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2011'10.29 (Sat)

戦闘中・会話中・チャット中

お題「戦闘中・会話中・チャット中」

system:オデュリガスさんがチャットルームにインしました。

オデュリガス:こんにちわ~
オデュリガス:あれ、誰もいない?
だるまダル:こんにちは
オデュリガス:あ、だるまさん
オデュリガス:いたのね
オデュリガス:他の人は?
だるまダル:まだだれも
オデュリガス:ふ~ん
オデュリガス:なんだ。今日はすごくみんなとチャットしたい気分なのに
オデュリガス:まあ、待っていればいずれ集まるっしょ
オデュリガス:だるまダルさ~ん
オデュリガス:……
オデュリガス:お~い、ダルちゃ~ん
オデュリガス:いま、なにしてる~?
だるまダル:戦闘中です
オデュリガス:?
オデュリガス:あ~、ネトゲでもやっているのかね
オデュリガス:いいよ~。半ロムでもいいよ~
オデュリガス:こっちは勝手に喋っているから
だるまダル:すみません
オデュリガス:今日さ、仕事でさ
オデュリガス:上司からメッチャイヤなこと言われてブルーなのよ
オデュリガス:もう、ブルー通り越してダークって感じ
オデュリガス:だから、みんなとチャットして楽しい成分を補充しようかと


system:みっこたん☆さんがチャットルームにインしました。

みっこたん☆:こんにちは
オデュリガス:お!みっちゃん、こんにちは!
みっこたん☆:オデュさん、テンション高いですね
オデュリガス:うん~
だるまダル:ダークですか
オデュリガス:だるまさん、レス遅!
みっこたん☆:?
オデュリガス:だるまさん、ネトゲで戦闘中だからレス率低いのよ
みっこたん☆:ああ、了解です
オデュリガス:まあ、いつもレス遅い方だけどね
みっこたん☆:まだタイピングが慣れてないんですよ
みっこたん☆:ロムだけでもチャットは楽しいですし
オデュリガス:だよね~
オデュリガス:みっちゃんはいま、何しているん?
みっこたん☆:会話中です
オデュリガス:?
オデュリガス:電話とかスカイプ?
みっこたん☆:いいえ。オデュさんとかダルさんと会話中です
オデュリガス:なるほどね~
だるまダル:すみません
オデュリガス:だからレス遅っ!
みっこたん☆:まあまあ、いいですよ
オデュリガス:今日さ、リアルの方でイヤなことがあったのよ
みっこたん☆:そうなんですか
オデュリガス:上司が有り得ない命令してくるからさ
オデュリガス:もうね、パワハラもいいとこ
みっこたん☆:それは大変ですね
オデュリガス:だよね~
みっこたん☆:私なんて何も言ってもらえない時の方が多いですよ
みっこたん☆:だからいつも一人というか
オデュリガス:それはそれで辛いけどさ
オデュリガス:ある意味、信用されている証拠なのかもね
みっこたん☆:そうなのかな……
オデュリガス:そうだよ、きっと
オデュリガス:私もガミガミ言わない上司がいないとこに行きたいな~
だるまダル:パワハラですか
オデュリガス:だから遅いって!
みっこたん☆:まあまあ、気にしない
オデュリガス:みっちゃんはさ、最後の日って何をしていたい?
みっこたん☆:最後っていうと?
オデュリガス:う~ん、平たく言えば
オデュリガス:人生最後の日
みっこたん☆:……
みっこたん☆:あまり穏やかな話ではないですね
オデュリガス:ちょっと話題が重くてゴメンね
みっこたん☆:いえいえ。よくある話題だから、それ
オデュリガス:宝くじで一億当たったらどうする?とか
みっこたん☆:ヒマな時の定番会話(笑)
オデュリガス:確かに(笑)
みっこたん☆:人生最後の日ねぇ
みっこたん☆:私は普通にでいいかな
オデュリガス:普通に?
みっこたん☆:うん。特に大それたことをしたいわけじゃないし
みっこたん☆:そんな勇気もないから
みっこたん☆:こんな風にチャットとかしている日常で終えるのがいいかな
オデュリガス:……
オデュリガス:なるほどね
みっこたん☆:オデュさんは?
オデュリガス:まあ、私も
オデュリガス:同じ、かもね
みっこたん☆:なるほど。みんな、そんなものなのかも知れませんね
だるまダル:わたしは、たたかっていたいです
オデュリガス:はいはい。ネトゲ厨乙
みっこたん☆:(笑)
みっこたん☆:ところで、オデュさんはいま何をしているんですか?
みっこたん☆:仕事しながら?
オデュリガス:うん。それもそうだけど
オデュリガス:チャット中
みっこたん☆:それはそうでしょうね(笑)


