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2010'02.28 (Sun)

団体準決勝 先鋒戦  高田・吉川VS村上・佐野

 見るからに強豪校といった佇まいを醸し出す第四中の選手達は、小柄な下級生ばかりで構成された第七中が整列するのを待って、改めて組み合わせ順に整列をし直した。明らかに格下相手にそこまで警戒するものかと些か憤然としたが、それも智将である佐々木の飽くなき勝利に対する気構えといったところか。もしかすると、一見それが正規の組み合わせと見誤らせる作戦の一種だったのかもしれない。どのみち優勝常連校にしては少しばかり姑息にも思える手段だ。
 しかしそれよりも整列した相手の組み合わせを見て、第七中メンバーは度肝を抜かれてしまった。何故なら第四中も、オーダーが三番手、二番手、一番手で組んできたからである。せめて神谷ペアが三番手にでも当たってくれれば多少は勝率が上がったのに、そんな期待をも通さないオーダーに自らが組み合わせを決定した宗方は歯がゆい思いで相手コートをねめつけていた。
 ベースラインに並び大きな声で礼を交わす第四中を倣って、第七中メンバーも部長の号令に合わせてコート内に足を踏み入れた。ネット越しに自分達の対戦相手と顔を突き合わせる両チーム。先ほどの第五中とは違い、第四中は団体全選手が三年生で構成されているため、さらに第七中メンバーとは体格に差が生じて圧巻されてしまう。この時点で早くも第七中メンバーは気後れしてしまっていた。
 神谷と小堺も自分達の対戦相手をジッと観察してみる。強豪校といわれる第四中の一番手ペア。第四中は殆どがジュニア選手で構成されていると聞かされているが、あいにく彼らはこの選手達のことを小学生の頃は知らなかったので、実力のほどは計れないがきっとこの地区では一番の腕前なのだろう。身長差がだいぶ開いているため自分達を見下す格好になっているが、凛然と構えるそのペアに神谷と小堺は目を逸らさないだけでも精一杯だった。
 にっこりといつもの爽やかなスマイルを称えてオーダー表を差し出す佐々木に、安西も握り締めていたオーダー表を手渡し交換した。
「よくぞ第二回戦まで駒を進めてきて頂きました。感謝申し上げます」
 相変わらず丁寧な物言いで挨拶をする佐々木の顔を品定めするように、安西はジッと見据えて返答する。
「はい、運良く。どうぞ第二回戦はよろしくお願いします」
 そして一拍置いてからわざと声を低くして
「こちらはまだまだ弱小ですので下手な小細工無しに挑みたいと思います。『智将』と呼ばれている佐々木先生?」
 と挑発気味に告げた。この幼稚にも捉われかねない仕向けに佐々木がどう反応するか見ものだったが、当の本人は一瞬だけ驚いたように瞳を見開くと、すぐに破顔してクツクツと笑っただけだった。
「それではこちらも下手な作戦は抜きにガチンコ勝負でお相手致しましょう。どうぞよろしくお願いします」
 オーダー表をわざわざ左手に持ち替えて右手で握手を求める佐々木に、安西も笑顔で手を握り返した。なんだか今のやり取りで自分がひどく馬鹿にされたような気がして、安西は内心ムッとした。
 選手達がトスを終え、審判がスコア表に記載するのを確認するとネットを挟んだ両選手は互いに礼を交わして自分の陣地に戻り円陣を組む。
「一番手は高田君、君達だ。相手が誰であろうと全力で戦いたまえ」
「高田君、吉川君。さっきみたいにシュートとスマッシュで相手を驚かせてやろうよ」
「頑張れよ! 不良コンビ! お前らのパワーテニスで三年連中をびびらせてやれ!」
 がっちりと肩を組んでスクラムを組む六人は先鋒ペアに檄を飛ばす。これが終われば高田ペアはすぐに試合を開始しなければならないのだ。
「おう。勝てるとは思っちゃいねえが、一発くらいはぶち込んで一泡吹かせてやらねえとな。なぁ、のぼる?」
「うん。たっちゃんが打ち込んだら僕がすぐスマッシュだね。わかったよ」
 意気揚々と答える二人を見て、小堺と宗方、丸藤はいつもの第七中らしさを取り戻して自信が胸に戻ってきたような気がした。だが、神谷だけは一人浮かない顔をしている。
「どうした、正樹? なんか不安なことでもあるのか?」
 パートナーに声をかけられ、ハッと顔を上げる神谷。そしてとっさに首を横に振った。
「いいや、ただそのプレースタイルはどうなのかと疑問に思っただけだ。気にすることはない」
「なんだよ、疑問って。それに俺達はこれしか出来ねえんだから、気にされても困るぞ」
 怪訝そうに見返された高田へ神谷は「それもそうだな。すまない」と詫びて部長に声をかけた。
「最後の一本まで諦めなければ逆転するチャンスは必ずある。みんな、第四中に一矢報いてやろうじゃないか」
「うむ、副部長の言う通りだ。各々最後まで全力で励みたまえ。佐高第七中―! ファイトー!」
『オー!』
 高らかに声を張り上げ互いの健闘を激励し合うと、第七中メンバーは先鋒の高田と吉川をコートに残し、早々にベンチへ引っ込み固唾を飲んで見守った。既に第四中の先鋒は準備万端で待ち構えている。高田はそんな彼らを元来の凶暴な眼つきで睨み返して威嚇する。
 佐高第七中対第四中の先鋒戦が始まった。

 第四中の三番手、村上と佐野ペアは両選手とも中学入学を機にソフトテニス部に入部した。選手の殆どをジュニア経験者で占める第四中の中では、異例とも言える未経験者にして団体メンバー入りを果たしたという生え抜き選手であるため、『智将』佐々木の評価は高い。癖がないフォームと試合でも安定したプレーに定評があるこのペアは、団体戦の殿(しんがり)役として重宝されている。
 高田と吉川、第七中ペアがサーブで始まった第一ゲーム。高田のファーストサーブは外したが、セカンドサーブは何とか入った。第四中の後衛、村上は緩やかなレシーブで返すとすかさずに次の返球に対して構える。高くもなく低くもない緩やかなボール、高田にしては絶好のチャンスボールだった。全身の力を両足にしっかりと蓄え、タイミングを合わせて戻ってきたボールをしたたかにラケットで打ちつけた。身がすくむような快音が第3コートに響き渡る。第七中サイドは一瞬浮き立ったが、ボールは僅かな差でアウトしてしまった。だが高田のフォームは崩れていなかったし、ラケットに当たる面もそれだけ悪くはない。外しはしたものの一本目からかなり快調な出だしだったといえる。
「ドンマイ、竜輝! 次は入るよ!」
「たっちゃん! もう一本!」
 ベンチから飛んでくる声援に、高田も好感触を得たからか手をかざして答える。
 続いて相手前衛へのサーブは一本目から決まった。これまた緩やかなレシーブを高田の前に返球した前衛はすかさず前に詰める。そのボールをまたもやチャンスボールと渾身の力を込めて待ち構える高田。だがその時、相手選手のレシーブに神谷は違和感を覚えた。
 いくら第一ゲームの様子見だからといって、強豪校とも言われる選手が二本とも連続で緩いレシーブで返すだろうか? 一瞬の考え事だったが、コート上では高田が叫び声を上げて力の限りボールを打ち込んだ。打球は矢のように相手コートに突き刺さっていく。今度はきちんと打球はコート内に収まるようだ。それを素早く察知した吉川は次の動作に移るため二、三歩後退する。その光景を見てカッと目を見開いた神谷はすかさずに叫んだ。
「違う! のぼる、前に詰めろ!」
 神谷の言葉を頭の中で理解するよりも先に、第四中の村上は高田の弾丸のようなシュートボールを同じくらいのシュートボールで若干後退していた吉川に目掛けて放った。気が早くもうスマッシュの構えを取っていた吉川は慌ててボレーの構えを取れずにたたらを踏んでしまい、無残にもそのシュートボールを顔面で受けてしまった。
「のぼる!」
 跳ねるように駆けつけた高田に、吉川は目を押さえながら「だ、大丈夫だよ……」と弱弱しく答えた。高田は怒り狂ったように相手コートを睨みつけたが、第四中サイドは冷めたような表情でゲームの進行を無言で促している。
 第七中サイドは今のプレーに驚きよりも何故今まで気付かなかったのかと、むしろ落胆していた。上級者とまでいかなくとも中級プレーヤークラスでもシュートボールをシュートボールで打ち合うのはソフトテニスでは至極当然なことである。なので少しでも上のクラスの相手と対戦すれば、いくら神谷に匹敵するといわれる高田の剛速球も、打ち返せないレベルのものではないのだ。そんな当たり前のことを経験者である神谷や丸藤をも盲目にしてしまっていたのは、やはり初心者陣の練習に付き合い過ぎていて感覚が鈍っていたからにすぎなかった。
 ソフトテニスのボールは硬式とは違い、顔面にクリーンヒットしたからといって大怪我になるものでもない。事実、吉川の顔から血が出ているわけでもないし、目だって失明するほどではなく時間が経てば回復する。なのでゲームは中断することのなく進むが、それでも吉川の片目はこのゲームでは死んだも同然だった。片目だけではバランス感覚が悪くサーブもまともに打てないし、レシーブにもまともに対処しきれない。結局、第一ゲームは一点もポイント出来ないまま終わってしまった。

 吉川の目を労わって冷えたタオルで目元を押さえたり、高田のシュートが通じなく他の策はないかと頭を捻っててんやわんやしている第七中ベンチを冷淡に見つめ、顔の前で組んだ手を崩さないまま佐々木は一ゲーム目を先取した村上と佐野に指示を出した。
「指示通りに前衛が潰れてくれた。村上、次も同じように後衛にシュートを打たせてやれ。それを佐野、お前がボレーしろ。そうすれば今度は後衛が勝手に潰れる」
 そして佐々木は今の数本で分析した高田と吉川の特徴を二人に告げる。
「あの前衛はスマッシュ頼りだから横の動きは殆ど無視しても構わない。後衛もロブは当てるだけ。深いボールと浅いボールの緩急に対処しきれない。どう見ても単なる素人だ。一点もくれてやらずにさっさと勝って来い」
『はい! お願いします!』
 ロボットのように感情を含めず淡々と指令を出し終わる佐々木に頭を下げ、村上と佐野は足早に向かいのコートに走っていった。その間も佐々木は氷のような視線と頭脳で相手選手達の一挙動を観察し、それぞれの性格を分析する。彼の頭の中にある第七中専用のデータベースに次々と情報が蓄積されていく。性格や実力は勿論だが相手の使っているラケットからグリップの減り具合まで、一見無駄とも言えるような情報でも佐々木は絶対に忘れないし疎かにしない。
 今はさほど脅威ではない第七中だが、一年後、二年後には必ずや己のチームを脅かす存在になるだろう。ならば今のうちから少しでも多くの情報を収集していて損はないし、潰せる芽は早いうちに潰しておいた方がいい。佐々木がこの第二回戦で掲げている目標はただ一つ、第七中を完膚なきまでに敗北させること。ここで新生チームのやる気と自信を削いでやることが、ひいては将来の第四中にとって有益になるのだ。
 佐々木は自分の傍に控えている一番手の後衛、第四中の部長である黒田を呼ぶ。
「黒田、応援の声が全く出ていない。相手が弱いからといって応援の手を緩めさせるな」
「はい」
 目礼をすると黒田はすかさず観客席にいる二年、一年勢に怒号を浴びせる。
「お前ら! 全然声が出ていない! そんな小さな声しか出せない奴が試合に出れると思うなよ! 試合に出たい奴はもっと声を出せ!」
 黒田の叱咤に呼応するように応援が熱を増した。焼いた暖炉に藁を入れたように急に盛り上がりが増した第四中サイドに、顧問も含めて僅か七人しかいないはただただ圧倒されるばかりだった。

 自分の唯一の武器であるシュートをやすやすと破られ、すっかり戦意喪失してしまった高田を何とか励まして見送った第七中メンバーだったが、うなだれるように背中を丸めて向こうのコートへ走っていく二人を眺め、他のメンバーも居た堪れない気持ちになった。それに輪をかけて相手チームの応援がテンションを上げていく。自分達も喉をからしてまで必死に声援を送っているが、多勢に押し潰されて声はまったく二人に届かなかった。
「美和ちゃん、俺らの声が全然聞こえてねえよ。なんとかならないのかな?」
 悔しそうに地団駄を踏む小堺に、安西はなんと答えれば良いか分からなかった。
「だって先生も応援するの禁止されているし、そもそもうちは部員がこれだけだから仕方ないじゃない。応援だけはどの学校からも負けてしまうわね」
 他のメンバーも沈痛な面持ちで向かい側の応援をジッと見据えた。団体戦に限らず個人戦でも応援の質が試合の行く末を左右する時が多々ある。ミスをしても大勢からの励ましを受ければ気分もグッと救われるし、逆にポイントを決めたときの称賛は多ければ多いほどプレーヤーの覇気を鼓舞する。それに得てして実力が強大な学校ほど必然的に応援にも力が入っているので、弱小校が格上相手を組み伏せるにはそういうプレッシャーをも乗り越えなければならないのだ。そう考えても、多勢に無勢の第七中に第四中は相手が悪すぎる。
「高田君! 吉川君! 一本先攻っ!」
 まだ声変わりをしていない甲高い声を精一杯張り上げる丸藤だが、そのか細い声援は第四中サイドの応援団の前に掻き消えてしまった。
「もうっ! 全然駄目だ! あっち側に声が届かないよ!」
「こっちの声援は仕方ないけど、せめて第四中の応援を抑えることが出来れば……」
 神谷が何気なく言った一言に、安西は不意に何か思い当たったように瞳をパッチリと開けた。
「どうしたの、美和ちゃん? 何か良い事思いついた?」
 不審に思って尋ねた小堺に、安西は何か悪知恵を思いついた子供のようにニンマリと笑みを浮かべた。
「ちょっと、ね。今日は間に合わないと思うけど、明日の個人戦を期待してなさい。最強の応援要員を連れてきて上げるわ」
 不敵に微笑む安西に一同は首を傾げる。つい4月に新設されたばかりのテニス部へ応援に来てくれるような人がいただろうか? 全く心当たりがなかった。

