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2010'09.06 (Mon)

私の星乞譚。 第十五章

「星座を形成する恒星は九つ。二重星はまだ確認されてないけれど、もう少し精巧な望遠鏡で観測しないと断定できないわ。誕生した日にちは三月十二日の七時四十八分。全体の大きさは九四七平方度。正中時刻は四月十五日に十一時」
用紙も読まずに淡々と語る朔張校長を前に、私と鎌田君はただぼんやりと聞いていた。
「さらに星座の中に二等星級以上を三つも有しているなんて。これは間違いなく春を代表する星座と呼ぶに相応しいわ。星主達の思いが余程強固だった証拠ね」
そして朔張校長は口元を下弦の月のようにニンマリと歪める。私達は恥ずかしくて、お互いに照れ笑いを向けた。

鎌田君と星結いをしてから三日後、私達は朔張校長に呼び出された。
と言っても、やはり星結いをしたカップルのプライバシーを保護するためか、かなり回りくどい呼び出し方法だったけど。
まず、私は三時限目にあった星乞譚の授業後に、明天先生から授業で使った教材を備品庫へ返してくるよう頼まれた。そして備品庫の指定された棚に教材を戻そうとすると、私宛ての封筒を発見。そこへ放課後に校長室へ来るよう指示があった。
普通に口頭で伝えてもいいと思うんだけど……。
校長室へ行くと、私より先に鎌田君が来ていた。しかも何故かサラリーマン風の変装までさせられている。どういった経緯で変装したのか気になったけど、逆に怪しまれはしないか。
私達に気を遣ってくれるのは嬉しいけど、何だか先生方、楽しんでいるんじゃない?
そして朔張校長は私達が名付けた星の名前と、星結いをした状況を詳しく事情聴取した。思い出すだけでも顔から発火ものなのに、かなり詳しく聞き出されて、恥ずかしいったらなかった。しかも星座に与える影響とか何とかいって、キスをしていた時間まで聴かれるなんて……。
校長先生、ニヤニヤし過ぎ。絶対わざとだ。

「さて、この誇り高き星座の主である二人に尋ねます。星座名は、如何しましょうか?」
私は鎌田君に視線を移す。彼も同じように私を見た。話し合うまでもない。星座の名前はとっくに決まっている。
「獅子座……が良いと思います」
二人を代表して鎌田君が答える。それに対して朔張校長は微笑みを浮かべると、ゆっくり頷いた。
「良い名前だわ。星座の形もまさに凛々しく堂々と鎮座した獅子そのもの。春の夜空に誕生した百獣の王はきっと後世まで末永く、玉座に君臨し続けることでしょう」
校長先生につられて私達も頬を緩める。忠義の淑女にそこまで言われると、何だか本当に誇らしく思えてくる。
「そしてもう一点、この星座に素晴らしい発見があったの。お二人はロイヤル・スターをご存知?」
校長先生の質問に、私達は揃って首を横に振る。天文には詳しいつもりだけど、その単語は初めて耳にする。
「知らなくて当然でしょうね。ロイヤル・スターとは、私が夜空を巡る導線上に誕生した一等星を指すの。現存するロイヤル・スターは秋の一つ星であるフォーマルハウト、ただ一人。でもこの度、新たな王が誕生したわ」
「もしかして……コルちゃん、ですか?」
「御明察ですの。獅子座アルファである、コル・レオニスの名を冠した星がロイヤル・スターであることが判明しました。南の王に次ぐ、北を統べる王の席にコル・レオニスが着座するにあたって、私から北の王に二つ名をプレゼントして差し上げたいの。受け取って下さる?」
 柔らかく、それでいて威厳を損なわない態度で居住まいを正す校長先生に、私も無言で頷く。そして校長先生から賜るであろう二つ名を受け入れる心構えをした。