口にくわえた棒を伝って、唾液がキーボードに落ちる。それでも男性は懸命に、一文字一文字をタイピングしていった。
病院の一室にて。そこには男性以外の患者はいない。
以前まではあと二人ほどいたが、一人は家族に引き取られていき、もう一人は昨晩に首を吊って自害した。
真っ白なシーツがしかれたベッドで、男性はノートパソコンを前に奮闘している。
男性の両手両足はない。戦地の地雷で千切り飛ばされたのだ。
この病院はそういった戦地で負傷した者達で溢れかえっている。
胴体と頭だけの芋虫みたいな体で、男性は口にくわえた棒だけでキーボードを打つ。
一文字を打つだけで首が痙攣しそうになり、顎の筋肉は吊ったまま凝り固まっている。
それでも男性は顔を赤くし、息を乱してまでチャットをする。額から流れ落ちる汗も、垂れ流した涎も拭く腕はもう男性にはない。
それでも男性はチャットをする。必死でキーボードに向き合う。
ディスプレイに映った電脳の世界。たった三人しかいないチャットルームが、男性がまだ真っ当な人間であると認識できる証なのだ。


女性は背後に人の気配を感じて振り返る。そこにいた夫はやや驚いた様子だった。
「音がなくても気付くなんてすごいな」
その声は女性の耳に届かない。いや、女性の耳はどんな音も聞き取れない。
生まれた時から聾唖者なのだ。
リビングの机でパソコンをしていた妻に、夫は一枚の紙を差し出す。妻がそれに目を通し、顔を上げたのを確認してから手話をする。
「あとは、君が、判を押す、だけだ。すまないが、役所へは、君が、出してくれ」
離婚届だった。
夫はこれから徴兵により戦地へ赴く。自国の戦況が思わしくないのは明白で、生きて帰れる見込みが薄いだろうと誰もが口にしている。妻を未亡人にして余生を過ごさせるのは心残りだ。せめて未練などないように籍を抜いておこう、と。
当然ながら体の良い言い訳だということは、お互いが一番よく知っていた。夫婦関係など、とっくの昔に冷め切っている。
妻は憂いを帯びた顔を夫に向け手話をする。夫は溜め息を吐いて手話を返した。
「だから、もうその話はよそう。僕はこれから、戦争に行く。君の元に帰れる、保障はない。お互いに、納得したことじゃないか」
それでも妻は手話を止めない。夫も素早い手つきで応酬をする。
「今更、何を話し合おうって、言うのさ。もう、済んだことなんだよ。黙って、戦地に送り出してくれ。僕だって、辛いんだ」
そこで妻は一旦、手を下げる。そして決意をしたように、丁寧な手話で言った。
夫は泣きそうに顔を歪め、目をそらして返事をする。
「ああ、そうだよ。本当はもう、君と一緒に居たくないんだ。まともに声が届かない相手と、これから先も過ごさなくちゃいけないなんて、苦痛でしかないよ」
目元を抑えてガクリと膝をつきながら、夫は吐き出すように言った。
「僕は普通に会話が出来る女性と夫婦になりたかった」
相手が音を聞き取れないからだろうか。夫は年甲斐もなく声を上げて泣いた。
窓から夕日が差す。どうしようもない哀愁が、二人しかいない部屋を真っ赤に染めた。
妻はテーブルから離れると、夫の前にしゃがむ。そしてまた、ゆっくりと丁寧に手話で告げた。
『私は今、初めてあなたと、本当の会話をした、気がします』