更新日 3月5日

 そんな考え迷う部員達を余所に、コートでは第二ゲームに突入する。続いてはレシーブサイドになった高田と吉川はどうにかボールを繋げようと相手サーブをじっくりと集中した。だが相手後衛は先ほどのレシーブ同様に、明らかに手加減と分かるスピードの乗っていないサーブを送ってきたので、高田は拍子抜けしたようにあっさりとレシーブを打った。先ほどのシュートをシュートで返された打球を見るからに、サーブだって本来はそれ相応の威力を持っているはずだ。なのにまるで格下の自分達に合わせるようなゲーム展開に、高田は激しくプライドを傷つけられた。真剣勝負で臨んでいるはずの試合にわざと手を抜かれることがこれほどまでに屈辱的なことなのかと、高田は歯軋りしながら次の打球に備える。そして次に返ってきたボールも打って下さいと言わんばかりの緩やかなロブに、高田はその悔しさを右手にグッと溜めて鬱憤を晴らすように力いっぱいラケットを打ちつけた。取れるものなら取ってみろ、シュートで返せるものなら返してみろ、そんな高田の意地が籠められた打球は今までにないほどの威力を持ってラケットから打ち返される。
 しかし、そんな打球を待っていたとばかりに、相手前衛の佐野は素早くコートを横切り余裕を持ってボレーで決めた。そんな心地良いくらいのショットがコートに響き渡ると同時に、第四中サイドは歓声が轟く。高田は今、自分が持てる最高の力を籠めたシュートボールをあっさりボレーで返されたことに、屈辱をも含めた闘志や意地というものを根こそぎ奪われてしまい、なす術もなくがっくりと膝をついてしまった。
「竜輝! まだ終わってないんだぞ!」
「何をやっておるか! 立ちたまえ! 高田君!」
 チームメイトから飛ばされる檄も、第四中の荒波のような声援にかき消されてしまい彼の耳には届かなかった。ペアの吉川もどう励ましたらよいか分からず、同じようにうなだれるばかり。もとより吉川は、高田がシュートを打ち込むという前提がなければ活躍のしようがないのだ。シュートを打っても後衛にシュート返しを喰らうか、前衛からボレーの餌食になるだけ。万策尽きてしまった。

 それからの試合は第四中にとっては実に面白みにかけた淡々としたものになり、第七中にとっては公開処刑にも似た無残な展開となった。シュートが完全に通じないと悟ってしまい、既に戦意喪失した高田に対して相手後衛はまたもや緩やかな打球を返すのみ。殆ど精神的に亡骸と化した高田だが懸命にシュートを打ち込もうとするが、それらはやはりシュートで返されるか前衛のボレー練習替わりにされてしまった。そして第三ゲームが終わりゲームカウントは0-3。きっとこれが最後のベンチコーチングになるだろうが、第七中サイドはすっかり意気消沈してしまいまともにアドバイスを出来る人間は一人もいなかった。第四中サイドではコーチングを受けようと駆け寄った村上と佐野に対して、佐々木はただ一言短く「潰せ」と伝えたのみだが、それだけ充分だった。佐々木が言うまでもなく、既に勝敗は決していた。第四ゲームも殆ど目ぼしい活躍がなく、高田と吉川は最後まですっかり失望したまま結局1ポイントも獲得出来ず、完全試合で惨敗を味わされてしまった。


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2010'02.24 (Wed)

VS第五中 大将戦

 そんな高揚した気分の輪の中から神谷と小堺は抜けると、黙ってラケットを持ちストレッチを始めた。その静かな闘志を湛える二人の背中を見つめ、他のメンバーもそれぞれ口を噤み出す。辺りを見渡せばいつの間にか他のコートでは第一回戦の対戦が全て終わっていた。スコアボードから読み取れるに、第1コートで勝利を収めたのは第六中。第2コートでは第一中。そして第3コートではやはり佐々木率いる第四中が次の試合に駒を進めていた。特に第四中など全ての試合をオール0の完全試合で勝利している。試合を終えた学校は第一回戦最後の試合を見学すべく、第4コートをぐるりと囲んでいた。特に第七中の一番手、今大会のダークホースの実力をその目で確かめておきたいのだろう。試合が始まるのを今か今かと固唾を飲んで待ち構えている。
 全ての選手が注目する中、神谷と小堺は動揺する様子もなく体を解している。その後ろ姿がこれほど頼もしく見えるのかとメンバー一同感心をしていたが、それでも仲間として声援を送らずにはいられなかった。
「神谷君、小堺君。頑張ってね!」
「まぁ、君達の実力なら心配することもないとは思うけど、精々励みたまえ」
「てめえら上手いんだからよ。さっさと勝って帰ってこいや」
「みやちゃん、さくちゃん。ファイトだよ!」
 みんなの激励を受けて、神谷と小堺は振り返り小さく微笑んだ。そのいつもより大人びた表情に、安西も顧問として声援を送る。
「君達が望んで立ち上げたテニス部での初公式戦よ。私が言うまでもないでしょうけど、勝利で飾りなさい。そして今、観戦しているこの佐高中のソフトテニス選手達に君達の実力を知らしめてあげちゃいなさい!」
『はい!』
 元気良く返事をすると、神谷と小堺はお互いに視線を交わすとコートに足を勇み入れた。
 佐高第七中対第五中の大将戦が、今始まろうとしていた。

「朔太郎と公式戦で組むのは、四年生の時以来か?」
 相手の大将、二番手ペアは未だに顧問から熱心にアドバイスを受けている。あまりやる気が感じられない学校というイメージが強かったが、やはりここにきて初参加のしかも一年生ばかりの学校に負けるのは沽券に関わると思ってきたらしい。
「そうそう、俺らがテニス始めてまだ間もない頃だったよな。それからすぐに他の奴と組んだから正樹と組む機会ってなかったもんな」
 実はこの二人、小学校の時にはテニスクラブでそれぞれ別の選手とペアを組んでいた。それが中学校に進学するにあたり、お互いのペア同士とは学区が違ったため、引き離されたことになる。実力でいえば神谷は一番手の後衛、小堺は二番手の前衛だった。
「実質本当の試合で俺達が組むのは初めてみたいなもんか。……よろしく頼むな」
「なんだよ、改まって。俺はずっと前から正樹と組みたかったから、やっと夢が叶ったようなもんだぜ。こっちこそよろしく頼むな」
「そう、だったのか。そういうものなのか?」
「そういうものだ」
 にっかりと白い歯を見せる小堺に、神谷も微笑みで返す。そうこうしているうちに相手選手の準備も整ったらしい。大衆に見守られているせいか、些か緊張した面持ちでコートに足を踏み入れた。そんな対戦相手を見据えながら、小堺は司令塔である神谷に指示を仰ぐ。
「正樹。この試合、どうやって攻める?」
「もちろん、初めから全速力で走り抜ける」
「いいね! 俺、そういう単純な作戦の方が好きだよ!」

 試合開始直前に行う一分間ほどの乱打の段階で、観客からは既にどよめきが湧き上がっていた。後衛同士の乱打は神谷の独壇場で、一糸乱れぬ豪快なフォームでシュートボールをガンガン相手後衛に繰り出している。対戦相手は始まってもいないのにタジタジだ。小堺の方も同様で、前衛の割にはストロークに威力がある彼はドンドン相手を追い詰めていき、少しでも緩いボールが来るとネット前に詰めて軽々とスマッシュを打ち込んでいた。僅か数本交わした乱打だったが、それだけで実力の差は圧倒的だということを、観客のみならず相手チームも容易に察していた。
 そればかりか第七中サイドも、彼らの本気を知る丸藤以外は口をポカンと開けて二人の姿に見入っている。普段の練習では初心者である部員達に付き合って手を抜いているので、彼らの本気のプレーを見るのは部員達も初めてなのだ。
「ね、ねぇまるちゃん。みやちゃんとさくちゃんって、こんなに上手かったの?」
 唖然とする吉川に丸藤は素っ気無く答える。
「いや、彼らはこんなもんじゃないね。どちらかというとあの二人、スロースターターだったから試合をしながら調子を上げて来るんだよ。まだ実力の半分くらいかも。神谷君だってもっとシュートが速くなっていくし、小堺君だってもっと動きが良くなっていくよ」
 その丸藤の解説に一同さらに驚愕する。それと同時に今まで自分達が彼らの練習の邪魔をしていたのかと反省してしまうくらいだった。審判のコールにより乱打は中断され、いよいよ試合開始になる。燃え上がる闘志が幻影で見えるのではないかと思うほどに真剣な表情をした二人を遠目で眺め、安西は半ば呆れながら苦笑した。
「一回か二回勝てば上等だなんて、謙遜にもほどがあるじゃない」

 サーブ権は第七中が先攻なので、まずは後衛の神谷が第一球目のサーブを繰り出す。速さと正確さを兼ね備えたサーブは余裕にサービスエリアに突き刺さり、タイミングを見誤った相手後衛はラケットのスイートスポットを外してレシーブをネットした。早速の1ポイント先取に彼らは大きな声で歓声を上げハイタッチを交わす。そして二本目、またしても相手前衛はレシーブをネットに返してしまう。あっという間に二本連続、サービスエースで得点した。そして続いては小堺のサーブ、神谷と違いじっくりと溜めを作ってから渾身の力を込めて放ったサーブに相手後衛は反応も出来ずに空振りをした。そしてマッチポイント、小堺は一本目のサーブをフォルトしてしまったが、二本目のサーブを打つや否や、そのボールを追うようにネット前へ一気に詰める。その機動力に意表を衝かれた相手前衛はレシーブコースを塞がれて、なす術もなく小堺の目の前に返球してしまい、それを呆気なくスマッシュで打ち返された。得点四本中にサービスエースが三本と、第一ゲームは驚くほど異様なスピードで幕を下ろした。
 息つく暇もないまま、第二ゲームに突入する。続いてレシーブのゲーム展開となるこのセットでも二人は圧倒的な実力の差を見せ付ける。一本目のレシーブを神谷はすかさず相手前衛のサイドを抜いて1ポイントを先取した。全くどのコースを狙っていたのか分からない打法を得意とする神谷の真骨頂である。相手前衛は何をされたのか分からず、ただ呆けて棒立ちになっていた。
 次いで小堺のレシーブは相手後衛のダブルフォルト。ポイント2-0で相手前衛のサーブは、神谷がシュートボールで相手コートのミドルを正確に打ち抜き得点した。そして第二ゲームのマッチポイントは小堺が相手サーブをカットレシーブで短く返し、またもや1ポイントも落とすことなくゲームポイントを獲得した。
 第三ゲームも殆ど第1ゲームと同じゲーム展開に。二人のサーブに全く反応が出来ない相手ペアはまたもや1ポイントも奪取すること叶わずついにゲームポイント3-0で第四ゲームを迎える。ここまで来ると最早相手チームは戦意喪失してしまい、観客達も彼らに同情を禁じ得なかった。だが神谷と小堺はそれでも手を抜くことは決してなく、最後の一本まで全力でボールを打ち込んだ。
 結果、終わってみればゲームポイントは4-0。しかも全てのゲームにおいて失点0とパーフェクトゲームで彼らはデビュー戦を勝利で飾ったのである。それと同時に、佐高第七中、団体戦を初戦突破し第二回戦へと駒を進めた。

 大将戦を終えて各々礼を交わすと、次に団体戦メンバー一同がネット際に整列し、審判により総合の礼を交わす。初勝利の感激に浮き足立つ第七中と対照的に、初参戦チームから敗北を喫された第五中は失意に沈んでいた。その敗戦校の顧問が沈痛な笑みを浮かべて手を差し出す。安西も若干申し訳なさそうな笑顔を浮かべながら手を握り返した。
「初勝利、おめでとうございます。それにしてもテニスが上手い一年生だけ、よくもこんなに集められましたね。本当に羨ましいくらいです」
「ありがとうございます」
「最初の対戦組み合わせから一杯食わされましたよ。生徒の噂話なんか真面目に耳を貸すものではありませんね」
 第五中の顧問は宗方の策に嵌ってしまったことを悔しそうに語った。
「いえ、こっちもたまたま運良く対戦表を組めただけです。もしも当たる相手が違っていたら、負けたのはこっちだったかもしれません」
 声を出さない笑いをして第五中の顧問は手を離す。そして安西の目を真っ直ぐに見据えて言った。
「次の試合はさすがにすんなりと思い通りの対戦表は組めないと思いますよ。いや、考えるだけ無駄かもしれない。なんせ第四中には『智将』がついてますから」
 安西は怪訝な表情で「智将……?」と繰り返すと、第五中の顧問は第三コートのベンチで輪を作り、話をしている第四中を瞥見した。
「佐々木先生のことですよ。彼はその独特な指導法から『智将』という異名をつけられているのです」
 安西も同様に人垣の中心で熱心に指導中の佐々木に目をやり、今朝の事や顧問会でのやり取りを思い出した。常に爽やかな笑顔を称え、貴公子然とした態度で優しく自分に色々と教えてくれた佐々木。そんな彼に『智将』という渾名はあまりにも猛々しく感じて違和感を覚えたが、第二回戦の対戦相手の情報は少しでも多く引き出すべきと思った安西は、とにかくその理由を尋ねてみることにした。
「独特な指導方法って、どんなのなんですか?」
「彼は確かに生徒に対して親身に指導を行いますが、試合での生徒の動きや作戦は全て自分が企てるんです。その分、他校の生徒の実力や特徴を非常に良く観察、分析されてますが、生徒達に自分でテニスを考えさせるということは絶対にしないそうです。全ては自分の指示通りに試合展開を構築するように、佐々木先生にとって選手達は盤上の駒でしかないんです。それを如何に差配して手堅く勝利を収めるか……まさに智将です。」
 苦虫を噛み潰したような顔をして語る第五中顧問は、その智将に幾度となく敗北を喫されてきたのだろう。顧問会で他の先生達も佐々木に対する態度がどことなく薄ら寒いものを感じたが、やっと理由が分かった。
 学校の、特に中学校教諭は生徒の自主性や考える力を育成することに重点を置いて指導を行う。なのでどれだけやる気のない生徒ばかりの部活動でも、本当は心の中で辟易としながら表面上は熱心に励ましを欠かさない。全ては生徒のため、思春期で人一倍感受性の強い敏感な彼らの意欲を少しでも刺激するためである。
 だが、佐々木の指導は完全にその思考から外れているともいえる。確かに有力者が最適な指示を行えば勝率はグンと上がるだろう。特に自ら考える力が未発達な選手ばかりならば、優秀なコーチが全ての指示を出してくれればこれほど楽なことはない。しかしそれでは生徒の自主性を全く無視した指導にも思えるし、生徒達は勝ちを生産するための単なる駒として個性など全く尊重しないと言っているようなものだ。もしも佐々木が本当にそういった指導をしているというのならば、学校教育という概念から完全に逸脱しているとも捉えられるが、何よりもそんな佐々木が管理する手駒達が勝ち上がっていく姿が、他校の顧問達は非常に面白くないのだろう。
「ですので、あの智将相手に下手な作戦を講じるのは逆効果になる場合もありますので、どうぞ気をつけて下さい」
 そう話を締めて第五中の顧問は生徒を引き連れて解散していった。その後ろ姿をしばらく眺めて、安西も自分の選手達をベンチに促した。最後にあの顧問が言った言葉がいつまでも頭の中に響いている。顧問である自分が下手な企てを考えられるほどテニスのことはわからないし、選手達にしてもまだまだ未発達な一年生ばかり。勝率を目論めるとすれば一番手の実力者ペアか、第七中の参謀である宗方の画策次第か。しかしその一方が完全に塞がれるとなれば、どう足掻いても第四中に勝つ見込みはゼロに等しくなる。つまり第五中の顧問はそういう事を言いたかったのだろうか。