「レグルス。小さな王、という語義ですわ」

レグルス……、いつも私を励ましてくれた、気高いあの子に相応しい二つ名だ。朔張校長の口から発せられた言葉が、私の胸にスッと落ちる。

「はい。コルちゃんにぴったりな名前です。小さいってあたりが控え目な感じで」
「そう言って頂けると光栄だわ。ちなみに、ロイヤル・スターには恒光石の頃にある特徴を持っているの」
「宙を舞う、ですか?」
「そう。浮かぶ恒光石なんて今までフォーマルハウト以外、耳にしたことがなかったわ。だからこれまで特例だと思っていたけど、レグルスのおかげで一つの指標が証明出来たんですの。これもひとえに、夏日ちゃんの功績もあるかしら?」
それを聞いて思い出した。あの放課後に夏日先生とお話したことを。先生はコルちゃんを見て、ロイヤル・スターの恒光石だと感づいたのだ。
今にして思えば、夏日先生は私がやまねこ座を勘違いしたことも見抜いていた。だから最初のうち、あんなにも話が噛み合わなかったのだろう。
「夏日先生とお話した時、最後に『頑張ってみろ』って励まされたんです。あの後押しがなかったら、私はきっと鎌田君へ星結いをしなかったと思います」
夏日先生には本当に何度お礼を尽くしても足りないくらい感謝している。でもそれは、先生が星結いへ介入したことにならないかと、少し不安に思った。
「夏日ちゃんは惑星の中でも特段、情に厚い方ですから。しかし、随分とあからさまに背中を押してくれましたわね」
「わ、私は何とも思っていませんよ! むしろ助かったくらいですし! だから、その……夏日先生を責めたりとか、しないでもらえればと」
途端に両目を満月みたいにまん丸とする朔張校長。そして次には口元に三日月を浮かべた。
「まさか、責めるなんてするはずもありませんわ。確かに我々は人々の星結いへ深く干渉することを禁じておりますが、それはあくまで自戒であって罰するほどでもありません」
「でも引力の鎖で互いを縛り付けているって」
「それは単なる比喩表現ですわ。まさか本気にされてしまうとは思いも寄りませんでした」
少女のように明け透けと笑う朔張校長。隣の鎌田君は何の話か着いてこれず、手持ち無沙汰に微笑んでいる。
ひとしきり笑ってから、朔張校長は窓の外に目を向ける。
もう下校時刻は過ぎているだろうか。西日というには弱々しい明かりが黄昏時を告げていた。
「さて、今日は楽しいお話を伺えて至極幸福です。私からは以上ですが、お二人から何かございましたらお答え致しますわよ」
話というほどでもないけど、一つだけ気になることがある。
「あの、やまねこ座ってやっぱり、うちの学校の生徒が星結いで誕生させたんですか?」
鎌田君と星結いできた今では関係ない話だけど、あまりにもタイミングが良すぎたから心の隅に引っかかっていた。
すると朔張校長は少し思案した後に、のんびりと答える。
「本来でしたら星座を誕生させた人物については完全秘匿が厳守なのですが、星主同士ということで特別に。やまねこ座を誕生させたのは当校の生徒ではありません。沖縄に通う中学生のカップルでした。それ以上は教えることが憚られますが、ご満足かしら?」
肩をすくめる校長先生に対し、私は深くお辞儀をする。私のちっぽけな杞憂に向き合ってもらい、恐縮だ。
私と鎌田君はもう一度、朔張校長に深々と頭を下げて校長室を後にする。そして去り際、忠義の淑女は優しく微笑んで言った。
「敬虔なる星の導きが巡りますよう。そして、永久の輝きがあなた達の行く末を照らし続けますように」
私は感激で胸がいっぱいになりながら、大きく頷く。
「はい。これからも迷い悩む時には、星空を眺めて校長や彷徨の民、そして数多の星々に勇気を頂きます」
「星空……なんて美しい言葉かしら。私もいつかこの静寂の夜空が星で賑わい、誰もが星空と呼べる日が来ることを祈っていますわ」

学校を出る前に、校舎脇にある体育用具室へ寄る。サラリーマン姿に変装した鎌田君が着替えをするためだった。
「どういった経緯でそんな格好にさせられたの?」
見慣れた学生服姿へ戻った鎌田君に、鞄を手渡しながら尋ねる。
「まずはお昼休みに大木先生から呼び出されて、そのままここへ拉致された。そしたら中に衣装と置き手紙があって、放課後になったら校長室に、って。大木先生、わざわざ俺に当身をあてて気絶までさせたんだよ」
「随分と力ずくだったんだね。良かった、私は穏便で。でもさ、先生方も普通に呼び出してくれてもよかったのに」
「先生達よっぽど楽しんでいるよ、あれ」
「やっぱり、そうだよね」
声を上げて笑いながら私達は校門をくぐった。