「おい、オデュリガス二等兵。貴様、いい加減にスマートフォンを手放せ」
上官からの叱責に、オデュリガスはようやくスマートフォンから顔を上げた。
瞳は虚ろで、顔面からは血の気が引いている。これが死相というものかと上官が思っていると、前方から激しい爆音が轟いてきた。
オデュリガスの顔から更に生気が失われる。他の隊員達も同様に、声を押し殺して震えていた。
それが先発部隊が自爆行為をしたことを、隊員達も当然ながら知っているのだ。
どう足掻いても勝機などない戦線である。残された選択肢は敵軍の捕虜になるか、名誉のために散るか。
先発部隊が選んだ名誉が、敵軍を巻き込んでの自爆であった。部隊長の命令だったと聞く。
オデュリガスは恐怖でガチガチと歯を鳴らしている。そしてスマートフォンに表示されたチャットの文章を、目で追い続けた。
「何が戦闘中だよ、クソが。こっちは戦線の真っ只中なんだよ。何が会話中だよ、ふざけんな。平和ボケしやがって」
ブツブツと独り言を呟くオデュリガスだったが、他の隊員は見向きもしない。何故なら彼らも、他人に構っていられるような精神状態ではないからだ。
スマートフォンを乱暴に押して、ただただ文字を入力していく。
話し相手は誰でも良かった。平静を装ってチャットをしていることが、唯一オデュリガスの精神が暴れないように制御しているのだ。
そんな魂の寄りどころであるスマートフォンを、上官が無慈悲に奪い取る。
そして替わりに冷たく重い一丁の拳銃を握らせる。
「玉は一発しか入っておらん。自ら引き金をひけない奴は申し出ろ。俺が介錯してやる」
次々と隊員達に拳銃が手渡される度に、すすり泣く声が合唱のように響き渡る。
「我が部隊は敵軍の捕虜なんぞには決してならん。潔く自決を図ろうぞ、戦友共!」


system:オデュリガスさんがチャットルームから抜けました。

お題提供・ランチパックの巴御前、すばるん Thanks!
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22:46  |  三題噺  |  CM(0)  |  EDIT   このページの上へ

2011'10.29 (Sat)

ペッカ・ドラゴン・ペンギン

お題「ペッカ・ドラゴン・ペンギン」

『ペッカを求め、ペッカに従いなさい』
しんだ僕のおかあさんがいった言葉だ。
ペッカが一体どういう意味なのかわからない。物だろうか、人だろうか、場所だろうか。
僕はそのペッカをさがす旅をしている。ペッカのほんとうの意味をしることが、いまの僕の目標だ。

遠くからペタペタとあるいてくる音をきいて、僕はかおを上げた。
「トゥバンくん、大発見だよ!」
チノリピオーくんのはずんだ声に、僕もおもわずガバッと体をおこした。
その拍子にたたんでいた翼も大きく広げてしまって、ペンギンのチノリピオーくんが風で後ろにころがってしまった。
「あ、ごめん!大丈夫かい、チノリピオーくん」
「もうトゥバンくんは。君は時々、自分がドラゴンということを忘れてしまっているよね。僕はいつもハラハラさ。こないだもそうだったね。コリブ渓谷に行ったときさ」
短い左手でこしをさすりながら、チノリピオーくんは僕にお説教をする。僕は首をすくめて大人しくきいた。
この子が僕といっしょに旅をしているチノリピオーくんだ。
僕の爪先くらいのおおきさしかないペンギンだけど、僕よりもたくさん色んなことを知っている。
旅の途中でしりあったのだけど、チノリピオーくんは将来、学者さんになりたいらしい。だから勉強のために、いっしょにペッカを探してくれるといってくれたんだ。
いまではすっかり、僕の大親友だ。