更新日 2月27日


 一人考え込む安西を余所に、選手達は団体戦初勝利を収めて興奮の坩堝にいた。
「しっかし! お前ら、本当に強いな! びっくりしたぜ!」
「あぁ。やはり君らが一番手で間違いない。部長としても鼻が高いよ」
「むしろ僕達初心者組が練習で足を引っ張っていたんだね。これからはもっと自分達の練習に専念していいからね。みやちゃん、さくちゃん」
 部員達があまりにも手放しに称賛するので、神谷と小堺は段々と気恥ずかしくなってきた。試合前に全力でとは言ったが、実のところ二人とも第二回戦に向けて調整をしていただけで、本当は少し流し具合で試合をしていたのだ。なのであまり褒められると、なんだか悪い気がしてならない。
 そんな二人の心中を察していた丸藤は小さく溜め息を吐き、口を開いた。
「それよりも第二回戦のオーダーを決めちゃおうよ。僕らが一番最後の試合だったんだからもう時間がないんだよ。だから早く、ね? 先生」
 そう言って安西に話を振ったが、当の本人はもの思いに耽っていた。眉間に皺を寄せてなにやら考えあぐねいている安西がやっと皆に注目されていることに気付いて、驚いたようにパッと顔を上げる。
「ふぇ? な、何が?」
「だから、第二回戦のオーダーをどうしようか、って。聞いてました? 先生」
「あ、ごめんごめん。どうする? 宗方君。何か良い案はある?」
 顧問直々に作戦の指揮を任された宗方は、大げさに咳払いをして立ち上がった。
「もちろんですよ! 安西先生! そういった用件ならばこの宗方繁蔵の孫である僕にお任せ下さい!」
 いつもの鬱陶しい物言いに一同閉口したが、直ぐに宗方は自信なさげに表情を曇らせたので不思議に思った。
「とは言ったものの、実はそれほど妙案があるわけではないのです。試合の合間に隣のコートを観測していたのですが、正直あまりにも実力の差があり過ぎていて、その、策を弄そうにも……」
 その言葉に一同も腕を組んで押し黙ってしまった。宗方だけではなく、全員自分のチームを応援しながらも、隣のコートが気になっていたらしくちらちらと横目で第四中を観察していたらしい。そしてハッキリは見なかったものの、その差に歴然とした何かを感じ取ってしまっていた。
「つまり、今回はオーダーでどうこう出来る相手ではないってことね。でも対戦表は決めなければいけないわけだし。どうする? 素直に一番手から順番にやる?」
 下手な作戦は逆効果だといった第五中の顧問のアドバイスを考慮した安西はそう提案したが、宗方は宗方なりに考えはしていたらしく「いいえ」と、その案を否定した。
「それではもし万が一に神谷君ペアや我々がどちらか一勝を収めた時に、不良コンビに全責任を負わせることになります。君達、そのプレッシャーに耐えられるかい?」
 宗方の問い掛けにブンブンと首を振る高田と吉川。当然だろう。全くの初心者ペアにチームの命運を握る大将戦は荷が重過ぎる。
「なのでオーダーは全くの逆で行こうと思います。先鋒が不良コンビ、中堅が我々、そして大将は一番手コンビ。こうすれば各々、少しはプレッシャーを気にせずにプレーが出来るかと」
 勝率の問題ではなく精神的負荷を考慮した差配に一同頷くところを見ると、どうにも全員始めから否がおうでも勝つという気概はないようだ。それもそのはず、相手は佐高中内でも最強のチームである。大事なのはどれだけ勝てるかではなく、どれだけ良い試合を出来るかなのだ。
 下手な作戦どうこうは意味を成さないことを、どうやら安西以上に選手達の方がよく分かっているらしい。
「分かったわ。それでいきましょう」
 そう言うと安西はオーダー表に選手の名前を順番ごとに書き記し始めた。そして書き終わる頃には、既に佐々木率いる第四中が第3コートに整列をしているのが見えて、第七中メンバーは慌てて隣のコートに移動する。第二回戦は第1コートと第3コートの二面で行われるようだ。
 取るものも取り合えず、ラケットだけを手に持つと安西以下選手達は駆け足で列を整える。
 地区総体の団体戦、第二回戦が幕を開けた。

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2010'02.19 (Fri)

VS第五中 中堅戦

 そんな丸藤の肩を優しく叩きながら、宗方は次の試合に臨むペアに向かい合う。
「さて、まずは我々が初戦を制して、次は君達の番だ。励みたまえ!」
 部長として檄を飛ばした先には第七中の中堅がいたが、後衛の高田は面倒くさそうな顔をして、吉川は苦笑いを浮かべていた。
「なんだね君達! そのやる気のない態度は! 負けたら承知しないからな!」
「うるせえよ、デブ。てめえらの相手は三番手だったから勝てたかもしれねえがな、こっちの相手は一番手なんだよ。どう考えたって勝てるわけねえじゃないか」
「う、うん。僕らに期待されてもちょっとね……。二勝目は次のみやちゃん達にお願いするよ」
「あぁ、そうだな。なんせ俺達、かませ犬なんだからよ」
 すっかり戦意喪失高田ペアだが、それも団体戦の組み合わせと言ってしまえば仕方がない。彼らが第五中の一番手と当たってくれたおかげで、他の2ペアの勝率を上げることが出来たのだから。彼らにしては公式戦の初試合なのだが、明らかに勝てる見込みがない相手でしかも自分達が負けてもチームには影響が少ない、そういう状況でやる気を出せという方が難しい。根性論者なコーチならばここで発破の一つでもかけるのだろうが、あいにく顧問の安西はそういった性質ではないし、他の部員にしても彼らに同情をするしかない。
 そうこうしているうちに、相手選手が既にコートに整列している。
「そんじゃ、ちょっくら行ってくらあ」
「行って来るね、みんな」
 振り向きもせずにダラダラと手を振る高田の後を追っていく吉川。なんだかせっかくテニス部に入って初めての試合なのにあんな態度では、可哀想で仕方なかった。ベンチを守る安西を始め、他の部員も満足な声援が送れなかったが、何かを思いついた小堺が二人の元に歩み寄り、がっしりと肩を組んだ。
「なんだよ! 小堺! 痛えじゃねえか!」
「たっちゃん、サイボーグ吉川、お前達に良いアドバイスがある」
「ア、アドバイス?」
 二人になにやら耳打ちをした小堺は、満足げな表情をしてベンチに戻ってきた。
「ねえ、小堺君。二人に何を伝えたの?」
 不思議そうな顔で小堺に尋ねる安西。だが小堺はニヤニヤするだけで、「まぁ、見てな」というだけだった。安西だけでなく一同が小首を傾げるだけだったが、とにかくこれから始まる試合を見守るしかなかった。

 事前に行ったトスで高田ペアはサーブ権後攻を得た。つまり第一ゲームはレシーブから始まるのだが、中学生や初心者同士の試合となるとレシーブ先攻の方が有利とされている。何故なら初心者は力加減がまだ未熟なため、攻撃的なサーブが打てないしダブルフォルト(サーブを二回連続でミスする失点)をする可能性が高いからだ。その点、レシーブはサーブより比較的簡単だし先手を取りやすい。第一ゲームを先取して自分達のペースで進めたいというのは、ソフトテニスをする者として当然の希望だろう。
 審判のコールにより試合が始まる。相手は弱小校と言えども一番手ペア。試合前に行う乱打を見ただけでも、先ほど丸藤ペアと対戦したペアよりは実力者だというのが直ぐに分かった。三番手同様にそれだけテニスに対する思い入れがあるようには見えないが、後衛も前衛もストロークはしっかりとしていた。やはりどう見積もっても勝利する確率はゼロに等しいと一同嘆息しながらも、チームメイトとしてとにかく一本でも多くのポイントを獲得することを祈らずにはいられなかった。
 試合の第一球目、相手後衛の放ったファーストサーブを高田がじっくりと構えて緩やかにレシーブで返す。すると第七中サイドからは小さな歓声が上がった。どんな球でも馬鹿の一つ覚えみたいに力任せに打ち返す高田だが、さすがにレシーブだけはそうはいかない。レシーブは普通のベースライン付近で打つストロークよりもコンパクトに構えなくてはいけないのだ。熟練者なら本気でラケットを振りぬいても、ドライブを掛けたりラケットの面を工夫したりと返球することが出来るが、まだまだ初心者の域を脱していない高田にとってはそんな高等技術は無理である。なのでレシーブだけに関してはチームメイトよりきつく『ただ当てるだけで返せ』と言い含められた。
 レシーブを打った後に高田はすかさず後方に下がり、次のボールに対して構える。何とかコートに納まった打球を相手後衛がシュートともロブともつかないただ流して打っただけのような当たりで返した。様子見なのか、はたまたそれほどやる気がないのかわからないが、高田にとってはチャンスボールである。ラケットを大きく真横に構え、野球のスイングに似た彼独特のフォームで高田は打ち込んだ。しかし力み過ぎてラケットの面がしっかり合ってなかったのか、打球は相手後衛の真横を通過していくほどの威力を持ったままアウトしてしまった。
「どんまい! 高田君!」
「竜輝。もうちょっとドライブをかけろ」
 味方陣地からの声援を横目で一瞥して、高田は自分のポジションに戻る。続いて吉川のレシーブだが、緊張でまだ体が固くなっている彼は相手サーブに対応しきれずに空振りで終わった。
 そしてサーブは相手前衛に変わる。この第五中一番手の前衛はなかなか強烈なサーブを打ち込む選手で、先ほどは何とかレシーブ出来た高田だったが、今回は吉川同様空振りで終わってしまった。
 あっという間にポイントは0-3、相手にマッチポイントを取られてしまった。このまま1ポイントも得点出来ないまま第一ゲームを終えてしまうのかと一同気を揉む中、相手前衛が二本目のサーブを放つ。少し威力があり過ぎたのかファーストサーブはフォルトしてしまい、次いだセカンドサーブ。吉川は強張った足をなんとか動かして丁寧に相手前衛へレシーブする。すると相手前衛は前に詰めた吉川の頭を大きめのロブで越えて自身も前に詰めた。
 その打球を追いかけて右サイドから左サイドまで一気に駆ける高田。瞬発力に長けた彼は一瞬足を止める余裕を持つほどにしっかりとボールに追いつき、渾身の力を込めてラケットを横一閃、思いっきり振り抜いた。第四コートでは初めて聞くような炸裂音と共に弾丸と化した打球は、相手前衛の左頬を掠めてそのままコート内に入ることなくまたもやアウトしてしまった。
 これで第一ゲームは終了。
 結局1ポイントも獲得することなく終わってしまったが、相手ペアは喜びを表すのも忘れて呆然と第七中の一年生ペアの背中を見送った。最後の高田が放った打球、アウトにはなったが、もう少しコントロールがしっかりとしていれば確実に入っていたボールだった。しかも顔面の真横を抜かれた前衛、アウトと見切ったので手を出さなかったわけではなく、あまりの速球に反応が出来なかっただけである。
 もしもあの後衛が放った球がきちんとしたコースで入ってきたら……その場面を頭の中で想定すると、彼らは相手が素人の三番手が相手と言えども楽観視することが出来なかった。

「どんまい。高田君。次のゲーム頑張ろうよ」
「まずは一本。一本ずつ確実に返すことから始めたまえ。そうでなければポイントは奪えないぞ」
 ベンチに戻ってきた二人を励ますチームメイトだったが、当の本人達は涼しい顔で聞き流すだけだった。相手が相手だと諦めて戦意喪失しているわけではないようだが、どうも普段以上に反応に乏しいのが気になる。彼らはタオルで汗を拭くと無言のまま向こうのコートへ行ってしまった。
「ねぇ、小堺君。さっき彼らになんてアドバイスをしたの?」
 試合前に高田と吉川になりやら伝授した小堺だが、あの時から二人は何かを狙っているように映った安西は、そのわけを尋ねてみた。すると小堺は不敵に微笑み、
「別に。ただ思いっきり打って来いって言っただけ」
 と曖昧に答えた。その程度のアドバイスであの二人が目の色を変えるものかと一同首を傾げたが、次に小堺が付言したことでやっと納得した。
「たっちゃんがシュート打った後に吉川の動きを注目してみ?」
 向こう側コートでは相手ペアが準備につくのを待っているのか、吉川がラケットを肩に担いで縦に振っているのが見えた。第二ゲームは彼ら側がサーブなのでその肩慣らしをしているようにも見えるが、チームメイト達にはそれが第七中の最終兵器が予備動作をしているようにも見えた。