町はすっかり薄暗くなっていて、すれ違う人の顔も街灯の明かりがなければ見えないほどだ。そんな夜の帳に紛れ、鎌田君は私の手を握り、自分のポケットへ招き入れた。
冷えた頬と心が温もりを帯びて綻ぶ。そっと鎌田君を盗み見ると、顔を真っ赤にさせながらも強がってか、必死に澄ました態度を取り繕っていた。そんな何気ないことが可笑しくてこそばゆい。
きっと、今の私達の間にあるこの時間を、言葉に表せば『幸せ』なんていうんじゃないだろうか。それほどまで鎌田君の傍にある空間が嬉しすぎて、耐えきれない。
「酒留も知っているだろうけど、俺の家、あんなんだからさ。当たり前の生活とか無理だと思っていたし、誰かを好きでいる余裕もないと思っていた」
少し声のトーンを落とす鎌田君。顔を覗き込んだけど、ちょうど暗がりに差し掛かって窺えない。
「だから酒留を好きになっても絶対幸せにはしてやれないって思っていたし、そもそもこんな俺を酒留が好きなはずないって、諦めていたんだ」
「そんなはずない! 私は鎌田君以外の誰かを好きになるなんて、考えられなかった!」
声を上げてフォローする私に、鎌田君は照れ笑いで応えた。
でも、鎌田君の気持ちも痛いくらい分かる。私だってずっと、自分が鎌田君に相応しくないって思っていたし、彼が私を好きだなんて今でも信じられない。可能性なんて一パーセントもなかった。
相手が何を感じ、思い悩んでいるかなんて、誰にも分からない。
「家の事とかお父さんの事とか、そんなの関係なく私はそのままの鎌田君が好きになったの。もしも落ち込んだり苦しい時があったら、ちゃんと教えて。私はあなたを暗闇から救う星になりたいの」
だから私は、きちんと言葉で伝える大切さを教えてもらった。思いを伝える尊さを、星結いを通して学んだ。
ポケットの中で繋いだ手に力がこもる。私もギュッと手を握り返す。そして鎌田君はさっぱりとした笑顔を浮かべ、言った。
「うん、そうする。俺も酒留が辛いときに、輝く星になって傍にいるよ」
私は鎌田君に体を寄せた。彼のたくましい腕から伝わる気持ちを、一身に受け止める。
「じゃあ私は鎌田君のレグルスだね」
「俺は酒留のデネボラか。そっちより星光は弱いけど、頑張るよ」
「等級の問題じゃないよ。鎌田君はいつまでも私のロイヤル・スターなんだから」
自分で言っておいて、あまりの馬鹿馬鹿しさに思わず吹き出す。つられて笑いを堪えていた鎌田君も吹き出した。
他の人に聞かれたら、さぞかし滑稽な会話だろうし、後から冷静になれば恥ずかしさに身を悶えてしまいそうだ。
でも、いいんだ。こんな他愛ない一時も、言葉に表せば『幸せ』なのだろう。

更新日 9月9日

楽しい時間ほど瞬く間に過ぎていく。普段は長いと感じる通学路も、鎌田君と二人なら短く感じた。気付けば私達が住む地区に足を踏み入れていたけど、空には既に星々が煌めいている。だいぶ遅い時刻になってしまったようだ。
「今度、酒留の親父さんに改めて挨拶にいかなきゃ。親父さん、優しい人だけど恐くて」
キリッと表情を引き締めるけど、どこか及び腰な鎌田君。挨拶だなんてかしこまることはないけど、私は一応励ましておく。
「大丈夫だよ。お父さん、口は悪いけど鎌田君のことは嫌いじゃないはずだから」
お父さんの話で、私は不意にあることを思い出した。
「お父さん、私が鎌田君に星乞いしていることに気付いていた。わざと鎌田君が来そうな時間に店番をしたがる、とか。そういえば、鎌田君も私が店番してそうな時間に来店するって言っていたけど」
眉唾な話だとその時は取り立てて気にすることはなかったけど、バツが悪そうに頭をポリポリと掻く鎌田君を見ると、どうやら図星だったようだ。
「だって中学、小学生の頃は学校が別々だったし、そうでもしないと接点がなかったから。でもまさか親父さんにバレていたなんて。流石というか、侮れないというか」
「私だって全然気付かなかったよ。自分の事で精一杯だったし」
あの夜の騒動以来、お父さんと厚い壁が出来てしまって、まともに目すら合わせていない。お父さん、いつもムッスリと不機嫌そうにしているけど、私達のことはちゃんと見ているんだな。
帰ったら少しだけ、ほんの少しだけお父さんに優しくしてあげよう。あくまで鎌田君が挨拶に来た時、僅かでも機嫌が良いように。