「それでチノリピオーくん、大発見ってなに?」
よく動くクチバシを見つめながら僕は訊ねる。まだ言い足りない様子だったけど、チノリピオーくんは咳払いをしてお説教をやめた。
「ここから少し行った街にね、有名な教授がいるんだ。僕と同じペンギンの種族だけど、とても優秀なお方さ」
「きょうじゅ?」
「あぁ。ペッカの研究をしている第一人者さ」
僕は嬉しさのあまり興奮して、足を踏み鳴らした。そのせいで地面が揺らいで、チノリピオーくんはアワアワと転げ回った。
「ちょ!トゥバンくん!落ち着いて!あ、痛!」
チノリピオーくんの声で僕はハッと我にかえる。気付けば地面のあちこちに地割れができていた。
「君は本当にドラゴンだという自覚がないな!いや、ドラゴンそのものだよ!感情で行動し過ぎ!」
倒れたままプンスカ怒るチノリピオーくん。僕はシュンとうなだれながら、目の前の親友をジッと見つめていた。
ムチムチと健康的な腿やよく張ったムネ肉。おもわずゴクリとのどが鳴る。
感情で行動っていうけど、僕だって結構がまんしているんだけどな。
チノリピオーくんといっしょ歩いていると、みんな不思議そうな顔をするんだ。
からだの大きさとかじゃなくて、種族が違うからとかじゃなくて。
前にたまたま森で出会った僕の友達ドラゴンが、何も言わずチノリピオーくんに噛みつこうとした。
怒って尻尾で叩きとばしたけど、その友達はすごくビックリしていた。そしてこんなことを言ったんだ。
『悪い悪い。お前の飯だったか』
僕にとってチノリピオーくんは親友だ。彼がペンギンで僕がドラゴンなんて関係ない。僕達はずっといっしょにいるんだ。
「ちょっとトゥバンくん。聴いているのかい?また頭の中が大空を駆け巡っているよ」
後ろ足をクチバシで突っつかれてハッとする。
「あ、うん。ごめん」
僕は無理矢理に牙を見せて、苦笑いをした。
そうだ。チノリピオーくんは親友だ。
だから彼を見て、美味しそうとか思ってはいけないんだ。