 高田一本目のサーブ。ファーストサーブはフォルトしたがセカンドサーブはなんとか入り、相手後衛は素直に高田へレシーブした。少し浅めの打球で返された高田はバランスを崩しながらもボールを拾うが運悪く相手前衛の真正面に返してしまったので、あえなくボレーされてしまう。このゲームも先ほどと同じ展開で終わってしまうのかとチームメイトはやきもきしていた。
 次いで二本目のサーブ、高田のファーストサーブが入り相手前衛がやや小振りなロブで返球しネット前に詰める。浅くもなく深くもなく、スピードも乗っていない打球。高田は素早く真横にラケットを引くと同時にストレートに立つ相手後衛を一瞥する。足運びもラケットを引くタイミングもばっちりだった。高田は心の中で叫びながら激しく打球を放った。
「喰らいやがれ!」
 再び第四コートに炸裂音が響き渡ると同時に、すさまじいスピードを備えたボールが相手コートに突き刺さる。予想外の速さに驚いた相手後衛は、バランスを崩したフォームで何とかラケットにボールを当てる。ボールが高くふわりと宙に舞った。
「来るぞ! のぼる!」
 高田が叫ぶよりも早く、吉川は既にサービスエリアよりも後ろに下がる。そしてかざした左手で力なく落下してくるボールへ照準を合わせた。そして全身にギュッと溜め込んだ力を右腕と肩に集中し、一気にボールを叩き付けた。
 ゴムボールが割れてしまったのではないかというほどの轟音と共に弾かれた打球は、またもや反応できずに棒立ちした前衛の真横をすり抜け誰もいない左サイドをしたたかに叩いた。その瞬間、第七中ベンチからは歓呼の声が湧き上がる。興奮した高田と吉川も大声で互いのペアを称え、ハイタッチを交わした。ただただ度肝を抜かれた第五中サイドは声もなくその光景を眺めている。
 高田が得意とする神谷をも凌駕するハイスピードのシュートボールと、吉川の引き足の速さとスマッシュの威力を融合させた彼らしか出来ない攻め方が、試合という極限の場面で確立された。未経験者とは思えないパワーを有した二人らしい戦法に、チームメイトは味方ながらも逆に恐怖すら感じてしまうが、今はただ惜しみない称賛を送った。

更新日 2月23日

 キレイと表現しても大袈裟ではないようなコンビプレイに気を良くした二人だったが、それで試合自体の流れが変わることはなかった。もっとも緊迫した場面ではたった一球が試合の流れをガラリと変えてしまうことはあっても、相手は熟練者で実力は大きくかけ離れすぎているため容易に覆すことは難しかった。その後も何本か高田のシュートボールと吉川のスマッシュが決まったが、その威力を警戒した相手ペアは二人を散々振り回し、意識を拡散させて自滅をさせた。終わってしまえば結果はゲームカウント4-0。二人がポイントを取ったのはゲーム中に僅か五本ほどという惨敗に終わった初公式戦だったが、彼らは悔しがる様子もなく、清清しい表情で仲間達が温かい拍手で迎えるベンチに戻ってきた。
「ナイスボールだったぜ、たっちゃん! やばいくらいにボールが走ってたぜ!」
「のぼるもナイススマッシュだった。引き足もタイミングも練習の時どおりだったよ」
 一番手ペアの歓迎に、高田と吉川は上機嫌で笑顔を浮かべる。安西も興奮した様子で、立ち上がり二人に惜しみない拍手を送った。
「本当に凄かったわよ! あんな上級生相手に君達堂々とテニスをしていたわ! それにとってもパワフルだったわよ! 先生、ほら! こんなに興奮しちゃってるもん!」
 いつも以上にキャピキャピしている安西が可笑しくて、第七中メンバーは声を出して笑った。そんなみんなで輪になりながら喜びを分かち合う空間に浸りながら、高田と吉川は今まで味わったことのない至福を感じていた。思えば野球をしていた頃は、どれだけ自分達が良いプレーをしても喜んでくれるのはコーチや学校の先生のみ。苦楽を共にするはずのチームメイトには疎まれるばかりだった。こうして同世代の友人達と一丸になれることに、ある意味二人は渇望していたのかもしれない。
「たっちゃん……テニス、やって良かったね。僕ね、もっと強くなって次は勝ってみたい!」
 珍しくはしゃぐ親友を見て、高田は鼻で笑いながら相槌を打った。
「おうよ。どうせやるんだったら負けるより勝たなきゃな。次は絶対に負けねえぞ!」
 ただ自分のために勝利を望むのではなく、それ以上に誰かと分かち合いたいために望む勝利というものもあるのだと、不遇な小学生時代を過ごして来た高田と吉川はしみじみと実感していた。


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08:12  |  なんしきっ!  |  CM(2)  |  EDIT   このページの上へ

2010'02.14 (Sun)

VS第五中 先鋒戦

 ネットを挟んで互いの相手選手の顔と名前を確認すると、それぞれサーブ権の先攻後攻を決めるトスを行った。結果としては丸藤ペアがサーブ、高田ペアがレシーブ、神谷ペアがサーブとなった。
 初めての公式戦ということもあり半分のメンバーが初心者で構成された第七中は、緊張しながらも物珍しげに相手選手をまじまじと観察した。
 殆どが二年生で構成された第五中のメンバーと言えども、上級生とあってか背丈や顔つきがまるっきり大人びて見える。第七中にも吉川という大柄な選手がいるが、他のメンバーを見渡してみても丸藤をはじめ小柄な選手ばかりだ。宗方などはスポーツが得意そうな体型をしていない。
 だが、体格の差はあるものの、第五中の選手達からはどうにも覇気というものが感じられない。皆怠慢そうな態度が目につくが、顧問を見ても同じようにやる気はなく、さっさと終わってくれればいい、という思いがありありと伝わってくる。素人である安西ですら呆気に取られるほどだ。そんな第五中の選手と礼を交わすと、第七中のメンバーは再びベースラインに下がり、大きく礼をする。礼に始まり礼に終わるのがスポーツマンシップの基本のはずだが、第五中のメンバーはそれすらも満足にせずに、バラバラの掛け声で頭を下げただけだった。
「なんだかこっちまで調子が狂っちまうぜ。あいつらもやる気がねぇんならテニスやらなきゃいいのにな」
「まあまあ、余所は余所。うちはうち。さ、集合して」
 ブツブツ文句を言う高田を促して、六人の選手と顧問は円陣を組んだ。他のコートの学校もそれぞれのやり方で円陣を組み喝を入れているので、自分達も真似をしてあやかろうと思った。
「ご覧の通りにどうもやる気が感じられない相手だけど、それでも一、二年間は部活をしてきた子達ばかりよ。油断しないようにしなきゃね」
 顧問の激励に全員素直に頷く。言われるまでもなく本人達もその心づもりだ。
「まずは初戦突破! 各々悔いのない全力のプレーを心がけたまえ! 第七中ソフトテニス部っ! ファイトー!」
『オーッ!』
 他のチームに比べれば矮小で脆弱にも見える円陣だが、彼らの結束力は鉄の鎖よりも固く、勝利に対する意志は何よりも強い。輝ヶ丘テニス競技場に一際大きい掛け声がこだまする。
 佐高第七中ソフトテニス部の飽くなき勝利への挑戦が始まった。

 先鋒、丸藤と宗方ペアの相手は第五中の三番手ペア。後衛が三年生で前衛が二年生ペアだが背丈はさほど大きいものではなく体付きもそれだけスポーツマンらしいとは言えない。だが、小柄な丸藤と腹回りに余計な脂肪がついた宗方よりはよっぽど中学生らしい体格だ。
 ソフトテニスは試合に入る前に、一分ほどの簡単な乱打を行う。第五中はどちらかといえば成績を重視しない「やることに意義を見出す」タイプの部活らしく、部員全員からは勝とうという意志はあまり感じ取られず、声も全く出ていない。
 それでも二年主体のチームということできっと一年生の頃から個人戦で試合経験があるのか、特に緊張で体が硬くなっているようでもなく、打ち方も球筋もきちんとしているペアだというのが僅かな時間の手合わせで理解出来た。しかしジュニアで東北大会出場経験のある丸藤の方が確実に実力が上だった。シュートボールは一切打たない替わりに絶対にミスをしないロブに定評がある丸藤が相手ならば、第五中ペアは攻めるよりも先にミスを繰り返して自滅してくれるだろう。
 だからといって勝利に確信が持てない理由が一つある。前衛の宗方が公式戦は初体験なのだ。やはり試合となれば練習とはわけが違い、プレッシャーのためか普段動くはずの体がガチガチに固まってしまい、思い通りに動けないというのはよくある話だ。あの自意識過剰な宗方でも当然ながら人の子だったらしく、普段から覚束ないストロークがますます覚束ない。たった三、四回のラリーだったが一度もまともにコートに入ったボールは無かった。部員一同不安が募る中、審判のコールにより試合が始まった。


 サーブ権が自分にある丸藤は、一度ゆっくり深呼吸をするとファーストサーブを繰り出す。それほど威力があるサーブではないが、ボールはきちんとサービスエリアに入り、相手後衛が丸藤にレシーブを返す。丸藤はそのボールをお得意のロブで緩やかに返すと、相手もシュートを打たずにロブで返した。しばらくは後衛同士のロブの応酬になったが、ベンチで見守るチームメイト達は固唾を飲んで一球一球を眼で追った。
 すると少し力んでしまったのか、相手後衛の放ったロブが大きくアウトをした。今後を左右する重要なゲームの一本目は丸藤達が先取した。
「よしっ! もう一本先攻!」
「丸男君! ナイスボール!」
 しっかりとボールを繋げられたことに安堵する丸藤に労いの言葉をかける宗方。二人はハイタッチを交わし、次のサービスの準備に入る。ベンチでも顧問の安西を始め、チームメイト達が互いに顔を合わせて喜びを露わにする。
「良いわよっ! 丸男君! ねぇ、神谷君。こんなときってなんて言えばいいの?」
「そうですね。本当だったら相手がミスをしたので『ラッキー』でいいと思うんですけど、ここは『ナイスボール』の方がしっくり来るかと」
「なるほどね。よーし、丸男くーんっ! ナイスボールよー!」
「あ、先生、ダメ」
 相手ベンチまで聞こえるほど大きな声で応援した安西に、神谷が指摘をしようとした矢先、競技場のスピーカーから注意が飛んできた。
『コート内の顧問及びにコーチはチェンジサイズ時のみのコーチングを徹底して下さい。なお、選手以外の過度な応援もご遠慮下さい』
 自分が注意を受けたこと自体に気付かない安西は、鳩が豆鉄砲を食らったようにキョロキョロと廻りを見渡している。そんな初心者顧問の安西に神谷がアドバイスをする。
「先生。テニスでは基本的に選手以外が大声出して応援しちゃダメなんですよ」
「そうなの! 何よ、もっと早く言ってよね。じゃあ私は何のためにここにいるの? テニスに関しては全くの素人だから気の効いたことも言えないし、応援すら出来ないんじゃ意味ないじゃない」
 ごもっともな意見だが、規則といってしまえば仕方がない。本人がいうように素人の顧問がベンチに座っていても無用の長物なのだ。
「いいじゃねえか。美和ちゃんなんかマスコットみたいなもんだよ。誰も期待なんかしてないっつうの」
 同じ素人の高田からばっさりと言われて、安西は釈然としない気分になってしまった。だがそこで神谷はすかさずに副部長らしくフォローを入れる。
「そのうちにゆっくりと覚えていけば良いと思います。それに行き詰ったときに第三者からのアドバイスが思わぬ解決策になることだってなくは無いですし」
「そ、そうかしら」
「はい。まずは試合に集中しましょう」
 そう言って神谷は直ぐに意識をコート上に切り替え、丸藤と宗方に声援を送る。普段は物静かで日常会話でさえ囁くようにしか声を出さない神谷だが、ことテニスに関しては急に声が大きくなる。いつも馬鹿声を出している小堺にも負けじと劣らない声がコートに響き渡る。
 コート上では丸藤が二本目のサーブを打ち込む。ソフトテニスは一本目に後衛側へサーブをするが、二本目は場所が変わり前衛側に向けてサーブを行うのがルールだ。丸藤が放ったサーブを相手前衛がネットをした。二本連続先取に第七中サイドが湧く。
「よしっ! オッケー! ナイスサーブ!」
「ぶうちゃん! 次、サーブしっかりとね!」
 丸藤からボールと受け取った宗方は一度屈伸をして体を解す。彼は硬式テニスの経験があるが試合に参加したことは一度もない。なので試合の雰囲気も感覚も何もかもが初めてで、自分が思っている以上に緊張して体が動かなくなっていた。動かないのは体だけでなく、いつもは軽快に廻る頭脳もコートの上に立った瞬間からブレーカーが落ちてしまったように回転しなくなっていた。そんな心中を察した丸藤は自分の位置に戻る前に、相方へ声をかける。
「宗方君。まだ試合は始まったばかりだからそんなに焦らなくていいよ。ゆっくりいつもの調子を取り戻していけばいいからね」
 丸藤の言葉に宗方は無言で頷いた。自分よりも明らかに経験が上なのに、いつもゲームの時には自分の作戦に黙って従ってくれる丸藤。部活の時には融通の利く優しい後衛といった印象しかなかったが、ここにきて初めてその信頼感に気付いた。丸藤が励ましてくれて後ろをしっかりと守ってくれるから、自分は心置きなく前衛に専念出来る……たったそれだけのことだったが、宗方はふと肩の力が緩んでいくのを感じていた。
「うん……。よし、丸男君。もう一本先攻といこうか! フォローよろしく頼んだ!」
 ラケットを構えながらニッコリと微笑む丸藤。
「丸藤だけどね。もちろんさ。遠慮なく前に行ってね」

