

●お疲れ様です

通りすがりの身で失礼致します。

ケフィアを執筆されていた頃より毎回楽しみに拝読させて頂いておりました。

時に笑いを、そして勇気を数々の壁を乗り越えていく魅力的な登場人物と共に描かれていて幾度となく胸が躍りました。
ブログの方はこれで終着となってしまうようですが、これからのご活躍に期待しております。
通りすがりの人 | 2009年12月18日(金) 13:53 | URL | コメント編集

>>通りすがりの人さん
大変ありがたいお言葉、本当に嬉しいです。
ケフィアの時代からお読み頂いてたんですね。
これはますます嬉しいです。

もしよければ、トップページの「『萌え』と剣」の下あたりを探してみてください。
きっと良いことがあると思います。
要人(かなめびと) | 2009年12月20日(日) 10:10 | URL | コメント編集

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