それから僕達はどうでもいい話をしながら待った。
その教授さんが、なんと僕に会うためここまで来てくれるらしい。
僕は街中までいくとみんなを驚かせてしまうから。しんせつな教授さんだ。
しばらくすると、ペタペタという足音と共にメガネをクチバシの上にのせたペンギンがやってきた。
「ほほう。これはなかなか立派なドラゴンだ」
僕をみあげながらそのペンギンはいった。
「は、はじめまして。トゥバンっていいます」
僕からすこし距離をあけてジロジロ見つめる教授さん。こっちは緊張で、尻尾をブンブンと振るしかなかった。
「あなたは、ペッカの意味を知らないそうな」
「は、はい!そうです!」
「トゥバンくんのお母さんがね、亡くなる前にペッカを求め従えと言葉を残したのさ。だから彼はペッカの意味を探してずっと旅をしていたんだ」
「う、うん!」
緊張のあまり、口からファイアブレスを吐かないようがまんするのが精一杯な僕のかわりに、チノリピオーくんが助けぶねをだしてくれた。
嬉しくて顔を向けると、チノリピオーくんは軽くウィンクをした。
「それで教授、ペッカとは一体なんでしょうか?物?人?場所?」
僕がきくより先にチノリピオーくんはきく。すると教授はメガネの奥にある小さな目をとじて、首をふった。
「どれも違う。ペッカとはそういう具体的なものではない」
「では、一体……」
「いうなれば、ドラゴンであるがための矜持……プライドかの。ペッカとは、常に己の魂を試す行為を意味する」
話がチンプンカンプンだ。教授さんの難しい言葉に頭がグルグルする。
「プライドを試す行為とはなんだい?そもそもそれはドラゴンとして、必ずしなければいけないのかな」
頭が悪い僕にかわってチノリピオーくんが話を進めてくれる。
「必ずしもすることはない。ただし……」
そこで教授さんは片目だけ開けて、まっすぐ僕を見た。
「心にやましいことがあるならば、気高きドラゴンとしてペッカを試さなくてはならん」
ドキッとした。心臓が驚いたときみたいにバクバクいっている。
「ドラゴンとはこの世で最も優れた種族。それは屈強な力を有するがためでなく、誇り高き魂を数百年に渡り保ち続けるからという。故に己の心にやましいことや卑しい気持ちがあるときには、自らの心臓でもある頭の角に賭けなくてはならない」
「頭の、角に?」
「そう。角を真下に、宙より地上に向けて落下をするのじゃ」
その場面を想像しただけで心臓がとまりそうになる。頭から生えた角が折れてしまったら、僕達ドラゴンは死んじゃうんだから!
「ただし、いやしい魂に打ち勝つ気持ちの強さがあるならば、角は折れず更に強大な力を得るであると伝え聞く」
そう言うと、教授さんはまた目を閉じた。それまでだまって話をきいていたチノリピオーくんは、急にわらいだした。
「なんだ、ペッカってそんなものだったとは!なんだか拍子抜けだよ!トゥバンくん、どうやら君には全く関係ないものだったようだよ。だって君は誇り高いドラゴンだ。ペッカを試さなければいけないほど、やましいことなんてないだろう?」
両手をパタパタさせながら笑顔をむけるチノリピオーくん。でもその笑顔がくもったのを見て、僕は目をそらした。
「まさか君ほどのドラゴンが……。悪い冗談なら止めなよ。僕はそんな情けない顔をする君なんて見たくない」
胸がくるしかった。
チノリピオーくんがガッカリして僕をみつめる。僕は一番やましいと思われたくない相手に、やましさを持っているんだから。
君を食べてしまいたい、だなんて。親友失格だ。
僕はおおきく翼をひろげると、地面を蹴って浮上する。その風圧でチノリピオーくんと教授さんは、象四頭分くらいの距離ほど吹き飛ばされた。
「トゥバンくん!何をする気だい!」
「ペッカに決まっているよ!」
ぐんぐん上昇しながら僕はこたえた。地面ではまだチノリピオーくんがチャンチュン何か言っているけど、もうきこえない。
僕は雲の高さまでつくと、そのまま頭を下にして翼をたたんだ。
僕はきみの親友にふさわしいドラゴンになりたいんだ。やましい気持ちなんて持たずに、きみと向き合いたいんだ。
だから、この角を賭けてペッカをする。
僕の体はスピードをつけて、地上めがけて落ちていく。そして地面につくと思った瞬間、僕の目はチノリピオーくんをとらえた。
なぜだか、わからなかった。
チノリピオーくんは、笑っていた。