 丸藤の励ましを受けて宗方がサーブの構えを取る。そしてサービスラインにしっかりとポイントを合わせて一球目のサーブを放ったが、緩やかな弧を描いたサーブはサービスエリアには着地せずフォルトした。だが宗方は気にする様子もなく二本目のサーブを構える。
 一本目を外したおかげで自分の力加減をやっと思い出したようだ。そして二本目のサーブは見事にサービスエリアに入った。相手後衛はその全く威力の感じられないサーブをしっかりと構えて宗方に返球する。後衛よりもストローク力が劣る前衛が後ろにいる時に前衛に返すのは、セオリーというよりも鉄則だ。もちろん宗方も自分にレシーブが返ってくることは予測していたので、サーブを打った次の瞬間には既にラケットを構えている。そして緩やかに返してすかさずネット前に詰めようと思ったが、相手のレシーブが予想以上に球威があり、タイミングが外れてしまい宗方は空振りをしてしまった。
「どんまい、宗方君。次は取れるよ。それとミドル(真ん中)よりにきたボールは僕が取るから、宗方君は直ぐに前へ走っていいからね」
 ミスをしてしまったパートナーに丸藤はすかさず声をかける。そしてアドバイスと作戦の確認も忘れない。たったそれだけのことに宗方は心底安心感を得て、ミスをして重くなった心が一気に軽くなった。
「うん、ありがとう。次はきちんと返すから」
 二本目のサーブで宗方は一度で決めることが出来、相手前衛からのサーブもどうにか向こうのコートに返球することが出来た。そこまでいけば後は相手後衛が丸藤のロブ合戦に折れるのを待つのみ。ほどなく相手後衛があっさりとアウトをしてくれて、ゲームカウントは3-1。マッチポイントを先取した丸藤のサーブを相手後衛がレシーブミスをして、丸藤ペアは第一ゲームを先取した。

 まずは最初のゲームを制した二人を、ベンチではチームメイトが感激を露わにして祝福する。
「ナイスゲーム! 丸男と豚! 良い流れでゲームを取れたじゃないか!」
「この調子で次も頼んだ」
 吉川が二人にスポーツドリンクとタオルを差し出す。
「まるちゃんもぶぅちゃんも凄く格好良かったよ。ぶぅちゃんもレシーブをちゃんと返せていたし、このままいけば初勝利かもね!」
 大した動きをしたわけではないが、緊張のため喉がカラカラに渇いていた宗方は自前のスポーツドリンクをごくごくと飲み干した。丸藤はコンディションの整え方を把握しているようで、飲み物は一切口にはせずにただタオルで汗を拭いた。
「先生もワクワクしちゃった! 二人の頑張っているところ、しっかりと見ていたわよ!」
 そこで安西は今こそ応援をする絶好のチャンスだということを思い出した。コートチェンジをするこの僅かな時間のみ、ベンチに入った顧問やコーチは選手へのコーチングを許される。何と言って励ましたらいいものかと色々と思案した安西だったが、結局口から出た言葉はこんなものだった。
「……頑張りなさい! 以上!」
「美和ちゃんに言われなくたって頑張ってるだろうが。もっと気の利いた台詞の一つでも考えやがれ」
 番手の組み合わせの際に散々下手くそ呼ばわりされた仕返しとばかりに、高田がきつい一言を添えた。ごもっとも、と顧問として不甲斐なさを噛み締めたが、当の選手達は素直に瞳を輝かせて「はい! 頑張ります!」と返事をしたので、安西はホッと胸を撫で下ろした。それもそのはず、このペアは色々な事情があって安西には決して頭が上がらないのである。

 タオルとスポーツドリンクを吉川に返し、神谷と小堺から細かいアドバイスを受けた二人は意気揚々と向こう側のコートへ走っていった。そんな後ろ姿を頼もしく眺めながら安西はベンチに腰を下ろしたが、座り心地が悪くて何度も足を組み替えた。
「ねぇ、神谷君。このベンチってどうやって座ってればいいの?」
 不思議な質問を受けた神谷は、「普通に、でいいんじゃないんですか」と返すしかなかった。選手にまともなアドバイスすら出来ずに応援も出来ない自分が、両脇に立っている選手達を差し置いてただベンチに座っているのが、どうにも居心地が悪くてたまらないらしい。そんな安西に小堺が笑いながら「他の学校の先生方を真似すればいいんじゃね?」と提案したので、彼女は競技場内のコートをぐるりと見渡してみた。
 向かい側の相手チーム、第五中の先生は足を組んでつまらなそうに顎肘をついている。あれでは頑張っている選手に失礼なので絶対に真似はしたくない。次に遠くに見える第六中の八幡顧問長に注目してみると、彼はふてぶてしく両腕を背もたれに掛けてふんぞり返っている。あれもとてもじゃないが真似出来ない。自分以外の女性顧問率いる第二中を見てみると腕を組んでジッとしているのみ。真似をしてみるならあのポーズか……。
 そんな風に色々な顧問達を観察していると、隣のコートで試合中の第四中Aチームと第三中の試合が目についた。もしもこの試合を勝ち抜けば、このどちらかの勝利チームと第二回戦で当たることになるが、スコアボードを見るからに明らかに第四中優位なようだ。こちらはまだ1ゲームが終わったばかりだというのに、第四中の先鋒は既に3ゲーム先取していて、そろそろマッチポイントになる勢いだ。そんな強豪校を率いる佐々木はどんな姿でベンチに入っているのかと見てみたが、彼は両手を顔の前で組んで、ジッと佇んでいるだけだった。ちょうど組んだ手が口元を隠していたが、佐々木は凍りつくほどに無表情で、顧問会の時や今朝会った時との爽やかな印象とは別人と思うほどに、一切の感情が伺えなかった。

 変わった人だとは感じつつも、安西は意識を自分のコートに集中させる。こちらも準備が整っていて第二ゲームが開始されようとしていた。
 先ほどサーブだった二人は第二ゲームがレシーブで始まる。朝練習などでみっちり特訓をしたおかげで、彼らのレシーブには安定感があった。一本目、相手後衛からのサーブを前衛の頭を超えてレシーブした丸藤は、返ってくるボールを次々にコース変更をして相手を拡散させる。第一ゲームでは大人しかった相手前衛がそろそろモーションを見せてくるかもしれないと懸念した上での作戦だった。そして、徐々に緊張も解けてきた自分の前衛からも何かしらのモーションが欲しかったため、チャンスを待っていたのである。
 右に左にと振り回された後衛は段々と我慢の限界も迫ってきたのか、ストレート展開から正クロス展開に持ってきた丸藤のロブを狙って、宗方のサイドを抜こうとした。だが、これは宗方が最も得意とする誘いのポジションである。部活動の初日にあの神谷、小堺ペアをも出し抜いた左利き特有の誘いのポジションで、宗方は待ってましたとばかりに右サイドを狙ったシュートボールをボレーで返した。
「ナイスボール! 宗方君! 十八番のコースが出たね。相変わらず鮮やかだったよ」
 ペアからの褒め言葉に宗方は気を良くして胸を張る。
「まあね。それに相手後衛のフォームをじっくりと観察していれば、サイドを抜いてくるって見え見えだったよ。神谷君のフォームに比べれば判り過ぎるくらいだね」
「宗方君、神谷君のフォームを見極めようとしているの?」
「? もちろんさ。彼相手に知恵比べだけで挑むには武器が少なすぎるよ」
 呆れたというか恐れ入ったというか、丸藤は宗方のその無謀なほどの向上心に自分もうかうかしていられないと気持ちを新たにした。最初は嫌だったが、彼と組んでいればいつかは神谷、小堺ペアに一矢報いるときが来るかも知れない。彼の有り余る自尊心からこぼれた自信が、消極的な丸藤の心にも微かな希望を与えていた。

 第二ゲームはそのままの調子で先取した丸藤、宗方ペアだったが、次の第三ゲームで一気に調子が崩れる。
 丸藤と付き合っていても埒が明かないと判断した相手後衛が、一か八かで全て宗方を狙い始めたのである。頭脳は恐ろしいほどに切れてゲームメイクは目を見張る宗方だったがそれはあくまで盤上でのこと。自分も駒の一つとして活躍するにはそれ相応の実力が必要となる。
 だが彼はまだその腕前が伴っていないという弱点があった。全てのボールとまではいかないが、ほぼ半分以上の打球を宗方の正面にシュートボールを打ちつける相手後衛に宗方はなす術もなく棒立ちになるしかなかった。五、六メートルの至近距離から打ち込まれた打球をラケットで返す技術など、どちらかといえば運動神経に乏しい宗方には到底備わっているはずもなかった。ゲームカウントは一気に2-2と挽回されてしまう。
 だが、だからといって丸藤もそのままサンドバッグと化した宗方を可哀想に眺めているだけではなかった。相手後衛を執拗にコース変更で振り回し、体力を削ると同時にシュートボールを打ち込む隙を与えなくした。そんなガチンコ勝負を繰り返し、いつしか試合はファイナルゲームまで流れていった。
 ここまで来ると最早選手に必要なのは技術といった身体的なテクニックではなくなった。精神的にも瀬戸際な状態を前に、集中力を切らさないチームの方に勝利の女神は微笑むのである。
 そうなれば序盤からコツコツとロブを繰り出してきた、いや、物心ついてテニスをし始めた頃からどんなに試合が長引こうとも精神力を切らすことなくロブに頼ってきた丸藤の方に分がある。
 ファイナルゲームは殆ど相手チームにポイントを与えることなく、軍配は第七中に上がった。団体戦の一回戦、先鋒戦は第七中が制した。丸藤にとっては中学生になってからの、宗方にとってはソフトテニスを始めてからの、貴重にして記念すべき一勝となった。

更新日 2月19日

 第七中サイドでは興奮冷めやらぬ歓声を上げ、先鋒ペアの勝利を祝福した。彼らにしてみれば初の公式戦。その団体戦を勝利でスタートを切ることが出来たのである。これを喜ばずしていられるだろうか。ラケットを片手に至福の笑みを浮かべた丸藤と宗方を、メンバーは熱烈に歓迎する。
「やったな! お前ら! まずは一勝目だ!」
「よくファイナルまで粘れたな。さすがは丸藤だ」
 一番手ペアの手放しの称賛に、丸藤は照れ隠しのように眼鏡を外すとタオルで顔を拭いた。
「いや、僕だけの力じゃないよ。宗方君が色々と戦法を考えてくれたおかげさ」
「え、豚。お前サンドバッグにされてただけじゃないのか?」
 肩で息をしながら宗方は本日二本目のスポーツドリンクを一気に飲み干す。額から流れる滝のような汗を拭いながら、宗方は小堺をギロッねめつけた。
「僕だって馬鹿じゃないからね。技術が及ばないなら頭脳で対抗するまでさ。とは言っても……」
 そこで一呼吸を置くと宗方は柔和な眼差しを相方に向ける。
「第三ゲーム目、相手に挽回された時には正直焦ったよ。でも丸男君が悠然と構えていてくれたからね、僕も落ち着きを取り戻せたんだ。本当に君には感謝しているよ。いや、むしろ足を引っ張ってすまなかったね」
 普段は自己中心的で荘厳な態度ばかり鼻につく宗方が、あまりにも素直に労いの言葉を口にしたので、丸藤ばかりではなく神谷や小堺まで驚愕してしまった。初勝利の媚薬は部長に思わぬ効能も与えてしまったらしい。
「い、いや、こっちこそありがとう。僕ね、今までペアを組んでいた前衛からそんな風に言われたこと、一度もなかったんだ。だからなんだか……嬉しいな」
「なんでだね? 君ほどボールを繋げるのが上手い後衛もいないだろうに」
 怪訝な面持ちで首を傾げる宗方だが、小学生の頃から大会などで彼を知っていた神谷と小堺は沈痛な表情で俯いた。きっと宗方のような視点で後衛としての丸藤を見れるのは珍しいのかもしれない。
「僕ってロブばっかりで全然攻撃的なテニスが出来ないから、どうしてもさっきの宗方君みたいに前衛ばかりが狙われてしまうんだ。だからいつもペアの子からは怒られてばかり……お前のせいで前衛の負担が多くなってしまう、ってね」
 神谷と小堺は試合で何度も見かけたことのある光景を思い出していた。負けた試合の後や、試合中に雲行きが怪しい場面になると、丸藤の前衛は決まって彼に悪態を吐いていたのである。その度にただ悲痛にうなだれる丸藤を見ていて、かつてはチームメイトではなかったものの、居た堪れない気持ちになった。なにもその前衛を非難するわけではない。試合でコートに立てば勝ちたいという気持ちは誰でも同じだから、緊迫した状態になればペアにもシビアな要求をしたくもなる。もちろんその気持ちを充分なほどに理解している神谷と小堺としては、致し方ない事だと目を逸らすしかなかった。だが
「ふざけた奴だな。何が負担だね? 馬鹿馬鹿しい!」
 宗方は彼の話を聞いて、鼻息が荒くなるほどに憤ってしまった。その様子を見て三人は唖然としてしまった。
「後衛が繋げて前衛が決めるのがソフトテニスの正攻法なのだろう。だったら前衛が狙われて当然。それを処理しきれないそいつが下手糞なだけじゃないか? それを丸男君のせいにするだなんて言語道断! 責任転嫁も甚だしいよ!」
 言うことはご尤もだが、それほどテニスは単純なスポーツではないし、だから何千通りもある戦略を駆使してまで勝利を掴み取る努力を怠ってはならないのだ。なのであまりにも素人な見解に呆れた小堺が宗方に直言する。
「そりゃそうだけどもさ、豚。そんな簡単な話でもないわけよ。確かに丸男のボールを繋ぐ技術はピカイチだぜ? でもさ、それだけでは乗り切れない場面も出てくるわけよ。シュートも打てないと困る場面もあるわけよ。じゃなかったらそれこそみんな、ロブばっかり打っ」
「いや、いいんだよ。小堺君」
 小堺の話を途中で遮りながら、丸藤は眼鏡を外すともう一度顔にタオルを押し当てた。そしてくぐもった声で再び「いいんだよ……」と呟く。その言葉の意味を、誰一人口にすることはなかったが全員が理解していた。特に神谷と小堺は感慨深い眼差しで背中を丸めている丸藤を見つめる。小学一年生から始めたソフトテニスの中で彼は初めて理想とするペアに出会えたのかもしれない。