町中と違って、街灯の間隔はまばらになっていく。何処からか夕飯の香りが漂い、野良犬の遠吠えが聴こえてくる。次の角を曲がれば、私の家まではもうすぐだ。
「そういえば昨日、大山から電話がきたんだ」
前を向いたまま、変わらない足取りで鎌田君は言った。胸がグッと詰まったけど、私は俯いて話を促す。
「夜空の獅子座を見て、大山はピンときたらしい。それで俺、ちゃんと伝えたよ。酒留と星結いをしたことを。酒留、あの晩に大山が星結いをしたのを、見ていたんだってな」
あの夜の記憶がモヤモヤと蘇る。あまり思い出したくないけど、あの時は本当に地面が崩れ落ちたような絶望感を味わった。
「俺も気が動転していたというか、急に様々な事があり過ぎて茫然としていたというか。したかったなんて気持ちは全然なかったけど、ハッと気付いたら目の前に大山の顔があって。でもその後すぐにちゃんと断ったんだけど、油断していたというか」
ともえちゃんに唇を許した事を必死に弁明する鎌田君。まぁ、私だって同じ状況だったら毅然と対応する自信はないと思うし。ヒジテツ君の時も感じたけど、星結いの場面って口では上手く言い表せない不思議な空気に包まれていて、ぼんやりしていると唇を許してしまいそうになるから仕方ない。
ただ、それを言い訳っぽく説明する鎌田君に、私はほっぺを膨らませた。理屈では飲み込めない事もあるから、乙女心は複雑なのだ。
私はわざと不機嫌そうな顔をして鎌田君の言い訳を無視して歩く。そして家の通りに続く丁字路を曲がって、その光景に足を止めた。
うちの玄関替わりでもある店の正面に、一人の女性が立っていた。スラッとスタイル良く伸びた肢体に、サラサラの長い髪。聡明で凛然とした表情を曇らせ、思い詰めたようにジッと足元に視線を落としている。
久方振りでまともに目にした親友の姿に、私は鼻の奥にツンとした痛みを感じた。
「あの星結いの後に大山、すごく泣いていた。酒留を裏切ってしまった、申し訳ないことをしてしまった、って。それこそ小学生の頃、野良犬に追われた時みたいに、大山わんわん泣いていた。
本当は酒留と仲直りをしたかったけど、自分のした事をずっと責めていて悩んでいたんだって。俺がこんな事を言うのも変だけど、大山と仲直りした方が良いんじゃないか? 酒留が許してやれば、きっと喜ぶと思うし。何より酒留と大山が昔から仲良くしているのを見てきたから、二人が一緒じゃないと落ち着かなくて」
懸命に説得する鎌田君。私は彼のポケットに入れた手を取り出すと、繋いだ手を解いた。
「……鎌田君に言われるまでもないよ」
一瞬、グッと息を詰まらせた鎌田君の顔を見上げて、私は続けて言った。
「私だって、ともえちゃんと仲直りしたい。ともえちゃんは、ずっと私の親友だもの!」
零れそうな涙を堪えながら、弾けるように駆け出す。
私達に気付いたともえちゃんが、眉をへの字にしたまま顔を上げた。そんな彼女に私は半ば飛び込むように抱き付く。途端に近所中へ響いた二つの喚声に、何事かとお母さんが酒屋から飛び出してきた。
あぁ、こんなにともえちゃんと二人で大声を上げて泣くのは、小学生になる前に公園で犬に追われた、あの時以来だ。

そんな私達を、東の空からライオンが仔獅子を見守るように、笑いながら見下ろしていた。

おわり
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