地面に墜落したドラゴンの衝撃は凄まじいものだった。
地球の一部が抉れるほどの爆発。次いで大地が震えるほうこうを放ち、ドラゴンはぐったりと横たわった。
その巨体が見る見るうちに生気を失い、岩肌にも近い頑丈なウロコは砂と化し崩れ落ちていく。
するとウロコばかりではなく、全身が砂となっていく。一分もしないうちに、その場には小高い砂山が築かれた。
俺はクチバシを歪め、声を出さずに笑った。
「こいつ、デザートドラゴンだったんだな。スカイドラゴンだと死ぬ瞬間に気体化すると聞く。デザートだけに砂かよ」
俺は間抜けなドラゴンの亡骸に歩み寄ると、前足で砂山を蹴り上げた。
「まんまと騙されやがった!なんて単細胞なんだ、ドラゴンってやつは!」
砂が宙に舞いキラキラと輝く。俺はそれが可笑しくて、何度も砂を蹴り上げた。
「まったく見上げた奴だよ、お前は。あのドラゴンを騙し殺すなんてな」
後ろにやってきた仲間ペンギンが呆れたように言う。
「お前だって大したものさ。ちゃんとそれらしく演技していたぜ、教授さんよ?」
「けっ、やめてくれ。目の前にドラゴンがいるってだけで心臓が縮み上がったぜ」
そう言ってそいつはクチバシの上に乗ったメガネを投げ捨てる。そしてさも愉快そうに言った。
「しかし、己を試すのがペッカってなんだよ。んなわけあるかっての。なんであのドラゴンは真に受けるんだろうな。相当にバカだろ」
爪先にこつりと何かが触れた。俺は足で砂をササッと掻き分けてそれを取り出す。
リンゴほどの大きさを持つ宝石だ。
「だよな。これが本物の『ペッカ』だっていうのに」
ドラゴンは死ぬと、亡骸と共に巨大な宝石を残すという。別名ドラゴンの心臓と呼ばれるコレこそが『ペッカ』なのだ。
俺はペッカを手の上で転がしながら、苦々しい記憶を思い出していた。
まだ小鳥だった頃、俺の母親はこのドラゴンから無慈悲に喰い殺された。
躊躇なく頭からぐしゃりと巨大な口に飲み込んでいくのを、俺は震えながら眺めていた。
「あいつは素知らぬ顔をしていたがな、俺のことを舌なめずりしながら横目で見ていたのに気付かないでいたと思ったか。肝を冷やすこともあったが、今回はそれを利用させてもらったんだよ」
反吐が出そうな友情ごっこが好きそうなあいつに、今までずっと合わせていたんだ。それもこれも、母親の復讐をするためだ。
あいつの心臓、ペッカをこの手中に納めたカタルシスに心が震える。
食物連鎖を覆してやった。俺は自らの力でドラゴンを殺してやったのだ。
「なあ、チノリピオー。そのペッカをどうするんだ?」
「売っ払うに決まっているだろ。ペッカに高値が付く話は有名だからな。久しぶりに新鮮なニシンを山ほど食いたいぜ。お前にも世話になったからな。一杯おごるさ。それともメスペンギンでも漁りに行くか?」
好色にクチバシを歪める仲間に、俺は不敵に笑って返してやる。
そして手元にある資金源に目を落とす。そこで俺は首を傾げた。
ペッカが少しずつだが、小さくなっている気がする。いや、よく見てみると段々と溶けているのだ。
「おいおい、なんだこりゃ」
宝石の表面が氷のように溶けていく。俺は慌ててもう片方の手を受け皿のようにしたが、濡れた感触は全くなかった。
溶けたペッカは滴り落ちるでもなく、俺の手の中に吸い込まれていく。第六感で危険を察知したときには既に遅かった。
体がムズムズするなと思うやいなや、腕や足の筋肉が膨れ上がっていく。そればかりか尖ったクチバシは横に裂け、牙がびっしりと生え揃う。飛ぶことを忘れた手羽は湖より広い翼に変わる。
気付けばじぶんの目線が、雲にとどくほど高くなっていた。
魂がなにかをせき立てる。なんだか、ひどくあばれたい気持ちだ。
あの森をおれのはきだす炎で焼きつくしてやりたい。
あの山をおれのしっぽで粉々にはかいしてやりたい。
そのまえに、はらがへった。
なにか、くうものはないか。
しんせんなにくが、くいたい。
なんだ。めのまえにペンギンがいるじゃないか。
ふるえてやがる。

くっていいよな。

おわり


お題提供・ギルマスのエバさん。Thanks!


00:26  |  三題噺  |  CM(1)  |  EDIT   このページの上へ
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