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2010'02.07 (Sun)

なんしきっ! 七中生徒と初試合

 六月に入り梅雨の時期ということで各所の大会実行委員は毎年気を揉んで仕方がないが、ここ地区総体が行われる輝ヶ丘テニス競技場は、本日運良く晴天に恵まれた。特に先週まではちょうど梅雨前線に見舞われていたので大会も延期になるのでは、と懸念されていたが、問題なく大会は実行されるようで、生徒や顧問一同は安堵に胸を撫で下ろした。

 佐高市内のテニス部に所属するテニス部員全員が詰め寄せる輝ヶ丘テニス競技場では、既に全てのコートで大会に参加する生徒達が最終調整に精出している。
 ここのテニス競技場は佐高第七中のコートと同じく人工芝のオムニコートが十面設置されている。それぞれのコート同士の間隔も離れているし、ベースラインからフェンスまでも広めに設計されているので、選手達は何の煩わしさもなくプレーに集中出来る。
 ただ一つ難点といえば、ここは港の近くに面した土地柄のせいか、年がら年中日本海から吹き付けるだし風に悩まされていることだろうか。他県から来る選手達は、あまりの風の強さに驚くほどだ。特にソフトテニスのボールは硬式とは違い風の影響を受けやすいので、自然と佐高市の生徒はシュートボールを多用する攻撃型の選手が育つと言われている。

 コートをぐるりと囲む観客席は既に各学校の生徒で埋め尽くされていて、各々の学校の部旗や垂れ幕をフェンスに括り付けて士気を高めている。特に各学校の陣地が決まっているわけではないが、毎回利用している暗黙の了解というもので、東側から佐高第一中、第二中とナンバースクールの順番毎に観客席を陣取っていた。
 なので今年から初参加となる佐高第七中の陣地はない。もっとも部員がたったの六人だけなので、スペースを確保する必要もなく、競技場の隅っこの方に自分達の荷物を置いているだけであるが、他の学校の陣地を見ていると疎外感は否めなく、意味もなく恐縮してしまった。

 生徒達がフリーにコート内で練習をしている。
 その時間は生徒達にとっては気になる相手校の生徒の調子や上達を確認するもっとも大事な時間になる。特に第七中の生徒達は初参加なので、自分達の調子を整えながら周りの実力を計ったりと忙しい。
 その中でも参謀である宗方は、練習そっちのけでパンフレットの名前と他校の生徒を照らし合わせながら、頭の中で戦略を廻らせるのに余念がない。


 さてその間、顧問達は事務所に集まり最終打ち合わせを行った。
 打ち合わせといっても欠席した生徒の確認や諸注意だけで殆ど形式ばったものなので、各顧問としては早く自校の陣地に戻り、生徒達に発破を掛けたくてうずうずしているが、事務所の上座では顧問長の第六中顧問の八幡が長々と講釈を垂れている。
 そんなソワソワした空気の中、安西は顧問会の時に色々とアドバイスをしてくれた第四中の顧問、佐々木から声を掛けられてた。
「おはようございます、安西先生。今日はよろしくお願いします」
「おはようございます。こちらこそ、どうぞお手柔らかに」
「お手柔らかにですか、ハハハッ」
 爽快に笑いながら佐々木は手に持ったパンフレットを開き、団体戦の組み合わせ表を眺めた。
 大会は二日間に渡って開催される。一日目に団体戦が行われ、二日目に個人戦が行われるのだ。
「第七中さんは緒戦が第五中さんとですか。二回戦でうちと当たりますね」
 そう言いながら敵チームの顧問である安西に、変わらない微笑みを送る佐々木。

 あまりライバル視はしていないのか、はたまた余裕があるところを見せたいのかわからないが、安西はその貴公子然とした敵顧問をジッと見据えて尋ねた。
「ちなみに、第五中さんはどんなチームなんですか?」
「第五中さんは三年生が少なく二年生主体のチームです。専属のコーチも着いておらず、まぁ、言ってしまえばあまり強くはないですね。どちらかといえば後衛優勢でペア組みをしている傾向にあります。尤も、前衛の育成にウェイトを置いていないだけでしょうが」
 あまりに考える間もなく佐々木が答えたので、安西は目を丸くして呆気に取られてしまった。そして慌てて周りにいる顧問達を見渡す。
「ちょっと佐々木先生、そんな簡単に敵チームの情報を教えていいんですか?」
 以前、顧問会で佐々木に言われたことを思い出していた。あまり情報をペラペラと敵チームに教えてはいけないと。だが佐々木はそんな安西の反応が意外で面白かったのか、爽やかな微笑みを若干崩して子供っぽく笑った。
「私は別に自分のチームの情報を教えたわけではありませんから問題ないでしょう。第五中さんに対する私の率直な感想と評価です。それに、余所様のチームの話を他から又聞き、それが信じるに値するものなのかの判断はご自分でされるのが一番でしょう」
 言われてみればその通りだ。
 それにどちらかといえば素直に相手チームの情報を引き出そうと直接尋ねてみて、仮に返事が返ってきたとしてもその言葉に嘘が孕んでいないとは限らない。いや、むしろわざと自分達の実力を過小評価するか、影に怯えさせるため大きく話すか、どのみち真実など掴める可能性はゼロに等しい。
 だがそれを全く第三者の立場であるチームならば、喜んで本当の情報を提供するだろう。スポーツマンシップもご尤もだが、勝利に繋がるはずの引っ張れる足は引っ張ったほうが良い。
「それに私としては二回戦に第五中さんと当たるよりは、新生第七中さんと当たりたいですから。なんせ今大会のダークホースですからね。実際に対戦してその腕前を試しておきたい」
 さらにそう付け加えられれば、信憑性は一気に増す。
 佐々木が言ったとおりに信じるか信じないかは個々に判断するとして、そこまで言われてしまっては何があっても一回戦は勝ち抜き、二回戦で佐々木率いる第四中の胸を借りなければいけなそうだ。安西はある意味招待状にも似た佐々木の激励を素直に受け取る。
「わかりました。生徒達にも伝えておきます。初戦はなんとしてでも勝つように、と」
 安西の言葉に佐々木は爽やかな笑みを浮かべて答える。
「かしこまりました。では我々も二回戦でお待ちしております」
 自分達のチームは余裕で初戦を勝ち上がるという自信満々なアピールを省いて。

 顧問長の長い話はようやく終わったようで、「以上です」と一旦話を区切ると
「それでは生徒さんのゼッケンをお配りします。それぞれ名前を呼ばれました学校の先生は前に出てきて下さい。なお、名前間違いなどが必ずないよう再度チェックを忘れないように。ではまず始めに第一中さん……」
 次々とゼッケンを配り始めた。そうこうしている内に第四中も呼ばれたので、佐々木は軽く安西に手を挙げ「では、ご武運を」という言葉を残して前の方に行ってしまった。
 一人残された安西は試合のパンフレットを開き、第五中の団体メンバー表をチェックする。

 自分のチームとは違い、団体戦は4ペアのエントリーで記載されているが、四番手は補欠要員という意味だ。それぞれ選手名の隣にある2や3という数字から察するに、これは学年を指しているのだろう。
 確かに佐々木が言うように第五中には2の表記が他と比べて多い。一番手と三番手の後衛のみが三年生でそれ以外はみな二年生で構成されている。
 他の学校もチェックしてみると第二中も同様に二年生主体のチームだが、殆どメンバーは三年生ばかりで三番手や四番手にやっと二年生が入り込んでいるくらいだ。

 そこをいくと、第七中が如何に稀有なチームかというのが分かる。
 ペアは補欠がいなく3ペアのみで全員が一年生ばかり。紙に書かれている文字だけで弱小だというのがありありと想定されてしまう。この時期の少年にとって一年という壁は予想以上に厚い。たった365日しかない一年間で毎日どれだけ積み重ねることが出来るかに皆、必死になっているのだ。
 なので、ついこないだまでランドセルを背負っていた小学生が、体格も精神面も違う上級生を凌駕する可能性がどれだけあろうか。きっと僅か数パーセントかもしれない。
 それでも彼らは、第七中ソフトテニス部のメンバーは誰も最初から諦めていたり、楽観視する姿勢は見せていなかった。果たして彼らは自分自身、プレッシャーなどは感じないのだろうか?

 そんなことを一人考え込んでいると、いつの間にか他の学校へのゼッケン配布は終わったようで八幡は少し怒気を含んだ声で安西を呼んでいた。慌てて安西は八幡の前まで行くと、顧問長はむっすりとした表情で乱暴にゼッケンを手渡す。
「いつまでもボーッとしてないで、もう少ししっかりして頂かないと困りますよ! 我々だってそんなに暇ではないんですからね! それと、第七中は初参加のチームですから生徒の名前確認をきちんとお願いします!」
 先月の顧問会で遅刻をしてきた件もあって、安西はかなり八幡から目をつけられているようだ。
 学生の頃は優等生だった安西にとって学校の先生とは自分の味方であって、こんな扱いをされるのが初めてだった。急いでゼッケンの名前確認をしながら安西は、生徒のこともそうだが自分のことも少しは慎重にならないといけないと、改めて心に誓った。

 打ち合わせを終えた安西は自分の生徒達を探そうと、観客席を見渡す。それぞれの学校が目に痛い派手な色のユニフォームに身を纏っているため、ますます見つけにくくてたまらない。
 何故スポーツ選手のユニフォームはこうも原色や蛍光色を多用するのだろうか? 落ち着いた自然色系を好む安西はそんなことをぼやいていると、観客席の隅っこにあるスペースから数人の生徒がこちらに手を振っているのが見えた。
 どうやら生徒の方から自分を見つけてくれたらしく、安堵の溜め息を吐きながら安西はそちらに近付いていき、そして生徒達の姿を確認するとマジマジと眺めた。
「あなた達、いつの間にユニフォームを揃えたの?」
 赤とオレンジの暖色系を基調としたユニフォームを着込んだ生徒達は、誇らしげに胸を張って安西を迎え入れた。朝に会ったときには普通の体育着姿だったのに、いつの間にか着替えたらしくて安西は新鮮な驚きを露わにする。
「やっぱり団体戦なら全員同じユニフォームの方が七中の生徒って分かりやすいし、その方が格好いいんで。しかもこれ、同じデザインのもので色違いがもう一着あるんですよ」
「それは明日の個人戦で着るから楽しみにしててくれよな! 美和ちゃん!」
 一番手ペアの神谷と小堺が報告をしてくれたが、その後ろで少し不満げな表情をした丸藤が背中を向けた。
「それはいいんだけど、やっぱりこの文字がちょっと……。ねぇ、宗方君。これってどうしてもプリントしなきゃいけないの?」
 ユニフォームの背中にはご丁寧に「佐高第七中」という文字がプリントされてある。よく見ると他の学校の生徒の背中にも同じように各々の学校名が記されていた。
 だが、その自校の名前の下に小さく、何故か「宗方繁蔵後援会」という文字までプリントされてある。
「何を言う! このユニフォーム購入に際して出資協力を申し出てくれたのは、誰であろう市議会議員である僕のお爺ちゃんの後援会の皆様だぞ! 感謝の意を表して名前を残すのは当然じゃないか!」
 なるほど、と合点入りながら安西は溜め息混じりに手に持っていた救急箱から白いテーピングを取り出すと、宗方の背にある後援会の文字に貼り付けた。
「あぁ! 何をするんですか先生!」
「馬鹿ねぇ、宗方君。こんな個人的なことにお爺様の名前を出したら贈収賄の疑いにかかるじゃない。そこまでいかなくてもスキャンダルの火種くらいにはなるわよ?」
 自身の父親が県議会議員である安西はこの手の政治絡み問題に明るく、むしろ日常的な話題として育ったので一般人よりは敏感だ。
 密かに安西のそういった事情を知っている宗方も言葉の意味を瞬時に察したのか、顔を青ざめさせると安西の手からテーピングを受け取り、すぐに全員の背後に廻って白テープを貼り付けていた。部長のあまりにも身替りの早さに一同、小首を傾げるばかりだった。

「それよりもみんな、今日の団体戦、一回戦目の相手は第五中だというのは知っているわね?」
 対戦前のミーティングというわけでもないが、少しは試合のことも話していた方がいいだろうと安西は話題に出してみたが、第五中という名前が出た途端に全員の目つきが変わった。どうやら選手達の気持ちは既に試合モードに切り替わっているようだ。
「先生が仕入れた情報ではね、第五中は二年生主体のチームよ。つまり年齢で言えば君達の一つ上ってだけだから臆する必要はないわ!」
 先ほど佐々木に聞いた話を自慢げに披露する安西。少しは顧問としてチームの役に立ったと思ったが、選手達の反応は薄い。
「先生、言われなくても知ってます、そんなこと」
「へ? なんで?」
「さっき渡されたパンフレット見れば誰でも分かるじゃねぇか。んなこと、いちいち口に出すことじゃねぇっての」
 手に持ったパンフレットをヒラヒラ振りながら、高田が小馬鹿にしたように鼻で笑った。
「じ、じゃあ! 第五中は後衛が主体のペアが多いんだって! 前衛は大したことないらしいわよ!」
 これならばパンフレットには載っていまいと、佐々木から教えられたもう一つの情報を提示したが、それに対しても反応は芳しくなかった。
「さっき各学校が乱打をしているのを見ていましたんで大体は予想がつきました」
「あんまりやる気が感じられなかった学校だったな、第五中って。初戦からいきなり強いとこと当たらなくてラッキーだったぜ」
 ソフトテニス未経験者の安西より、生徒達の方が相手の観察に余念がなかったらしい。全く役に立たない顧問の安西はガックリと肩を落としたが、副部長の神谷は気にする素振りもなく安西に声を掛けた。
「それよりも先生、今のうちに初戦のオーダーを決めておきたいです。オーダー表、もらってきてますよね?」
 神谷に尋ねられた安西は、八幡からゼッケンと一緒に手渡されたオーダー表を取り出して選手達に見せる。
「これの事?」
「それです。誰が一番手でいきますか?」
「誰って。一番手は神谷君達じゃないの? あなた達、一番強いじゃない」
 あまりにも無知に過ぎる顧問に、一同頭を押さえて溜め息を吐いた。何故に自分が落胆されているのか分からずにオロオロする安西に、神谷が団体戦のオーダーのコツを指南する。
「なるほど。つまり一番下手な高田君達を相手の一番上手いペアに当てるように組めばいいわけね」
「おいおい美和ちゃん。もう少し言い方があっても良いんじゃねぇのか? あん?」
 歯に衣着せぬ言い方をされた高田が顧問に抗議をする。だが安西はそんなことにいちいち耳を貸す余裕がないようで、パンフレットとオーダー表を交互に見比べた。
「でも二番手はどうすればいいのかしら。丸男君達を同じく相手の二番手に当たるようにしても勝算はあるの?」
「いえ、乱打だけで相手の実力をそこまで測れなかったので不安が残ります。なので相手の二番手には俺達を、三番手に丸男達が当たれば一番いいんですけど……」
「ちなみに僕は丸藤だけど、でもそんなに都合良く対戦表が組めるわけないよ。相手だってオーダーをずらしてくると思うし」
「団体戦って面倒臭いなぁ。だったらこの際、あみだクジで決めちゃえばいいんじゃないの?」
「小堺君、ちょっと黙っててくれる?」
「しかし先生、策士策に溺れるという言葉もあるほどですので、ここは緻密にして大胆に攻めるのも真理かと」
「ねぇねぇ、たっちゃん。僕、段々緊張してきちゃったよ」
「あ、ななな情けねえな、のぼるはよ。ここここのくらいでびびってんじゃねえよ」
 会議は踊る、されど進まず。個性的に過ぎる面々とそれらを率いるはずの顧問が優柔不断にしてずぶの素人である第七中ソフトテニス部は、話し合いの場面になるとまとまりに欠けてなかなか決まらない。そうこうしているうちに競技場に設置されたスピーカーから開会式を告げるチャイムがなる。策を弄し過ぎて混乱状態になった安西は、頭がパニックになってしまった。
「あー! もうやだ! もう神谷君達が一番手でいいよ! 誰がなったって君達絶対に勝つから!」
 投げやりにそう叫んだ安西に一同大ブーイングをする。宗方も失望しながら今の言葉を誰かに聞かれていなかったか周りを見渡したとき、一人の生徒と目が合ってすぐに逸らした。あのユニフォームは確か第五中、この距離なら確実に聞かれていた……。策士、宗方の頭脳がフル回転する。
「よし! 先生、それで行きましょう! これ以上考えたって仕方ないですから! ほら諸君! 開会式が始まるので第2コートに集合するぞ!」
 そう声高らかに宣言しながら宗方は非難轟々の選手達を無理矢理立ち上がらせる。ブーブー文句を言う選手達の後ろ姿を見つめながら、宗方は安西にそっと耳打ちをした。
「先生、そのオーダー表は今提出しなくてはならないのですか?」
「ん? いいえ、試合直前に相手チームに出せばいいんだって」
 その言葉を聞いて宗方は小さく安堵する。策が満ちる時間は充分にあるようだ。
「開会式が終わったら相談があります。それまでオーダー表は未記入でお願いします」
「う、うん。わかったわ」
 いつも以上に自信満々にそう言った宗方の言葉に、安西は素直に従った。団体戦の組み合わせについて、僅かな時間話し合ったが何一つ確かな根拠がある提案は出なかった。しかしここにきて宗方のあの態度。普段は自意識過剰な彼であったが、それだけではない理由があってのハッキリとした自信が見受けられた。ここは一つ、部長の指示通りにした方が最良だと安西は判断した。

更新日 2月13日

 全てで十コートある輝ヶ丘テニス競技場のうち、六面を女子の大会で使用し、四面を男子用としている。これは競技人口が女子の方が若干多いことと、女子の試合は何故か男子に比べて進行が遅い、ということが理由とされている。
 なので開会式を終えた男子の選手達は、顧問やコーチ陣からの最終コーチングを終えるや否や、それぞれコートに整列をする。団体メンバーでない選手達も自チーム後方の観客席を陣取り、応援に向けて万全の体制を取る。第1コートから第一中と第四中のBチーム、第2コートは第六中と第二中、第3コートで第四中のAチームと第三中、そして第4コートにて新生第七中と第五中が対戦となる。

 それぞれの学校の選手達は準備が整い次第、コートのベースラインに整列する。やはり強豪校といわれる学校ほど整列が迅速だ。そして相手校もベースラインに整列をすると、大きな声で挨拶を交わし試合が始まる。これがソフトテニスの団体戦である。
 第七中の生徒と顧問は、向こう側に整列をした緒戦の相手、第五中選手の並ぶ順番を確認して、作戦通りに策が要ったことに内心で歓喜した。ベースラインの左側から先鋒、中堅、大将と整列するのがルールとなっているので、相手チームが順番どおりに並んだ時点で自分の対戦相手が分かる仕組みになっている。第五中の先鋒は三番手ペア、中堅は一番手ペア、大将は二番手ペア。対するこちら側、第七中は先鋒に丸藤、宗方ペア、次鋒に高田、吉川ペア、大将に神谷、小堺ペアと、思惑通りの組み合わせになった。
「本当に、宗方君の言う通りになったわね……」
 感心しつつも少々驚きを隠せない安西に、宗方は大きく胸を張る。
「当然です。僕の戦略に隙などありません。第七中の諸葛孔明と呼んで頂きましょうか」
「いや、そこまでは言わない」

 それは開会式終了直後、宗方は顧問を含める全選手をあまり人が来ない外れの草むらに召集をかけた。そして、さっき安西が大きい声で言ったことを第五中の生徒に聞かれたことを皆に伝える。
「おいおい美和ちゃん、どうすんだよ! 作戦がばれちゃったじゃん!」
「そ、そんなこと言ったって。うぅ……ごめんなさい」
 塩を振られた青菜のように意気消沈する安西を横目に、神谷は部長に話しかける。
「それはもう過ぎたことだから仕方ないけど、どうする気だ?」
 そんなことを伝えるためにわざわざ呼び出したわけではないというのは、宗方のプクッと開いた鼻穴を見ればわかる。彼は何か上策を思いついたとき、ついつい鼻が開いてしまうのだ。
「だから、逆に相手に知られたことを利用しようと思う」
「利用するって、どんな風に?」
 ペアの丸藤が不安そうに眼鏡をたくし上げながら尋ねる。
「うん。つまり第五中にしてみたら先鋒に神谷君ペアが来ると信じるはずだ。きっとあちらもさっきの乱打の時に二人の実力は把握したと思うからね。少しでも勝率を上げたいがために先鋒に三番手を当ててくるはずだ」
「なるほど。つまりうちと一緒で一番手には一番下手くそなペアをぶつけるってことね?」
「おいおい美和ちゃん。さすがに温厚な俺様でもそろそろキレるよ?」
「そして、我々は大会初出場にして一年生で構成されたメンバーだ。きっと団体戦で番手をずらしてくるとはあまり考えないと思われるはず。ストレートに一、二、三番手のまま対戦してくると思うだろう。そこを考慮すると、第五中の組み合わせは、三、一、二番手、これで来ると思う。そのように想定すると我々が最も優位な組み合わせは……」
 宗方はそこで一旦言葉を区切ると、それぞれのペアを指差して指名する。
「先鋒は我々。中堅は君達、不良コンビ。大将はもちろん君達、神谷君と小堺君だ」
 宗方の案に一同、深く頷く。確かに言われてみればその組み合わせが最も勝率の上がる方法だろう。反論の余地もないが、それでも不安はよぎる。
「ねぇ、ぶうちゃん。もしも、だよ? もしもその通りにいかなかったら、どうなるんだろう?」
 図体の割りに神経が細い吉川が心配そうに問いかけたが、宗方は自信満々に答えた。
「その時はその時だろうね。勿論全てが画策した通りにいくとは僕もそこまで楽観していない。しかしだね、僅かでもすがれる可能性があるのならば、それにすがってほんの一ミリでも勝率を上げる方が有意義だとは思わないかね?」

 そして、まさにその通りになったことに宗方はますます鼻を高くして、部員達に声を掛けた。
「それでは諸君! 間抜けにも策にはまった敵の顔でも拝みに行こう! 一同整列、礼!」
『よろしくお願いします!』



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2010'02.02 (Tue)

なんしきっ! 朝練と残念な顧問

「竜輝とのぼる、まだ来ないな」
「まったくあの不良コンビは。最低限の時間くらい守れないのかね?」
 ようやく陽も昇り始めたばかりの佐高第七中テニスコートのフェンス脇では、まだ一年生になったばかりの部員達が各々ストレッチで体をほぐしていた。朝独特の気だるさが残った体に、早朝の澄んだ空気がスッと馴染んでくる感覚が心地良い。
「まぁ、そのうち来るんじゃねえの? 気長に待とうぜ。それよりも丸男、お前ってまだ一言も喋ってないけど、具合でも悪いのか?」
「丸藤……。別に……」
 不機嫌そうに眼鏡をたくし上げながら、丸藤は聞こえるか聞こえないかというか細い声で呟いた。彼はつくづく朝に弱い体質なのである。そんな様子を気にするでもなく眺めていると、校舎の影から息せき切った高田と吉川が走ってきた。
「遅いよ君達! 初っ端からなんという体たらくだね! 常日頃から五分前行動を心がけたまえ!」
 倒れこむようにテニスコートに到着した彼らに、部長である宗方は早々に苦言を呈する。相手が不良であろうと誰であろうと、言うべきことははっきりと物申す宗方は、当初案じていたよりも部長という役に適任だったのかも知れない。
「うるせ、ぜい…ぜい……。デブ野郎……」
「はあはあ……。ごめんね、ぶぅちゃん……。寝坊しちゃった……」
「ごめんで済めば誰も政治家は責任を取って辞任しないよ! この部は我々六人しかいないんだから、一人でも自堕落になれば一気に統制が乱れるんだ! 纏め上げる僕の身にもなってくれよ!」
「誠司、その辺で勘弁してやれ。二人だって悪気があったわけでもなさそうだし。その証拠に走ってきたじゃないか。それにまだ練習は始められないんだし」
 副部長である神谷は、腰に手を当ててお説教モードに入った部長の肩を叩くと、遅れてきた部員にお慈悲を要求する。神谷に諭されて、宗方もさほど怒っているわけではなかったので、「明日からは遅刻は厳禁だからね!」ときつく注意をして身を翻した。

「正樹が言うように、いくら俺らが早く来たって練習は出来ないんだよな」
 ストレッチなのか普段の落ち着かない態度なのか、ピョンピョンと飛び回る小堺に、だいぶ呼吸が回復してきた高田が辺りを見渡しながら尋ねる。
「なんだよ。美和ちゃん、まだ来てないのかよ?」
 皆、高田のように周囲をぐるりと見渡しながら不安そうに肩を落とした。
「まだのようだ。困ったな、安西先生がテニスコートの鍵とか体育用具室の鍵を持っているから、先生が来ないことには朝練が始められない」
「安西先生……寝てるんじゃない? あの人、抜けてるし……」
 自身が提案者なので本当に心配しているのか、暗い顔をしている神谷に丸藤は機嫌悪そうにぼそりと言い捨てた。そこに宗方がキッと横槍を入れる。
「安西先生はあの通り多忙でいらっしゃる立場のお方だ! 滅多な事を言うもんじゃない!」
「おいおい、豚。何でお前、そこまで美和ちゃんの肩を持つんだ? なんか弱みでも握られてるんじゃね?」
 思慮が足りないくせに勘だけは鋭い小堺の突っ込みに、宗方は思わず口を閉ざしてしまった。政治家気質で育った宗方は上の立場の人間や権力に極めて弱い。安西の父親が県議会議員で、自分の祖父よりも立場が上だと知った途端、宗方は一気に安西へ逆らえなくなった。しかも安西の父親については他言を禁じられているため、宗方はますます顔色を悪くするしかない。
「もしかしてデブ野郎、お前、美和ちゃんのことを好きなんじゃねえの?」
 口ごもる宗方へ、先ほど好き放題言われた仕返しとばかりに高田はニヤニヤとからかった。
「へ? そうなの? ぶうちゃんって安西先生が好きだったんだ」
 高田の言うことを真に受けた吉川も、好奇な視線を宗方に送る。高田のように宗方を言い負かしたいわけではなく、ただ単純に好奇心があるだけだ。それまでむっつりと俯いていた丸藤が何故かゆっくりと顔を上げて宗方をジッと見つめた。
「は? 下らない詮索はよしたまえ。僕は安西先生に特別な感情は抱いていないよ。馬鹿も休み休み言いたまえ、君達」
「本当に、安西先生のことは好きじゃないの?」
 自分のペアに問い詰められた宗方は驚いて首を横に振る。普段は大人しい丸藤の眼鏡の奥にある瞳が、ジットリと自分を見ていて恐かった。
「下衆の勘繰りはよしたまえよ、丸男君! そもそも、君達が余計なことを言うからだぞ! この不良コンビが!」
「なんだと? 誰が不良だって、おいこらデブ。てめえ、いっぺん締めてやろうか、あん?」
「ちょっと止めなよ、たっちゃん!」
 宗方に詰め寄り威嚇する高田を後ろから吉川が制止を掛ける。周りの部員達も止めに入って、鍵がかかったテニスコート脇は一時騒然となったが、ちょうどその時、職員用の駐車場に一台の車が乗り込んできた。
 見覚えのある赤い軽自動車、あれは安西の車である。

 やっと練習を開始出来ると安堵した部員達は、喧嘩をしていたことをすっかり忘れて、車から降りてきた安西を今か今かと待ち焦がれていた。教師のくせに一番最後に遅れてきた安西へ第一声なにを言ってやろうか各々考えを巡らせていたが、近付いてきた安西を間近で見て頭の中に並べていた言葉が一気に吹き飛んでいってしまった。
「おはようみんな。遅れてごめんね」
「……」
 部員一同が自分の顔面を直視したまま硬直している。てっきり文句の一つや二つ言われると覚悟していた安西は、訝しんで首を傾げた。
「なになに、みんな。どうしたの一体? そんなに怒ってる?」
「……」
「あなた、どなた?」
 淡いカラーのブラウスに合わせたスーツにお気に入りのヒールを履いた姿は、間違いなくいつもの安西だ。だが、誰もを虜にしてしまうアイドルのような容姿は見る影なく、腫れぼったい瞼にガサガサの肌、眉毛はない。彼女はすっぴんで登場したのだ。加えて前髪をゴムで結った姿が輪を掛けて情けない。
「ちょっと小堺君! どなたは酷いんじゃない! いくらすっぴんだって、普段とそんなに変わらないじゃないのよ!」
「全然違うって! 別人過ぎるよ!」
「あ! 別人とか本気で傷つく! 私、まだピチピチの26歳なのよ!」
「先生、お肌が渇いています……」
「何よ、神谷君まで!」
「……こりゃ、兄ちゃんに送らないと……」
「ちょっと高田君! そこ! 写メ撮ろうとしちゃ駄目!」
 ポケットから携帯電話を取り出して構える高田を無理矢理に押さえ込み、安西は必死に弁明した。
「だって先生、いつも七時半で起きてるのよ! だから急に早くは起きれないっていうか! 昨晩だってテスト問題作っていて遅くなったし! 起きたらもう七時になっていたし! だから化粧をする暇なんてなかったのよ! 君達の事を思って早くテニスコートに行かなきゃって! すっぴんでも仕方ないかって!」
 なおも喚き続ける安西を前に、部員全員は見るに耐え切れず俯いてしまった。少年達は中学一年生にして、幻滅の意味を身を持って知らしめさせられたのである。早起きは三文の得というが、損をする場合もあるようだ。

 涙目になりながら他言無用を訴える安西を宥め、部員達は素早くネットやボールの準備をすると早速朝練習を開始した。
「基本的に朝練ではサーブとレシーブ練習のみとする! 各々、基礎をしっかりと体に叩き込むように!」
 自身も全く基礎が出来ていない割には偉そうに指示を出す部長を補足するように、神谷は落ち着いた声で全員に伝えた。
「ゲームはサーブとレシーブからスタートするから、まずこれをしっかり出来ないことには始まらない。ボールの威力とか速さは二の次でいいから、とにかくコートの中に入れることを心がけよう。一度サーブを打ったら、次はレシーブに廻って交代交代やれば効率が良いよ」
 部員全員、宗方の言葉ではなく神谷の言葉に深く頷いたのだが、部長は自分の指示を受け入れられたものだと勘違いして満足げに練習に入った。

 コート内ではサーブやレシーブを交互に打ち合い、経験者陣が初心者陣にあれやこれやと指導しながら、生徒同士真剣に朝練習に励んでいる。その片隅にあるベンチに座って化粧をしながら、安西は生徒達の様子をつぶさに観察していた。
 副部長である神谷は表情に乏しいが部員全員に対して丁寧に指導をしている。彼は初心者陣だけではなく、小堺や丸藤にも気付いた点があれば指摘を欠かさない。
 同世代の子に教えられることを癪に思う多感な子もいなくはないが、神谷の教え方は決して押し付けがましくなく、実力は重々承知なため、部員一同素直に受け入れるようだ。
 小堺は直感でプレーをするタイプなので他人にテニスを教えることにあまり向いているとは言えないが、元来の明るい性格なためチームのムードメーカーとして一役買っている。
 丸藤もあまり積極性がなく大人しい性質だが、宗方や吉川だけでなく、ビクビクしながらも気性の荒い高田に折を見てはアドバイスを送っている。

 安西はそんな彼らを見て、教育現場にしては大変珍しい光景なのかも知れない、と感じていた。
 この年代の子供達は自主性があるにしても、自分達で何かをしようとしても必ず先生や親といった大人の意見を交えて、もしくは指示を出してもらえないと行動に移せない子供が大半である。むしろそんな子供達自体が稀有な存在で、殆どの子は「生徒の自主性を尊重」という名目はあっても、何だかんだで先生の言いなりに日常を過ごすことが当たり前になっている。そんな当然のこと自体に気付く子の方が少ない。
 もっとも大人数の多種多様な生徒達を纏め上げる先生連中にしてみれば、その方がこの上なく都合は良い。

 だがこの子達はどうだろう。
誰かに示唆されたわけでも推奨されたわけでもないのに、ただ「テニスがしたい」という理由からこれまでなかったソフトテニス部を新設してしまった。しかもいくら運が良かったとはいえ、入学初日で正式な部にするほどの部員を募り、練習も大人の手を借りるわけでもなく自分達だけで毎日しっかりとメニューを組んで部活動を運営している。
 授業のない土、日曜日も朝から長時間練習を欠かさず、それでも足りないようでこのように早朝から練習をする騒ぎだ。
 あまつさえ指導は生徒が自分達で行うと来たもので、自主性が高いとか最早そういうレベルを超越してしまっている。この六人のテニスにかける情熱と言ってしまえばそれまでだが、顧問である自分が先導するのではなく、生徒達の後に連れて行ってもらっているという逆転現象に、苦笑してしまうくらいだ。
 今はまだ駆け出したばかりの彼らだが、例えば半年後、一年後……三年生になって引退する頃にはどれだけ成長しているのか、安西は教師としてではなく一人の人間として興味があった。
 この時期の生徒の成長は目を見張るほどの早さがある。だがそれでも彼らの成長するスピードというものに自分が置き去りにされはしないか、むしろ不安に思うくらいだった。

 化粧も整え終え、安西はバッグから惣菜パンと牛乳を取り出すと朝食を摂り始めた。今朝、ここに来る途中にコンビニで買ってきたものだが、よくよく考えると彼女はすっぴんで買い物をしたことになる。
 どうりで店員が目を丸くしていたと合点が入ったが、過ぎたことは仕方がないので、安西は苦い記憶は早々に忘れて生徒達が熱心に頑張る姿に見入った。

 ちょうど惣菜パンを食べ終えた時に、一つのボールが自分の足元に転がってきた。それを神谷が追いかけてきたので、安西は牛乳片手に拾うと彼へ放り投げる。器用にラケットで緩やかにキャッチすると、神谷は礼儀正しく会釈をする。
「ありがとうございます。……あ」
 一瞬安西の顔を見て目を見開いた神谷は、すぐに視線を逸らした。その顔には、さっき見たすっぴんとのギャップに驚きを露わにしたのが分かり、安西はちょっぴりショックだったのを隠すようにニンマリと微笑んだ。
「どうしたの、神谷君? 先生の顔、そんなに変わった?」
「あ、いえ……別にそんな……いや」
「あら、そう。先生、まだまだすっぴんでもいけるわよね?」
 明らかに動揺する神谷が面白くて、安西は少し意地悪な気分になった。
 神谷といえばクラスでも勉強は出来る方だし、授業態度も良い(小堺も少しくらいは見習って欲しいくらいに)。顔立ちもすっきりとしていてまさに眉目秀麗。同じクラスの女子達だけではなく、他のクラスの女子達も話題にするほどの人気だ。
 なので安西はそんな男子生徒がオロオロする姿がちょっぴり楽しく思えた。だが真面目な性格なのか、あまりにも青い顔をして返事に窮している姿が可哀想に思えてきて、安西は少し大人気なかった自分を反省し、別の話題を神谷に投げかけた。

「ねえ、神谷君。来月にはもう試合じゃない? 実際のところ、どうなの?」
 話題が変わるや否や、神谷はいつもの無表情に戻る。そして腕組みをしてしばらく思案した後にポツリポツリと呟いた。
「たぶん、一回戦や二回戦で勝てば良い方じゃないのかと……」
「ん? 高田君達、初心者ペアが?」
「いや、全員です」
 あまりに謙虚すぎる予想に、安西はあんぐりと口を開けてしまった。
「い、いやいや。個人戦じゃなくて団体戦の話よね? うん、それなら一回、二回勝てば凄い気がするわ」
「違います。個人戦の話です。団体戦なんて一回戦突破できれば大したものですよ」
 安西はあまりの衝撃に、思わず手に持った牛乳を落としそうになった。慌てて牛乳をあたふた持ち替えながる安西を、神谷はいつもの冷静な表情で見つめる。
「だって、高田君達ならまだしもあなた達は東北チャンプなんでしょ? だったら地区予選くらい軽く突破するんじゃないの?」
「それは小学校の時の話です。小学生と中学生じゃあ体力も筋肉も全然違いますから、地区大会と言ってもレベルが違います」
「それでも君達、毎日こんなに練習をしているじゃない? それでも負けるの?」
「はい。他の学校の人達は中学三年間これを繰り返して挑んでくるんですから」
 至極当然な事に、安西は今更になって気付かされた。
 彼女の目から見て、彼らは毎日相当な量の練習をこなしていると感じている。だが、所詮それはまだ始めて一ヶ月足らずなのだ。他の学校の生徒、特に大会に出場してくる三年生達はそれを三年間続けてきているのである。
 しかし、確か安西が知るところでは神谷と小堺、それに丸藤などは小学校も低学年からずっとテニスを続けてきているはずである。経験の長さではうちの選手達の方が一枚上手なのではないか?
 それを神谷に指摘しようとしたが、彼は安西が尋ねるよりも先を読んで答えた。
「僕達も丸男も小学校の時は校外のクラブだったので、練習は週に三回程度だったんです。一日置きくらいにしかテニスをしてなかったので、実を言うと熟練度ではそれほどでもないんですよ」
「そういえば、昨日もそんなことを言っていたわね」

更新日 2月6日

 安西は自身が中学、高校の時に吹奏楽部でフルートを吹いていたときのことを思い出した。
 楽器の演奏というのは毎日コツコツと練習を重ねていくことで上達していくものなのである。一日休むだけで元に戻すまで三日間、三日間休めば一ヶ月掛かるとも言われていた。それはスポーツの世界でも共通して言えることなのだろう。
 毎日練習をしている選手と、一日置きに練習した選手では熟練度の桁が違う。それは実際に体験しているこの子達が一番身に滲みて実感しているはずだ。

 生徒に結果ばかり期待するわけではないが、元東北チャンプというくらいなのでどれほど登り詰めるものなのかとワクワクしていた安西は、一気に失望してしまった。
 彼らに失望したわけではない。そんな浅はかな期待しか出来ない自分に失望したのである。

 そんな安西を見て神谷は、「でもですね」と必ずしもそこまで悲観することもないと教えてくれた。
「他の学校って、大体部員が二十名から三十名くらいいる学校もあるらしいです。その点、僕達は六人だけなので、必然的に他の学校より一人が練習出来る量、単純に言うとボールを打てる量が断然多いんですよ」
「そ、そうなの?」
「はい。以前同じクラブにいた友達に聞いたんですけど、そいつの学校では一年生なんて球拾いとか素振りしかしないらしいです。二、三年生にしても生徒数が多いから交代交代じゃないと練習出来ないらしいですし。二年生でもコートに入れずに筋トレばっかりという生徒も多いみたいですよ」
「なるほど。つまり練習の密度で言えばうちの方が濃いってことね」
 安西は納得しながらコートの方に目を向ける。神谷以外の五人は、皆一心不乱にサーブを打ち込んだり、懸命にレシーブを返したりしている。全員が全員コートに入り、ボールを打っていない時間はごく僅かだ。
 神谷もコートに視線を向けながら「テニスはどれだけボールを多く打つかで上達が決まってきますからね」と付け足す。一年生ばかりの新設部だからと実力の差に嘆くのはまだ早そうだ。

 安西はテニスのことに関しては全くの素人である。部員達と他の学校がどれだけ差があるか知る由もない。
 だが、ここにいる神谷は冷静に自分達の実力を見極めはしたが、決して勝利を諦めている様子は微塵にも感じられない。その証拠に彼の瞳は自信に満ち溢れてキラキラと光っている。他のメンバーにしても同様だ。経験や熟練度の差を練習の密度で凌駕しようと、手を抜くことなく一生懸命に足を動かし、力の限りラケットを振っている。

 練習相手がいなくなったのか、小堺がこちらの方にラケットを振り神谷を呼んだ。
 安西は練習の足止めをしてしまったことを詫びて、彼をコートに送り出す。ペコリと小さくお辞儀をした神谷はコートの方に駆け出そうとしたが、一度だけ身を翻して不安げな顔をしている顧問に、もう一つの勝算を打ち明けた。
「先生、テニスというのは必ずしも実力が上ならば勝てるとは限らないんです」
「どういうこと?」
「テニスってメンタル面も大きく作用するスポーツです。ペア同士の息が合ってないと勝手に自滅するケースもあるんですよ。ペアを信用出来るか、ミスをフォローし合えるか。たったそれだけのことで格下の相手に負かされることだってあるんですから」
「そうなの? う~ん、先生にはよく分からないわ」
「味方を二人にも三人にもすることが出来れば、逆に敵が二人にも三人にもなることがあるんです。それがソフトテニスです」
 謎掛けのような言葉を残して、神谷は足早に去っていった。
 安西は首を傾げて、手に持った牛乳を一口含む。神谷の言いたいことは半分も理解出来なかったが、つまるところチームプレーが万全ならば勝利も見えてくるということなのだろう。それならば問題ないと、安西はコートの中を楽しそうに走り回りながら練習をする生徒達を眺めて思った。




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